85 三者会談?
そこは特に何も設置していない大きな部屋で、表面の素材は木にした。
木の板の床と天井、木のタイルの壁、そうして表面を木材だけで仕上げられた部屋は25メートルプールが設置出来るくらいの大きさだ。
その正四角形な部屋の壁には辺ごとに一つ入口があり、それぞれが。
リアの庭園に繋がる〈入口〉。
ホムラの火山洞窟奥に繋がる〈入口〉。
マジョリーさんの石造りの部屋に繋がる〈入口〉。
そして俺の〈ルーム〉方面へと繋がる扉だ。
〈ルーム〉との間にはいくつか部屋を追加してあり、維持DPが結構かかるので、この会談が終わったらこれらの部屋は破棄するつもりだ。
部屋の真ん中に円形のテーブルを置き、話し合いに参加するそれぞれが座る椅子を、それぞれの扉側に置いている。
俺が南側とすると東側がリア、西側がホムラ、北側がマジョリーさんという具合だ。
テーブルにはその4人しかおらず、ナビゲーターはそれぞれの扉の外に待機している。
「直接会うのは久しぶりねぇ二人共」
マジョリーさんが会話の口火を切る。
「そんな前じゃったかの? 〈魔法狂い〉とはつい先日会った気がするんじゃが」
そうなの? ホムラの言葉を信じるなら仲良しなのかね君ら。
「一年以上前を先日と表現するのはやめなさいよ〈孤高〉、日数感覚がおかしいのよ貴方は」
それは確かに酷い……そのうち遊びに行くという約束で一年後とかに来られても困る……。
「んん! まぁあれだ、リアの提案でこの場を設けたけれど、まずは俺のユニークスキルについて教えようと思う」
リアとホムラはすでに知っているからあれだが、マジョリーさんがワクワクしながら俺を見てくる。
そうしてゆっくりと説明を始める俺。
〈ルーム〉というユニークスキルの話。
そこにコアを設置してしまった話。
DPにより拡張スキルを手に入れた話。
複数の〈入口〉を使う事で現状のような事が出来るという話。
俺が一旦話を止めてマジョリーさんを見ると、彼女は呆けていて……。
しばらくの間、静寂がテーブルに訪れる。
……ホムラさん、暇だからって守竜酒を出して飲まないでください。
リアさんも、欠伸をしながら俺が前にあげたワインを出して飲み始めないでください。
自由人かお前らは!
マジョリーさんがハッと表情を変えてこの世界に戻ってくると。
「規格外の能力じゃないの! 転移なんて問題にならないくらいすごい能力で……つまりあの入口の向こうに見えているのは貴方達のダンジョンなんでしょう? 有り得ないわよこれ……」
マジョリーさんが、左右にいるリアとホムラの背後の入口を指さしながら険しい表情をしている。
そこに、酒を飲むのを一旦止めてワイングラスをテーブルに置いたリアが、真剣な表情で話しだす。
「そうね、確かにゼンの能力はすごいわね、それを知ったあらゆる存在から狙われる事でしょう……なので私はゼンの保護者として貴方達に言っておく事があります」
そこで言葉を止めたリアは、ホムラとマジョリーさんを突き刺すような鋭い目で見ると……。
ゴクリッ、いつもと違うリアの真剣な物言いに、俺は唾を飲みこむ。
「私はゼンの保護者……つまり……ゼンのナビであるルナちゃんは私の物という事よ! ルナちゃんに手を出したら宣戦布告とみなすから覚えておいてね! ……ついでにルナちゃんが悲しむからゼンを攫ったりしちゃだめよ? その代わり玩具にするくらいなら許可するわ!」
ズコーーッ。
俺はテーブルに突っ伏した……。
あれだけ真剣な表情してたのに、結局はルナの事かよ!
それと勝手に俺を玩具にする権利とかを与えないでください!
「ゼンとルナは儂の友達じゃ、二人に敵対する事は儂とも敵対する事と思え、なので解剖とかせんようにな〈魔法狂い〉」
ホムラが日本酒を飲みながらしんみりとマジョリーさんに釘を刺していく。
え? マジョリーさんって解剖とかする人なの? まじで? 怖いんですけど……。
俺はテーブルから上体を起こすと、椅子の位置をマジョリーさんからほんの少し遠くに移動させた。
「なんて事言うのよ〈孤高〉! ってゼン君はなんで私から少し離れてるの!? しないからね? 動植物の研究でそういう事もしない事もないけど……さすがにゼン君にはしないから!」
俺じゃない人にはするって事ですね。
俺の配下は近づかないように言っておくべきだろうか?
「もう! ゼン君に誤解されたらどうするのよ〈孤高〉」
「誤解じゃないじゃろ〈魔法狂い〉」
「今回の事だって私という保護者がいなかったら〈魔法狂い〉はどうしてたか怪しいわよね」
マジョリーさんとホムラとリアが、やいのやいのと会話をしだした。
「そんなの……ゼン君には研究のお手伝いをして貰うくらいだわよ? ゼン君の能力を知る前でも性格が良さげな新人ダンマスだから保護しようと思っていたくらいだし」
「どうせ10日間ぶっ通しで研究とかするつもりじゃったんじゃろ、ゼンとルナに迷惑かけたら儂が黙っていないからの」
「ありえるわねぇそれ、未知の魔法やスキルを目の前にすると暴走する事があるからね……そんなだから〈魔法狂い〉なんて呼ばれて他から距離を置かれるのよ」
「ゼン君は良い子だし、うちのイクスとも良い縁が出来たもの……だから……三日くらいで解放するわよ?」
「駄目じゃ、日を跨いだ研究は不許可じゃ〈魔法狂い〉」
「そうね、暴走しないように日中のみにしときなさい〈魔法狂い〉」
なんか不穏な会話をしているんだが……三日間ぶっ続けで研究のお手伝いとか考えていたんだろうか?
マジョリーさんってば、一見普通の奇麗なお姉さんだと思っていたら、やっぱり変人だったでござる。
まったく……まともなダンジョンマスターって俺くらいしかいないんじゃね?
困ったもんだな。
「そんなぁ……一泊だけ! 一泊だけならいいでしょう? ゼン君のこの能力があればいつでも移動出来るんだし、転移魔法とは違ったけどこれはもっとすごい物だもの、研究し甲斐が……ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ」
「だからそれをやめいと言うとろうに! ……こりゃ駄目じゃ、しばらくゼンにはスイレンでも護衛に付けておくかのう……いやそれは難しいか……ふーむ……どうしたものかの」
「暴走しかけてちょっと怪しいわよね、うちはラハを出すとダンジョン運営に支障が出ちゃうのよねぇ……まったくゼンは、すぐ変なのを拾って来るんだから!」
俺が拾って来た訳じゃないわい。
「まずはあれをやって、そしてこれを試して、それからあーして、ふふふふ、あれもいいなぁ……」
「保護者が変わり物だからゼンも似たようなのを拾ってくるんじゃろ」
「はぁ!? その言い方だと保護者を宣言している貴方も変人になるわよねぇ!?」
マジョリーさんは遠いお空に意識が飛んでしまい、ホムラとリアがまた口喧嘩を始める。
グダグダの会談はこうして終了していくのであった。
……お前らもうちょっとこう……どうにかならんのかね……。
本当にダンジョンマスターってのは、喧嘩っ早かったり変人だったりとか、そんなのしかいねーよな。
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