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76 土下座と加護

 お昼も食べ終えたオヤツ時、屋台で買ったお焼きを食べながら、イクスさんと宿屋へ向けて歩いて帰っている。


 帰りは時間もあるし、のんびり会話をしながら歩こうという事になったんだ。


 焼いた饅頭みたいなお焼きの中身は肉だった……ちょっとした軽食って感じで売っている物だったから甘いのを期待したんだが、甘いお菓子って高級店でしか見かけないらしい。

 ……果物を絞った汁を水で割った物くらいなら屋台にもあるんだが……。


 蜂蜜や砂糖は高いから屋台ではあんまり見かけない……隠し味に使う程度?


 魔物からのドロップで甘い蜜とかが出る所もあるとかで、イクスさんが興奮しながら教えてくれた。

 ……蟻ダンジョンだってさ……蜜を蓄える蟻とかは日本でも聞いた事はあるけどさぁ……。

 巣穴みたいなダンジョンに蟻を倒しに入っていく?


 絶対入りたくねぇなそのダンジョン……何故か蜘蛛とかいそうだし。


 そんな感じで帰り道は様々な事を話しながら帰る。

 イクスさんが鉱山都市のお勧めな屋台や食事処の情報を教えてくれる。

 会話内容が食べる物の事が多いし、やはり食いしん坊さんだったみたいだ。


 今もイクスさんは歩きながら、大量に買い込んだお焼きをインベントリから取り出しつつパクパク食べている。


 勿論全部俺の奢りだ。


 ……屋台で焼きあがって横に置いてあった50個くらいのお焼きを、イクスさんが『全部ください』とか注文した時はびっくりしたけど。


 幸せそうに食べる姿が可愛いので、良し!


 モグモグとお焼きを楽しみつつ食べ物の雑談等していく。

 イクスさんとの会話では食べ物ネタが鉄板みたいだな、今も俺を横から見上げるように話し掛けてきているが、話の内容は海鮮丼の具についてだ。


 そうして宿に近づくと……。


「あれ、なんだと思いますかイクスさん」


 宿の前に豪勢な馬車がいくつかとまっている。

 都市の端っこのぼろい宿に来るような馬車じゃねーよな。


「紋章が確認出来ないので貴族ではなさそうですね、あ、あそこにいるのマスターだ」


 へぇ、貴族って自分の紋章? とかを馬車に付けるものなんだなぁ……。


 あ、ほんとだ、マジョリーさんも宿の前にいるね。


 って……ローラさんとルナもいるじゃん、何事だろ。

 俺はちょっと小走りになって近づいていく事にした。

 イクスさんも俺の後ろに小走りでついてくる。


 高級馬車に乗って来た人の護衛だろうか、剣に革鎧にときっちり完全装備をした人間が数人いて。


 小走りで近寄っていく俺を警戒したのか戦闘態勢を……あ、護衛っぽい人らがマジョリーさんのキセルで頭を殴られている。


 俺の事を説明してくれたようで警戒態勢は解かれたみたい。


 そうして宿屋の前に来た俺。


 状況を確認すると。

 ローラさんに向かって土下座している人が一人。

 少し離れた位置に立っている仕立ての良い服を着た男性が一人と。

 後はヒゲがモジャっていて背の低いがっしりとした、たぶんドワーフが一人いる。


「何があったんだ?」


 俺はローラさんの隣にいるルナに聞いてみた。

 発言した俺の事を男性やドワーフが注目するも、とくに口を出す事はなかった。

 イクスさんはマジョリーさんの横に行って控えている。


「雇い主に舐めた商談をした商業ギルド員」


 ルナは土下座している太った男を指さした。


 ああ、こいつが『守竜酒』に銀貨50枚の値段をつけた奴か。


 その土下座デブ商業ギルド員は申し訳ない許してくださいとローラさんに謝るも、ローラさんは何も言わずに……それを見ているだけだ。


 ローラさんが何も言わないので、まだ二日酔いなのかとローラさんの顔を見ると……あ、冷えた目でデブ商業ギルド員を見ていた。


 まぁ理由は俺にも分かる。


 だってこのデブ商業ギルド員の謝罪に心が一切籠っていないんだもの。

 その謝罪声を無視して俺はマジョリーさんやドワーフやらの方へ向かう。


「マジョリーさんが動いてくれたんですか?」


「そうね、そもそも鉄ランクとはいえ、お酒をギルドオークションに出せないなんて話はおかしいからね、うちのマジョリー商会は商業ギルドに顔も効くし、ちょっとどういう事なのかなって偉い人に直接尋ねたの……そうしてあのデブ商業ギルド員に行き当たって締め上げたら……貴方達『守竜酒』を運んで来たって言うじゃないの、昨日それを聞いておけば回りくどい尋問とかしないで済んだんだけどね」


