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77 鍛冶屋のカンジ

 商業ギルドの副ギルド長との商談で、ローラさんの酒を商業ギルドのオークションに出す事が決定した。

 そのままローラさんやマジョリーさん達と祝いの宴に突入して、次の日。


 またローラさんは二日酔いなのだが、しょうがないので〈光魔法〉で解毒してあげた。

 前日にしなかったのは酒量の限度を知って節制を覚えて欲しかったからだ。


 朝方、荷馬車にインベントリから預かっていた酒を出してやって、ローラさんとルナは商業ギルドへ向かった。

 そして『守竜酒』の追加はなしにしといた。

 貿易港でのオークションの出品数とかを調べてあるみたいなんだよね。


 ギルドでの話し合いやらで時間がかかるみたいなので、ローラさんの護衛にルナを残して俺は昨日のドワーフさんに会いに行く。

 彼の名前はカンジさんと言って、この都市のドワーフ達に商業ギルドの監視を押し付けられた可哀想なお人だった。


 職人系ギルドなんかとは別に、ドワーフ達のみが参加する協同組合のような物があって。

 そこでの地位は職人としての腕で決まるみたいで、彼の腕は中の中くらいらしく、付与武器が欲しい話をカンジさんにしたら彼の鍛冶屋へ誘われた。


 ドワーフ達は製品を並べる武器屋みたいなのを経営する事はせず、注文生産を請け負う鍛冶屋が多いらしい。

 そんな訳で彼らは職人通りを形成している事が多いのだとか。


 朝も早いのにすでにトンカントンカンと槌を叩きつける音なんかが通りには響いている。


 えーと確かこの通りの角から……ここだな、名前そのままの看板を掲げているので分かりやすい。


 『鍛冶屋カンジ』の看板が掲げられたお店へと入っていく。


 扉を開けて中に入るとカウンターのみがある部屋で、扉を開けた時に設置された鈴の音が響いてたし誰か来るかなーと待っていると。


「いらっしゃい、仕事の依頼ですか?」


 出て来たのは恐らくドワーフの女性だ……ふむ、背が低くて横にがっしりしていてカンジさんの体形によく似ている。

 でもドワーフ女性にヒゲは生えてないんだね。


 出て来た女性に自分の名前と昨日誘われた事を伝えると、すでに話が通っていたのか部屋の奥へと通してくれた。


 カンジさんの嫁だと自己紹介されつつ、鍛冶の仕事部屋に案内されると、嫁さんは部屋を出て行った。


 カンジさんはナイフの刃を研いでいるみたいだね、集中しているみたいだし、しばらく仕事ぶりを見ながら待つ事にする。


 ……。


 ……。


 ナイフの研ぎが終わったらしいカンジさんは、軽く息を吐いてから顔を上げ、そこでやっと俺に気付いたみたいで。


「お前さんか! 待ってくれてたみたいでわりぃな、まぁそこに座れ」


 示された椅子はドワーフ用なのかガッシリしていてちょっと低めだ。

 俺はその椅子に座りカンジさんと向き合う。


「こんにちはカンジさん、ご厚意に甘えて仕事の依頼をしに来ました」


「あーあーそういうのはいいからよ、普通にしてくれ普通に、『守竜酒』を守って無事に届けた護衛なら普通に仕事くらい受けるからよ!」


 ガハハハと笑いながらそんな事を言ってくるカンジさん。


 腕の良いドワーフへの仕事の依頼なんて予約でいっぱいのはずなんだけどね。


 腕前がドワーフの中でも中の中くらいだと言っていたが、ドワーフの下の上くらいが人間の鍛冶師の一流だと言えばすごさが分かるだろうか?


