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86 酔っ払いの宴

 三者会談も終わり、さて解散かと思ったんだが、一人の飲兵衛がこう言い出した。


 話し合いが終わったのなら次は宴じゃよな、と。

 誰が言ったか丸わかりだが、ワクワクした表情で言われたら仕方ない。


 しょうがねぇなぁと思いつつ宴の準備をするが、そこで一つ問題が出てくる。

 俺の〈ルーム〉ダンジョンにはラハさんもスイレンさんも入れてないんだ。


 理由としては何らかの問題があって入口が閉じてしまった時に、ダンマスとナビが二人してこちらのダンジョンにいたら、彼女らの本拠ダンジョンの戦力が激減してしまうから。


 勿論俺はそんな事をするつもりはないんだけども、スキルを妨害する能力なんてのもあるらしいし、世の中何が起こるかなんてのは分からない。


 なのでラハさんとかスイレンさんとか黒猫のクロさんとかを、ダンマスと一緒に俺のダンジョンに入れるのは、ちょこっとだけリスクがあるんだよね。


 かといって宴の話を聞いたスイレンさんなんかは、〈入口〉の向こうからこちらを覗いてウルウルとした目で俺を見てくるんだ。

 ……うん……乾杯したいよね……えーとえーと……そうだ!


 しょうがないので会談用に作った部屋を狭くする事にした。

 一旦全員に元のダンジョンに戻って貰ってから作り直し。


 新たに作った部屋は20畳くらいの狭めな部屋だ。

 これくらいなら〈入口〉の向こうにいたとしても、一緒に宴を楽しめる感じが出るだろう。

 ついでに部屋の中は畳敷きにして土足厳禁、素足オンリーにした。

 そして閉塞感が湧かないように天井はちょっと高めにしておく。


 真ん中に大き目のちゃぶ台を出し、部屋の〈入口〉前にも小さなテーブルを出す。

 そうする事でダンジョンに入らないでも宴に参加出来るようにする。


 黒猫のクロさんにはテーブルいらないか……お盆に料理でも出してあげるかね。


 畳敷き部屋の中央には俺とリアとホムラとマジョリーさんが席に着き。

 〈入口〉の向こうのスイレンさんやラハさんらにも料理や酒を配って貰う。


 給仕はメイド服のルナとセリィとローラさんがやっている。


 ……まて、なんでローラさんがメイド服着てるの?

 ……ルナが買ってあげたの? そうですか。


 うん? すごい似合っているよ? とても可愛いです。


 どうもルナがメニューから買ってあげたみたいで、ルナやセリィのと同じ〈清浄〉や〈家事+〉付きの奴だってさ。

 ダンゼン商会用の従業員服とか考えてたんだけどなぁ……戦闘用メイド服も購入予定って言われたらねぇ?


 てか戦闘用はすっごい高いんですけど……普通の装備をドワーフのカンジさんの所で買ってあげる予定だったんだが……メイド服の上に着て貰えばいいか。


 それとローラさんのメイド服姿を可愛いと褒めたら、俺に銀貨を渡しながら喜んでた、あざーす。


 ダイゴ? あいつはクロさんの側に行って触ろうとしては避けられての繰り返しをしているよ。

 たぶんクロさんはめっちゃ強者だから、あんまり困らせるなって言ったんだけどなぁ……猫パンチで吹っ飛ばされても知らんからな?


 っと、酒も料理も揃ったね、ではカンパーイ。


 まずは乾杯の音頭を取り宴の開始を宣言する。

 そしてすぐさま俺はスイレンさんの所に行き、乾杯してから真ん中に戻ってきた。

 スイレンさんは近くで乾杯しないと悲しそうになるからね、しょうがないね。


 ちゃぶ台の上にはルナの作った料理が並んでいて、メニューがすごく日本の居酒屋っぽいんだよなぁ。

 前に俺が合コンとか飲み会で行った居酒屋のメニューを熱心に聞いてきた事があったからな、狙ってやっているんだろうなぁこれは。


「んまい! さすがルナの作る料理とゼンの出す酒よ、このタコワサとやらと生ビールの組み合わせは最高じゃな!」


「さすがルナちゃんよねぇ……はぁ……嫁に欲しいわぁ……軟骨の唐揚げと白ワインも美味しいし、ゼーンーそろそろルナちゃんを私にくれても良くない? ついでにゼンも一緒に嫁に来ていいわよー、あ、マヨネーズだしてー」


「あげません! ルナは俺のナビです! ほれっマヨネーズ! 使い過ぎるなよ?」


 てか俺が嫁って表現はおかしいだろうに。

 開始早々に何を言い出すんだこいつは、まだ酔うには早いだろ。


 それとリアはマヨネーズ使い過ぎじゃね?


