96 教育の大事さ
「じゃそういう感じでよろしくマリー」
「畏まりましたゼン様」
拠点島に戻ってきた俺は、マーメイド達の長であるマリーに一時的に真珠取引の増量をお願いをした。
用事も済んだけど貿易港タタンタにすぐ戻らないといけない訳でもないし、今日はのんびりするかなー。
浜辺でビーチチェアに寝転んで、のんびりと酒を飲みながら本でも読むか。
そう決めた俺は拠点島の入り江の真ん中あたりの浜辺に……。
「うりゃぁっぁ!」
「よいしょぉー!」
「てりゃぁぁぁ!」
「にゃぁぁっぁぁ!」
「全員でいけー!」
「わっしょー-い!」
「ひゃー-!」
そこは何て言うか……修羅場だった……。
そういや……マーメイド達のレベリングを許可したんだったっけ。
彼女らは前に買ってやった店売りの槍を手にして魔物に攻撃している。
腰ぐらいまである海で完全な水中じゃないから、水中用じゃない武器でも十分使えるみたいだ。
ウッドゴーレムが島に湧いたゴブリンやオークを生きたまま運んで、一部がダンジョン化されている海の中に投げ入れている。
生まれたばかりの魔物はレベルも低いのでよわっちぃが、数をこなせば経験値としては十分だろう。
入り江の海に飛び出す感じでダンジョンを伸ばしたが、普通の人間だと簡単には区別がつかないっぽい。
ダンマスである俺や俺の配下には分かるんだがね。
なのでこっそり人の住んでいる場所にダンジョンを広げる事は可能ではある。
……ただしそこで魔物を倒すと、ダンジョンの設定にもよるが、魔物が消えちゃったりするからバレちゃうんだよね。
地面とかもオブジェクトになって挙動がおかしくなるからなぁ……。
まぁ今は一部の浜辺がお祭りのようになってしまっている。
レベリング用のダンジョンを、浜辺の真ん中に伸ばしたのは失敗だったな。
後で隅っこに移動させよう。
仕方ないので浜辺の隅っこに向けて歩いていく。
島の中を歩いている監視用ウッドゴーレムに手を振りながら、ひとけのない場所を見つけた。
そこに寝転べる椅子を出してテーブルやパラソルも準備して、まずはお酒を準備っと、今日はパイナップルをベースにしてラム酒で作ったカクテルを準備してみた。
いやほら、せっかく〈バーテンダー〉スキルを取ったから、たまに作って飲んでるんだよね。
つまみはナッツ類の詰め合わせで日本産の物を買ってっと。
よしおっけー! カクテルを一口ゴクリ、うん美味い。
そしてナッツをカリッっとな、そしてコアメニューで買った日本の小説を……。
ザパリッと大きな音がして海岸に何かが乗り上げてくる。
……まぁ〈気配感知〉で気づいていたのだけども……。
その美しい青いウロコを備えた巨大な蛇のような竜は……うん、スイレンさんだね。
スイレンさんはシュルシュルと体が縮んでいき、青い髪に青い目の乙姫様というイメージが似合う青っぽい服を着た姿になった。
そのままこちらに歩いてきたスイレンさんは、俺の寝転んでいるビーチチェアの隅っこに座ると、こちらに語りかけてくる。
「今日はお休みですか? ゼン様」
「ええ、たまにはノンビリしようかなって」
「そうですか、ええっと……えっと」
俺がノンビリしようと言ってしまったからか、スイレンさんがちょっと遠慮している気がする。
これはしまったな、そんなつもりじゃなかったんだ、なので。
「スイレンさんも一緒にノンビリしませんか?」
そう聞いてみる事にした。
縄張りの巡回とかしているのかもだし無理強いする気はないけど。
「あ……はい! ゼン様」
嬉しそうに肯定してくるスイレンさん、なので俺の横にあるテーブルの向こうに俺と同じビーチチェアを出してあげる。
「えっとゼン様、これは水着でなくても乗ってよいのですよね?」
「ええ、俺も今は普段着でしょう? 特に決まっていないので気にせずどうぞ」
「では失礼して……それでその……」
「スイレンさんも飲みますよね? 適当に何かお作りしますね」
「ありがとうございます! ゼン様!」
ふんふんふーん、最初はオレンジジュースをベースにしたカクテルでも出してあげるかねーっと。
はい、お待ちどお様!