「なら普通に話すよ、それで水中で使える武器が欲しいんですよ、マーメイドが使うんで水中でも使い易い槍をお願いしたいんですけども」


 カンジさんにはマーメイドの事も伝えてしまう。

 ドワーフは人間のように他種族を貶めたり低く見たりしない……らしいからね。


 人間に魔石がないから選ばれた種族で、魔石が体内にあるのは神に見放されたから、なんてアホな理屈を言っている奴とか人間世界にはいるからね。


 人に魔石がない事が多いのは、魔力を蓄積する能力が他の種族より低いというか欠陥があるとリアなんかは言っていたな。


 人族で超一流魔術師の死後に魔石が出て来たなんて噂話もあるらしいしね……。


「ほほう、マーメイド用かぁ、お前さん商人でもあるって言ってたよな、亜人相手にも商売しているのか?」


「そんな所です、彼女らが手に入れて来る真珠は良い商品になりますから」


 配下用ですとはさすがに言えないからな、適当にお茶を濁しておこう。

 ホムラやリアに酒やら肥料を売るのは亜人相手の商売とも言えるし。


「いやぁすまねぇ、今は〈水中適応〉なんかを付与する触媒が不足しているらしいんだよ、威力の上がる魔力付与武器だと思ってたからなぁ……うーん……」


 カンジさんが申し訳なさそうに唸っている。

 やっぱり触媒不足って話は本当だったのか、それなら。


「確か触媒って天然石じゃなくても使えるって聞いたんですけど」


「ん? ああ、まぁ魔物の素材でも使えなくはないけどよ、そこらの水属性の魔物のだと効果が弱いんだよな、まぁそれでもいいならいけなくも……うーん、どうせならちゃんとした物にしてぇなぁ……」


 カンジさんはヒゲを触りながら悩んでいる。

 人間の職人世界だと魔物の素材を使う方がメジャーらしいんだけどね……。

 ドワーフ的に納得いかないんだろうか。


「なら、これとかどうですか?」


 俺はインベントリからスイレンさんのウロコや牙や爪を取り出すと、カンジさんとの間にあるテーブルの上に置いた。


 スイレンさんは水龍だし、水属性の素材として何かに使えないかぁと前から思っていたんだよね。


「ん? ……おいこりゃぁ随分立派な……上級魔物の素材か? しかも水属性っぽいな、おいおいこんなのあったら一級品の属性槍が作れちまうじゃねぇか! しかも爪に牙も……いける、いけるぞ!」


 カンジさんは大喜びで、スイレンさんのウロコなんかをチェックしている。


「いけそうですか?」


「ああいける、でもこれは何のウロコだ? 上質な魔力が宿ったウロコなんて滅多に……いやいやいやまさか……」


 俺の質問に是と答えたカンジさん、だが何の素材かを考え始めると表情が険しくなっていく。


「水龍の物ですね」


 なのでさくっと教えてあげた。


「……うそだろ!? え? いやでもこの大きさと内包魔力の質の高さなら……」


 カンジさんは再度爪や牙を確認しだした、ぶつぶつと呟きながら素材を調べている。


 暇なので〈インベントリ〉からお茶とお茶菓子を出してのんびりと待つ事にした。

 もう最近だと〈インベントリ〉を隠す事が面倒になってきている。

 有象無象の前でこれ見よがしには使わないけども、こういう人達には隠さなくても良いんじゃないかと思っている。


 一応カンジさん用にもお茶を出して置いておく。


「ん? ありがとさん、ゴクゴクッてなんだよ酒じゃないのかよ、しかしこれはすごい素材だな、まるで鍛冶衆の長が昔作った剣の素材並みなんじゃねぇか? 話でしか聞いてないからあれだけど……これなら最高の槍が作れるぜ」