「え? なにこれ? ……む……このお酒の魔力の宿り方……出品された天然石と……ゼン君!? ゼン君ゼン君ゼン君ゼン君! 君ってコアメニューのオークションにペリドットを出してたりしない!?」


 マジョリーさんは、ちゃぶ台の上に並ぶ日本産のアルミ缶や瓶のお酒の数々を見ると、即座に手に取って調べ出した。

 目が光っているしリアと同じ鑑定の魔眼とかかね?


 そしてスッと立ち上がり、ちゃぶ台を回り込んで俺の直ぐ横に座ると、俺の肩を掴んで揺らしつつ質問してきた。

 肩をグラグラ揺らされながらも返事する俺、ついでに自分用の缶チューハイを取る。


「出してますよー、あー、もしかして付与用にお買い上げしてくれてます? 毎度ありがとうございまーす、ゴクゴクゴクっ」


 どうやらマジョリーさんは俺の客だったようだ。

 毎度毎度出品物は全部売れてるみたいだしありがたい事だな。

 それにしても皆で飲む酒はうめーなぁ、ライムサワーうまー。


 っと、やべ、また出品枠をチェックするの忘れてたわ……何だかんだで忙しいからなぁ……。


「という事は、ゼン君は異世界からの……でもなんで天然石とお酒なんて系統の違う物を出せちゃうの? しかもこんな宴に出せるような……安い値段ではないはずだし……ゼン君ゼン君ゼン君ゼン君ゼン君ゼン君どういう事!?」


