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78 ノームの祠

「やっと着きましたねゼンさん」

「そうだね……」


 なんでこうなるのかな。


 ローラさんの問いかけに答えつつ、俺は少し前の事を思い出す。



 カンジさんが、魔石をダンジョンに流し込んじゃえ、という意見を上の人間に伝えたんだよ。


 そうしたら……各ギルドの長やら、ギルドランクの高い商会やら、この鉱山都市を治めている領主の代官やらが集まった対策会議で、怒号が飛び交うほどの議論になってしまったらしい。


 ダンジョンが弱まったのがつい最近なので、まだ余裕のある段階で氾濫が起きるかもしれない迂闊な事は出来ないという意見と。

 すでに資源の値上がりで商売がやり辛くなっている層で意見がぶつかり合ったんだって。


 そりゃ税を取って治安を守る側の意見と、物の売り買いをして商売したり税を支払う方の意見じゃ纏まるもんも纏まらないだろうに。

 でもそんな事になるって事は、この鉱山都市では代官側に絶対的な公権力がない構造なんだろうね……。


 会議に出た商会の中にはマジョリーさんもいた。

 マジョリー商会のギルドランクがミスリルと聞けば当然といえば当然だな。


 まぁそんな会議でドワーフ達が、魔石の件が安全か危険かをノーム様に聞いてみれば良いと発言した。

 ノーム様ってのは鉱山ダンジョン側の祠にたまに現れる精霊で、このあたりの土地神のような扱いらしい……。

 てか絶対にダンマスだよねそいつ。


 それでダンジョンに魔石を投入するなんて事は公に出来ないのでこっそり動きたい。

 だけど会議に出て来るような人達は有名で顔が売れすぎているからって……何故か俺に指名依頼がきた。


 何処かの勢力の顔の売れてない下っ端を使うのは他勢力が許さず。

 かといって冒険者に外注するにも情報を秘匿したいとかで人選に困る。


 ならどうする?


『ダンジョンに魔石を流し込めば弱体化が治るんじゃ?』

 なんて適当な発言をした冒険者に依頼がきちまう訳だ……。


 俺が指名依頼を受けて対策会議に呼ばれた時の、マジョリーさんが浮かべていた苦笑が印象に残っている。


 そこで何でローラさんも一緒にいるかっていうと、ノームに質問するならそれなりの貢ぎ物を祠に置かないといけないらしく。


 そしてまぁ……ノームも酒が好きなんだって。


 そこでドワーフ達が泣く泣く……いや……本当の意味で地面に項垂れて泣きながら『守竜酒』をノーム様とやらに奉納する事を提案した。


 大地の精霊だかのノームをドワーフ達は敬っているみたいだからね……すっごい泣いてたけども。

 いい年した大人が声を出しながら泣くって、どんだけ酒を譲る事が悲しいのさ……。


 なわけでオークションの途中なんだけど『守竜酒』の出品を取り消したり、対策会議宛てに売って貰う必要があったので、ローラさんには事情がこっそり教えられた訳だ。

 つまりもうローラさんも関係者扱い。


 そして何故か俺にローラさんもついてきているのは、他の酒のオークションが終わるまでは暇っぽいからだそうだ。

 今回の『守竜酒』は口止め料込みなのか銀貨千枚で売れたらしいぜ……。


 今は俺とルナとローラさんのみだ、見届け人みたいなのはいない。


 俺達はあくまで個人的に、鉱山ダンジョンがある山の麓の祠に祀られているノーム様へと、お供え物をしに来たって事になっているからな。


 最近の鉱山ダンジョンの稼ぎの渋さに冒険者の姿も少ない朝方、ダンジョンへ行く道を外れて祠へと向かう。

 麓の岸壁をくりぬくように小さな洞窟がありそこの奥に……ってここダンジョンじゃんか!


「どうしましたゼンさん?」


 洞窟の入口で足を止めた俺にローラさんが話しかけてきた。


「あ、いや、ちょっと緊張しちゃってさ」


 歩みを再開するが……うーん、洞窟奥に見える祭壇のさらに奥に通路があるっぽいなぁ……。

 祭壇の奥の壁は壁画に見えるけど、あれって絵に見せかけたドアだよな……。

 神聖な場所だって事で調べる人がいないんだろうか?


「強いゼンさんでも緊張する事があるんですねぇ」


「あーいやローラさん、俺はそこらの冒険者よりは強いかもですけど、上には上がいますからね? 金級冒険者とかに数でこられたら普通に負けるかもだし」


 あんまり強さを誤解されても困るから、ローラさんの認識を正しておこう。


「……冒険者の金ランクって一流の証なんですけど……それが複数人必要って……上級魔物の退治か何かですか?」


 ええ? そんな訳は……。


「うちのマスターには常識がない」


 ルナがポソリと呟いた。


 いやまてルナ! お前だって常識がないほうじゃねぇか?


