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97 勘違い

「では今案内の者が来ますので、少々お待ちください」

「はい、よろしくお願いします」


 ここ数日、拠点島やドリアードのリアの所の触れ合い魔物園なんかでまったりと過ごし。

 多少時間を空けてから、貿易港タタンタの代官であるドリル嬢のお屋敷を訪れた。


 マーメイドと交渉した件を伝えるのと、例の炭酸梅ジュースを陶器製の瓶に詰めてコルクでしっかりと栓をした物を何本か準備したので、それを売りにきた訳だ。


 それとガラスの器をプレゼントした事がリアにばれて怒られてしまったので、今日ドリル嬢に会ったら他の人には内緒にして貰うように頼まないとな……。


 なんの取引もなくタダであげたら、ガラスの器が俺にとって価値のない物だとバレる可能性があるらしく?

 どうしても出すのなら物凄い値段でふっかけろとリアに言われた。


 むーん……20DPそこそこのワイングラスに、金貨が必要な値段でふっかけろとか言われてもなぁ……申し訳なくなっちゃうんだが……。


 もう一回市場に行って、砂漠の国からの輸入品を見てみると、確かに透明なガラスの器ってほとんどないんだよね……。


 まぁドリル嬢に何か突っ込まれたら、真珠の取引でマーメイドから手数料を貰っているから、そのお礼だとか何とかごまかそうかねぇ。


 おっと案内の人が来た、では門番さんいつもどうもー。


 いつものように応接室に案内されるのだが。


 ……なんだろうか? なんとなくお屋敷の雰囲気が違うというか……働いている人達にいつもみたいな笑顔がないっぽい?


 誰もいない応接室にメイドさんに案内されてからしばし、ガチャリと扉が開く音がして、いつもドリル嬢の側にいる執事さんがやってきた。


「お待たせしましたゼン殿、今日はいかが為さいましたか」


「こんにちは、ええとですね、早速マーメイドと酒の取引をしまして、こちらのドリエール様が一時的に真珠の取引量を増やしたいというお話は族長に伝えておきました、次の取引に結果が分かると思いますので……まぁ念のためにお金は多めに持って行ってください」


「おお、ありがとう御座います、早速の働きかけ感謝いたしますゼン殿」


「いえいえ、ドリエール様にはお世話になっていますし、それと、このあいだの酒精の入っていない梅の飲み物も持ってきましたので、清算よろしくお願いします」


 そう言ってインベントリから陶器の瓶を三本程出す俺。


「ああ、あれでございますな、では失礼して」


 近くにいたメイドが小さな器を準備して、執事さんが三本の中の端にあった一本を開けて中身を少し飲んだ。


「……はい、問題ありません、ドリエール様もきっとお喜びになると思います、値段は一本あたり銀貨3枚でよろしいのですね?」


「ええ、前に言った通りそれで、ただし! 大量に用意出来る物ではないと思ってください、お世話になっているドリエール様だからこそ売るのだと思って頂ければ……」


 メニューからの購入単価的には一リットルが入る陶器の瓶一本を用意するのに20DPそこそこって所なんだけども、いかんせんアルミ缶の奴から陶器瓶に移し替えるのが面倒くさいのだ。


 まぁウッドゴーレムを動員すれば出来なくもないんだが……炭酸じゃないやつを紹介すりゃよかったかもな……どっちにしても面倒か。


「ではこちらが代金です」


 執事さんが出す銀貨9枚を受け取りながら。


「ありがとうございます、今日ドリエール様はお忙しいのですか?」


「え、ええ、今日はちょっと……ドリエール様に何か御用でしょうか?」


 あらま……今日は忙しいのかぁ……失敗したな……いやでも、喜ぶだろうしな、一応言っておくか


「ああいえ、実はあの方……火竜様がまた守竜祭の時に食べた屋台の食べ物で一杯やりたいという話をされまして、明後日の夕方にこのあいだ俺が屋台を手伝った宿屋の一階を貸し切って宴をしようという事になっていまして……もしよろしければドリエール様も参加して頂けたらと」


 前に、ドリル嬢も代官として苦労してそうだから、ホムラと飯でも食う機会をあげたいなって思ったからさ。


 ただし、ドリル嬢の予定を聞いてから日程を組めちゃうと、俺がホムラにそういう事を簡単に提案出来るというのがバレちゃうので、すでに日程は決まっている事にした。


 なので表向きはホムラの提案で急遽やる事になりました、って感じになっちゃうのは仕方ないよな。

 まぁ守竜ガチ勢のドリル嬢なら、よっぽどの事がない限り来られるとは思うんだけども。


 あれ? 執事さんが何やら困っている。


「どうかしたんですか? 執事さん」


「大変ありがたいお話なのですが、ドリエール様が参加するのは難しいかと……」


「え、ドリエール様が火竜様に会いに来ないの? 嘘でしょ……もしかして病気か何か……あ、お屋敷の人達の元気がないのもそれでか……」


 あの守竜ガチ勢のドリル嬢が出られないと判断されるってよっぽどの事だ。

 つまり病気か怪我で伏せっているか、そもそもお屋敷にいないとかだろう。

 そして執事の言い方だとお屋敷にはいるっぽい、という事は?


