93 タタンタに帰って来た ゼン強化
「ああん? つまりお前は娘に手を出したって事か?」
「違います、うちの商会員として勧誘しました」
貿易港タタンタに着いた俺達は早速とばかりにローラのご両親に御挨拶に来ました。
そうして、腰が治りかけでまだ家にいた親父さんと会話している所だ。
母親の方は部屋の隅っこでローラとキャイキャイと雑談している。
楽しそうだし俺もそっちに混ざりたい。
「お前さんが、あーっと、ゼンだったか? ゼンがうちの娘を見初めて囲い込んだんだろう? つまり嫁にするって事だよな?」
まだ完全に腰が治った訳じゃないらしいが、ベッドに腰掛けて上半身を起こした状態にはなれるっぽい親父さんから、再度同じような問いかけがきた。
「商会員としてローラさんの才能が欲しかったんです、うちは新参の商会なので筆頭格として仕えて貰うつもりです」
「商才が欲しかった……ねぇ?」
「はい、商才です」
親父さんはそう言いながらローラへと視線を移し、ジッと娘を見つめ、再度俺の方へと向き直る。
「俺にはメイド服を着ているように見えるんだが?」
「……うちの商会の制服はメイド服なんです!」
当然あるだろうその突っ込みの対策はすでに決めてあり。
俺は部屋に入らず廊下で待機しているルナやセリィのメイド服コンビを示してそう言った。
今日からうちの商会の女性用制服はメイド服に決定しました。
「……全員お前さんの妾候補とかって事は……ないよな?」
「違います、子供相手に何言ってんだあんた」
ああん? いくらローラの親父さんとはいえ、セリィやルナをそんな目で見たらぶっ飛ばすよ?
「お、おう、すまん……はぁ……何やってんだかなあいつは……」
「行商の人手である娘さんを勧誘した事については謝ります、なんらかの補填が必要と言うのならそれなりの――」
「あーあー、違う違う、そういう意味じゃねぇよ」
親父さんが手を前にだして、その手を横にフリフリとして否定してくる。
「怒っている訳ではないと?」
「呆れてるんだよ、娘にはな……有望な婿候補だから、性格が良かったら誘惑しちまえって言ってあったんだがな……なんなら商会員兼嫁にしてくれていいんだぜ?」
そんな事を吹き込んでたのかよ……確かにこの世界の住人達の結婚に対しての考え方が日本と違うっぽいのには気付いていたけども。
……中ランク商人で性格が良いだけで誘惑って……いや……俺の事を日本っぽく考えたら年の合う前途有望な起業家で性格の良い青年って事になるのか?
……それは確かにありか? だけど。
「俺が商会長という立場を利用してそういう事を強要する事はありません!」
そういうのって日本ならセクハラとかパワハラだぜ、おっさん。
「いや……そういう意味じゃ……はぁ……まぁいいか、ゼン殿」
「はい」
「どうか娘の事を、よろしくお願いします」
親父さんがベッドの上で頭を下げてきた。
「ええ、商人として頑張って貰うつもりです、お給料や待遇はきっちり決めてあるので後で娘さんに確認してください」
俺は親父さんを安心させるべくそう答えるのであった。
雇用待遇の問題って大事だよね?
「ああ、そうするよゼン殿……はぁ……孫の顔はまだしばらく見られなそうだな……」
さて話も終わったし一旦ローラだけ置いて帰ろう――
ガシッ!
皆に帰還を促そうとした時、俺の肩を力強く掴んできた人物がいる。
そう、ローラの母親だ。
「えっと……どうしました? ローラのお母さん」
「娘のお肌と髪の毛が艶々なの……それに昔から腕にあった肌のシミが消えているの……でもね……娘はゼンさんのお陰としか言わないの……これは是が非でも聞き出さないと、気になって気になって、私は昼寝も出来ないわ!」
夜ではなくて昼寝なのか……それは意外と普通じゃね?
