87 土下座から始める飛行特訓
「申し訳ありませんでした!!!!」
俺は土下座で目の前にいる人に謝罪していく、勿論おでこは地面につけている。
「えとえと、そんなに謝らなくても……」
いやいやいやいや。
「例え酔っぱらっていたからとて、女性にあんな事をしてしまうとは……大変申し訳ありませんでした!」
俺はおでこを地面につけるだけじゃ足りないと思い、ドコンッドコンッと地面に頭を打ち付けた。
「わわ! ゼン様! やめてください! やめ! やーめーてー! くーだーさーいー!」
土下座している俺に縋り付くように抱き着いて止めようとしてくるイクスさん。
だけどよぉ……。
必死に止めてくるので少し顔をあげてイクスさんを見る。
いつもの中学生魔女っ子の姿で、帽子は被っていないので単眼状態だ。
「女性に椅子になれなんて言う男は駄目だろう? そう思わないか?」
側にいるイクスさんを見上げながらそう言う俺だ。
そうなんだよ、俺は昨日の宴でかなり酔っていたせいか、イクスさんを椅子にしてしまったんだ!
表面はむっちりして柔らかく、芯の部分はがっしりしていて安定感があり、背もたれの頭部分には最高のクッションがある。
そんな最高級の座椅子扱いをしてしまったんだ!
「えと……私は別に怒ってないですし……酔いの冷めたゼン様が、私のあの姿を嫌いになったから後悔している訳じゃないんですよね?」
「ほえ? 昨日のイクスさんの元の姿に嫌いになる部分なんてなかっただろう?」
なんでそんな話になるのだろうか? 俺の行動によってイクスさんが俺を嫌うというなら分かる話なんだが。
正座状態の俺はイクスさんの言葉の意味が分からずに、少し首を傾げる。
俺の前にしゃがんでいるイクスさんは、そのキラキラとした単眼を閉じた。
そして目じりに手を持っていき拭っている……その指先が濡れているね……。
そうか! やはり単眼種は目が乾くんだなぁ……今回のお詫びに目薬とかあげたら喜んでくれるだろうか?
そして何故だろう、今この場にはいないルナが俺に突っ込みを入れている気がする。
前にもこんな事があったんだが……ルナ達はローラさんのレベリングの続きをしている。
荷馬車の預け賃は先まで払い済みだし、守竜酒以外のオークション結果はもう少し先までかかるからね。
そんな訳で俺は今、マジョリーさんの迷いの森ダンジョンの中層の森で土下座している訳だ。
ちなみに迷いの森に来る冒険者はほとんどが表層までで帰るらしい。
「ゼン様、私の椅子はどうでしたか? 私に悪い事をしたと思っているのなら素直な感想を聞かせてください」
イクスさんが笑みを浮かべながらそう聞いてきた。
素直な感想? そうだなぁ……。
「イクスさんの体は芯ががっちりしているので非常に安定感がある、それなのに表面は程よい女性らしい柔らかさもあって……特にふとももの筋肉によるバネとむっちりとした肉によるクッションのバランスが良くて非常に座りやすかった! 座布団いらずだ! しかも! 俺との身長差が絶妙に釣りあっているせいか、イクスさんの胸部クッションが俺の肩上から頭を包み込むような位置に来るので、背もたれに最高のフィッテング感があった! 夜寝る時にも欲しいマクラだと思ったね、それでな、ってどうしたのイクスさん?」
まだまだ語り足りないのだが、イクスさんが地面にドサッと横倒しに倒れて両手で顔を隠しているので一度感想を止めた。
「ううぅぅぅぅぅぅぅ」
真っ赤な頬で顔を隠したイクスさんが何か悶えている、どうした?
「どうしたんですかイクスさん?」
俺が不思議に思って声をかけると、ガバッと上半身を起こして女の子座りでこちらを見るイクスさん。
顔真っ赤だな?
「禁止です! 感想を言うのは禁止します!」
ありゃ、禁止されてしまった、まだ十分の一も伝えてなかったのに……。
「分かりました、もう二度と言わないので安心してくださいイクスさん」
俺は安心させるようにイクスさんに笑顔でそう語り掛ける。
が、なぜかイクスさんは頬をプクーっと膨らませて、何かを考え出す。
どうした?
「……他の人がいる場所では禁止です……二人っきりの時は構いません、ゼン様」
ああ、他の人に聞かれるのが嫌だって話だったのね、勘違いしちゃったよ、それじゃぁ。
再開だな!
「おっけー分かったイクスさん、じゃぁ続きだな、イクスさんって椅子になっている時に俺を優しい目で見てるだろ? 俺がこう上を見上げると下を見ているイクスさんと目が合って、その優しげで金色の単眼がキラキラとしていて、まるで夜空に浮かぶ星のような奇麗さがあってな、それと――」
そうして俺は昨日のイクスさん椅子の感想を、その後も10分くらい語り続けるのであった。
……。
……。
「ってな感じだな! まぁちょっと簡易的な感想なんだけども、あまり時間を食うと特訓時間が無くなっちゃうからこんな所で……って大丈夫? イクスさん?」
イクスさんが女の子座りからの変形うつ伏せのような状態になっている。
体がプルプル震えているし、寒いのかしら?
でも迷いの森は結構暖かいしなぁ……っと起き上がった。
「はぁはぁはぁはぁ……あやうく……恥ずか死ぬ所でした……」
そんな死因は初めて聞いたんだが……異世界の奇病か何かだろうか。
「イクスさん大丈夫か? 今日の二人乗り特訓はやめておくか?」
謝るついでに約束していたムギューな二人乗りの特訓をする予定だったんだが、奇病を治すのが先じゃね?
