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73 鉱山都市の酒場

「しょれでですね~わらしが女らからなめられたんれしゅよ~」

「はいはい、酷い話ねぇ……よしよし貴方は頑張っているわよー」


「ううう、おかあさん!」

「私は貴方のお母さんじゃないわよー」


 酒癖の悪いローラさんがピンク髪のお姉さんに絡んでいるが、取り敢えずそれは無視してご飯を食べよう。


「マスター、この羊系魔物の煮込みは美味しい、モグモグ」


 ルナが煮込みを食べながら俺にそう教えてくれる。

 まじか、こっちの蛇串より?


「んじゃ一口っと、モグモグ……美味いなこれ!」


 鉱山ダンジョン側の山に生息する山羊系魔物の煮込みは美味かった。

 ちょっと味が濃いけど……そこはほら、酒を飲みながら食う感じらしいから、俺は試しに頼んでみた蜂蜜酒ミードを一口飲む、うーん美味しいね。


「ミードにも合うなぁこれ、こっちの蛇串も美味かったぞ、イクスさんも食べてみるといい」


 俺は、同じテーブルに着いている、帽子をまぶかに被った少女へと蛇の串焼きを進める。


「あ……ありがとうございます、頂きます……」


 小さな声で答えたその少女は蛇串を取って食べているが、帽子のせいで口元しか見えない。

 まだ一度もこの子の目を見てないんだよな、恥ずかしがり屋さんなのかな?


「ふぅ……寝ちゃったわ、この子はいつもこんな感じなの?」


 ローラさんが寝潰れてテーブルに伏せったので、彼女に絡まれていた黒いローブを着たナイスバディでウェーブの入ったロング髪お姉さんである、マジョリーさんが俺に向かってそう聞いてくる。


「いいえ、一回お酒で失敗してからは飲んでなかったですねぇ、今日は商業ギルドで嫌な事があったからかと、酷いギルド員に当たっちゃったみたいです」


「なるほどねぇ……困った話だわね……」


 マジョリーさんは溜息をつきながらお酒を飲んでいる。


 ちなみにこの人ダンジョンマスターです。


 ……。


 出会った時は殺し合いになるかもと思った彼女達と、何故一緒のテーブルで飲み食いしているのか?

 俺はもう逃げるしかないと、ルナの手を握って〈非常口〉の準備をしていたのだが。


 ……ルナは俺の手を振りほどいてナイスバディお姉さんの前まで行き……。


 こんにちはとお姉さんに挨拶をしたんだ……。


 危ないからとルナを追いかけた俺もコントのごとく滑りそうになったよ……。

 度胸があるってレベルじゃねーから……なんで大丈夫だと思ったのかね。


 愛想よくルナの挨拶に応えてくれたお姉さんを見て俺も挨拶をした。


 向こうは俺の事にもっと早い段階で気づいていたようだが、特に思う所はなく放置していたらしい。

 そして気づいたら一緒のテーブルで飲み食いをしていた。


「はーお酒が美味しいわ~、それで~ゼン君はこの都市に何しに来たのかな?」


 お酒を飲みながら俺に質問してくるマジョリーさん。

 ピンク髪でナイスバディのお姉さんだ。

 この人の着ている黒ローブは、体にぴったりとフィットした感じの物で、体のラインが良く分かる。

 そして中学生くらいの背のイクスさんは、ダボっとした黒のローブにとんがり帽子だ。


「ええと、配下用の武器が欲しくてここに探しに来たんです」


 リアやホムラと同じような強いダンマスっぽいし、嘘をついても意味がないので素直に目的を話していく。


「そうね~、ここは良い鍛冶師が揃っているし、新人ダンマスはメニューオークションに使えるDPも少ないだろうしねぇ、どんな武器が欲しいの?」


 ちなみにこんな会話を宿屋の一階の酒場でしていても周りには聞こえてない。

 というか気にされないっぽい。


 マジョリーさんが結界魔法みたいなのをかけてくれたみたいなんだよね。


 ついでにたぶんローラさんが俺達の正体を知らないっぽいのにマジョリーさんは気付いていて、眠るまでそっち系の会話を待ってくれたみたい。


「えーっと、俺の配下に魔法付与された槍かなんかが欲しいんですよ」


「ああ……付与武器は中古で売ってなくはないけど、自分が必要な付与魔法のかかった武具は注文するのが一番確実だものね、ここなら確かに買えるかもだし、それでどんな付与が欲しいのかしら?」


