70 駄目ですか? 駄目です。
「駄目ですか?」
「駄目です」
ローラさんのお願いに俺は否と返す。
ゴトゴトカッポカッポと二頭立ての荷馬車を操り街道を進んでいる中の出来事だ。
「駄目ですか?」
「駄目です」
何度目かのローラさんのお願いに否と返す。
「駄目ですか?」
「駄目です」
いい加減に他の会話をしたい俺がいる。
「投げ銭を増やしたらおっけーなんて事は?」
「ありません」
俺は別に金を貰ったら何でもするマンという訳じゃないからね?
「はぁぁぁ……女子に希望の星を見せておいて拒否するとか、ゼンさんは酷いですよぉ」
御者席に隣り合って座る俺に恨み言を言ってくるローラさん。
でも駄目です、だってたぶんオッケーしたらリアに怒られるから。
「ほら、ちょっと触ってみてくださいよゼンさん、一晩使っただけでこれなんですよ?」
そうやって手綱を握る俺の片方の手を取り自分の頬を触らせてくるローラさん。
うん、しっとりしていてプニプニだね。
なんとなくガサついてたローラさんのお肌が、しっとりプニプニの赤ちゃんみたいな肌になっている。
前に膝枕をした時に見たら、外にいる事の多そうなローラさんのお肌は、日焼けやらで乾燥したりガサついてたりで少し気になっていたので。
お肌に良い成分が入っているという化粧水と乳液のセット商品を、ダンジョンメニューで購入してプレゼントしたんだ。
昨日の夜ルナに使い方を聞きながら試したみたいなのだが、今日の朝になってお肌がすごい事になったと興奮しっぱなしで……。
「何度言われても、あれで大々的な商売をするつもりはありません」
つまりそういう事で、自分が販売を請け負うので卸してくれないかと頼まれていたのだ。
「ぶー、乙女の肌を触っておいて酷い話です」
貴方が勝手に触らせたんじゃないか。
「売り切れて自分の分がなくなっても良いんですか?」
「え? それはまずいですね! ……でもゼンさんとルナちゃん達って隣国の商人ですよね? 次に買えるのはいつになるのか……」
「それは御心配なく、タタンタ港の代官様に御贔屓にされまして、これからもちょいちょい行くつもりですから、ローラさん相手ならいつでもあげますよ」
二カ月くらい使えるセットで100DPだしな、ことあるごとに投げ銭をしてくるローラさんならタダでもいいさ。
「あー、ゼンさんが街でちょっと衛兵と揉めた時に見せてた奴ですね、まさかドリエール様と懇意にしているなんてすっごいですよねぇ……さすが私の推しです!」
揉めてたとは失礼な、悪党とつるんでた奴をぶちのめしただけじゃんか。
街を歩いてた時にからんできたアホウをぶっ飛ばしたら、俺を拘束しようとしてきた兵士がいたんだよね。
明らかに悪党と組んでたので、そいつもぶっ飛ばしたら他の衛兵も出て来たので、あからさまなのは同じようにぶっ飛ばして、理由が分かってなさげな兵には手加減をしたんだ。
そんで騎士っぽい偉い人が出て来た時に俺が見せたのが、公爵家の紋章とドリル嬢個人を示す紋章が押された書類だ。
その内容はドリル嬢が俺の人物保証をする事と、そして俺が公爵家の領内で何か事件に巻き込まれたら必ずドリル嬢に報告すようにと書かれている。
これはつまり報告をせずに勝手に処罰とかをしたら、ドリル嬢にケンカを売る行為に他ならない物で、公爵家の領地だと絶大な威力を発揮する物だ。
んで俺は騎士さんにぶっとばした奴等が悪党とつるんでるっぽい事をきっちり説明をしたら、騎士さんが激怒、倒れている衛兵を拘束して運ばせていた。
気づいてなかったぽいね、まぁ地元の人間を雇っている下っ端兵士と、遠くから人事異動で来る騎士とかだとそういう事もあるよね。
俺もちょっとだけ尋問につきあってあげて、その兵士が尋問で白を切ろうとした時に〈気迫〉を使っておもいっきし戦意をぶつけてやったら、ペラペラと今までの悪事や悪党仲間云々の話をきっちり話してくれた。
衛兵の悪事が色々と知れた事で、騎士さんには感謝されたっけか。
とまぁそんな訳で、鉱山都市の手前までは公爵領っぽいので、すごいありがたいアイテムをドリル嬢に貰った事になる。
まぁ俺がいなくなるとホムラが気に入っている酒が手に入らなくなるからって理由なんだろうけどね……ドリル嬢はブレないからなぁ……だからこそ信用も出来るんだけどね。
「ローラさんはドリエール様の事はご存知なんですね、やっぱり有名なのですか?」
「そうですね……代官としては民に公平ですし不正を許さない姿勢は商売人には有難いですから……個人としてはまぁ……推しを崇拝する気持ちは私も理解したので……そういえばなんで隣国のゼンさんがお知り合いになれたのですか?」
ドリル嬢って代官として慕われてるのかね?
実際の仕事は周りの内政官とかがやっているんだろうけども……まぁ下手に悪党をのさばらせてホムラに迷惑をかけるのが嫌なんじゃねーかなぁとかは考えすぎかね?
「ドリエール様とはお祭りの時に少し知り合って少しだけ商売の取引をしたんですよ、そうしたら何故か気に入られたみたいですねー」
ホムラの事とかは言わんでいいよね。
「お祭りの時もゼンさんいたんですか……まさか何処かで歌っていたとか!?」
「いやいや、屋台の手伝いをしてたんです」
「なるほどーちなみに取引をした商品ってのは何なんです?」
「ん? ああ、お酒とかですかねー」
「……」
ローラさんから返事がなく雑談が止まってしまった。
どうしたんだろ? っと街道の真ん中に岩が落ちてるな。
馬や車輪で踏まないように気をつけねば。
「ドリエール様公認の『守竜酒』は祭の後に急に出てきた……そしてゼンさんは珍しい物を扱う商人でドリエール様との取引はお酒……」
あ、やべ、荷馬車の操縦に気を取られて雑に情報を出し過ぎたかもしれない……ここは撤退だな。
「すみませんそろそろ荷馬車で休んでいるルナと護衛を交代しますね」
そう言って俺は操っていた馬を一旦止めようと……ローラさんに腕をガシッっと掴まれた。
「このまま行きましょう、私は少しゼンさんとオハナシがあります」
ひー! ローラさんが装備の買取値段交渉していた時の商売人モードになってしまっている!
むぐぐ、しかし俺も商人の端くれ、情報のやりとりや交渉で負ける訳にいかん! 受けてたってやるさ!
……。
……。
――
――
負けました!
「成程、つまり『守竜酒』はやはりゼンさんが持ち込んだ物だったんですねぇ」
「ハイ」
「在庫、まだありますか?」
「アリマス」
「では鉱山都市についたら、その時にある資金全てを使って買いたいので、お願いしますねゼンさん!」
「銀貨76枚で?」
俺はローラさんがオークションで競り落としたという値段を言ってみる。
ローラさんはニコニコ笑顔を向けてくる、うん、怖い。
「では値段交渉を始めましょうか? ゼーンーさんっ?」
ひぃぃ!!!
……。
……。
装備屋の店主の気持ちが少し分かったかもしれん。
ローラさんは基本ポンコツだけど商売においては……やり手だったようだ。
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