 どうやら尋問をしたらしい……いやまぁ魔法でちょちょいと何かしたのかも。


 そういや昨日マジョリーさんに絡んでいたローラさんは、お酒を運んで来たとしか言ってなかったっけか……。

 俺とマジョリーさんが会話していると、側にいたドワーフが一歩俺に近寄ってきた。


「お主はあの年若い商人の護衛だな? よくぞ無事にここまで辿り着いてくれた! それで『守竜酒』は何処にあるんだ? 他にもタタンタ貿易港で仕入れた酒があるんだろ? 全部儂らが買い取るぞ!」


 おおう、ヒゲモジャドワーフが迫ってくる。

 そこに、側にいた仕立ての良い服を着たシュッっしたスタイルの良い中年男性、たぶん商業ギルドの偉い人? が口を挟んでくる。


「カンジ殿お待ちください、商品は全てこちらでオークションに出して頂けるように頼むつもりなんですから、商業ギルド副ギルド長の前で横入りしようとしないでくださいよ」


「商業ギルドの不手際のせいで若い商人の利益が不当に侵される所だったんだぞ! ここは儂らドワーフがきっちりとだな」


「貴方達はお酒が欲しいだけでしょうに、交渉は私共が先です、これは譲りません」


 俺に声をかけたのに、いつのまにかドワーフと副ギルド長? な人の言い合いになってしまった。


 ……。


 そんなドワーフと副ギルド長とやらの言い合いを横に、俺はマジョリーさんに再度話しかける。


「なんとなく事情は分かりましたマジョリーさん、それならローラさんと――」

「ふざけるな女商人ごときが! 私がこれだけ謝罪しているのにいつまでも無視しおって! この!」


 その大きな声に驚いた俺やマジョリーさん達が、視線を声がした方に移すと。


 土下座していたはずのデブ商業ギルド員が立ち上がり、ローラさんに向かって手を振り上げている所だった。


 周りにいた護衛兵っぽい奴らが止めに入ろうと動き出すが、間に合わないだろうな。


「ゲフッ!」


 そうしてそいつは、ローラさんとデブ商業ギルド員の間に入ったルナにより、殴りかかった腕を取られてて背負い投げをされて地面に打ち付けられていた。


 背中から落としているあたりにルナの優しさを感じる。


 まぁ拳じゃなくて刃物で切りかかっていたら慈悲はなかったと思うけども。

 さすが〈格闘〉持ちのルナだ、お見事です。

 俺は音があまり鳴らないようにルナに向けて拍手する。


 ルナがそれを見てピースを俺に向けてきた。

 うむうむ、良くやった。

 後でルナにはご褒美のお菓子購入権をあげよう。


 デブは副ギルド長の命令によって縄でグルグル巻きに拘束され、うるさく喚くので猿轡もされて護衛兵に馬車へと押し込められていた。


 今はローラさんへ謝罪しているお偉いさん。

 なんであんなアホをギルド員として雇っているのかを聞いたら、貴族の息子なんだって。


 報復が怖いなぁという話をしたけれども、前々から目を付けられていた不良職員で、今回のドワーフに敵対するような行為が露見した事で、貴族の親も息子を庇う処か貴族の家から放逐もあり得るという話だった。


 質の良い製品を作り出して、都市に貢献しているドワーフ達にケンカを売る行為だものなぁ……。


 きっちり処罰しないと不味い事くらいは誰でも分かるよね? 分かって欲しいなぁ……。


 今はドワーフとお偉いさんとローラさんで商談している。

 ルナは一応護衛のためにローラさんのすぐ側にいるけど、一切口を挟む事はなく黙っている。

 俺やルナは護衛だから商談には参加しないよね。


 少し離れた所で三者会談を眺めている俺、そこにマジョリーさんとイクスさんが近寄ってきて。


「上手くいきそうね」


「ありがとうございましたマジョリーさん、この件がなかったら明日にでも酒屋に売りに行く事になっていましたよ」


 マジョリーさんに軽く頭を下げてお礼を言う。


 マジョリーさんはニコっと笑みを浮かべながらキセルを吸うと、ポワンッとピンク色の煙を吐き出しながら結界の魔法を使う。


「ふふ、これも何かの縁って奴よ、昨日の夕食は楽しかったしね、それに性格の良さそうな新人ダンマスは生き残って欲しいからお手伝いくらいはね……それに……そうね……うちのイクスも貴方を気に入っているようだし、うちのダンジョンの側に貴方のダンジョンを引っ越して来るとかどうかしら? コアの移動用DPを私が出してもいいわよ?」


「マスターそれは良い案ですね! ゼン様もうちのマスターの保護を受ければ安全に過ごせますよ! 新しいダンジョンは潰される事も多いですし、うちのご近所に来ましょう!? ね?」


 おっと、マジョリーさんにご近所に引っ越して来いと誘われると共に、それを聞いたイクスさんが俺の前に来て俺の手を取りながら嬉しそうに誘ってくる。


 うーん……リアといいホムラといい、この世界のダンマスって優しい人が多いのか?