「はいどうぞ、スイレンさん、このおつまみも好きに食べていいですからね」
「はい、ではゼン様、乾杯です!」
「はい乾杯」
俺が渡したカクテルグラスを掲げて、嬉しそうに乾杯を求めてくるスイレンさん。
彼女は乾杯する時に、本当に楽し気なニコニコ笑顔を浮かべる。
初めて会った時のクール美人は何処行った状態なんだよね……いや、守竜祭の時とかで身内以外の人と会う時はクールというか冷たい反応だったかもしれんけど。
「はぁ……すごく美味しいですわぁ……ん? この本は何ですの?」
っと日本の小説を置きっぱなしにしちゃった。
「異世界の読み物ですよ、こんな感じの」
そうやってスイレンさんに向けて小説をパラパラっと見せてあげた、日本語は読めないだろうから表紙とか挿絵を中心にね。
「色々な種族の絵が描かれているのですねぇ……どんな内容なんですの? あ、かんぱーい」
普通に会話しているのに乾杯を差し込んでくるスイレンさん。
もう彼女は乾杯星人から逃れる事は出来ないのであった。
なんちゃってな。
「はい乾杯、えーとですね、この話は冒険ファンタジーと言って……」
どうしよう、すでに俺がファンタジー世界とも言える場所にいるのに、空想上の冒険ファンタジー小説を説明するのってすごく難しい……。
「ゼン様? ポリポリッ」
顔をコテンッと傾けて俺を見てくるスイレンさんだが、つまみのアーモンドを食べている。
「えーとですね……想像上の竜や亜人と……いえ……主人公の男の子が、可愛いらしい、竜娘や、鬼娘や、魔族娘や、エルフ娘や、スキュラ娘や、ケンタウロス娘や、ラミア娘や、アラクネ娘や、ヴァンパイア娘や、サキュバス娘や、セイレーン娘や、ガーゴイル娘や、スケルトン娘やらとイチャイチャしながら旅する物語なんだ!」
ふぅ、ちょっと長台詞で喉が渇いたので酒を飲もう、あ、乾杯です。
「えっと……たくさんの雌が出て来るのですね……スケルトン娘? 新種でしょうか?」
「……そんな所ですスイレンさん」
日本の女体化設定能力に、ファンタジー世界のファンタジーな生き物である竜が困惑している……。
俺もこれらの概念を伝える事は難しい、何故なら何年もかけてアニメや漫画に馴染むという下地があって初めて理解出来る事だからだ。
「それに、たくさん雌を従えているのですね、乾杯です」
新刊を出すごとに新たなヒロインを出していったんだよこの作者は……しかも売れてしまったから途中で後戻りも出来ず……新刊ごとにファン層が変わるという珍しい作品になったんだよね。
ちなみに俺はアラクネ娘がお淑やかで可愛いと思ったね。
「雄のさがという奴でしょうか、かんぱーい」
「乾杯、そういう物なのでしょうか? あのゼン様」
「はい、なんですかスイレンさん」
「私にも物語の読み聞かせをして頂けないでしょうか? ほら……最初に竜娘とおっしゃってましたし興味がありまして」
ああ、一巻のメインヒロインは竜だし、そのまま正妻に収まったからな。
うーむ……話すのはいいのだが、この竜娘の設定ってド直球のデレデレ娘なんだよな……。
スイレンさんに最初に読み聞かせる物語なら桃太郎とか金太郎とかのが良いんじゃないかなぁ……。
良し、なんとか乾杯とツマミで話を逸らしてみよう、そしてこの小説から日本の昔話あたりに変更しよう。
そうと決まれば!
「お話の前に新しいカクテルを作るので少し待ってくださいねスイレンさん」
「わー楽しみです! ありがとうございますゼン様!」
俺の戦いはこれからだ!
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