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ダンジョンマスターの異世界生活  作者: 戸川八雲


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91 好きな相手

 ふんふんふーん。


 鼻歌を歌いながら、目の前のサラサラとした光沢のある銀髪を櫛で丁寧に梳いている。


 今俺達は鉱山都市から南方面へ向かう街道の途中にいる。

 野営の設置も終わりご飯も食べたので、寝る前の一時といった感じだ。


 その野営に適した場所には他に人がいないので、荷馬車の近くに〈インベントリ〉から長めのソファーを出して皆で座り、毎度恒例な夜の動画時間となっている。


 俺のダンジョンメニューにはDPを支払う事によって、様々なアニメや映画が見られる機能がある。

 身内にだけメニューが見える状況にしてそれらを楽しむ訳だ。


 ソファーの真ん中には俺が座り、右側にはローラ、左にセリィとダイゴが、そして俺の膝の上にはルナが座っている。


 いつもはモフモフ係として俺の膝の上にはセリィが座っているのだが……ルナがおにぎりの具対決での勝者の権利を主張してきたんだよ。


 まぁそんな訳で今日のモフモフ係はルナって訳だ。

 ……もしかしてルナはモフモフ係のセリィに少し嫉妬していたのかなぁ?


 最近ルナと俺の二人で何かをする事もなかったしな……うーん、今度二人でお出かけでもするか?


 そしてルナのサラサラの髪を丁寧に梳いている。


 まぁあまりやり過ぎてはいけないって話もあるからさ、俺は〈光魔法〉の回復も併用しながらやっているのだが、これをやると髪が元気になるんだよね……。


 もしかしないでも高レベルな〈光魔法〉ってハゲも治せるよねこれ。


「そんで、今日は何を見るのか決まったかー?」


 ルナの毛先の枝毛を処理しながら皆に声をかける。


「ううーん……私はまだ何があるのか良く分かってないのでご主人様にお任せします、推しと一緒に見られるのならば例え火の中水の中! です!」


 どういう理論か良く分からなかったが、ローラは棄権したようだ。


「私もパス、今日はモフモフされて途中で寝ちゃう可能性大」


 ルナも枝毛処理が終わったので、背中を俺にベタっと押し付けて気持ち良さげにそんな事を言ってくる。


 セリィもだが子供は体温たけぇよな……確かにお互いの体温でポカポカしていて眠くなりそうだった。

 そうして俺は……サラサラの髪の毛だとモフモフ出来ないので、片手でルナの頭を撫でる事で変わりとしている。


 ナデリコナデリコ。


「あ、あのルナさん、いつでも交代しますから言ってくださいね?」


 セリィはそもそも視聴番組を選ぶ事に参加してこなかった。


 尻尾がへにょんとしていてションボリとルナに声をかけている。

 うぬ……空いている片手でセリィの頭を撫でて……パシッっとルナにその腕を取られた。


「今日は私がモフモフ係」


 そう言って空いている手はルナのお腹の上に持っていかれて、その上からルナの手が置かれてしまった。

 シートベルト状態で動かす事が出来ない……済まないセリィ、モフモフはまた今度やろうな。


「じゃ俺は戦隊ヒーロー物の続きが見たい、必殺技の参考にするんだ!」


 つまり最後に残ったダイゴの意見が採用される訳だが……あれはフィクションだからね?

 毎回言っているけど、画面に出て来る光やなんかは映像の特殊効果って奴だからな?


 どうにも俺の説明を信じてくれないのよね……そもそも変身なんて出来る訳……。


 あれ?


 竜であるホムラやスイレンさんの〈人化〉を間近で見ていたら出来ると思っちゃうかも!?


 光るエフェクトを出す攻撃も属性付与なら出来る気がしてきた……今度ダイゴと一緒に派手な必殺技でも開発しようかしら?


 まず〈付与魔法〉を取得するだろう?

 後は〈空中機動〉とか?

 〈飛行魔法〉もあれば……。

 そもそも高レベルな上級スキルに必殺技とかありそうかも?


