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89 身内の装備を揃えていく

 ブンブンと武器を振り回したり、何度も握ったり動いたりして、調子を確かめているダイゴやセリィやローラ。


 俺はそんな彼らを眺めながら、裏庭の端っこに置かれたベンチに腰かけている。


 今日は、鉱山都市トントで鍛冶屋を営んでいドワーフのカンジさんの店の裏庭に来ている。

 ウッドゴーレム用の特注装備はまだ出来ていないのだが、セリィやダイゴやローラの武器や防具を既製品で揃えるためだ。


 本当なら大きなお店に買いに行くのが普通なのだろうけども。


 せっかく出来た腕の良いドワーフとの縁がある訳で、専門家に見極めて貰った方がセリィ達にぴったりな物が揃うだろうて。

 俺は普通に売っている既製品くらいの装備はすでに持っているので、こうして眺めているだけだ。


 ルナは助言すると言って彼らの近くにいる。


 ルナ自身は見た目がどうのとかで鎧を着ないからな……そのうちマジョリーさんに防御用の魔法アクセサリーを特注で頼むつもりなんだけど……そもそもルナの戦闘用メイド服が逸品だしなぁ……。


 今はカンジさんの嫁さんに順番に体のサイズなんかを測られているみたいだ。

 それでもって知り合いのお店からピッタリな鎧を取り寄せてくれるらしい。


 まぁセリィとローラはメイド服の上からなので簡易的な革鎧になるだろう。

 ダイゴはまだ幼いからやっぱり革のパーツ鎧って所かねぇ。


 サイズ測定が終わったのかカンジさんの嫁さんが何処かへ移動した。


 残った面々のうち、ダイゴとルナが用意されていた各種武器を使い模擬戦を初めている……戦闘民族か?


 ローラやカンジさんが俺の方に歩いてきて、俺を挟むようにベンチの空いている部分へと腰掛けてきた。


「ゼンの所の従業員は元気だな」


「お陰様でいつも元気一杯ですよ、ローラは参加しないのか?」


「私は補助魔法の防御力を上げる魔法を付与する役で、今は魔力の回復中です」


 ああ、練習でケガしてもつまらんからそれは必要かもな。


「おおそうだ、ゼンよ」


 カンジさんが機嫌良さげに語り掛けてくる。


「なんですか? 何か機嫌が良さそうですけど」


「お主らが出品していた、貿易港タタンタに入って来た他国の酒のオークションが終わったんじゃよ! それらを落とした酒屋が店で売り出してのう、儂もちこっと手に入れる事が出来たんじゃ、美味かったぞ! 運んでくれてありがとうなぁ」


 なるほどそういう事か。


「どういたしまして、まぁ運んだのはローラで俺らは護衛な訳ですが」


「そういやそうだったな、ありがとうな嬢ちゃん、っとあの獣人の子が使うにはあれは良くなかったか、儂はちょいと別の武器を持ってくるわい」


 ローラが返事する間もなくカンジさんは自分の店の中に入って行った。


 ダイゴにあの槌武器はちょっと重かったかもな、一応振り回せているが微妙に重心が定まらない感じだ。


「ねぇゼンさん」


「どしたローラ」


 ローラは俺の配下になった時に、俺の事をご主人様呼びをしてきたが、取り敢えず今は元のさん付けに戻させている。


 そして自分の事は配下なのだから呼び捨てにしてくれと先日頼まれたので、セリィなんかと同じく呼び捨てにする事にした。


 初めてローラを呼び捨てた時は、体をモジモジと悶えさせながら銀貨を三枚くれたので、厚意は素直に受け取った。


「『守竜酒』をドワーフさん達に売る気はないのですか?」


 ん? あーその事かぁ……。


「あれはちょっと高くなり過ぎててなぁ……」


「高いと問題があるんですか?」


 ローラが俺の方を向きながら顔をコテンと傾ける、それに釣られるようにローラの茶色のポニーテールがピョコンと跳ねた。


 シャンプーやリンスやコンディショナーのおかげなのか、ローラの髪は艶が出てきたよね。


「大ありだよローラ、物が高ければ注目が集まる、そんな利益がいっぱい出そうな物を扱う商人には……有象無象が集まってくるから……面倒すぎるよ」


「ごしゅじ……ゼンさんは目立たず堅実に商売をしたいって言ってましたもんねぇ……」


 今ご主人様って言いかけなかったか?


 輸送護衛の依頼主と護衛だった関係が急にそんな呼び方に変わったら不自然に思われるだろう?


