75 鉱山都市で食事
「お酒を扱っている大手のお店はこんな所でしょうか? 意外に早く終わってしまいましたね……えっと……」
イクスさんに案内された酒屋巡りは、主要な大き目のお店の位置を確認するだけなのですぐ終わってしまった。
もうすぐお昼頃かぁ……。
「案内ありがとうございましたイクスさん、せっかくなのでお昼でも食べながら、鉱山都市の見所とかあったら教えてくれませんか? 案内のお礼に奢りますよ」
宿屋でダウンしているローラさんとお世話係のルナには夕飯までには帰るって言ってあるからな、まだちょっと時間があるんだ。
イクスさんはとんがり黒帽子のツバを下ろし表情を隠すと。
「そ、そうですね、時間も余ったのだから勿体ないですしね……」
そう言って俺の提案に乗ってくれるようだ。
恥ずかしがり屋なのか中々顔を見せてくれんよな。
そうして屋台やなんかで食べ物や飲み物とかを買い、市場の端っこにある野外テーブルや椅子が置いてある地点へと向かう。
ここは屋台で買い者をした人が自由に使っていい場所だ。
その中でも日陰になっていて端っこの方を選んで、二人してテーブルに着く。
買った物をテーブルに並べていくのだが……イクスさんの屋台での買い方がすごかった。
例えばスープなら十人前とかで頼んでいくんだよね。
なので……テーブルの上が山盛りの料理でいっぱいになってしまった。
「じゃぁ食べましょうかイクスさん」
「はぃ」
昨日の酒場ではよく分からなかったけど、モグモグとたくさん食べるなぁこの子。
俺がイクスさんの健啖ぶりに感心して眺めていると、その視線に気づいたのかイクスさんが食べるのを止めて。
「あああの……私は種族的にたくさん食べる方でして……おかしいでしょうか?」
ああいや、そういう意味で見ていた訳じゃないんだけど。
女の子が食べている所をジッと見ていたのは失礼だったかもしれない。
「いや、美味しそうに食べるなーと思って見ていただけなんで気にしないでくれ、種族って聞いても大丈夫な話かな?」
一応周囲をチラっと見回してみるも、こちらに注目している人はいない。
座る時にイクスさんが何か魔法を掛けてたし、たぶん軽めな結界魔法だと思うんだが。
周囲から興味を惹かれなくなるような物だと思う。
酒場の時も思ったけど便利だよねそのスキルだか能力、俺も欲しいかもしれん。
「はい、えーと……私はサイクロプス族なんです」
「ああ、一つ目の巨人族だよねそれ、じゃぁその姿は魔法か何かで?」
「はい〈人化〉っていうスキルがあるんですけど、スキルレベルが上がると体の大きさも変えられるんです」
なるほど、ホムラやスイレンさんが使っているスキルと同じ奴だね。
「それなら納得だ、体が大きいならたくさん食べないとね」
「えっとえっと……大きいと言っても私はそんなに大きくないですからね? 人化を解いても見た目のバランスは殆ど……変わりませんし? ちょっと……ちょっとだけ身長が倍くらい高くなるだけですし……あ! いえ! 倍まではいかないと思います! 9割? 増えるくらいです!」
それはチョットと言わないと思うんだが、女子の体重や体形の話で出て来る『チョットだけ』には返答に気をつけろと言われているのだよな……。
「そうだね、となると巨人族としてはまだまだ若いんだねイクスさんは」
肯定も否定もせず無難に話をスライドさせる事にした。
女子の体重や体形や髪形やら、自身の見た目に関しての話は地雷がいっぱいだからな!
匍匐前進をしながら、ナイフで数センチずつ地面を刺して地雷を見つけるような慎重さで行かねばならんのだ……。
「です、マスターに配下に加えて頂く前にいた部族の中でも下の方でしたし」
「あーやっぱりホムンクルスじゃないんだね、なんとなくそんな気配を感じてはいたんだけども」
ダンジョンマスターの本能的な物なのか相手がホムンクルスだと、なんとなー-くそれが分かるというか。
デュラハンのラハさんや、水龍のスイレンさんなんかはルナと同類なんだなって気配を感じるんだ。
イクスさんにはそれがなかったから、何でかなってちょっと思っていたんだよね。
「マスターのナビゲーターホムンクルスはダンジョンコアを守っていますから」
まぁそうか、一番初期から一緒にいるナビゲーターホムンクルスは、通常ならマスターに次ぐ能力を与えられたりするだろうし。
ダンジョンをどちらかが守るのは定石だよね。
俺とルナが二人してダンジョンから離れているスタイルの方が異質という訳だ。
「魔女のマジョリーさんのナビだと黒猫かもね? なんちゃって」
魔女というと黒猫が思い浮かぶのは日本人あるあるだよな。
「っ!」
目の前のイクスさんが息を飲んだ、おや?
