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84 知らない天井

「知らない天井だ」


 目を覚ました俺が最初に発した言葉だ。


 石で出来た無骨な天井が見えるそこは……。


「やっと起きた、ほら! 早く転移しましょうよゼン君!」


 マジョリーさんが寝転んでいる俺の横に立ち俺を覗き込む。

 元気だなこの人は。


 上半身を起こして周りを確認してみると、近くにイクスさんが寝転んでいる。


 帽子も外れて単眼状態の彼女は、いわゆるグルグル目で、はにゃーとかふにゃーとかそんな言葉を吐きながらノックダウン状態になっている。


 気絶する前の記憶が曖昧なんだが……マジョリーさんが魔法で無理やり俺達を引っ張って飛んでいた感じだったような?


 思い出すと吐きそうなので、無理に思い出そうとするのはやめておいた。


 部屋は何も置いてない石造りの倉庫といった感じで、結構広くて天井の低めな体育館といった所か?

 立ち上がってマジョリーさんを見ると、肩に黒猫を乗せている。


 ホムンクルスのナビっぽいな、しかも強者の気配がする。

 挨拶しておこう。


「こんにちは、俺はダンジョンマスターのゼン、マジョリーさんに招待されて来ました、よろしくです、えーとお名前は……」


「この子の名前はクロよ」

「ニャァー」


 マジョリーさんが名前を教えてくれると同時に、黒猫のクロさんは相槌を打つが如く鳴き声をあげる。


 この黒猫のクロさんは〈人化〉とか持っていて言葉も話せると思うんだけどなぁ……まぁペットっぽく見せたいならそれに合わせるかね。


 挨拶も終わったのでイクスさんを起こしに、行こうとしたらガシッと俺の肩をマジョリーさんが掴み。


「早く行きましょう! イクスはほっておいても大丈夫だから! ゼン君の……転移スキル? それとも魔法? はぁはぁはぁ……これ以上焦らされると私何をしちゃうか分からないわよ!?」

「ニャァ……」


 マジョリーさんの目が大きく見開き過ぎてちょっと怖い。

 クロさんも呆れた声で鳴いている。


「分かりました、分かりましたから落ち着いてくださいマジョリーさん、それじゃぁこの部屋に基点を置いていいですか?」


「基点? 転移に必要なら好きにしていいけども……自由に使える能力じゃないのね、興味深いわ」


 まだ詳しい説明をしていないから良く理解していないだろうに、簡単に許可をくれるマジョリーさん。


 俺は〈入口〉を登録しようとしたんだが……。


 うーむ、リアの庭園、樹海ダンジョン側の屋敷、拠点島のログハウス、ホムラの火山島洞窟、そして鉱山都市の側、で〈入口〉の五カ所が埋まってしまっていた……。


 この三者会談のためにホムラの洞窟に〈入口〉を設置したからな……。

 ホムラには俺の拠点島から来て貰ってもいいんだが、それだと動線がな……。

 しまったな……〈入口〉の数を増やすのすっかり忘れてたわぁ……。


 拠点島ダンジョンの一日のDP収入が2万とかあるから、これからはDP予算とか余裕が出ると思ってたんだけど……〈入口〉を増やすとなるとまったく足りないなこれ……。


 次の〈入口〉取得DPが202万DPでその次が303万DPだろうと思う……むーん、高いよなあ。

 まだ取得出来ていない〈裏口〉の400万DPを超える日も近いな。


 素直に溜まるのを待っていると100日かかっちゃうし、どうしようかこれ。


「どうしたのゼン君? 考え込んじゃって、私のダンジョン内だと能力が使えないとか?」


 俺が少しDP収支の事を考えていたら、マジョリーさんが不安そうに声をかけてきた。


「ああ、ごめんなさい、ちょっと能力の強化にDPが必要だなーっと思って、仕方ないので鉱山都市側の基点を外そうかなって、この会談が終わったらまた鉱山都市まで送ってもらっても……ゆっくり飛んで送って貰う事は出来ますか?」


 マジョリーさんに送って貰えば良いと気づいたが、魔女っ子タクシーは速度違反が過ぎるので使うのにちょっと勇気が必要だ。


「その基点とやらを設置しないと転移出来ないのね? ちなみに今何処に設置してあって新たに強化するのに必要なDPを聞いてもいいかしら?」


 マジョリーさんの質問に対して俺は素直に全て教えていく。

 その必要DPの高さにクロさん共々ちょっと驚いていた。


 そして少し何かを考え込むマジョリーさん。


 こうしてマジョリーさんと話をしている間に、少し離れた場所で目を回して倒れているイクスさんの側に、下半身が蛇な魔女がズリズリと蛇部分をうねらせながら近づいて来て、イクスさんを抱えて運び出そうとしていた。


 ラミアの魔女だね、お互いに目が合ったので会釈して挨拶しておく。


 そして俵担ぎをされたイクスさんが石造りの部屋から運ばれていった。

 大丈夫かね、まだ目がグルグルしていたけど……。


「良し、それなら……ゼン君」


「なんですか? マジョリーさん」


 考え事をしていたマジョリーさんは何かを決めたのか俺を呼ぶ。


 部屋から運び出されるイクスさんを見ていた俺は、マジョリーさんへと視線を戻す。


 マジョリーさんが手を軽く降ると〈インベントリ〉から魔石がジャラジャラと床に落ちていく。

 普通ならバラバラに跳ねて周囲に転がるのだろうけど、静かに山が出来上がっていくのは何らかの魔法を……。


 って待って待って! どれだけ出すの!?


