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95 閑話

 side 姉妹


 そよ風の吹く気持ちのいい日和だった。


 そこは大きなお屋敷の庭で、きちんと手入れのされた生垣や花々に囲まれた東屋だ。


 そこに真っ白に塗装されたテーブルと椅子が置かれ、二人の女性が座っている。


 片方は金髪をツインテールにして、毛先がドリドリしている10歳かそこらの美少女。

 もう片方はサラサラストレートロングの金髪にホワイトプリムを着けた、10代半ばといった美少女メイドだ。


 側には執事が立ち、彼女達は仲良さげに会話している。


「それでアイリーンお姉様、いかがでしたか、商人のゼンは」

「そうね……ちょっと無理そうねドリーちゃん、興味の欠片もないと言われてしまったわ……」


「だから言ったでしょう、彼は貴族籍を欲しがるような柄ではないと」

「こんな私でも公爵家の役に立つかと思ったんだけどね……貴族籍が欲しい人なら私なんかでも受け取ってくれるかなって……」


「ご自分の事を『なんか』とか言わないでくださいまし! お姉様は皆に愛されていますし、公爵家になくてはならない存在です」

「ありがとうドリーちゃん、いつも体調を崩しては寝込む事を繰り返して迷惑をかけている私でも、何か出来ないかなって思っちゃって……」


「……それなんですが、こちらに来たらゆっくりとは言え歩けるくらい元気になるなんておかしいですよ、お父様には毒を盛られていた可能性があると内密に伝えておきます」

「そんな! うちの人間にそんな悪い事をする人はいないはずよ! 家でも元気な時はお部屋の中を歩くくらいなら出来たのよ?」


「……ですが現にあの家を離れたら少しとはいえお元気になられているではないですか、しばらくはこのお屋敷で療養してくださいまし、様子を見ます」

「公爵家で働いている人達を疑いたくないけど……ドリーちゃんが言う事だし、そうね、しばらくはお世話になろうかしら」


「そうしてくださいお姉様、それにしても、これ美味しいですよね!」


 妹の方は暗い話は終わりとばかりに元気な声を出して話を変え、そしてテーブルの上のワイングラスに入っている琥珀色の飲み物を一口飲んだ。


 姉と呼ばれたメイド服の少女もそれに追随して、自分のワイングラスの中身を一口飲む。


「このシュワシュワしている所も美味しいわよねドリーちゃん」

「お酒を発酵させる時に出るんだっけか? 爺?」


「は! 白ワイン等を密閉された入れ物の中で二次発酵させる等で発生する、という話は聞いた事があります」


「それにしてもこんなに泡が強い物なのかしらねぇ? お酒ではないこれにどうやって泡を閉じ込めたのかしら? 次にゼンが来たらその辺りを聞いてみましょうか」

「ドリーちゃん、あの方はたぶん……」


「ええお姉様、守竜様と知り合いで仲良くお話を出来るという時点で、只者ではないのでしょうね」

「そうよね、そんな御方に見初められるなら、お家のためになると思ったのだけど、駄目だったわね、お姉ちゃんちょっと自信なくしたわ……」


「確かにお姉様は美人ですが、皆が皆欲しがる訳ないじゃないですか、自意識過剰です」

「むぅ……メイド服よりドレスの方が良かったかしら?」


「正式な顔合わせにしちゃうと、平民には断れなくなっちゃうからあーいった形にしたんじゃないですか、それもこれもお姉様が大っぴらに平民と結婚するなんて公言しちゃったせいなんですからね?」

「家の役に立ちたかったのよぉ、虚弱な私では子供をなせないと言われているし、貴族の嫁にはなれないだろうから……」


「まだ分からないでしょう? お父様が高レベルの回復魔法の使い手を専属で雇えないか探していますし、薬師などにも話を聞いています、諦めないでくださいお姉様」

「ええ、分かったわドリーちゃん」


 そうして姉妹はまた雑談という話し合いに戻る。


 ……。


 ……。


 妹が飲み終わったワイングラスを掲げて透かせて見ている。

 それを見た姉が口を開き。


「すごい透明度よね、それを4個と、さらに大きなガラスの入れ物が2個、なんて事ないとばかりにプレゼントしてくるのだもの、びっくりしちゃったわ」


「ゼンはちょっと抜けているんです……本人は目立たずに商売している気みたいなのですが……このガラスの器セットを王族にでも献上したら、下級貴族くらいにはすぐなれる事すら思い至らないんですから……」


「彼にとって、それらはほとんど価値のない物なんでしょうね、もしかしたら『守竜酒』もそうなのかもね、だとしたら……やっぱり私がお婿さんに取るべき……次はもっとこうセクシーなドレスで……ぶつぶつ」


 姉の方が何かを真剣に考え出している、妹は焦った表情でそれを止めにかかる。


「もうやめてくださいよお姉様ぁ! 下手に手を出して守竜様のお知り合いに逃げられたらどうするのですか! 美人なお姉様の顔を間近で見てもゼンはまったく驚きもしなかったんですから、お姉様に女性として興味がわかなかったって事で諦めてくださいまし!」


「うぐっ……確かに私を見るよりもドリーちゃんの髪の毛先を見ている時間の方が長かったわね……」


「え? ゼンってばそんな所を見ていたの?」


 妹が自分のツインテールの先のドリドリ部分を触りながら驚いている。


「ええ、ドリーちゃんが会話をしながら身じろぎすると毛先がビョンビョン揺れるでしょ? そこをじっと見ていたわ」


「そういえばゼンは前に私の髪を褒めていたかも……『見事な縦ロール』ですねって」


「縦ロールが好きなのかしら? それなら私の髪も……」


 姉は自分のサラサラの金髪を手に取って何やら考えている。


「真似っこは駄目ですよお姉様、この髪形は私の物です!」


「……分かってるわよぉドリーちゃん、そんなこ……ぅ……」


 姉が胸を押さえてテーブルに伏せる。


「お姉様!? 爺!」


「はは! 失礼しますアイリーンお嬢様」


 執事がお姫様抱っこで姉を抱えて歩き出す、その様子を見ていた他のメイドが館に向けて駆けだした。


 恐らく受け入れ準備をするのだろう、その連携の見事さは、さすが高位貴族の従者と言えよう。

 ……もしくは……こういった事態に慣れているのか。


「お姉様付きの医者を呼びなさい!」


 お屋敷の庭に妹の声が響くのであった。

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