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74 鉱山都市の案内人

「今日はお願いしますねイクスさん」


 俺は側にいる黒のローブを着て黒のとんがり帽子を深めに被ったイクスさんに、そうお願いをしていく。


「ははははい……よろしくお願いしますゼン様」


 イクスさんは緊張しているのか、俺にお願いをしてきた。

 いやいや、お願いするのはこちらなんだが……。


「二人共気をつけてね、イクスは頑張りなさいね~、じゃまた夕方に~」


 そうイクスさんと俺に声をかけると、マジョリーさんは箒に乗って飛んで行った。

 ……結界で気付かれないようにでもなっているのだろう。

 ホムラも飛ぶ時はそんなの使うって言ってたしな、昨日の酒場のも似たような感じなのかもしれない。


 昨日の夜に酒場で話が盛り上がった俺達、俺やローラさんが今日は鉱山都市の中の酒屋を回る話をしたら、イクスさんに案内させるとマジョリーさんが言い放った。


 イクスさんは大慌てで否定したが、マスター命令とか言われてたね。

 この都市にはマジョリー商会の店もあるし、何度も来た事があると言うので頼りにするか。


 と、思っていたんだが、朝になってローラさんが二日酔いでダウン。


 ルナはローラさんの世話をするとかで宿に残ると言い出した……仕方ないので酒屋の場所だけでもチェックしておこうと、イクスさんと出かける事にしたんだ。


「じゃ行きましょうかイクスさん」

「はい、では」


 そう言って何処からか箒を出すイクスさん……。

 箒に跨っていざ飛ぼうとしているのだろうけども。


「あの、俺はどうしたら?」


 いつも魔女なマスターと共に飛んでいるのだろうね。

 イクスさんは俺の言葉を聞くと状況を理解して慌てだす。


「あ! ええと、歩き? いやでもここは都市の外れだし……中央まで乗って行った方が……あのゼン様」


 何故か昨日からイクスさんは俺の事を様付けで呼ぶ。

 いやまぁダンジョンマスターという意味では、彼女のマスターと同格とも言えるんだが……。


「はい、なんでしょうか」

「私の後ろに乗ってください……街の中央部まで飛んで行った方が早いので」


 そう言って箒に跨るイクスさん……いや、後ろって言っても……まぁ乗ってみるか。

 うわ、箒に乗るってすごい頼りなくて怖いなこれ。

 俺は前に座っているイクスさんのお腹あたりを掴ませて貰う。


「ひぃよわぁっ! ……な、なにを? 抱き着くなんてまだ早いですよ!」

「いや、さすがに慣れてないのにバランス取れないですってば、駄目ですか?」


「あ……いえ……もちょっと下あたりなら、はい、その辺で」


 俺は言われた通りに、少し手を下げてイクスさんの後ろから腰辺りに手を置く。

 中学生くらいの身長のイクスさんの腰というか胴部分は華奢で心許ない。

 でも他に掴む場所ないしな……シートベルトが欲しい。


「おわ、浮いてる浮いてる! うへぁ……怖いですねこれ、バランスも……ってあれ? なんか体が固定されているような?」


 少しずつ浮いて行くのだが、見た感じより体が安定している気がする、なんだろこれ?