 仕事中に酒を飲むのかこの人らは……って似ているドラゴン系の素材で作った剣ってもしかして。


「その剣って、ずっと南に行ったタタンタ貿易港近くの島に住む、火竜の素材で作った剣で合っていますか?」


「んん? まてお前さん、何でそれを知っているんだ? 人の欲望の的にならんように詳しい事はドワーフしか知らんはずなんだが……」


 カンジさんの俺を見る目が厳しくなった。

 あーあれってドワーフ的に内緒だったのか……仕方ないな……。


 〈インベントリ〉から火竜の剣を出してテーブルに置き。


「火竜とは酒飲み友達になりましてね、あいつのヘマで俺が死にそうな目にあったお詫びって事でこれを頂いたんですよ、ちなみにその素材は火竜の眷属である水龍の物ですね」


 俺の言葉を聞いたカンジさんは驚きつつも火竜の剣を調べ始める。

 鞘から抜いて刀身を確認し、そして剣の柄尻に刻まれた紋章のような物を見ると。


「こりゃ本物の長の印だ……刀身も見事だし……火竜が討伐されたという話も聞かないし……島から盗んで来たって事はねぇよな?」


 カンジさんは、そこまで疑う感じでもない表情でそんな事を聞いてくる。


「あの竜から盗むよりは、酒で友達になる方が楽だと思いませんか?」


 ホムラやダンジョンを守備している強力な眷属達を出し抜いて盗むより、真正面から酒を持っていく方がはるかに楽だろうさ。

 そもそも貴重な物はホムラの〈インベントリ〉の中にあったりするだろうしな。


「はは! ちげぇねぇや! うちの長もとっておきの酒を持って行ったら素材を分けてくれたって話だしな! 人間のくせに分かってるなお前さんは」


 ゲラゲラと笑い声をあげるカンジさん、どうやら納得してくれたみたいだ。

 返して貰った火竜の剣はインベントリに仕舞う。


「それで、この素材でいけるとして値段と何本くらい作れるのか教えて頂けますか?」


「そうだな値段は……って何本?」


 値段は、の後に言葉を詰まらせてそう聞いてくるカンジさん。

 あれ? 言ってなかったっけか?


「ええ、最終的には300本くらい頼みたいのですが、これらの素材の使用量を教えて頂けますか?」


「さん……いやいやいや、この爪と牙とウロコとミスリルがあれば一級品の槍が一本作れるけども、さすがに300本を作れる程のミスリルをうちで用意するのは無理だぞ」


「ちなみにミスリルで作った時のお値段は?」


「そうだな……ミスリル製の槍にこれらの素材を組み合わせて〈水中適応〉の付与をしたとして……ミスリルの素材代に大金貨30枚くらいと……俺への仕事の代金として大金貨5枚くらいか、付与の外注なんかも込み込みでな」


 なんでもない事のようにそう言ってくるカンジさん。


 え? 全部で大金貨35枚? ムリムリ、さすがにそれは無理だわ……。


「大金貨35枚ですか? ……さすがにそれは高すぎて手が出ないですね……一品物じゃなくてマーメイドの部族が使う軍隊用に質の揃った品が欲しいんですけども……ミスリル以外では作れませんか?」


「お前さん300本って言ってたもんな……そりゃぁ黒鉄鋼に少しだけミスリルを混ぜれば……全部合わせて大金貨5枚くらいで一本作る事は出来るかもだが……この素材を使ってそれは勿体ねぇよ……」


 値段が十分の一になったけど、それでも大金貨5枚かぁ……マジョリーさんが新人には辛いと言っていた理由が分かった、数本なら頼めなくもないけども……。


「それを数本頼む事になりそうですかねぇ……ミスリルを使った付与武器がこんなに高いとは思いませんでした、街の武器屋で売っていた中古の付与武器は金貨数枚からもあったので……」


「ああ、そりゃぁ人間の鍛冶師が作った普通の武器に魔物素材で付与した奴だな、付与効果が低いんだよ」


 ドワーフの目からはそうなのかもだけど、武器屋では大事にされてたんだけどね……。

 俺には触らせてもくれなかったし。


「まずは黒鉄鋼をメインにした物を一本だけお願いしていいですか? 一度マーメイドに使って貰って感想を聞きますから」


 はぁ……彼女らには見栄をはって武器を買ってあげるとは言ったけど……ここまで高いとは思わなかった。


「そうかぁ? うーん……勿体ねぇなぁ……でも今はミスリルの産出量も減っちまったし、仕方ないか……」


 ん? ミスリルが減っているから値段が高いのか?


