83 鍛冶屋に注文と流れ星
「ほう、つまりお前さんところのテイマーが使役しているゴーレムに防具を装備させるんだな?」
「そうなりますね、ウッドゴーレムそのままよりも武装させた方が脅しが効くと思いまして」
「成程なぁ、確かにテイマーが使役するオークやゴブリンに武器防具を装備させるなんてのは良く聞く話だし、ゴーレムが装備して悪い事はないわな」
今俺はドワーフで鍛冶屋を営んでいるカンジさんの所に装備品注文の相談に来ている。
俺の保護者であるドリアードのリアからの提案である、火竜のホムラと魔女のマジョリーさんとの会談についてはすでにマジョリーさんに伝え済みだ。
それなら今すぐにでもマジョリーさんのダンジョンへ行こうと言われたのだが、カンジさんとの約束を済ます事を優先させて貰った。
ローラさんをうちの『ダンゼン商会』に取り込んだ事で、ローラさんを中心に商売を頼む事になる事もあるかもしれない。
その時にセリィを見習い商人として、そしてダイゴを見習い冒険者兼護衛として3人セットで動いて貰うつもりなのだが。
女性や子供だけだと舐められるので、俺の配下であるシャドウファントムやウッドゴーレムをお供にさせるつもりなんだ。
それらはセリィがテイマーとして使役しているという事にするつもりだ。
シャドウファントムはメイド服スカートの中とかに潜んで隠し玉に。
ウッドゴーレムには、それなりの装備をさせて追従させれば、下手な護衛よりも抑止力になると思う。
いつか人魚で人化出来る子もつけて人間世界の勉強をさせるのもいいかもな。
まぁ細かい部分は後で考えるとして装備品を頼もう。
ゴーレム用装備はさすがに特注になるからね、うちのウッドゴーレムは俺より背が高く2メートルくらいのがっしりした感じだし。
「まぁそういう訳でウッドゴーレム二体分の防具をお願いしたいんです、周りから見てあいつ強そうだし手を出すのはやめておこう、って思える感じでお願いします」
「まぁ護衛なんてのは見た目も大事だしな、まずはサイズを見ないと作れんから、そのゴーレムとやらを連れてこい」
「あ、俺が召喚出来るんで大丈夫です、ちょいと広めの場所があればですけど」
「召喚魔法って……お前さんもただの商人や冒険者って感じじゃねぇなぁ……まいいけどよ、じゃ裏庭にいこうぜ、おーい」
カンジさんが嫁さんを呼びながら裏庭に移動し、俺もそれに付いて行き裏庭に。
嫁さんにカンジさんが説明している間に、裏庭の一部をダンジョンにしてウッドゴーレムをメニューのダンジョン内配置転換で移動させる。
裏庭に急に現れるウッドゴーレムにカンジさんも嫁さんドワーフもびっくりしている。
魔法陣とか出ないで急に現れるからね。
我に返ったカンジさんの嫁は即座にゴーレム各所の寸法を測りだす。
カンジさんが俺に近づき。
「おりゃぁ召喚なんて初めて見るんだが、あんな急に出てくる物だったんだな」
俺も召喚なんて見た事ないですけどね。
「人によって違うかもしれませんね、俺のはこういう感じってだけで」
「そんなもんか? しかし……鉱山ダンジョンにいるストーンゴーレムより強そうに感じるんだが……おかしくねぇか? 俺はストーンゴーレムの方がウッドゴーレムより強いと思ってたんだがよ」
ああ、このウッドゴーレムのレベルって、こないだ見た時ですでにレベル24あったしなぁ。
……レベル1同士ならストーンゴーレムの方が強いかもだけど。
ウッドゴレームにいくつかスキルも付与してあるし、岩を砕けるハンマー的な武器を持たせたらストーンゴーレム相手にも負けないんじゃないかなぁ?
「うちのゴーレムは実戦をかなり経験してますし、武装させたら中級冒険者パーティと互角くらいじゃないでしょうかねぇ?」
「あん? これ一体でか?」
「ええ、一体で、です」
「とんでもねぇな……それはもうダンジョンの中級ボスクラスじゃねぇか……」
「あーそんな感じかもですね、まぁうちの従業員の護衛なんだしそれくらいじゃないと困ります」
ローラさんやセリィやダイゴに何かあったら困るもの。
……まぁ実は見た目がごついゴーレムより、影に潜むシャドウファントムの方が対人戦とかに強かったりするんだけどね。
つまりゴーレムは囮も兼ねてるんで、ごっつくて目を引く装備にしたい所だ。
カンジさんの嫁さんがゴーレムの各所を測るのに、座れとか手を伸ばせとか命令しているのがすごいよな、さすが職人だね怖いもの知らずだわ。
そうして待つ事しばし、サイズを測り終えた嫁さんとカンジさん相手に素材の相談と、ついでに武器も頼んでいく。
「いやお前さんよぉ、なんだよこの皮は……」
カンジさんが呆れているのは俺が提供した蛇の皮だ。
拠点島でパワーレベリングをした時に、倒した魔物達の使えそうな素材は残してあるからさ、それらを使って貰う事にしたので見せている所だ。
お嫁さんの方はそれらの素材を見て鼻息が荒くなっている。
「名前は知らんですが、それなりに強い魔物の素材の筈なんでそれを使って貰えますか?」
「……どう見ても上級の魔物だろこれ、普通こういう素材はもっと腕が良いドワーフの元に行くもんなんだよ……槍だけならまだしも……なんなら他のドワーフを紹介するぜ?」
カンジさんのその物言いに、嫁さんがショックを受けているが止めようとはしてこない。
良い素材は良い腕を持つ者の元へ、という事に納得出来るからだろう。
「いえ、カンジさん夫婦にお願いします、ほらドワーフの上の人達って王侯貴族達の予約とかですごいんでしょう? こう言っては悪いんですが職人として中堅どころのカンジさん達なら、良い素材を出せば俺の依頼を優先してくれるんじゃないかなって下心もあるんで」
腕が良い所には権力者からの依頼とかでいっぱいだろうしさ、後回しにされても困るんだよね。
「うぐっ! 痛い所を言いやがって! よーし! それなら俺や嫁の腕を上げるための経験にしてやるからなゼンよ!」
おっと、初めて俺の名前を呼び捨てされたか?