 リアがここに来て注文をしたら買える的な事を言っていたのは、間違いじゃなかったみたいだね。


「ええと……海の中で使える槍が欲しいんですけど」


「海中かぁ……水中用はねぇ……ちょっと今材料が不足気味で難しいかも?」


「随分この街の武器在庫? に詳しいんですね」


「そりゃ私の商会が魔法付与も生業にしているからね、この街にも魔法を付与した物を卸していて、付与を請け負ったりもするわね」


 ……ダンマスが商会を持つのは普通なんだろうか? リアも持ってたし。


「なるほど、しかし材料ですか……ちなみに何が不足しているか聞いても?」


 マジョリーさんは俺の質問に対して答えずに、無言で料理を食べているイクスさんの方に顔を向け。


「イクス、水中用武器の付与に最適な触媒は何かしら?」


「もぐっ! ゴホッゴホッ! モキュモキュゴクンッ、はいマスター、ええと……水の精霊が好む色をした天然石が良いとされています……アクアマリンとか?」


「他には?」


「えとえと……ラピスラズリや……アパタイトとかでしょうか?」


「……ま、いいでしょ」


 マジョリーさんに及第点を貰ってホッっとしているイクスさんだった。

 まぁ口元くらいしか見えないけども。


 しかしなるほどね、天然石に魔力を与えるのは精霊なのかな? ……よくわかんねぇや。


 あ! 天然石で思い出したがメニューオークションへの出品枠の確認とかすっかり忘れてたかも。

 やっべぇ……大量に自動出品させておいたから、現状一日200DPの売り上げ収入があるとはいえ勿体ない事しちゃった。


 新しくダンジョンを構えたし、コアレベルが上がって出品枠が増えてないか後で確認しておかないと。


「とまぁそのあたりなんだけども、今は安くて手頃な付与用触媒が枯渇しかけちゃってね、わざわざこんな所まで直接買いにきたのよ、ダンジョンのオークションで出してくれればいいのに、最近ここのダンマスが出さなくなっちゃったのよねぇ……安めで良い質の風属性の石は在庫もあるんだけどね……」


 へぇ、天然石のダンジョンオークション出品が減っているのか。

 風属性の触媒は何色なんだろな……まぁでも俺が欲しいのは水中用だし水色がいいんだよな?


「てことはマジョリーさん達は離れた場所のダンジョンから来たんですね?」


「そうね、ここから少し離れた『迷いの森』が私の本拠ダンジョンね、商会はこの国に根を張っているから、マジョリー商会をよ・ろ・し・く・ね?」


 うぉぉ! ……ナイスバディの美人お姉さんからセクシーにヨロシクされたらヨロシクするしかねぇじゃんか!

 マジョリー商会ってのを見かけたら贔屓にしようそうしよう。


「あ、はい! よろしくお願いします!」


「ふふ素直で可愛いわ、今は触媒不足で水中用は新人さんに買えるような値段じゃないけど、頑張って稼いで私に儲けさせてね?」


 あーそういや付与術が施された武器やらアイテムはそもそも高いんだったな。


 今は〈インベントリ〉に仕舞っちゃっているけど、空間拡張されたサイドポーチやショルダーバッグも結構お高いんだった。


 しかも触媒不足か……天然石のオークションへの出品はまじでちゃんとチェックしとこう……。


「ふにゃぁぁ! ゼンさんさいこうれしゅ!!」

「キャッ!」


 ローラさんがいきなり起き上がって両手を振り上げて俺を褒めてくれた……寝ぼけているのかな?

 そのまま、またテーブルに伏せって寝てしまったローラさんだが、振り上げた手がイクスさんの帽子に当たって、とんがり帽子を吹き飛ばしてしまった。


 あらら、こっちに飛んできた帽子を拾い上げてイクスさんへと返……。


 わぉ……。


 俺が帽子を拾ってイクスさんへと返す途中で固まった事に気付いたイクスさんは、自分の帽子と俺の顔を交互に見ると顔を手で隠そうとする。


 手で顔を覆っているのに目がはみ出して見えるイクスさん……。

 青紫色のミディアムヘアに包まれた顔の真ん中には大きな一つ目があり、彼女は単眼種族のようだった。

 たぶんこの帽子に幻影効果の魔法が付与されているんだろうね、さっきまでは普通の人種だと思ってたんだけどなぁ。


「いゃぁ」


 小さな声を出して俺の手から帽子を奪うと、イクスさんは黒いとんがり帽子をまぶかに被る。


 っと、この反応は周りの客に気付かれたのか?

 周りを見るも特に異常はない……結界は大丈夫っぽいな?

 マジョリーさんを見るとコクッっと頷いてくれた。


 それならなんで悲鳴を漏らしたんだろ? 帽子がないと目が乾くとか?


 俺が首を捻って考えていると横からルナが。


「マスターは絶対に勘違いをしている、たぶん彼女は目を見られたくなかった」


 目を? なんで?