「い、いえ、そういう訳ではないのでご安心くださいゼン殿」


 執事さんはそう言うけども、まぁただの商人に貴族の病気やなんかの話をする訳がないだろう。

 ……でもなぁ、ホムラのファンであるドリル嬢の存在はすごくありがたいんだよね……。

 このまま彼女に何かがあったとして、それで代官が変わって変な奴が島の対岸に来て面倒ごとが起きてもいやだし……。


 いや、建前はどうでもいいか、単にそこそこ仲の良い知り合いになった子供が病気や怪我で困っているのなら助けたいと思うよな?


 ……ならばここで俺がするべきは!


「ドリエール様は今どちらにいるのですか? 俺なら彼女を救えると思うんです」


「ゼン殿、商人としての貴方とは確かに良いお付き合いをさせて頂いてい――」

「俺は高レベルの光魔法を使えるんだよ!」


 執事がごちゃごちゃ言ってきたので〈光魔法〉の事をばらしてやった。


 赤の他人ならまだしも、知り合いの子供なら救うに決まっているよなぁ!?


 見も知らん相手なら……変装して流離(さすら)いの回復魔法使いとかになりすます所だが、この人達ならまぁ黙っていてくれるんじゃないかと思うんだ。


 レベル6の〈光魔法〉とかは国で一人いるかいないかとかの存在らしいけど、公爵家なら教会に高額な献金とかすれば〈光魔法〉の使い手を呼べるだろう。

 だけど今ここにすぐ呼べるかは別な話だからな。


「まさかそんな……冗談では済まされないのですよ? ゼン殿……」


 執事が俺の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべた後に、少し怒りを込めた目で俺を見てくる。


 そりゃ大事な大事なドリル嬢の事だろうから、急にこんな事言われても信じられないよな、なら。


「そこのメイドさんちょっと」


 俺は部屋の壁付近に控えているメイドさんを呼ぶ。


 その人は言葉を発せずに俺の側に来て、首をクイッと曲げて『なんですか?』のジャスチャーをしてくる。

 丁寧な言葉が苦手な人なのかもな……なんで俺がそう思ったかというと。


 俺はテーブルの上に服をまくった腕を出しメイドさんに対して。


「ここで〈光魔法〉の事を証明します、グサッといっちゃってください、これもドリエール様のためだとおも――」

 グサッ! メイドは俺の言葉が終わる前にメイド服のスカートをまくり上げ、太ももに装備していたナイフを抜いて俺の腕を刺した。


 ああうん、メイドっぽい格好しているけど、気配からして護衛だよねって思ってたんだけど……やっぱり合ってた。

 でも躊躇(ちゅうちょ)なさすぎじゃないか貴方、しかもちょっと腕がピリピリしてきた……毒か! やばいやばい!


 俺はすぐさまナイフの抜かれた後に〈光魔法〉の回復や解毒をかける……まさか毒付きだと思わんかった。


 治った腕を〈インベントリ〉から出した布で血を拭って執事に見せてやる。


「これで信じて頂けますか?」


「これは……失礼いたしましたゼン殿、どうかお嬢様をお助けください」


 執事が俺に謝って頭を深く下げてきた。

 俺を刺したメイドも頭を90度の角度にして下げてくる。


「まかせとけ、と言いたいですが、〈光魔法〉でも駄目だった時は許してくれ」


「十分です、ではこちらに」


 立ち上がった執事の後についてお屋敷の奥へと向かう。


 ……。


 そして階段を登り廊下を歩き、着いた先は立派な扉の前だ。

 扉の前に護衛が2人いるが、どちらも暗い顔をしているね。


 ドリル嬢はそんなにまずい状況なのだろうか……つい数日前に会った時は元気一杯だったのに……。


 ノックして入室の許可を得た執事と共に部屋に入っていく俺は、ついつい気持ちが焦ってしまい部屋に入りながら声をあげてしまう。


「ドリル様!」

「え? ゼン?」


 ……あれ?

お読みいただき、ありがとうございます。


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