64 リアに相談とゼンの資質 ルナ&ゼン強化
「それで、もう仕入れの旅が終わったの?」
俺の前で芝生に直で横座りしているドリアードのリアが、チビウルフの頭を撫でながらそう質問してきた。
ここはいつもの樹海ダンジョンの奥深く、リアが管理する庭園の触れ合い魔物園での話だ。
「いやそれがさぁ」
俺は芝生の上にあぐら座りをしながら、そこに乗って来ているチビトレントの葉っぱの剪定をしながら話をする。
〈剪定レベル3〉の効果やいかに。
む、ここの葉は色が悪いな、パッチンッ。
うーむ、さすがにダンジョンメニューで買ったお高い剪定用ハサミだけあるな、使い易い。
「それで? 話の途中で止まらないでよ、気になっちゃうじゃないの!」
リアはアホツル毛で俺の頭をペシペシしながら話の続きを催促してくる。
ちなみに今ここにいるのは俺とリアだけだ。
ラハさんはダンジョンの調整のお仕事。
そして俺と同じように〈水泳レベル3〉〈潜水レベル3〉を付与したルナは、セリィとダイゴを連れて島の入り江で遊んでいるはずだ。
安全のためにセリィとダイゴにも〈水泳レベル1〉を付与してあるし水着もプレゼントしてある。
マーメイド達にも面倒を見て貰うように頼んであるし安心だ。
入り江でマーメイドが引っ張るバナナボート浮き輪に乗る遊びとかを俺もしたかったんだが、ちょこっと相談のあった俺はリアに会いにきた訳だ。
「俺って仕入れの旅に出た事にしたじゃんか?」
「そうね、〈孤高〉の縄張りである隣国の港町まで行ってきたんでしょう? まぁそのおかげでここが海臭くなったんだからね? ……お寿司弁当は美味しかったけども……」
リアは魚介類を大量に持ち込んだ時の事を思い出したのか、少し不機嫌になってアホツル毛で再度ペシペシと俺の頭を叩いてきた。
鑑定のために魚介類を何度も何度も大量に持ち込んだのは悪かったと思っている。
うちのコアメニューで食材の簡易鑑定を出来るようになったし、同じ事は起きないから安心してくれ。
「ホムラに乗って飛んで行ったのは良いんだけどさぁ……考えてみれば普通は地上を行くだろ?」
「まぁそうねぇ、ここから隣国の港町まで果物を運ぶキャラバンを組んでいくとすると……結構日数かかるわね……」
リアは俺が言いたい事をすぐ理解してくれたようだ。
「そうなんだよ、つまり商材の仕入れという用事は終わったんだが、普通ならまだ港町に着いてすらいねーはずなんだよな、これで今帰ってきたら日数的に怪しいだろ?」
「なるほどねー、それなら港町からノンビリと地上を移動して寄り道しながら帰ってくればいいんじゃない? どうせ〈ルーム〉があればいつでもここに来られるんだし」
リアは欠伸をしながら答えてくる。
その下ではチビウルフがお腹を丸だしの格好で寝そべり、リアにお腹を撫でられて幸せそうにしている。
「いや、だってさぁ隣国はリアの縄張りじゃないだろ? ホムラの縄張りも管理が面倒なのかあんまり広くないみたいだし、地上を出歩いて他のダンジョンマスターに目を付けられたら危なくねぇか?」
俺が心配なのはそこなんだよなぁ……人類としてはそこそこ強くなったけどもダンジョンマスターとしてはどれくらいなのかが分からんから無理できんのよ。
「街道を移動するだけなら別に大丈夫じゃない? ダンジョン以外を縄張り主張出来るのってそれなりに強いダンマスだけだし……というかねゼン」
リアが真剣な表情で俺に向き合う。
チビウルフはその気配を感じてなのか、起き上がるとリアから離れて行った。
「なんだ?」
「貴方もう個人の強さなら中堅のダンマス並みに強いからね?」
んん? リアが訳の分からない事を真剣な表情で言ってくる。
「はぁ!? そんな訳ないだろ? だって俺はまだこの世界に降り立って二カ月ちょいくらいの新人ダンマスだぜ?」
「……よく考えてみなさいよ、ゼンがこの世界に来てすぐダンジョンを作ったとして、二カ月でどれくらいのDPやレベル上げの経験値を稼げると思っているのよ、勿論私や〈孤高〉に出会っていない想定でね」
ふーむ……剪定を一旦終わりにしてチビトレントを脇に置き、リアの言った事を考えてみる。
この世界に降り立ってダンジョンを作る……あれは街道の側だったし、すぐダンジョンを作ってたら詰んでたよな?