「なんで?」


 意味が分からないのでルナに聞いてみる。


 マジョリーさんは楽し気に俺とルナの会話に注目していて、特に口を挟む事はなさそう。

 ローラさんは寝ているし、イクスさんは帽子のツバを両手で押さえている。


「人族は単眼種族を魔物扱いする事がある……と前にラハ姉様に聞いた」


 あーそういう……それを言ったらマーメイドだって魔物扱いされたりするしなぁ。


「人族の言う魔物の定義って曖昧だよな……まぁ大丈夫ですよイクスさん、俺は別に単眼種族だからってどうこう言いませんから」


 人族にとって都合が悪ければ魔物、都合が良ければ何々族って感じに呼ぶらしいからな……エルフ族やドワーフ族だって地方によっては魔物呼びされる場所もあるかもしれん。


「少しずれてる……ヒモマスター、彼女の目を見てどう思った?」


 何故そこでヒモをつけるのかなルナさんや! ったく……えーと彼女の目を見て?


 ルナの一言を聞いたのか、体をビクッっとさせて落ち着かないイクスさん。

 ツバを両手で下に引っ張っているから、顔が一切見えなくなってしまっている。


 っと、イクスさんの目はちらっと見えただけだけど……金目でキラキラしていて……。


「金色の中に黒真珠がある感じで……すごく奇麗だったよ?」


 大きいからか光を受けてすごくキラキラしてたもんなぁ……金目だから余計にキラっとしていてまさに吸い込まれるような瞳だったね。


「ウソデス」


 小さな声がイクスさんから聞こえる、いま何て?


「どうしましたイクスさん?」


「私の目が奇麗なんて言う人族がいる訳ないんです!」


 そう言ってイクスさんは、とんがり帽子を脱いでテーブルに少し乗り出すようにして俺をジッと見つめてくる。

 大きくて奇麗な目だなぁ……俺は一切視線を外さずにイクスさんの目を見つめる。

 お花見しているような気分で、ミードをごくりっ。


 あー奇麗な物を見ながら飲むお酒は美味しいね。


「なんで目を逸らさないんですか……なんで私を化け物扱いしないんですか……なんで……」


 イクスさん乗り出していた体を戻し、ストっと椅子に座る。


「だから前から言っているじゃないのイクス、貴方の大きな目は可愛いって」


「それはマスターだから……他の……特に人族は……」


「それも運が悪かっただけだってば」


「でも……」


 魔女子弟っぽい二人の会話を聞いて謎に思う。


「お話中失礼します、もしかしてイクスさんの奇麗な目に気付かない人間がいるんですか? まじで?」


 俺は心底不思議とばかりに質問をぶつける。


「また奇麗って! ……ぅぅぅぅ」


 イクスさんは俺の言葉を聞くと、何故か顔を真っ赤にして帽子を再度深めに被り直してしまった。


「ふふふ、ほらみなさい分かる人には分かるのよ、自信持ちなさいって」


 マジョリーさんがイクスさんに語り掛けるも、彼女は何故か恥ずかしがって縮こまるばかり。


 俺が思うにさぁ……日本の漫画アニメゲーム好きな人とかなら普通に奇麗な目だって気付くと思うんだよね。


 イクスさんの、肩に届かないくらいの青紫ストレートのミディアムヘアはコケシみたいで可愛いし。

 顔の真ん中を占める大きな目は、金目のせいかキラキラと輝き、視線が吸い込まれるがごとくに魅力的だ。

 唇も切れ長で知的さを感じるし……普通に美少女だったよね?


 あーあれか?


 好きな女の子にわざと意地悪する男とかいるじゃん?

 そういうのしか周りにいなくてさ、否定的な事ばかり言われて自分に自信が持てなくなったタイプかもなー。

 日本にもそういう女子いたしなー、そういう子にはきっちり良い所を言葉にして教えていけば、そのうち自信を取り戻すんだけども。


 俺がそんな事を考えながら、マジョリーさんとイクスさんのやりとりを眺めていると。


「マスターは絶対に何か勘違いをしている、賭けてもいい」


 横にいるルナがそう呟いてきた、なんだよそれ。

 俺の予想が間違っているって事?


 でもあんなに可愛い美少女が自信をなくすって事は……うーん、やっぱり好きな子を苛めちゃう系男子のせいじゃないのかなぁ?


 だって他に理由なんてないだろー?



 あ、ウエイトレスのお姉さーんお酒お代わりいくださーい……おーい……あれ?

 ……ちょっと席から離れて注文したら気づいてくれた。


 結界は範囲効果でやっているっぽい。

 ついでに料理やらマジョリーさんのお酒も追加で注文して自分で運ぶ事にした……だって結界のせいで運ばれないかもだしさ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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[一言] オークションとかすっかり忘れてましたわよ お小遣いに比べ微々たる収入になってましたし(
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