 せめてこの都市を離れるまでは、さん付けでお願いするってばよ。


「そもそもだなぁ、あの酒は俺の中だともっと安いイメージなんだよ……」


 あの樽酒があんなに高く評価されるとは思ってなかったんだよなぁ……。


「あーそうでしょうねぇ、たぶんなんですが原価は銀貨20枚以下なのでは?」


 うぉ! すごいなローラ……あれって36リットル入りで800DPそこそこだから、俺の中のイメージで言うと銀貨で10枚もしないって感じなんだよな。


「そんなの分かるものなの? 確かに銀貨10枚前後なんだが」


「ああやっぱり……ほらゼンさんと荷馬車の御者席で値段交渉した時があるじゃないですか? あの時にいくら値段を下げてもゼンさんはまだまだ儲けが出ているなーという感じでしたから」


「ああ……あの開始値から半分まで下げてきた恐怖の値下げ交渉の話だな」


 あの時は俺には交渉能力がないんじゃないかって不安になっちまったよね。


「あ! あれは! ……その……推しの困る姿が可愛くてドキドキしちゃったからであって……あそこまで追い詰める気は……って、あの値段でもまだまだ余裕あったんですね……」


「あの時のローラは、グイグイ来る交渉がいっぱしの商売人っぽくてすごく格好良かったよ」


 あの時の事を思い出して感想を伝えていく俺だ。


「も、もう! ごしゅ……ゼンさんったらぁ! そんな事で私を褒めても出るのは銀貨くらいですからね? はいどーぞ」


「褒めるも何も事実を言っただけなんだけどな、ありがとう」


 銀貨一枚貰ったのでポケットに入れておく、チャリンと銀貨がぶつかる音がした。


「つまりご主人様はドワーフ相手に『守竜酒』を売る気はないと?」


 もうご主人様って言っちゃっているやんけ……。


「せめてこの都市を出るまでは、さん付けでお願いねローラ、貿易港の代官様には継続的に売るつもりなので、そこから鉱山都市には流れていくと思うんだ、あの子なら出所の情報は封鎖してくれると思うしな」


 ドリル嬢ならホムラの知り合いである俺に悪さはしないと思うんだよね。


「ドリエール様の……なるほど、確かにあの方は義理堅いという噂がありますね」


 ……まだ11歳なのにそんな噂が流れているのか、ドリル嬢も代官として色々と苦労してそうだな……今度ホムラと一緒に飯でも食える機会をあげようかねぇ……。


 お店の方からカンジさんが各種武器を持って戻ってきた。

 さて、俺もダイゴの訓練相手でもしてやろうかね。


 そうしてベンチから立ち上がり裏庭の中央に向かって歩き出す俺だった。








 side とあるお屋敷の一室で。


 とあるお屋敷の一室で、執務室と呼ばれるような部屋の立派な机で、一人の小柄な少女が書類を読んでいた。


「ほわぁ!!!」


 金髪のツインテールで毛先がドリドリしている少女が急に大声を上げ、読んでいた書類から視線を外して顔を上げた。


「いかがなさいましたかドリエール様」


 側にいた、いかにも執事といった装いの男性が少女に語り掛ける。


「今、私と守竜様との仲人を『ダンゼン商会』のゼンがするという天啓があったわ!」


「さて、次はこの書類を読んでくださいドリエール様」


「無視しないでよ……これでも竜の巫女なのよ?」


「乙女で尚且つ美人の貿易港住民であれば、順番になる事の出来る巫女に、そんな不思議能力はございません」


「くっ……不思議巫女パワーで守竜様と繋がってみたかった……ってあらこれって……」


 嘆きつつも書類を確認して仕事を始める少女は本当に良い子だった。


「はい、現時点での真珠の売り上げの報告書類です」


「……まだ数回しか取り扱っていないのを考えると、とてつもない数字だわね……え? これが全部私のお小遣いになるの? ……本当に? ……やばいわね」


「純利益は全てドリエール様のお小遣いとなります、マーメイド達との仲介をして頂いた『ダンゼン商会』のゼン殿には感謝せねばいけませんね」


「そうね、ゼンの身元を私が保証する書類だけじゃ足りないわねぇ……今度尋ねてきたら貴族になる気はないかもう一回聞いてみましょうか、『守竜酒』の件もあるしね?」


「ドワーフに対する手札ですか……ドリエール様はいかがするおつもりで?」


「誰にそれを聞いたのかあの人はまったく……ゼンの情報は最小限に絞って渡します、守竜様の知り合いに迷惑をかける訳にいかないでしょうし……あの人には別な利益がすでに十分手に入っていると教えるためにも、真珠を使った細工物でも流しておきましょう、手配をお願いね」


「真向から否定するだけよりはそれがよろしいかと、ドリエール様も成長なさいましたなぁ……爺はうれしゅうございます」


「……爺って言うほど年は取っていないじゃないの……」


「こういうのは気持ちの問題でして」


「……次の書類をよこしなさい」


「畏まりました」


 こうして、代官の仕事はいつまでも終わる事はない。

お読みいただき、ありがとうございます。


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