 マジョリーさんは酒に手も出さずに俺を揺らして質問してくる。

 段々揺らす力も強くなって行くし、ギラギラとした目がちょっと怖い。


 そんな暴走しかけているマジョリーさんの首に、何か緑色の物が巻き付いてくる。

 発生源を辿ると、どうやらリアのアホツル毛っぽい。


 アホツル毛に締めあげられたマジョリーさんが、俺からちょこっと引きはがされる。


「うぐっ、何をするのよ〈日陰植物〉! 今はゼン君とお話中なんだから!」


「落ち着きなさい! 気になる事があると暴走しがちな悪癖をどうにかしないさよ〈魔法狂い〉!」


「んまい! ルナ、この臓物の煮物お代わりじゃ~」


 マジョリーさんの暴走を止めてくれるリアに、我関せずと酒や飯を楽しんでいるホムラ。

 ああ、飲み会のカオスっぽさが出て来たな、ゴクゴクっ、梅サワーおいしー。


 そして俺は立ちあがると、ギャーギャー言い合いを初めているリアとマジョリーさんを置いて梅サワーの入ったコップを持ち、スイレンさんと乾杯しにいく。


 いやほら、定期的にしてあげないとね、悲しそうな目をするからさ。


 次はラハさんにお酌でもしに行こう、その後はクロさんの様子でも見にいくか。


 ……。


 ……。


 ――


 ――


 宴もそこそこ時間が過ぎた。


 満足いくまで食べたダイゴは奥の部屋で寝かせている。

 結局クロさんには触れなかったようだ。

 クロさんに謝っておいたが、どうにもクロさんも楽しんでいたようなので良かった。


 ちなみにその雑談……というか俺の質問にクロさんが鳴き声で返事する話の中で判明したのだが、クロさんは雌らしい。


 いまだにクロさんはニャーとしか鳴かないのだが。

 人の言葉を話せるんじゃないですか? という質問をした時は、フイッと顔を背けて欠伸を始めたので……たぶん話せるんだろうなと思う。


 ラハさんは真面目なのでダンジョンの仕事に戻ってしまった。

 ……いや、真面目なのは体さんだけなので、生首だけは〈入口〉向こうに置いたテーブルに置かれていて、今はセリィが生首ラハさんの飲み食いを手伝っている。


 けどちょっと食べすぎじゃないですかね? また体さんがシェイプアップするのに苦労するんだろうなぁ……。


 今度体さんに運動用の器具をプレゼントだな! ってこういう感じで哀れに思う事も多いから体さんへのプレゼントが多くなっちゃうんだよな。


 そしてスイレンさんは部屋に入って来て俺の横で乾杯している。

 ……って待って! それは駄目だろう? と説得したんだが、嫌がって聞いてくれない。

 というかホムラが普通に許可を出していた……。


 そういやホムラは年中そこらを飛び回っているし、スイレンさんも海中で寝てたりで、いつも火山洞窟にいる訳じゃないみたいだし……。

 ダンジョンコアの守りは、洞窟の奥から漂って来ためっさ怖い強者の気配を出している存在達にまかせているのかも?


 もう、しょうがないなぁ。


 はい、かんぱーい、俺はニコニコ笑顔のスイレンさんが横から差し出して来た酒の器に俺のコップをカチンッと合わせて乾杯する。

 すごく可愛らしい笑顔だが、すでに百杯近くは飲んでいるはずだ。


 ふぅ、ブドウサワーうめぇなぁ。


 そして俺を挟んでスイレンさんとは反対側にいるマジョリーさんは、常に俺に話し掛けてきている。

 興奮はしているが暴走とまではいっていないマジョリーさん。

 リアやホムラもそれくらいなら助けに来る事はなく、ルナの料理と俺の出した酒を楽しんでいる。


 ローラさんは給仕の手伝いをしていたが……ホムラに勧められて数杯飲んでしまってノックダウン……ダイゴの横に寝かせてある……お酒弱いよねローラさんは。


「はぁ……ゼン君のユニークスキルは何度聞いてもやばいわね……疑似転移に異世界品購入の自由度が高すぎる……これは確かに〈日陰植物〉が過保護になるのも納得だわね」


「うっさい〈魔法狂い〉、ルナちゃんのためだって言っているでしょーに、ゼンはついでよついで!」


 リアの突っ込みが入るも、マジョリーさんはそれを無視している。


「その〈非常口〉もすっごい気になるのよねぇ、鉱山ダンジョンの馬鹿ドッペルが言うには、目の前から消えたって言ってたから転移だと思っていたし……実際に私が見た時もそんな感じだったからてっきりねぇ……今度私もあれを体験する事は出来ないかしら?」


「あーいやぁ……ダンジョンコアのある部屋に移動する物なので……ごめんなさいマジョリーさん」


「ああ……コアの側かぁ……他の部屋とかには飛べないの?」


「どうなんでしょ、隣の部屋くらいならいけるかもですが、それってあんまり変わらなくないですか? あ、スイレンさんかんぱーい」


「ゼン様乾杯です、うふふ」


 スイレンさんは本当に嬉しそうに乾杯をするよね、こっちも嬉しくなっちゃう。

 はー、レモンサワーがうまい。


「うぬぬ……はぁ……今はユニークスキルの〈ルーム〉を調べさせて貰うだけで我慢するわね」


 その我慢っていつまで効くのかがちょっと怖い俺がいる。

 マジョリーさんもなぁ、最初会った時は奇麗なお姉さん魔女ってイメージだったのに、うん……〈魔法狂い〉って二つ名が相応しいよね。


 ん? 黒猫のクロさんがいる〈入口〉の方から新しい気配がする。

 同じ気配に気づいたのかマジョリーさんもそちらを見る。


「あら、イクス起きたのね、貴方も宴に参加させて貰いなさいな」


 オイデオイデーと招き入れるマジョリーさんに、〈入口〉からこちらを覗き込むイクスさんがちょっと戸惑っていたので、俺もマジョリーさんと同じように手でおいでおいでーっとする。