「どうしました?」
「ゼン様はマスターをご存知なかったのに、何故ナビゲーターが黒猫型だと知っているのですか……まさか私の思考を読んで情報収集!? ぁ……それだと私が貴方に感じている思いも!?」
イクスさんの思考がとんでも方向へと流れてちょっとパニックになっている。
思考を読むとかそんなスキルがあるのか?
そして俺に対する思い?
新人ダンマスのくせに、フラフラと外を出歩く駄目ダンマスとか思われていたらどうしようか。
っと、まぁ取り敢えずだ。
「落ち着いてくださいイクスさん、まぁこの鳥串でも食べて、ね?」
そう言いつつ、俺は美味しそうな鳥串をイクスさんの口元に差し出していく。
俺が焦った様子を見せたら勘違いに拍車が掛かりそうだしな。
イクスさんはその差し出された鳥串を見てから俺を見る。
そして再度鳥串を見て……受け取らずに何故かあーんと言いながら食いついてきた。
サイクロプスの女の子が釣れたみたいなので鳥串から手を離す。
「もぐもぐ……美味しいです……もぐもぐ」
「俺の故郷だと魔女の使い魔として猫を使うお話とかがあるんですよ、なので当てずっぽうで言っただけなんです、驚かせてしまったみたいでごめんなさい」
どちらが悪い悪くないだのの事実関係に意味はない。
女性に不快な思いをさせたらこちらから謝る、そうした方が丸く収まる事が多いのだ……。
「なるほど……勘違いしちゃったみたいですね……さきほどの言動は忘れてください」
そうやってまた帽子のツバを下げて表情を隠すイクスさん。
「了解、黒猫がナビだって事は忘れるよ」
ダンジョンの守りの要だものな、情報を秘匿するのは当然だ。
「……そういう事ではないのですが……いえ……ありがとうございます……食べましょうか」
イクスさんがこの話は終わりとばかりに食事の再開を提案してきたので乗っていく。
「そうしましょう、港町タタンタだと魚介類を焼いた屋台なんかも多かったんですが、鉱山都市は肉が多いですよね」
俺は積極的に雑談を振っていく事にした。
気まずいままとか嫌だし、せっかく知り合えたのだし仲良くしたいものだ。
ダンジョン関係の話もしたいしさ。
「もぐもぐ……いつか港町とかにも行ってみたいですね……ここは私達のダンジョンから近いから何度も来ていますが、さすがに海までは……海のお魚とか食べてみたいです、もぐもぐ」
「魚介類とかはインベントリに大量に仕入れてありますので、後で……いや……」
俺は話の途中で再度周りを確認する、結界がちゃんと効いていて大丈夫そうだ。
「もぐもぐ、どうしました?」
美味しそうに肉を挟んだパンを食べているイクスさんの前に、インベントリからささっと魚介を使った料理の器を出していく。
「どうぞ」
スプーンも一緒に出してイクスさんの前へと出すそれは。
「これは?」
俺が出した物が何か分からずに首を傾げているイクスさん。
「それは海の魚介類を酢飯に乗せた……海鮮丼という料理です、魚介類には味付けも済んでいるのでスプーンでどうぞ、生の魚が無理そうなら海魚を焼いた物と交換しますけど」
そうは言いつつも、イクスさんに海鮮丼に乗っている具材を一つ一つ説明していく。
色々な種類を一度に堪能するなら海鮮丼はベストだと思うんだよね。
ホタテにマグロにカニに甘エビ、イカにサーモンにブリ、カンパチにイクラにウニと様々な種類が乗っている。
勿論それっぽい味の魚介類って事で、日本のと同じ魚って訳じゃないけども。
イクスさんはスプーンを構え、少し躊躇をした後に海鮮丼を食べた。
「っ! もぐ……モグモグ……ハグハグ……モグモグモグモグ!!!」
最初の一口は甘エビと酢飯を少しだけ、エビは川にもいるから慣れている?
そうやって今は一心不乱に食べている。
……。
あっという間に大きめの丼ぶりが空っぽになっていた。
「どうでしたか?」
「すっっっごく! 美味しかったです! 魚とこの少し酸っぱいお米の相性がすごく良くて……ああ……まだ口の中が幸せです……」
そう言いつつイクスさんは俺をチラチラと見てくる。
「えっと……材料ならあるんだけど、完成した状態のはそれだけしかなくてですね……」
「そう……ですか」
ショボーンと落ち込んでしまったイクスさん。
テーブルの上の料理を寂しそうにしながらも食べていく。
ちなみに俺は殆ど食べていないが。そろそろテーブル上から食べ物がなくなりそうだ。
「また機会があったらご馳走しますから」
「あ……はい! 楽しみにしていますね!」
どうやらイクスさんは食べる事が本当に好きなんだろう。
元気よく答えてくれた。
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら
作品のブックマークと広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただけると嬉しいです
評価ボタンは、作者のモチベーションに繋がりますので、応援よろしくお願いします。
 