うーん、ローラの状況は異世界日本の品も関係しているからなぁ……あーそうだ、確か……。
「俺は〈光魔法〉を使えまして、ローラには時たまお肌や髪に回復や浄化や解毒の魔法を掛けているんです、聞いた事がありませんか? こういう回復魔法の使い方を」
ローラやセリィからの情報収集で、お金持ちの美容は回復魔法でするという話が噂レベルであるのを聞いた事がある。
高レベルの回復が使える魔法スキルがそれなりに貴重なので、平民には確かめようがないって話だったが……。
俺の〈光魔法〉スキルで実験してみたらそれなりの効果がある事は実証出来たんだよね。
まぁ異世界の高めの化粧水や乳液とかの方が、魔法効果が付与されていて持続効果とかを考えると楽なんだけどもね。
「聞いた事があります! ……ええっと……私も娘のようにゼンさんの商会に入れば、それを受ける事が可能なのかしら?」
なんでそうなる……だがローラさんのお母さんの言う事だし……うーんと。
「ああいえ、大事なうちの商会員と仲の良いご家族ですから、私がいる時には無料で施術しますよ? 受けてみますか?」
「是非! 是非よろしくお願いしますゼンさん!」
その返事を聞いた俺は、魔女のマジョリーさんに貰って溜めていたお小遣いDPを全て使う勢いで、手持ちの〈光魔法〉のレベルをこっそりと6まで上げた。
くぅ……DPがほとんど無くなってしまった……本当に溜まらないよなぁDPって、空から一億DPくらい降ってこねぇかね……。
まぁ俺やルナの手持ちの能力の中でも一番高いレベルになった〈光魔法〉だし、これなら多少の美容効果はあるはず。
「ではいきますね、ローラのお母さん」
そう言って手を彼女の頭付近へと伸ばして、全力で〈光魔法〉を使った。
回復に浄化に解毒っと……。
しばらく魔法をかけてみると……。
おお……意外といけてるんじゃ?
「すげーな、うちの嫁の肌が若返った? 肌のシワが減って髪にも艶が……」
親父さんの言葉を聞いたお母さんは、小さな金属鏡を取ってきて自分を見つめる。
……が、よく分からないっぽいので自分の髪の毛先や肌を触る事で確認していた。
「うわすっごいなお母さん……ごしゅ……ゼンさん、やり過ぎです……」
うん、俺もちょっとそう思った。
これは口止め……いや、すっごいお金がかかるという方向のがいいか?
よし。
「通常なら銀貨を数百枚は頂く処置だと思ってください、ローラのご家族だからこそという事で」
自分のお肌を触って確認していたローラのお母さんは、銀貨数百枚というお値段にびっくりしたのか視線をこちらに真っすぐと向けると。
「は、はい、ありがとうございますゼンさん、ローラも」
「あーそうだな、タダでどうこうとは言わない方がいいかもな、ご近所にはローラが金持ちの旦那を手に入れたおかげだと言っておくよ、内情とは少し違うが構わんよな? ゼン殿」
なるほど、確かにそんなお金がかかる処置を受けたというよりは、金を肩代わりして貰ったという方がいいか。
「ええ、構いませんローラの親父さん」
俺はこの返事をした時に、何故か頭に大阪の陣という言葉が浮かんできた。
……日本史に詳しい訳でもないのに……なんでだろ?
ふむ、まぁ取り敢えずお暇するか。
「では、俺達は帰りますね、ローラは俺達がタタンタにいる間は実家にいるか?」
「えっと、今日だけ泊まっていいですか? ご……ゼンさん、明日の朝に宿屋に向かいますから」
ローラには両親の前でご主人様はやめてくれと言ってある。
ローラのメイドとしての意識が高いのだろうが、商会員として雇ったって事になっているからな……。
「分かった、じゃぁそんな感じで、では失礼します」
「おう、娘をよろしくなゼン殿」
「また来てねゼンさん」
「明日の朝にそちらに向かいますから」
そうして三人を残してセリィとルナを連れて宿屋に帰る俺だった。
……ダイゴ? 商会の説明をするのに俺はいらないよね? とか言われて、ダイゴは貿易港に入る前から拠点島に帰っており、今日はリアの所に遊びに行っているはずだ。
ラハさんの体さんに戦闘訓練して貰うんだってさ、体さんはダイゴやセリィに対して優しいからなぁ、ダイゴの希望をかなえてくれると思う。
デュラハンと戦闘訓練している子供がいるらしいよ? 将来が楽しみだね。
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら
作品のブックマークと広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただけると嬉しいです
評価ボタンは、作者のモチベーションに繋がりますので、応援よろしくお願いします。
 