 イクスさんはそれでやっと安心したのか入ろうとするが、ルナに素足になるように言われて周りを見て納得したのか、ブーツを脱いで部屋に入ってきた。


 周りの存在らに頭を下げて軽く挨拶しながら、俺とマジョリーさんの側にやって来て畳に座るイクスさん。


「イクス、ここにはダンジョン関係者しかいないのだから帽子は脱ぎなさい」


 マジョリーさんにそう言われて、イクスさんは周囲を見回した後に黒のとんがり帽子を脱いだ。

 青紫色のミディアムヘアなイクスさん、その顔の中央にある金目の単眼は相変わらず奇麗だ。


 そしてちゃぶ台の上の様々な料理を見てキラキラと目を輝かす。

 ちょっと食いしん坊さんっぽいんだよなイクスさんは。


「いらっしゃいイクスさん、海の魚介料理もたくさんあるから、好きなのを食べてくださいね」


「わーありがとう御座いますゼン様! それじゃぁ――」

「待ちなさいイクス」


 俺の誘いに嬉しそうに答えたイクスさんを、何故だか一旦止めたマジョリーさん。

 どうしたんだろ?


「折角だし〈人化〉も解いちゃいなさい、貴方もゼン君には全て見せておきたいでしょう?」


「マスター! それは……ええと……」


 〈人化〉を解く? ってそうか、イクスさんはサイクロプスだったっけか。


 そんで〈人化〉スキルで今の姿に縮んでるって言ってたな、確か身長が今の倍にならないくらいとかなんとか?


 あ、かんぱーい。


 俺はスイレンさんの乾杯に答えつつイクスさんを見ているが、彼女はモジモジしながら俺をチラチラ見てくる。


「自分を晒さない限り近づけないわよイクス」


 そう言ってマジョリーさんは自分のいた場所をイクスさんに譲るがごとく、元いたちゃぶ台の対面の席に戻って行った。


 ……。


 ……。


 しばしの沈黙の後。


「ゼン様!」

「なんですかイクスさん」


 イクスさんが決死の表情で俺を呼んだのでそれに答える。


「嫌いに……ならないでください……」


 そう言って立ち上がったイクスさんは……ニョキニョキっと体が大きくなっていく。

 天井の高い部屋にしておいて良かった。


 普段はだぼだぼの黒いローブを着ているイクスさんなんだが、今は体にぴっちりフィットした服になってしまって、スカート部分もミニスカートと言えなくもない程度にふとももまでまくれ上がっている。


 えーっと、3メートルを少し超えるくらいかな?

 倍ほどは高くならないと言っていたが……たぶん倍よりちょこっと高くなっているなこれ。

 ……数字をほんの少し減らすのは、乙女心って奴かね。


 髪の毛や目は変わらないけど、肌の色が少し青みを帯びているかもしれない。


 スタイルはちょっとがっしりした感じになっているかな?

 といっても女性らしさは残っている。


 中学生くらいで華奢な見た目は、イクスさんの願望の現れだったんだろうか。


 でも、がっしりというかちょっとふくよかな感じのイクスさんも可愛いと思えるんだが。

 というか胸部装甲とかがすっごい大きくなっているなぁ……。


 そうやってじっくりとイクスさんを見ていた俺だったのだが。


 彼女は大きな体を小さく縮めて、猫背状態で。


「あ、あのゼン様? やっぱりおかしいですか? ……その……元に戻りますね」


 っと、あまりの変わり方につい見入ってしまった。


「イクスさん」


 俺は真剣な表情を作りイクスさんに声をかける。


「は、はい! えと、なんですか? ゼン様」


 俺の表情を見たイクスさんは息を飲み、姿勢を正して俺に返事する。


 全体的にむっちりとして見える体、だがその芯はサイクロプスという種族ならばがっしりとしているだろう。

 そして3メートルちょいという丁度良い身長、何よりもそのボリュームを増したお胸様……。


 キラキラとした金目を歪めさせて、心配げに俺を見てくるイクスさんに俺は……。


 ……俺は……願望を告げる。




「俺の椅子になってくれませんか? イクスさん」

お読みいただき、ありがとうございます。


この時点のゼンはすごい酔っぱらってます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 椅子にってどう聞いても変態発言ww ここからどんな風に落とされるのか楽しみ! [一言] 毎日更新通知があるか確認するくらい楽しみです。 ずっと続いてくれー!
2022/09/06 18:31 退会済み
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