 うーん……最近冒険者ギルドで見かけた金ランクが所属していたパーティとかだと、俺でもやれそうな感じがしたんだ……。

 あのパーティは金ランクが一人だけだったからね……。


 その金ランクの奴は普通にちょっと厄介かなー程度だったから、それが数を揃えて来たら負けるかも? と思ったんだが。


「いやまぁ……俺より強い奴はたくさんいるはずですから……」


 少なくても俺が知っているだけで5人はいるからな。

 ……人と言ってよいか分からんが。


「あんなに強いゼンさんでもそんな感じなのですか? あ、着きましたね」


 洞窟もまっすぐで短いので祭壇にすぐ着いた。


 ここに品物を捧げればいいんだよな? んじゃ早速〈インベントリ〉から――

「あいつらの仲間が懲りずに来たか! 死ね!」


 祭壇の奥から背の低い四頭身の……ってルナとローラさんを両手で引き寄せ、俺は〈非常口〉を発動して逃げた。


 ……。


 ……。


「ふぅ、危なかった、ありゃぁ強いな」

「ちょっと分が悪い相手」


 俺の独白にルナが答えた。

 まぁそうだな、足手まといがいて尚且つ狭い場所で戦いたい相手ではなかった。


 悠長に見てる暇はなかったけども、襲い掛かろうとしていた相手はドワーフ達に教えられていたノームの姿に似ていた。

 ……だけどあれダンマスじゃなかったよなぁ……。


「あれってダンマスじゃなかったんだが……」

「配下の可能性大?」


 ルナの言葉に成程と頷く俺、ダンマスと同種族の配下かも?

 結構古くからあるダンジョンの配下なら強いのも納得だな。


「あの……」


「なんか勘違いされて襲われた感あるよなぁ?」

「ダンジョンバトルだと思われたっぽい」


 あールナの言う通りかもしれない。

 最近自分のダンジョンが襲われた所に見ず知らずのダンジョン関係者が入ってきたらそりゃぁ……。


 ……やっちまったな……。


 まぁ鉱山都市の郊外に〈入口〉は設置してあるから戻るのは楽だし、それなら――

「あの! ゼンさん!」


 ん? ローラさんが俺に向かって大声をあげて……って……あ、やべ……。


「ここ何処なんですか? さっきまで洞窟でしたよね? それとダンマスや配下やダンジョンバトルって何です? それにそこに浮かんでいる宝玉は一体……」


 ここは〈ルーム〉の中のいつもの自室だ、普通にダンジョンコアが隅っこに浮いている。

 えーと、ローラさんを処分する訳にいかんし……取り敢えず。


「まぁまぁ落ち着きましょうか、ね」


「いや落ち着けって言っても! ここは一体!?」


 ローラさんはプチパニックに至っている。

 そこにルナが。


「まずは靴を脱がせるべき」


 成程! それは確かにそうだな。

 ローラさんの肩に手を置いて顔を彼女の耳に寄せて……。


「ここは俺のユニークスキルで作った部屋なんですよ、まずは座りましょう、それとここでは靴を脱いでください」


 そうやって囁いてみた。


「はぅ! ……あ、はい……座ります」


 腰が砕けたのかへにゃっと床に座り込んだローラさん。

 ルナがローラさんの靴を脱がせている。


 俺も靴脱ごうっと。


 日本製の柔らかクッションに座らせてテーブルを囲み飲み物を出していく。

 ローラさんは冷たい微糖紅茶でいいかな?


「あ、ありがとうございます、ズズズッ、はぁー美味しい……って! だーかーらー! ここは一体何なんですか!」


 ローラさんはノリ突っ込みも出来るタイプか、逸材だなぁ。


 俺もお茶を飲んで一息ついてから説明を始める。


「ここは先ほども言いましたが俺のユニークスキルで作った部屋なんですよ、空間系スキルに荷物を入れるでしょう? そこに部屋を丸ごと仕舞い、自分も入れると思ってください」


「マスター、お茶菓子にケーキ食べて良い?」


 説明中でもルナは自由に生きている。

 いいぞー、俺はチョコケーキにするから。


「そんなすごいスキルが? でもそこに浮かんでいる宝玉は話に聞くダンジョンの宝玉な気が……それにさっきダンジョンがどうたらって、あ、ありがとうルナちゃん、モグモグ、わ! 美味しいねこれ」


 ううむ勘が鋭いなぁローラさん……ユニークスキルで納得してくれたら解放もあり得たんだけど……こりゃ駄目だな……。


 何故か質問の途中でルナとケーキの美味しさについて語っているローラさん。

 色々バレちゃったっぽいこの人は、もう只で解放する訳にはいかない……。

 野盗のような処分はさすがに無理だ……となるとだ……。


「ローラさん」


 俺は自分のチョコケーキにも手を付けずに、真面目な顔でローラさんへと語り掛ける。


「ふひゃぃ? モグモグ」


 こんな状況で普通に茶菓子が食える貴方はすごいな。

 口にショートケーキを詰め込んだローラさんは俺の呼び掛けに返事をした。


 口の中が空になるのを待ってあげながら俺は。


「俺は……貴方を手に入れるしかないみたいなんだ」


 そう宣言するのだった。


 処分が無理なら配下に取り込むしかねぇよな……。


 ローラさんは俺の配下に取り込む宣言を聞くと、フォークについていたクリームを舐めながらビシッと固まってしまった。


 そりゃいきなり配下になれと言われても困るよなぁ……。


「……マスター」


 ルナが俺を呼ぶ。


「何だ?」


「マスターはそうやって過去でもレジェンドになっていたんだろうなって確信した、サスマス」


 ん? ごめんルナの言いたい事が良く分からん。


 っと気配が動く。

 ローラさんの硬直が解けたようで、そのローラさんは大きく口を開けると。


「いくら推しだからってそんなすぐに結婚はしませんよ!! ……それで両親にはいつ報告に行きますか? もうオークションとかほったらかして貿易港に帰りましょう? ね? まずは婚約って事でいいですよね!?」



 ……あれ?

お読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] はぁ、ほんと好き。 なんでこうなるのよって問いかけが面白すぎるw
2022/08/10 21:03 退会済み
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