「ミスリルが取れなくなっているんですか? ダンジョンなのに?」


 この都市の素材の源泉は普通の鉱山じゃなく鉱山ダンジョンなので、産出量なんて一定なはずなんだけども。


「あー……外ではペラペラ言うなよ? 最近のダンジョンはドロップがすごい渋くなってるし、そもそも弱い魔物は出てこなくなって、さらに素材のPOP場所も現れなくなっちまってるんだ」


 ありゃま、それはダンマスが何かしているんだろうな。

 マジョリーさんも最近ここのダンマスがオークションに出品しなくなったとか言ってたっけか。


「それって理由は判明しているんですか?」


「ん? あー……まぁ亜人と商売している奴なら大丈夫か……」


 カンジさんが俺の質問に対してブツブツと小さい声で何かを言っている。


「どうしたんです?」


「お前さん教会の過激派について知っているか?」


 教会って創造神オールとその眷属を信仰するって奴だよな?

 でも過激派なんて初めて聞いたな。


「すみません、教会は知っていますが過激派は初耳です」


「知らんのかよ……あーっと、亜人排斥やダンジョン邪悪論を唱えている奴らだと思え、まぁ教会でもごく一部の話で本部教会では否定している考え方なんだけどな、そんな過激派がここのダンジョンを潰そうとしたみたいでな」


 うへ……面倒な情報を仕入れてしまった……厄介ごとに合いませんように。


「つまりそいつらが何かをしたと? そもそもこういう有用資源ダンジョンは攻略しないように冒険者ギルドとかで保護しているはずですよね?」


「まぁそうだな、保護って言っても攻略しないでくださいという情報を周知するだけなんだけどな、それを破ったらギルドから放逐されるってだけの話でよ、国の法律で守るとかは難しいんだよ……ほら氾濫とかあるだろ?」


 ダンジョンの氾濫が起きると近場の街とか壊滅するしなぁ……有用とそうでないダンジョンの区分けが難しいから……。


「なるほど、それじゃあダンジョンが攻略されちゃったと?」


「ああいや……このあたりを縄張りにしているノーム様が言うにはダンジョンがギリギリで追い返したが、ダンジョンがかなり疲弊していて、しばらくは力をためる時間が必要なんだろうって話だな」


 ……突っ込まないぞ、俺は突っ込まない、そのノームが鉱山ダンジョンのダンマスなんだろうなとか思うけども、俺は突っ込まない!


「ダンジョンが弱体しちゃっているんですね……それならいっそ魔石でも流し込めば元通りになりそうですけど、なんちゃって」


 恐らく鉱山ダンジョンは攻略部隊の撃退で戦力やらを削られまくって、それらを補充する事に収入DPを優先的に投入しているのだろう、それならDPを補充すれば元通り……。


 てかDPがそこまでマイナスになるって事は……攻めて来たのってダンジョン勢力じゃんかよ。

 その過激派ってダンジョンマスター関係なのが確定しちゃったね……。


 それに気付いてしまい、げっそりとしている俺にカンジさんは不思議そうな目を向けつつ。


「お前さんすごい事も思い付くな、普通は氾濫が怖いからダンジョンに魔力を流し込もうなんて事は考えないんだが、確かにダンジョンは人や魔物や大地の魔力を糧にしているって説があるが……むう……この話を上の奴に話してみてもいいか?」


「え? 俺の名前とかを出さないでくれるならいいですけど」


「いやまて、それだと俺が、こんなとんでもない事を思い付いたって思われちまうだろ?」


「まるで俺が変態みたいに言うの止めてくださいよ、何処かの酒場で周りにいた誰かが話してたとか適当に誤魔化せばいいじゃないですか」


「ドワーフが飲みにいく酒場なんて周りに同族がたくさんいるんだよ! 俺だけしか知らないってのはおかしーだろ?」


「じゃぁ話さなければいいですね、さっきの話はなかった事にしましょう」


「鉱山ダンジョンが甦るかもしれないんだぞ? しない訳にいかねぇ!」


「何か妙な事が起こって俺のせいにされたら嫌だって言ってるでしょーに!」


「さすがにそんな事には……鉱山ダンジョンが元通りになればドワーフに恩が売れるぞ、組合から報酬なんかが出るかもしれんし、補助が出て武器注文の代金が安くなるかもしれん、どうだ?」


 う!? それはすごい美味しい……だけどダンマスのノームの性格とかまだ知らんし、迂闊な事は……。


 どうしよう?

お読みいただき、ありがとうございます。


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