魔素湧きスポットなんてそう簡単に見つからんから、人里に近い場所に移動して作ったとして、時給10DPちょいって感じだろうから……。
うーん、一日の収入が300DPくらいのダンジョンになるか?
……うわ、やっす! なにそれ怖い……。
二カ月で一万八千DPって、リアからのお小遣い魔石一個分にもならないじゃんか!
そして助けもなく自力で倒せる魔物で上げられるレベルってーと……他の人のダンジョンに入らないなら、レベル10になるのすら無理じゃねぇか?
「新人ダンマスって辛すぎないか? 天然湧きの強い魔物から逃げつつ、慎重に弱い魔物を狩ってレベルをちびちびと上げながらDP稼ぎもしないと詰むとか……きつすぎない?」
「その通りよ、だから新人ダンマスはある程度淘汰されるし、上手く生き残っても強くなるのには時間がかかるものなの、それなのに数百万DPを湯水の如く一瞬で使い切る、レベル30越えの新人ダンマスとか他にいないからね?」
数百万DPなんて使おうと思えば一瞬だったもんな。
他にはいない程すごい新人だなんて。
「いやーそんなに褒められても困っちゃうな」
「褒めてないわよ! あのDPの使い方に呆れているのよ!」
リアがアホツル毛でピシッと突っ込みを入れてくる、ちょっと強めの威力だった。
「痛っ! ……つまりだ、普通なら年間10万DPの収入でダンジョンを運営していて、レベルも10前後くらいなのが新人ダンマスなんだな……そんな中で俺はもう数十年分のDPを使った事になると……でもほとんどが〈ルーム〉の入口に使っているし、中堅は言い過ぎじゃね?」
「だってゼンはダンジョンの防衛や管理にDPがいらないじゃないの、普通はまずダンジョン整備やそこを守る魔物を召喚するのにDPを使うはずなのよ……ダンジョンの維持管理費も馬鹿にならないのよ?」
「ああ……言われてみればそうだな、そして冒険者や野良の魔物の侵入者があれば防衛用魔物の召喚やらを繰り返す羽目になるのか……新人ダンマスって辛くないか?」
「だからそう言っているでしょうが! ……ゼンはおかしいのよ、だって守るべきダンジョンが存在しないんだもの、いつでも閉鎖して逃げられるとかありえないんだから!」
確かに! 今所有している島もホムラの縄張りのお陰で侵入者とか来ないから、配下のレベリングに程良い場所って感じだしな……。
いや、むしろ奇麗な砂浜に露天風呂とかあるし……高級リゾート地というべきか?
