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80 飛行魔術の弱点

 ローラさんを配下に引き込んだのはまぁ良いとして、もっかいノームの祠に行かないといけないよな。


 でも、また襲われるのは嫌だしって事でマジョリーさんに相談をしに行くべく。

 鉱山都市トントの南側の街道脇の林に設置しておいた基点で〈入口〉を開き、都市内へと戻る事にする。


 俺一人で……。


 なんでかって?


 ……ルナやセリィやダイゴやローラさんは拠点島でのレベリングに行っちゃったのよ……。

 ローラさんの基礎レベルを聞いたルナが、最低限の育成をするって言いだしてさ。

 セリィやダイゴより低いレベルだったし、しょうがないやね。


 セリィがレベル18ですでに中堅冒険者並みになっていて。

 しかも姉弟揃って天然の〈槌術〉とか〈気配感知〉まで覚えている。


 ダンジョンメニューで覚えさせた、成長しない固定スキルによる補助輪卒業だ。


 ダイゴとか、まだ冒険者資格すらないのに一人前と呼ばれる強さを超えていて、ゴブリンとか危なげなく一人で倒せるようになっちゃっているのよ……。


 それでローラさんは接近戦が苦手っぽいので、メニューでの固定スキル付与として〈投擲〉〈気配感知〉〈悪意感知〉〈水泳〉〈格闘〉〈補助魔法〉を覚えさせた。

 ちなみにメニューで確認した時は〈計算レベル2〉〈交渉レベル3〉〈目利きレベル2〉を持っていた。


 今日中に基礎レベル10以上に持っていくってルナは言ってたけど、無茶な狩り方しないといいんだけどね……。


 ……。


 俺は一人なので都市に入ったら隠密を軽めに使い街を走り抜ける。


 まずは宿屋を尋ねてみていなかったら、とか考えていたらイクスさんが空中を箒に跨って飛んできた。


 結構近くに来るまで気配に気付かなかったし、俺の気配感知ももっとレベルあげねーとなぁ。

 足を止めてひとけのない横道に入った俺の前に、箒に跨ったイクスさんが降りてくる。


「ゼン様御無事ですか! ……特に怪我とかはしていないみたいで良かった……マスターに言われてお迎えにあがりました」


 おろ、マジョリーさんを探さずとも良くなったみたいだね。


 イクスさんが俺に背を向けたので彼女の後ろに乗り、軽く腰を押さえるように掴ませて貰う。

 姿勢制御されているらしいけど、何となく手ぶらだとこえーんだよな。


「ひゃぅ! あの……掴むならもうちょっと下を、くすぐったいですので」


「あ、ごめん、この辺?」


「はい、では行きますね」


 そう言って飛び始めるイクスさん。


 相変わらず低空飛行してくれるので安心安全の魔女タクシーだ。

 料金払うから呼べるようにならんかね?


「それでマジョリーさんは何で俺を? 魔法か何かで見てたとか?」


 タイミング良すぎだしとイクスさんの背中から質問していく。

 結界か何かが張ってあるのか風とかはほとんどないので声は普通に通る。


「えーと、ここのダンジョンマスターとうちのマスターは協定を結んでいて情報のやりとりがあるんですが、今回ゼン様が向かう事を事前に相手に伝えていたはずなんですが……襲いかかられたんですよね? ……危うくゼン様が! ……どうしてくれましょうか!」


 怒りのせいかイクスさんの説明が途切れてしまってちょっと分かりにくいな……。


 うーんと……あの時襲ってきた相手には俺が敵じゃない事が伝わっていなかったって事でおっけ?


 そりゃダンマスが入るんだから事前に連絡くらいするよなぁ。

 そこらをまったく考えてなかった俺はちょっと迂闊だったな、反省しよう。


 俺の前のイクスさんが、いまだに相手に対してブツブツ文句を言っているのは嬉しいので、お礼の言葉を伝える事にする。


「俺のために怒ってくれてありがとうイクスさん、俺もルナやローラさんも無事なんで安心してください」


「あ! ……そうですよね……お連れも無事で良かったです……」


 ……ルナやローラさんの事を忘れてた? いやいやそんなまさか、ねぇ?


 それほど怒りが大きかったという事かな。


「そんなに俺の事で怒ってくれるとは少し驚きました」


「それはその……ゼン様は私の……を奇麗だと言ってゴニョゴニョ」


 最後の方が小さい声だったが俺には全部聞こえてしまっている。

 自分の単眼を褒められた事が嬉しかったようだ。

 あれで心を開いてくれたのかぁ……うーんでもさぁ。


「あの目を見て奇麗だと思わない方がおかしいと俺は思うんだけど?」


 だってすっげぇキラキラしてんだぜ?


「あ、ありがとう……ござい……ます」


 イクスさんは箒から片手を離して、自分のとんがり帽子のツバを下げて顔を隠してしまう。

 ……大丈夫? それ前見えてる? ってほら!