「いえ! やります! 大丈夫なのでご安心ください」
そう言って立ち上がったイクスさんは俺から少し離れて箒を出す。
俺も立ち上がるか……足が痺れていてきつい……くぅ、無理やり立ってイクスさんの方を再度見ると……あれ? 箒が前よりでかくね?
前に乗った箒より倍近く大きい物を持ったイクスさんが、こうニョキニョキっと大きく……〈人化〉を解いているようだ。
今日は元の姿で飛ぶのね、ああ! だから箒も大きいのか! 納得。
大きくなったイクスさんが3メートル以上の高さから見下ろしてくる。
うーんイクスさんを見上げると首がちょっと苦しい。
「ふふ、酔っていなくてもゼン様は変わらないのですね」
そう言ってニコリと笑みを浮かべるイクスさん。
いや、酔っぱらった俺だからイクスさんを椅子にするという失礼な事をしたんですけど……。
まぁ俺の願望が酔った事で表に出ちゃったという話だから……変わらないといえば変わらないか……。
「その姿で飛ぶんですかイクスさん」
「ええ、そのつもりだったんですけど……ゼン様はもしかして前の姿の方が……いいですか?」
「いえその……膝上までになったスカートが短すぎて下から見えちゃいませんかそれ」
俺は彼女の短くなったローブのスカート部分を指射して指摘する。
「へ? あ、ああ! ……ふふ、ぷっあははははは、大丈夫、大丈夫ですよゼン様、魔法を使うので他の人は気づきません、例え見えたとしても側にいるゼン様だけにですから大丈夫です」
いや、俺に見えるのも駄目じゃね?
そうして箒に跨るイクスさん、しょうがないなぁと俺はその後ろに――
「ゼン様、前に座ってください」
「前?」
「はい、だって……私という背もたれは最高なんでしょう?」
イクスさんはニッコリと最高の笑顔でそう言ってくるのであった。
なるほど納得。
「じゃ失礼します」
イクスさんの前に座り、俺の背中を彼女のお腹につけるように密着させてもたれかかる。
すると俺の肩上に顔を挟むようにクッションが来る……完璧な位置だ……。
そしてイクスさんの箒を握る腕が俺の左右から守るように来る訳で、最高のシートベルト状態だなこれ、俺はその腕に抱き着くように両手を絡める。
まるでジェットコースターの固定シートベルトのような安定感がある。
「座り心地はどうですか? ゼン様」
「完璧ですイクスさん、この俺の倍は太い腕が両側から体を押さえてくれるので安心感が違いますね」
「むぅ……女性に太いという言葉を使うのはどうかと思います!」
「あ、失礼、俺を包み込むような安心感のある腕、という所でご勘弁を」
「……飛びます!」
おろ、俺の言葉に返事をくれずに飛び出したイクスさん、あれ?
おやおや?
ちょっと!?
まって!!!!
高くね!? いつもより高くないですか!? 速度もはや、はや!!
「ちょっと! 速いってばイクスさん! それに高い! もっと抑え気味に練習を」
わわわ! ユラユラさせないで!
「アーマホウセイギョガー、キャーシッパイシチャッター」
ぎゃぁぁっぁぁ、速度がものすごい早くなった!!
マジョリーさんに引っ張られた時程ではないけど、ジェットコースター並みの速度は出てるんじゃ!?
ってイクスさん、貴方さっきのセリフ棒読みだったよ!?
「待って! 本当に待って! イクスさんまったく動揺してないよね!? 普通に、普通にー----」
ぎゃーインメルマンターンとかやめて―、さっきジェットコースターのシートベルトみたいなんて考えたけど内容はそんなもんじゃねぇ!!!
曲芸飛行の飛行機に乗った気分……って、やーめーーてーーー。
「ヒャッホー」
ちょ! 何嬉しそうな声を出しているんですかイクスさん!
いー--やー---宙返りに捻り込みとかいれないでー----!!!!!!
「いいいいいいややややぁぁっぁぁー---------ぁぁっぁぁ」
「ふふ、アハハハハハハ、飛ばしますよーゼンさまー----」
「とーばーーさーーなー-ーいー--ーでーー----」
俺はイクスさんのその安心感のある腕にムギューー---っと抱き着く。
コワイコワイコワイコワイ。
……。
……。
そうして、何かを吹っ切れた感のあるイクスさんは魔法制御を失敗する事なく暴走するのであった。
……結局暴走するなら一緒じゃね? とは思った。
一しきり飛んだ後にイクスさんは〈人化〉で中学生サイズになり、俺を後ろに乗せて再度飛び始めた。
おもいっきりムギューってしてくれと言われたので、イクスさんの後ろから手加減せずにムギューっとしたんだが、イクスさんは動揺せずに嬉し楽しそうに空を飛んでいた。
どうやらくすぐったさを抑えて、何か魔法制御を失敗しないコツでも掴んだらしいね。
良かった良かった。
しかも前が大人の遊園地のジェットコースターだとしたら、今度は幼稚園児用のジェットコースターもどきって感じの機動で飛んでくれたので、結構楽しかった。
特訓が終わった後に、これでもう特訓はいらないですねって言ったら、まだまだ練習をしたいので付き合ってくれって言われた。
勉強家だなぁイクスさんは。
時間のある時にまた付き合いますよって言ってから俺は〈ルーム〉に帰……ろうとしたらマジョリーさんに捕まった。
面倒くさいなぁと思ったんだが、マジョリーさんが1万DPはありそうな魔石のお小遣いを何個もくれた、あざーっす。
こんな研究なら悪くないなと思った俺である、で? 俺は何をすれば? 痛いのとかは嫌ですからね?
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