「くすっ、大丈夫ですか? 飛行魔法とは別に姿勢制御魔法も使っていますから大丈夫なんですよ」


 そう言いながら俺を気づかっているのか、民家の屋根の少し上くらいの低空で飛んでくれているイクスさん。

 優しいね、マジョリーさんなんてすっごい高さまで一気に登っていってたからなぁ……。


 誰も俺達には注目していないので、そっち対策も魔法でされているのだろう。

 隠密? いや結界魔法か? 後は飛空魔法か風魔法か……うーむ分からん。


 しばし家々の上を飛んでいく俺達。

 速度はママチャリの立ちこぎくらいだろうか。


 結界でも張っているのか、イクスさんのとんがり帽子や髪の毛も風に揺らされる事なく整っている。

 普通なら風とかで髪の毛が酷い事になってそうだよね。


 ……。


 道とか関係なしに一直線に飛んでいけるのはいいねぇ、朝日も昇っていてすごく世界が奇麗に感じるひと時だ。


「おーすごい良い眺めですね」


 ホムラの時は怖かったが、これくらいの高さなら落ちても身体能力で受け身を取るなりとかで、なんとかなりそうだから余裕がある。


「ですよね、私も上から見る景色が好きで、飛ぶのが大好きなんですよ」


 イクスさんは、いつのまにか緊張も取れたのか、普通に話をしてくれるようになっていた。

 そうやって景色の話等をしながら街の中央まで飛び、家と家の隙間の裏道に降り立つ。

 そして、箒を〈インベントリ〉に仕舞い結界魔法を解いたイクスさんと、二人して大通りへと歩き出す。


「昨日は荷馬車で結構時間がかかったんですけどね、一瞬でした、すごいなぁ」


「ふふ、空には飛び出して来る子供も、すれ違う馬車とかもいないですからね」


 だよなぁ、特にガキンチョとかがまじで危なかったんだよ。

 交通ルールなんてないからな……一応御者の世界では対面から来た馬車同士なら左に避けるというマナーがあるらしいけど。

 それくらいなんだよなルールがある部分って、歩行者にもルールを作って欲しいと思ったわ。


 そうして、イクスさんに案内して貰いながら酒屋の場所をチェックしていく。

 何件か店の場所を確認して次のお店へと歩いている時に。


「雇い主さんは交易でこの都市に来たんですね?」


 ローラさんがダンジョンとはまったく関係のない事は、昨日ちゃんと説明してある。


「そうですね、タタンタの貿易港で仕入れた物を運んで来たんです、けれど商業ギルドにオークション出品や酒を扱う商会への紹介も拒否されたみたいで……雇い主が鉄ランクっぽいので仕方ないのかもですけどね」


「それはまた……一人前は銅ランクからと言われてますしね……それでも断られるなんて事はあり得ないんですけど……」


 俺の横を歩くイクスさんが、そんな風に訝し気な感想を漏らす。

 まぁそうだよなぁ……俺もカレンさんに頼んでオークションに出品できたしな。


「そうなんですか? いやまぁ……俺も鉄ランクでオークションには出品出来たけど、実績がないと安く落とされるって話があったような?」


「それは仕方ないですよ、実績がない商人の品物は安めになるのはよくある事です、けれど出す事を拒否されるなんて……何を持ち込んだんですか?」


「えっと貿易港ならではの色々なお酒ですね、珍しいのは『守竜酒』でしょうか」


 他の酒の銘柄を知らなかったので、知っている物だけ言ってみた、すると。


 立ち止まったイクスさんがびっくりした表情でこちらを見上げている。

 帽子の幻惑効果のせいか見上げる顔は人間の美少女に見える。


「まさか……少し前に突如数樽だけ鉱山都市トントの商業ギルドのオークションに出されたという、幻の酒である『守竜酒』ですか?」


 は? 幻? なにそれ?


「幻かどうか知りませんけど……十日以上前にタタンタ貿易港の商業ギルドでオークションに出た酒ですね、というか幻ってなんです?」


「タタンタ貿易港でそのお酒を手に入れた商人が、この鉱山都市のオークションに出したんですよ、貿易港を押さえている公爵家が認める逸品らしいその樽を3樽持ち込んだ商人は、一つを開けてドワーフのお偉いさんに試飲させたんです……その結果、一つの樽で金貨5枚の値がつきました」


 ぶはっ! 俺は何かを飲んでなかった事を感謝した。

 水でも飲んでいたら確実に吹き出していただろう。


「金貨?」

「5枚です」


 俺の聞き違いかと一応聞き返したら、イクスさんはかぶせ気味に返事してきた。


 まじかよ……銀貨500枚?

 え? まって商業ギルドの職員は銀貨50枚なら買い取るとか言ったんだろ……。

 ああん? 価値を知っていてそれを言ったって事か?


 あーこれは駄目だ、これはいけませんよ……くそ!

 ここが公爵領ならぶっとばしに行くのに!

 鉱山都市隣の公爵領の街まで、その職員を移動させてからぶっ飛ばすとかどうだろうか?

 駄目か……。


 あの書類が効果あったのは公爵家の領地だからなぁ……。


「そうか幻かぁ……東の国の米酒と似ているって話なんだけどな」


「東の国のお酒を飲んだ事のあるドワーフによると別物らしいですよ? 金貨5枚も品物の数が少ない事を知らない時の値段ですから、情報を仕入れたら最大で5樽と判明し、今は残りの2樽の行方を捜しているみたいでしたが……ゼン様の雇い主がお持ちなのですね……」


「そうだねぇ……いやぁ落札値が銀貨76枚の品が銀貨500枚とかすげぇ効率だな、あやかりてぇ話だ」


「いえ、先ほども言いましたが在庫数を知らない時の値段がそれですので、今ならもっと高く買ってくれるかもしれません」


 ……あうち……女性商人だからなめられたんじゃなく、ドワーフに対しての交渉道具ともなりえる品を押さえておきたかったって所かね。


 普通に事情を言って高く買い取ればいいのにさ、馬鹿な職員だよね。


「ドワーフは酒好きって話だったが、本当なんだな」


「そうですね、あの人達は物作りとお酒のために生きていると言っても過言じゃありません」


 それなら酒を出せばマーメイド用の槍とか作ってくれないかな?

 なんちゃって、そんな上手くはいかんか。

お読みいただき、ありがとうございます。


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