72 鉱山都市トント ルナ強化
ガタゴトと荷馬車を走らせて、まずは商業ギルドへと向かうローラさんと俺達。
今はやっと『鉱山ダンジョン』の側にある、鉱山都市トントへと到着した所だ。
いやぁ苦労をした……最初の頃は順調だったのだが……。
日焼けしてお肌がガサついている素朴美少女だったローラさんのお肌が、ツヤツヤプリプリになってしまい。
せっかくだからとルナが軽くお化粧をしたら、かなりの美人になってしまった。
16歳でもお化粧すると大人っぽくなってドキっとしちゃうね。
ルナには化粧水とかの使い方を含めた知識を得させるために〈メイクレベル3〉を覚えさせてたのよね。
ルナ自身はスキンケアだけで化粧はやってなかったんだけども技術はあるんだ。
今までは周りにいる人らも化粧するタイプじゃなかったので、ルナの腕前を披露する場がなかったんだけど、今回は鼻歌を歌いながらローラさんに化粧していたっけか。
ルナもそういうのが好きだったんだなぁ……もうちょっと年頃の女の子として扱わないといけないかもしれない。
そんな訳で美人になったローラさんは目立つ。
そして俺達に注目されると、弱めに使っているルナの〈隠密〉も意味をなくして超美少女であるルナの存在にも気づかれてしまう……その結果どうなったか?
悪党ホイホイ状態でした。
街中の悪党なら、ぶちのめしてからドリル嬢の書類をかざして衛兵とかに引き渡す。
勿論悪党から慰謝料はしっかり貰っておく。
街から後をつけたりして街道でどうにかしようとしてきた奴らは俺が先行してナイナイしたし。
野営に無言で近づいて来るようなのはファンファンに暗闇でナイナイして貰った。
そうしてローラさんに、それらで得た戦利品の売却を頼んだ。
街の店で戦利品買取の値段交渉をして貰う代わりに、ローラさんにも何割か渡すという契約だ。
俺は捨て値でも良かったんだけど、ローラさんが許してくれなかったんだ。
……おかげで存分に値段交渉の出来たローラさんは、満足して笑顔も多くなり素敵な美人へと……そして悪党ホイホイが強化される。
てな感じがずっと続いたんだよ……。
で、鉱山都市に着く直前に気付いたんだ……化粧しなければよくね? って。
俺が二人にそう言ったら、やっと気付いたと二人に言われた。
どうもわざと囮になっていたようで……元々鉱山都市に着いたら派手目の化粧はやめる気だったんだってさ……。
野営時に野盗を見てお漏らししていたローラさんは何処行った……。
なんで喜々として悪党を集めているのよ君は……取り敢えずルナには頭のコメカミをグリグリしてお仕置きしておいた。
そういうのはちゃんと俺に相談してからやりなさい! ってね。
今は商業ギルド裏の駐車スペースに荷馬車を置いて、ローラさんがギルドの中へと商談に行っている。
俺とルナは荷馬車に乗ったままでお留守番。
……。
……。
しばらくして、商業ギルドから外に出て来たローラさんは少し不機嫌だった。
「何かありましたか? ローラさん」
荷馬車の御者席に座っていた俺の横に、ドスンッとローラさんが座る。
「私の商業ギルドランクが鉄だからオークションへの出品は出来ないって言われました、珍しいお酒があるなら商業ギルドが買うぞって『守竜酒』に銀貨50枚を提示されて……私が若い女だからって足元を見ているんですよ……悔しい……」
あらら……ここで俺が商業ギルドのランクが黒鉄鋼だからといって手伝ったら意味ねーよな。
本当ならローラさんのお父さんは見知った村々を巡らせるつもりだったんだろうからなぁ。
実績もない鉄ランクで金貨が飛び交うオークションに参加か……うーん、俺は可憐なハーフエルフのカレンさんだったから可能だったけど。
提示された買取値段を見るに、外れな商業ギルド員に当たったんだろうな……。
「外から来た私が街の中でドワーフ個人に直接営業をかけるのはマナー違反なんですよね……かといって個々の酒店に売りにいくのは……それでも銀貨80枚以上にはなると思いますが、オークションでドワーフ達に味見させたら倍以上はいけると思ってたんですよぉ……」
銀貨76枚の倍だとしても……銀貨152枚か、俺の中ではひと樽で銀貨10枚くらいのイメージなんだけどな……。
「どうしますか? 露天市が立つ日とかに売りますか?」
何処の街でも何日かごとに露天市みたいなのがたつのが定番だ、そこで出店料を払えば法律に違反していない物なら売れる……違法薬物とか塩とかは禁止だけどね。
「うー……せっかく仕入れ代金をいっぱい手に入れたのに……」
ローラさんは右手を口元に寄せ親指の爪を噛みながら唸っている。
相当悔しいみたいだ。
ここまでの道行で戦利品売り上げが銀貨一千枚を軽く超えていて、ローラさんへの分け前でも銀貨300枚以上になる。
……悪党狩り美味しいなぁ……まぁドリル嬢からの書類が力を持つ公爵領内だから無茶出来たってのはあるけども。
「失敗もまた経験のうちですよ、今は何処かに宿屋を探しに行きませんか? それとも野営しに外に出ますか?」
「そうですね……明日は都市の酒場とか酒を売っている店に交渉しに行ってみましょうか……あー荷物を預かってくれる所も探さないと……うう……お酒保存用の消費型冷却魔法陣も買い足さないと、はぁ……臨時収入がなかったら赤字ですねこれ、交易って難しいですね……」
ものすっごい落ち込んでいるローラさん……ルナがどうにかしろと荷台からブロックサインを送ってくる。
どうにかって、どうしろってんだよ、と視線で返事する。
そうしたらルナが荷台の酒を動かすようなジェスチャーを……。
ええ? 道具類は拡張が付与されたショルダーバッグやリュックサックから出している偽装をしてたんだけど。
さすがに酒樽や酒瓶を荷台にある分全部入れるのは規格外な拡張品に見られちゃうんじゃ?