 やべえ夢が膨らんじゃうじゃんこれ。


「真面目に撫でる」


 色々考えててナデリコの動きが御座なりになったらルナに怒られた、すんません。

 そうしてナデナデとしつつ、戦隊物を皆で見ながら夜が過ぎていった。


 ……。


 ……。


 ――


 ――


 パチパチと焚火の中の枝が大きな音を鳴らす。

 まだ乾ききってない枝だったかなぁ……。


 荷馬車の側に背の高いテントを張った俺達は、その中に〈ルーム〉の〈入口〉を設置したので拠点島で寝る事が出来るし、清潔なトイレに行く事も露天風呂に行く事も出来る。


 なので今この野営地にいるのは俺だけだ。


 いや……ウッドゴーレム二体と、シャドウファントム一体も周囲の索敵なんかをしている。


 月明りと焚火の明りだけがある真夜中に、ふと俺の〈気配感知〉に反応があった。


 背の高いテントの中から出てきたのは、金髪ロングで小学生高学年くらいの見た目の美少女で、俺の配下に加わったマーメイド族達の長であるマリーだった。


 見た目はセリィやルナと同い年くらいに見えるけど大人な年齢らしい。

 正確な数字は教えてくれなかったけどな。


 マリーは青っぽい子供用のパジャマ姿でこちらに来ていた。

 良かった水着じゃなくて。


 ……こいつは拠点島だとビキニ水着のままで出歩いていたりするからな……たまに人魚形態から〈人化〉した後に下の水着をはき忘れてたりするし……。


 そういう時に俺は、はしたないと叱っているんだけど毎回やらかすんだよな……。


 なので最近ちょっとお高めの腰に巻く用のパレオをプレゼントした。

 異世界日本産で〈水中適応〉付きなんで泳ぎの邪魔にならないやつ。


 ……でもそれがあるからと安心したのか、いまだに下の水着をはき忘れる事があるんだよなマリーは……。


「どうしたマリーこんな真夜中に、俺に何か用事か?」


 キャンプ用の椅子に座って焚火の側で夜の見張りをしていた俺は、マリーに椅子をもう一個側に出してやりながら声をかけた。


 彼女は俺が出した椅子に座りながら。


「ご相談があってまいりました、ゼン様」


 ちょっと真剣な表情だな、焚火に枯れ枝を何本か追加してからマリーの話とやらを聞く事にする。

 枝はまたパチパチと音を立てていて、枝に水分が残っているみたいだ……。


「それで、どうした?」


 俺が促してやると、マリーはキリッとした表情で。


「どうか私達にもレベリング? という、基礎能力の格を上げる行為を許可して欲しいのです」


 レベリング? ルナ達がやっている拠点島に湧く魔物狩りの事だよな?


「ああ、やればいいんじゃないかな?」


 俺のその返事を聞いてマリーは戸惑っていた。

 なんだろうか? ちょっと意識のすれ違いを感じる。


「なぁマリー、どういう気持ちで相談をしに来たのか全部教えて欲しいんだけど、いいかな?」


 俺がゆっくりと丁寧にそう問いかけると、マリーはポツポツと話し始めた。


 ……。


 ……。


 ――


 マリーの話を纏めるとだ。

 俺の配下になれたのは良いが、何も貢献出来ていないのが心配だったらしい。


 その上、拠点島では大量に召喚されたウッドゴーレム部隊達が、日々魔物を駆逐してレベルを上げていて。

 さらに新しく入ってきた人間もルナの監督の元でレベリングを開始している。


 なので、このまま戦力が揃ったら自分達はそのうち捨てられるのでは? なんて思っちゃったらしい。


 被害妄想も甚だしいが……マリー達は世界を逃げ続けて転々としていたというし。

 ……もしかしたら、そう思うに至るような事を過去に経験しているのかもしれない。


 ドリル嬢との真珠取引もマリーにまかせているし、島の周囲で取れる海鮮食材の提供も非常に助かっている。


 最近では〈調理〉を覚えた〈人化〉出来るマーメイドが、ルナの手伝いをする事も出来るようになっているし。


 ……十分貢献しているしありがたいと俺は思っているのだが……彼女ら自身が自然に誇れる気持ちにならないと駄目なのかもな。

 うーん、この世界は脳筋多いっぽいしなぁ……自信をつけるならまず強さなのかもね。


 そういった考えに至った理由として、セリィのレベルが19になった事もあるみたいだ。

 マリーのレベルが20だと言ってたし、積極的に戦わずに逃げ回っていた弊害かねぇ、マーメイド族全体のレベルが低いのよね。


 てかセリィのレベルがそこまで上がっているのかよ……ちゃんと報告してくれよルナ……。

 ちなみにダイゴはレベル15まで上がっているそうだ。

 ……ダイゴも中級冒険者クラスへと近づいているね……。


「俺はマーメイド達を手放す気はないよ、と言葉で言っても心配なのだろうから、ルナ達のレベリングに人化を出来る人員は参加して良い」


「本当ですか! ありがとうございますゼン様」


「そして人化出来なくて島に上陸出来ないメンツのレベリングもするぞ……ダンジョンの一部を伸ばして入り江に少し飛び出させるから、ウッドゴーレムに島に湧く魔物をそこまで生きたまま運ばせるのでマーメイド達でトドメを刺せ」


「そこまでして頂けるのですか! ……ああ……感謝を……心からの感謝を捧げますゼン様……」


「マーメイドの最低レベルを20以上まで引き上げる、そしてマリーのレベルを30以上にまで持っていく」


「30!? ……さすがにそこまでは難しいと思うのですが……」


「マーメイド達全体は時間をかけてゆっくりとだが……マリーのレベリングはホムラかスイレンさんに護衛を頼んで隣の火山島でのレベリングをする、あそこなら高レベル魔物がいっぱいいるしな」


