90 おにぎりの具
「ここは俺が抑える! 姉ちゃんたちは下がってろ!」
「駄目よダイゴ君! ちゃんと皆で戦わないと、セリィちゃんゴーレム達に指示を!」
「はいローラさん、一号は敵に突貫! 二号はダイゴと私と連携して!」
ここは鉱山都市トントから貿易港タタンタ方面へ向かう街道を南下した場所だ。
周囲には街道の片側に草原が、もう片方に森が存在している。
野営のために早めにこの場所に止まった俺達は、ほどなく魔物であるウルフの集団から襲撃を受けた。
それに対応するのは装備を整えたセリィとダイゴの姉弟とローラ、そしてウッドゴーレムが二体だ。
……。
俺とルナはそんな彼らを横目にローラの荷馬車の側で。
「竈はこんなもんか、ルナ、次は何すればいい?」
「今日は、おにぎりとお味噌汁で行こうと思う、お米を研ぐの手伝ってマスター」
「了解」
ルナと二人でご飯の準備中だ。
なぜ魔物に襲われているのにセリィ達を手伝わないのか、それはまぁ練習というか訓練の一環だ。
酒のオークション結果が出たローラ、彼女が商業ギルドでお金を貰った瞬間に、冒険者ギルドで受けた俺との護衛契約が切れたんだ。
本当はこの時点で俺とルナはリアのいる樹海ダンジョンに帰る予定だったから、そういう契約だったんだよね。
彼女は鉱山都市で帰りの冒険者を雇い、俺達とは別れるはずだった。
だけども色々あって何故かローラは俺の配下となった。
そして表向きは『ダンゼン商会』の商会員になった訳で、兎にも角にも一回港町タタンタまで一緒に行かんといけないだろうと相成った。
んで現状なんだけど、将来的に冒険者になりたそうなダイゴのために護衛依頼っぽい行動を練習する事にした。
俺とルナが護衛対象って感じなので手は出さない。
まぁ〈気配感知〉を使って様子は確認しているし、ファンファンやシャドウファントムがすぐ助けに入れるように、それぞれの影の中やメイドスカートの中で身構えているので大丈夫だろ。
〈ルーム〉を使えば貿易港タタンタまで一瞬で行けちゃうんだけど、急いで行動しなきゃいけない訳でもないし、訓練をしながら行く事にしている。
セリィ達が使って良い戦力はウッドゴーレム二体のみって事にしている。
まだ装備が出来てないから素のウッドゴーレムなんだが、あいつらは初期に呼び出した二体なんで、基礎レベルが20を超えていてスキルも与えているので正直いって強い。
今来ているウルフくらいなら一体で群れごと殲滅出来ちゃう。
なのでウルフ程度なら安心してまかせているし、ゴーレムにはちょこっと手加減もさせている。
それに俺は、もう一仕事終えた後だからね、疲れているのさ……。
「それでマスター、やっぱりあの時の?」
俺の横で大量のお米を研ぎながらルナが呟いた。
「ああ、まぁもう会う事もねぇし気にするな、セリィ達には内緒でよろしく、てか米を研ぐのも難しいもんだな、こんな感じ?」
「了解、忘れる事にする……もうちょっと優しく、力を入れ過ぎると米が欠けて美味しくなくなる」
俺とルナが研いだ米を、合わせて大きな釜に入れて竈に設置していくルナ。
水加減を慎重に整えているその目つきは獲物を狙う鷹のごとしだ。
水加減の調整が終わるまでは暇になりそうなのでセリィ達の方を見る。
ふむ、ウルフの群れは20体程いたのだが、すでに半減している。
しかしまだウルフ達が逃げない……よく効くんだなあの薬。
俺はすぐ側の焚火に投げ込まれてなくなってしまった薬を少し惜しんだ。
少し残しておけば良かったかな?
ま、やべー品だろうしここで使い切ってしまった方がいいか。
そうして俺達の後を鉱山都市から後をつけて来ていた奴の事を思い出す。
貴族の子息……いやもう追い出されたんだっけ……まぁどっちでもいいや。
デブの元貴族が少し前から鉱山都市で俺達を探していたのは知ってたからなぁ、だからこそ荷馬車を預けている宿屋には泊まらなかったんだから。
ローラがオークションの金を受け取りに行く時に来るのだろうなと思ったけど、ビンゴだったね。
都市の中だと面倒になりそうだったので、そのまま出て来ちゃったんだよな。
どうせ〈ルーム〉の基点は設置してあるし、場合によっちゃあ魔女のマジョリーさんのダンジョンから送って貰えればいつでも来られるしな。
鍛冶屋のカンジさんの所に装備を受け取りにいかないといけないから、一回は必ず来る予定だ。
そうしてわざとゆっくり外に出て進んでいたら、案の定後をついてくる一団がいた訳だ。
野営するためにここに止まった時に俺だけちょっと離れて……まぁ処理をしたんだが、その時チンピラ達が使おうとしていたのが魔寄せの薬だ。
火に投げ込むと魔物を呼び寄せる効果があるんだとかで、その効果から個人が持つ事は禁止されているそうだけど……元貴族のツテか何かかねぇ?