「前! 前見て! イクスさん!」


 家々の屋根の少し上を飛んでいたが、目の前に大きな建築物が迫っているのにイクスさんは気づいておらず、俺の焦った声でやっと前に気付いて危うくぶつかる所だった。


 セーフ……びっくりして咄嗟に前のイクスさんに抱き着いちゃったよ。


 腰を両手で掴むだけよりこっちの方が安定するね、イクスさんは俺より身長低いから帽子のツバが顔に当たるのが邪魔だけど……。


「ゼゼゼゼン様! あのあの、背中にくっ付き過ぎで、手がお腹に、はわわわわ!」


 わわっ、ちょっと飛行が乱れ、ってわわ! 姿勢制御がなくなった?

 やば! 落ち落ち、くぅ! 落ちてたまるか!


 ムギュー。


「ひぃや! ゼン様が抱き着いて来るなんて、わわっと! 魔法の制御が! わひぃ!」

「ほぁ! イクスさんまっすぐ飛んでくれ~!」


 飛行魔法の制御を失敗したのか箒は上下左右に暴れまわる。

 危ないので俺は益々前のイクスさんに抱き着いていく。

 落ちる! 落ちるー! 低空飛行でもこれはジェットコースターより怖い!


「ひゃぁー--!!」

「ふはー--!!」



 ……。



 ……。



「何やっているのよ貴方達は……」


 ウェーブのかかったロングのピンク髪でナイスバディのマジョリーさんが、呆れた口調で俺達を叱る。


 俺とイクスさんは鉱山都市にある大きなお店の裏庭に着地している。


 といっても迷走飛行をしたので三半規管が揺らされまくり、二人してぐったりと地面に座り込んでいる訳だが。

 ここはマジョリー商会の敷地らしい。


「申し訳ありませんマスタ~……少し焦ってしまって」


「怒らないであげてくださいマジョリーさん、俺が怖さのあまりイクスさんにしがみ付いちゃったせいで、魔法制御が上手くいかなかったみたいで……申し訳ない」


 イクスさんを庇いつつ俺も謝っていく、いやぁ……低空飛行でも怖いんだなって思い知った……。


「まったく……その程度で魔法制御を失うなんて」

「ごめんなさいマスター……」


 イクスさんが悲しそうに謝っている。


 あんまり俺が庇うのもあれだしなぁ、うーむ申し訳ない事をしちまったなぁ……マジョリーさんも怒って……怒って……あれ?


 おや? イクスさんはうなだれて顔を伏せているから見えてないかもだけど、マジョリーさん笑ってないか?

 しかもあの笑顔はなんていうかこう、イタズラを思い付いた子供のような……。


「イクス! 顔をあげてこちらを向きなさい」


 マジョリーさんは表情を改めて真剣な顔つきでイクスさんに呼びかける。


「はい! マスター!」


 イクスさんが地面に座った状態でマジョリーさんを見上げる。

 俺は余計な事を言わずにそれを見ている。


「イクス、貴方は箒の二人乗りの特訓をしなさい、ちゃんと乗れるようになるまで頑張るのよ?」

「分かりましたマスター! 頑張ります!」


 イクスさんはやる気を見せて返事をしていた。

 配下というよりは、良い師弟という感じだな。


「それでゼン君」


 マジョリーさんがイクスさんから俺の方へ顔を向けて呼びかけてくる。


「なんですか?」


 俺を呼びにきた本命の話かな?


 たぶんさっきから庭の隅っこで土下座態勢のままな人が関係してくるんだと思うけど。

 土下座しているから顔が見えないが、誰だろ……。


「イクスの失敗は自分のせいであるって言って謝ったって事は……イクスの特訓を手伝ってくれるのよね?」


 ありゃ? 思ってたのと話の方向が違ったけど、まぁ手伝うのは構わない。


「勿論構いませんけど」

「ぇ! マスター!」


 イクスさんが立ち上がってマジョリーさんに近づくも一切無視されている。

 俺も立つか、よっこらしょっと。


「うんうん、それならさっき魔法制御を失った時の体勢で箒の二人乗り特訓を手伝ってあげてねゼン君、こうムギューってやっちゃって! これはイクスの成長のために必須だから遠慮とか手加減は駄目よ? 全力でムギューしてね?」


「分かりましたマジョリーさん、時間の合う時にイクスさんの特訓のお手伝いをさせて頂きますね! そして、力の限り後ろから抱き着く事にします」


「え! え!? ええぇぇー! マスター!? ゼン様!? ほほほんとにやるんですか!?」


 イクスさんがパニックになっている。


 ふふ分かっているよイクスさん、君はくすぐったがりなんだろう?


 腰に手をあてた時もそう言ってたしな、でも安心してくれ、俺は全力で君のくすぐったがりを治すお手伝いをするからな!


 ……。


 ……何故だろうか、ここにはいないルナが俺に突っ込みを入れた気がするんだが。


 気のせいかな?


 ……。


「あのーそろそろ私の話を聞い――」

「頭をあげていいなんて言ってないわよね?」


「はひぃ! 失礼しました!」


 土下座していた人が頭をあげてこちらに声をかけたが、マジョリーさんが一喝したらすぐ土下座に戻っていった。


 ……一瞬見えた顔にも見覚えはなく、人間の若い男っぽいんだが……まじでなんなんだろ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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