 マジョリーさんが魔石を出すのを止めると、そこには俺の腰程の高さまで積み上がった魔石の山が出来ていた。

 鋭角な山になっているのは魔法で崩れないようになっているからだろう。


「これ、ゼン君にあげるわ! その転移魔法の基点を増やす強化とやらに使って! ……これだけ援助するのだもの、ここに永続的に基点を置いて貰って、さらに私の転移魔法の研究のお手伝いもしてくれるのよねぇ?」

「ニャ!」


 ああ、そういう事か、それならば。


「分かりました、ありがたく貰いますね」


 くれるというので魔石をコアに吸収させてDPに変換して行く俺。


 ふんふんふーん、小さめの魔石が多いから一つ一つのDPは低めなんだなぁこれ、ポイポイポーイっと。


「……これだけの魔石を譲ると言われて、まったく驚きも躊躇もしないわねゼン君ってば……」

「……ニャァ……」


 ん? マジョリーさんとクロさんが何かを言っている。


 え? だってくれるんだろう?


 それなら素直に貰うまでだけど……何か問題があっただろうか?


 結構な山の魔石だったが、リアやホムラがくれるお小遣い魔石に比べると一つ一つの質は低かった。

 だけども量が多かったので530万DP近くにはなったので、早速〈入口〉二カ所をゲットしておいた。

 余った25万DPは……まぁ後で考えるか。


「ありがとうございましたマジョリーさん、おかげさまで基点の余裕が二カ所増えました」


 俺は笑顔でマジョリーさんへとお礼を言う。

 うちの爺ちゃんも言っていたっけか、厚意は下手に遠慮せず、素直に受けてその分きっちりお礼を言いなさいと。


「そ、それは良かったわね……500万DP以上あったと思うのだけど……ゼン君はあんまり驚かないのね……」

「……ニャァ……」


 驚く? ……そういやホムラに貰った400万DPより少し多いかも?

 新記録ではあるんだけど……もう〈入口〉の購入に使っちゃってなくなっちゃったしな。


 それほど驚く事でもないのでは?


「それじゃぁ俺のユニークスキルを見せますね」


「あ、ああ、そうよね、そうよ! どんと来いだわ、クロ!」

「ニャ!」


 ユニークスキルという言葉を聞いて元気の出たマジョリーさんが、クロさんに呼びかけると。

 クロさんはマジョリーさんの肩から飛び降りて、俺達から離れて石造りの部屋の入口あたりまで移動をした。


 なんでそんなに離れる必要が?


「それで、私はこのままでも大丈夫なの? それともゼン君に抱き着いたりした方がいい?」


 ?


「えっと……抱き着くんですか? そりゃマジョリーさんみたいな美人に抱き着かれたら嬉しいですけど、それとユニークスキルに何の関係が?」


「美人って! もう! こんな時にお世辞なんて言わないでいいわよ! え、えーと、だってゼン君のユニークスキルは転移系能力でしょう? 離れていても巻き込めるの?」


 少しだけ頬を赤くしたマジョリーさんがそんな事を言って来る訳だが……。


 ん-?


 ……あー、はいはい。


 やっべ、お互いすっごい勘違いをしてしまっているようだった。


 マジョリーさんは俺が〈非常口〉を使ってノームの祠で逃げた時の事を、伝聞で聞いて判断してたからね。

 そして俺がリアに会うために〈非常口〉で移動したのを目の前で見ていたから……。


「〈ルーム〉」


 百聞は一見に如かず、という事で〈ルーム〉の扉を出してしまう俺だった。


「え!? ナニコレ……時空の歪み? いえ、え……? 〈孤高〉に〈日陰植物〉!?」


 俺が出した〈ルーム〉の扉の向こうには大きな部屋があり。


 その部屋の中央に置かれた丸いテーブルには、ドリアードのリアと火竜のホムラが人間形態で椅子に座って口喧嘩していた……あいつらまたケンカしてんのかよ。


 その状況に混乱気味であるマジョリーさん。

 俺はそんな彼女の手を取って〈ルーム〉の中へと入っていくのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。


ストック尽きたんで更新速度ちょっと落ちます


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