「火竜様達にですか!? そこまで……私達の事を……ゼン様の御心に疑念を抱いた私をお許しください……これよりマーメイド族は命をかけてゼン様にお仕えする事をお誓いします!」


「命なんてかけんでいい! 何かあっても生きて俺の元に必ず戻って来いマリー! それが出来るレベルにはしてやるからさ」


 俺はそうやってマリーへと笑顔を向けてやった。

 命なんて掛けて貰うのは重すぎるっての。


「ああ……ゼン様……そこまで私の事を……」


 見た目小学生な美少女マリーが俺を見つめて声を詰まらせている。


 レベリング出来る事が嬉しいようだ……脳筋だよねぇこの世界って、魚を上手く獲る事だってすごいと思うんだけどな。


「そんな感じでいいな? マリー?」


 いまだに俺を見つめて固まっているマリーに声をかけていくのだが、焚火のせいかマリーの顔は少し赤くなっているようにも見える。


 マリーは返事をせずにスクッと立ち上がると、俺の側に歩いてきて、俺の膝の上に横座りになり体ごとしなだれかかってきた。


 ……どうした? 今日のルナみたいに甘えたいのかな?


 マリーは下から俺を見上げるように顔を近づけると。


「マーメイド族の身も心もゼン様に捧げます、さしあたって私を伽に使ってくださいましゼン様」


 俺を見上げるマリーは、見た目の幼さとは裏腹に妖艶な雰囲気を出してきていた。


 ちょ! 待て待て待て、そういうのは駄目だ!


「マリー」


 俺はマリーへと声をかける。


「はいゼン様……」


 マリはー俺に返事をしながら何故かパジャマの上着のボタンを外し始めていた。


 下にはシンプルなキャミソールのような物を着ているっぽいな。

 日本製の物をルナが買ってあげたのかな?


 って違うそうじゃない! 駄目駄目、駄目だよマリー!


「マリー、それは駄目だ、誰かのために自分をそういう意味で犠牲にするのは良くない、そういうのは好きな相手と恋人になって結婚をしたらするものだ、いつか夫となる人のために取っておきなさい、それとそういう格好を見せるのは、はしたないからやめておけ」


 取り敢えずマリーのパジャマの上着のボタンを留めてあげながら説教していく俺だ。

 つい早口になってしまった。


 まったくもう……嫁入り前の娘が、そんなのしちゃだめだっての。


 何故かマリーはポカーンとした表情を俺に見せてくる。

 身内のために身を差し出すなんて事はしちゃ駄目だよマリー。


「無理にそんな事しないでもちゃんと配下として感謝もしているし大事にするから、安心しろマリー」


 そう言って俺の目の前にある頭を撫でてあげる、ナデリコナデリコ。


「ふふっ……クスクスクスっ」


 頭を撫でられているマリーから笑い声が聞こえてきた、なんぞ?


「どうしたマリー?」


 俺の声かけに顔をあげたマリーは笑っていて。


「クスクスッ、いえ……ふふ……もしかしてゼン様は……」


「俺がどうした?」


 再度の俺の問いかけに笑っていたマリーはそれを止めると、微笑を浮かべて俺を見上げる。

 ……その表情は、体は小学生くらいで幼い見た目のマリーなのに、やけに大人びた感じを受けるもので……。


「いえ……分かりましたゼン様、私は好きな相手の準備が出来るまで待つ事にしますね」


 そう言って俺の胸に頭をもたれかけてくるのであった。


 ふぬ?


 マリーは人との交流がちょいちょいあると言っていたし、実は好きな人間がいたって事?

 将来の約束でもしてたのか?

 うーむ……つまり、その好きな人に、また出会える事を期待しているって事か?


 まぁとりあえず。


「その好きな人に出会えるといいなマリー、俺はマリーを応援するよ」


 そう言って再度頭をナデリコしてあげた、ナデリコナデリコ。


「ふふっ……そうですねゼン様」


 マリーは顔を上げる事なく、俺の脇下に両腕を通して抱き着いてきた。


 好きな相手との関係を許されて嬉しかったって事かね?


 まぁ良かったなマリー、ナデナデ。


 真夜中の野営地、月明りとパチパチと音を鳴らす焚火の明りのみに照らされた俺とマリーは、しばしその体勢のまま時間が過ぎて行った……。


 ……。


 ……。


 ……消えそうな焚火に新しい枯れ枝を投げ込みたいんだけどなぁ……。


 マリーちょっと降りてくれね? だめ? もう少しこのままで?


 そっかぁ……そんなに好きな相手との交際許可と応援が嬉しかったのかねぇ……。

お読みいただき、ありがとうございます。


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