まぁきっちり全員掃除したから大丈夫だろ、チンピラの装備類は後でローラに売って貰うとして、元貴族子息の所持品は燃やすなり壊すなりで処分してしまうのが一番かね。
すでに家から追い出されたと聞いているが……そうみせかけだけの可能性もあるからな、親である貴族が出てきたら面倒だしよ。
「ふぅ……後は炊けるのを待つだけ」
すごい難関な仕事をやり遂げたようなルナの表情とセリフだが、やっていたのは米を炊くための水加減の調整だ。
「お疲れルナ、おにぎりの具は何にするんだ?」
「マスターは一番美味しいおにぎりの具は何だと思う?」
「そりゃぁ……なんだろうな? 色々あるし……うーん」
「折角だしマスターと私で違う具を選んでたくさん作ろう、セリィ達に選ばれた数が多い方が勝ち」
「ほほう、俺に勝負を挑むというのかルナさんや」
「勝った方は負けた方に何か要求出来る」
「クククッ、大学時代のアパート暮らしでコンビニを良く利用していた俺に勝てると思うなよ? いいだろう、その勝負受けてたってやろうじゃないかルナ!」
こんなおふざけな会話をルナとしつつも、セリィ達の戦闘はちゃんと〈気配感知〉で確認している。
セリィ達の戦いはまだ終わらないみたいだ、あ……ウルフのお代わり来てる……。
あの薬って一回で一袋を燃やすんだよなぁ?
……ちょっと自信なくなってきたかもしれん。
もうちょっと情報を吐かせれば良かったかね?
まぁいざとなったらシャドウファントム達もいるし大丈夫か。
「じゃぁ私はツナマヨを選ぶ、次はマスターの番」
ポコポコと蓋が動き出したお米を炊いている釜を見ながら、ルナが先制攻撃を仕掛けてきた!
「ちょっと待てルナ! それはずるいぞ! まずはジャンケンで具を選ぶ順番を決めないか?」
ツナマヨさんは恐らく、好きなおにぎりの具トップスリーに入る具だと思うんだ。
「コンビニマスターがハンデすらくれないの?」
コンビニとマスターを繋げて言うなよ……なんか俺がコンビニにすげー詳しいみたいに聞こえるじゃんかよ……せいぜい一日二回行くくらいだったんだが。
「くっ……いいだろうルナ、ツナマヨは諦めよう、では……俺は焼き鮭を選ぶ!」
「王道にて定番、さすがマスター、置きにいった」
……今なんて?
なぁルナよ……人との関わりが増えて情緒が豊かになっていくのは良いのだが……。
もう少しこう……その超絶美少女の見た目に似合う感じな、お淑やか方面に変化してくれたりしませんか?
いやまぁ、語彙が増えて対応のパターンも増えて、ルナにとっては良い事なんだと思うんだけど。
……ちょっと勉強用の教材に漫画とかアニメとかを使いすぎたかねぇ……。
「無難とは言うな、誰もが好きだから定番と言うのだ、俺はな……勝負に負ける気はないんだよルナ」
そう、例えお遊びとはいえ、いや、お遊びだからこそ本気でいく!
「……マスターは忘れている、ここは日本じゃない異世界、なので次に私は焼肉を選択する」
はぁ!? おにぎりの具に焼肉?
いや勿論そういう物が日本でなかった訳じゃないけども……そうか!
セリィ達獣人は何でも食べるがお肉が大好きだ! うぐぐ……これはやばい……。
「く……しかし俺はまだ勝ちを諦めない! 塩昆布や明太子はまだあの子達が慣れていないから選ばれない可能性が……むぐぐ……良し! 俺は鳥五目おにぎりを選択する!」
「……目の前で白米が炊かれているのに、炊き込みご飯のおにぎりを言い出すマスターはさすがと言うべき……新しい釜で炊き込みご飯作るから手伝って」
あ、はい。
俺とルナは会話しながらも新たな米を研ぎだした。
「次はエビフライを選択する」
「そう来るか……ならば俺は……からあげおにぎりってあるかなぁ?」
「どうだろう? でも美味しそうだから作るべき、私は次にオカカを選ぶ」
「それがあった! くぅ……なんで俺よりルナの方がおにぎりに詳しそうなんだ……じゃぁ俺は――」
そうして俺とルナはおにぎりの具を選びつつ、仲良く一緒に料理していくのであった。
ちなみにセリィ達の方は、魔物のお代わり第五弾が来ていた、ガンバレー。
……。
……。
――
結局おにぎりの具対決は、10対4でルナの勝ちだった……。
おいダイゴ! お前焼肉オニギリ食い過ぎだっての!
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