「ええ、よろしくお願いしますカンジさん」
俺はカンジさんと嫁さんと握手して、ゴーレムの武器防具作成の依頼をするのであった。
……。
槍や防具作成の支払いなんだが、俺が祠に行ったお礼という事で、ドワーフ組合から援助が出るそうで。
なのでそこそこ安くしてくれるらしい、ありがたや。
そのうち従業員も連れてくるのでお願いします、と挨拶してから鉱山都市の東の出口に向かう。
なんでか?
マジョリーさんがすぐさま移動したいので、用事が終わったら宿じゃなくて都市の外から飛んでいくって話になっているからだ。
ワクワクテカテカしているマジョリーさんを止める事の出来る人はいなかった。
自分の知らない魔法やスキルなんかの知識に出会うと、こんな感じになるとイクスさんが教えてくれた。
見た目はナイスバディのお姉さんなのに、子供っぽい所もあるもんだね。
……。
テクテクと東門から出てしばらく歩くと、空から魔女二人が箒に跨って降りてくる。
結界魔法を使っているのか、俺以外にそれを気にする人はいないっぽい。
そしてマジョリーさんが俺に指を向けてパチリッと音を鳴らすと、俺の体が浮き上がっていく。
「ちょっ! いきなり何を!」
空中に浮かんで足場のない状態というのはすごく怖い。
俺の側にイクスさんが来て背中を向けると、俺の体がそこに吸い込まれるように動く。
トスリッとイクスさんの箒の後ろに俺が跨った状態になる。
……普通に街道に降りてきてくれればいいんじゃね?
なんでわざわざ俺を浮かす理由が……。
「さぁ、私のダンジョンまで最速で行くわよ! 飛行魔法を最大限でかけて引っ張るわ! 制御に集中するのよイクス!」
「はいマスター!」
マジョリーさんとイクスさんのやり取りを聞いて俺は嫌な予感がした。
なのでマジョリーさんを止めようと。
「あのマジョリーさん? そんなに急がなくても――」
俺の言葉を遮るように、マジョリーさんとイクスさんの体の周りに光り輝くオーラが出る。
そのオーラから光のラインが伸びて二人の間が繋がり、そして。
……。
俺は音速を超えた。
……。
うそです。
さすがにそこまでではないけれど、めっちゃ早い。
たぶん高速道路を車でぶっとばすより早く飛んでいる。
しかもイクスさんと鉱山都市の中を飛んだ時は、二階建ての屋根くらいの高さだったんだが。
今は四階建ての小学校の屋上くらいの高さだと思う。
そんな高さをすごい速さで飛んだらどうなる?
こうなる。
「ぎぃやぁぁぁっぁぁぁむりむりむりむり、早い早い高い高いむりむりむりー---りー----へー---るぷ、とまってー-------」
俺は叫びながら目の前のイクスさんに思いっきりムギューっと抱き着いた。
まったく余裕なんてない、全力全開でムギューだ。
なんか手がモニュモニュっと柔らかい物に当たっているような気がしないでもないが、知った事じゃない。
ムギューーーーーーーーーーーもにゅもにゅ。
「ふひゃぁ! ぜぜぜゼン様! そこは、わわわたしのむむむねね……あ、あの姿勢制御があるのでそこまで掴まないでも大丈夫ですので離れてくださ、あんっ、そこに力を籠めないでってぅぁ! 魔法制御が! きゃぁ! マスター! 魔法で引っ張るのを一旦止め、いーやー----」
「気合入れなさいイクス! 早く帰って転移を体験するのよ! 魔法倍掛けして速度を上げるわよ!」
マジョリーさんが何かを言うとさらに速度が上がった。
しかも前の時のようにイクスさんが飛行魔法の制御を失敗したのか機動がおかしい。
ってうわ! 今、ぐるって横に回転した、頭が一瞬地面方向に向いた!
「イクスさん、ちゃんと飛んでくれー--揺れ! 揺れ! わわ、揺れすぎ、うへぁぁぁぁちょ、速度が、ああああああああ、今姿勢が逆に! 落ちる落ちるー--!!!!!」
ムギューーーーーーーーーーーーーもにゅもにゅ。
「いーやーぁっぁぁー------制御が! 制御がー---ゼン様手をもっと下にー--ひぃー----マスター早すぎですー-」
「うふふふふふふ転移魔法の研究がすぐそこに! 飛ばすわよ二人共!」
その日俺達は一筋の流れ星となった。
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