……あーつまりそういう事か……まぁいいか、ローラさんにはお小遣いたくさん貰っているしな。
「荷物は俺が預かりますよ、荷馬車と馬だけ預かってくれる宿を探しましょう」
そう言って、そういったたぐいの宿屋が多い、敷地スペースが広い外周部方面へと荷馬車を走らせて行く。
カッポカッポゴロゴロと移動を開始した荷馬車の御者席で、ローラさんが不思議そうに。
「荷物を預かるって……荷馬車に置いてある拡張リュックは沢山入るみたいでしたが、お酒はそれなりの量がありますし……余裕ありますか?」
心配そうに、そして少し期待している声色で俺に聞いてきた。
「いえ、実は俺って空間系スキル持ちなんですよ、拡張バッグやリュックやポーチは偽装用なんです、周りには内緒でお願いしますね、ローラさんだからこそ教えるんですよ?」
街中だと人が飛び出したりしてくる事もあり得るので、操車に集中しながらローラさんと会話していく。
「空間系!? わ、私だから!? そそそれって……あのその……う! ドキドキが! ……取り敢えずこれを!」
「街中で周りに注意しながら操車している時に銀貨を受け取るのは危ないじゃないですか、手綱から手を離せないので俺のポケットに入れて貰えます? ありがとうございます」
……。
……。
そうしてローラさんとポツポツ会話をしながら、俺のポケットがチャリチャリ鳴る頃には、都市の端っこにある荷馬車なんかを預かってくれる宿屋についた。
指定された厩舎に入ったら、ささっと荷台にある荷物をインベントリに仕舞ってしまう。
ローラさんには事前に教えていたけどびっくりしていたね。
商売人なら誰もが欲しがるスキルだからな。
その宿屋は見た目はおんぼろだが掃除はちゃんとされている、そんな宿屋だった。
3階の部屋を二つ取り、少し休憩をしたら夕飯を食べに宿屋の一階の酒場で集合だ。
……。
部屋で少し休んでから食堂へと向かう。
俺とルナはここでも台所が借りられないかとか雑談をしながら、一階へと階段を降りて行く。
……。
すると、夕方になり酒場はほどほどに埋まっていて……って……ああだめだ。
これは駄目だ……。
俺の中のダンジョンマスターの能力が言っている……あそこに座っているのは同族だと……。
先に食堂に来ていたローラさんが一つのテーブルに座っており。
その隣のテーブルに黒いローブを着た二人が座っている。
一人はウェーブのかかったピンク色のロングヘアで、ナイスバディの二十代に見えるお姉さん。
もう一人は、つばの広い黒のとんがり帽子をかぶっている中学生くらいの少女。
その少女の帽子とローブの組み合わせは、まるで漫画に出て来る魔女のような……。
リアに初めて会った頃とは違い、様々なスキルを手に入れた今の俺だから分かる。
お姉さんの方は強者の気配がする。
……少女の方はなんとか逃げるだけなら……いけそうか?
だが、あのナイスバディなお姉さんは無理だな……。
最近リアやホムラから感じるのと同じで、頂きの見えない山のような気配だ。
俺はいつでも〈非常口〉で逃げられるようにルナの手を握る。
申し訳ないがローラさんは置いていくしか……ここの鉱山ダンジョンのダンマスはノームで外に出て来ないから安全だとリアは言っていたんだが……。
あの魔女っぽいダンマスはどう見てもノームとは思えない。
つまり鉱山ダンジョンではない他のダンマスって事だ。
ダンマスの中には他のダンマスを狩る存在もいるとリアは言っていたっけか……。
くそ! 俺はどうしたら……。
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