 でも他のダンマスを排除する奴もいるって話だから、俺の運がいいのかねぇ。


「えっと、俺のダンジョンは火竜の島のすぐ横の島にあって、侵入者とかまったくないから安全なんです、でも誘って頂きありがとうございます」


 ありがたい申し出だったが、すでに安全な場所はリアとホムラが確保してくれているからね。


「ここらで島を拠点にしている火竜って……え? 貴方〈孤高〉の火竜がいるすぐ側にダンジョンを作ったの? なんていう無茶を……」


「そんな! 危険ですよゼン様! 火竜様はダンジョンの管理をせずに魔素スポットを完全に覆わないらしく、周囲には高レベルな魔物が沢山いるってマスターに聞きました! 危なくないんですか? そんな所にいるくらいならうちに逃げて来てください! 私がお手伝いしますから!」


 おおう、イクスさんがグイグイくるね……。

 俺の手から離した両手を、俺の両肩に置いてグラグラと俺を揺さぶってくる。

 ほぼぴったりとくっつく距離なんだけども、恥ずかしがり屋さんは何処にいった?


「落ち着きなさいイクス、貴方はちょっと下がって」

「でもマスター! このままだとゼン様が!」


 マジョリーさんがイクスさんに落ち着くように言うも、イクスさんは軽いパニック状態になっている。


「ああもう普段冷静なイクスがこんなに動揺するなんて……ゼン君、どうにかしなさい!」


 マジョリーさんが俺に命令してくる、え? なんで俺が……。


 仕方ない、今も危険がどうたらと俺に言っているイクスさんの手を俺の肩から外す。

 そして俺は少し屈んで、中学生くらいの身長なイクスさんと顔の高さを合わせる。


 そしてイクスさんの目をジッと見てゆっくりと語り掛ける。

 ゆっくり話すと少し低音になる俺の声は安心すると昔誰かが言っていた。


「心配してくれてありがとうイクスさん、でも大丈夫、火竜のダンマスとは飲み友達になってね、高レベルの魔物の駆除も手伝ってくれる仲になったんだ、俺が抑えた島も今は俺が魔素スポットを押さえているから強い魔物は湧かないんだよ、それこそレベル上げに丁度いいくらいなんだ……そうだ、それでも心配なら今度一度遊びに来るといいよ、侵入してくる人間とかいないからのんびりと奇麗な砂浜で海を堪能出来ちゃうよ、イクスさんやマジョリーさんなら歓迎するからさ」


 そうやって、ゆっくりと俺は大丈夫だとイクスさんに説明していく。

 その説明の間は一切目を逸らさない、相手を説得するんだから当然だよね。

 帽子の幻惑効果のせいで人間に見えるけど、俺はイクスさんの単眼があるものとして顔の中央をじっと見つつ説得した。


「……」


 イクスさんの危険が危ない発言が止まった……そのまま何も言わないイクスさん……おや?


「あらまぁ……ゼン君ってば妙な力を持っているのね……うーん……まぁ無理やり心を変える物でもないみたいだし、効果は弱めなのね……何処かの眷属神の加護かしら?」


 力? 眷属神? なんじゃらほい?


 マジョリーさんの言っている事が分からないので、頬を赤く染めてボーっとしているイクスさんからマジョリーさんの方に視線を向けて首を傾げる。


「あら? 意識して使っている訳じゃないのね……大丈夫よ、悪い能力でもないし、好感度の上がる速度が少し早くなる……いえ、未来の状態を先取りする感じかしらねぇ……まぁ大抵の男女なんて一緒に長い事いれば好意の一つも湧く物だからね、どうせ起こる未来なら同じ事よね」


 うーん? よく意味が分かんない……。


 そのままマジョリーさんの事を見続けるも、詳しい説明はしてくれなかった。


 俺には何かの神の加護がある?


 これが日本で言われたら事ならアホかと思うが、魔法のあるファンタジー世界で凄腕っぽい魔女さんに言われると……。


 ルナは俺の声がお酒のような物と言い、マジョリーさんは好意の先取りという……つまり?


 うん……分かんねぇ。


 加護による魅惑のボイスを持っているイケメンになったとでも思っておこう。

お読みいただき、ありがとうございます。


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