それに配下がダンジョンで魔物やら生物を倒すと、少しだけど経験値が入ってくるから。
島の配下達に余裕がある時は、中央のログハウス付近のダンジョンまで弱らせた魔物を運んでから倒させている。
なので、ちょびっとずつ俺というかコアに基礎経験値が入っているんだよなぁ。
「じゃまぁダンジョンに入らなければ街道や街とかは自由に動けそうな事は分かった……それなら港町を出てから少し何処かで時間を潰すべきなんだが……何処か良い場所ないかな?」
話を戻して時間を潰すためのお勧め場所をリアに聞いていく、そもそもこれを相談したかったんだ。
「お勧めと言われてもねぇ、私は滅多に外に出ないし……うーん……そういえばマーメイドの一族を配下にしたから海の中で使える槍が欲しいって言ってなかったっけ?」
「ああ、そうなんだけどな、港町とかで売っている槍はちょっと違うってマーメイドに言われてなぁ」
マーメイドのマリーにいくつか買って来た槍を見せたんだが、海中で使うにはあんまり良くないっぽいんだよな。
そりゃそもそも地上の人間相手に売っている品物だしな。
「それなら隣国の港町から北上した所にある鉱山都市とかどうかしら? 良質な素材が出る鉱山型ダンジョンがあって、優秀な鍛冶師が集まっているらしいわよ? オーダーメイドで頼んでみるとかどう? ついでにルナちゃんに似合う装飾品でも買ってあげなさいよ、可愛いやつよ!」
マーメイドの武器云々はどうでも良くて最後のルナの話がしたかっただけなんじゃなかろうか。
「ダンジョンがある所なのか……大丈夫? そこのダンマスは俺みたいに温厚で優しいまともなダンマスだったりする?」
俺の質問に対してリアは心底理解出来ないという表情をする。
その時のリアのアホツル毛はハテナマークになっていた。
「ゼンがまともなダンマスかは置いておいて、そこのダンマスはノームだわね、滅多に外に出ないからダンジョンに入らなきゃ大丈夫よ」
何故置いておく? 自明の理じゃんか。
ノームって精霊だっけ? リアにその辺りを聞くと、これくらいと示された背丈が1メートルもないくらいで、ずんぐりむっくりして目が髪に隠れている四頭身くらいの小人だそうだ。
ドワーフとは違う種族らしい、うーん、異世界よくわかんねぇなぁ……。
「じゃまぁ近くまでホムラ便に運んで貰おうかな」
俺が旅程を考えて呟いていると、リアが変な顔して俺を見てきた。
「なんだ、どうしたリア、俺に何か言いたい事でも?」
「いえね……ゼンって誰かに何かを頼むのをまったく躊躇しないなって思って」
ホムラに運んで貰う事? だってそりゃ――
「うちのヒモマスターは、人に何かをして貰う事に対して恥ずかしいとか遠慮とかそんな感情は一切ない! 痺れるくらいのヒモ度! 私でなければ見捨てられちゃうね?」
俺の後ろからルナの声が聞こえた。
「いやルナさんや、別にちょっと移動を頼むくらいヒモと――」
「ルナちゃん! それ新しい水着ね! 超絶可愛らしいわ! くぅ……海水で濡れていなければ抱きしめるのに! それでどうしたの? 私に会いたくなったから来たのかしら?」
俺がルナの物言いに反論しようと振り返る途中で、リアに突き飛ばされた……。
迂回していけばいいじゃんかよ……突き飛ばされた先で俺が起き上がると。
水着姿で少し濡れているルナと、そのすぐ側で手を伸ばしつつすぐその手を戻すリアが会話している所だった。
リアは海水が苦手なのかな?
「それでルナはどうしたんだ? 入り江で何かあったのか?」
リアとルナの会話を中断させて、ルナがここに来た用件を聞いていく。
「もうすぐお昼ご飯だからヒモマスターを呼びにきた」
ありゃもうそんな時間か、てかヒモをつけるのはやめなさい。
「俺はヒモじゃないと何度言えば……」
「ヒモマスターは自分の資質を理解していない」
「資質? なんじゃそりゃ……」
「マスター」
「なんだルナ」
「リア姉様にお小遣いを強請ってみて、一分以内に」
いきなりルナがよく分からん事を言ってきた。
まぁいいかルナの頼みだし、ええと。
「なぁリア、お小遣いくれないか?」
「急に何を言い出すのよゼン、理由もなくあげる訳ないでしょ?」
リアに断られた、あと50秒か。
「でもこれは可愛いルナに頼まれた事なんだぜ? 今日のルナの水着可愛いだろ?」
「例えルナちゃんに言われた事でも、そう簡単にはダメよラハも煩いし、控えめにいって最高の水着ね!」
やっぱ断ってくるよなぁ? うーんあと35秒か。
「これはダンジョンメニューで買った新しい水着だ、つまりリアのお小遣いがDPならばルナの可愛い水着のバリエーションが増えるって事だな、しかも今ならなんと! ダンジョンメニューでルナに着せる水着を選べる権利が貴方の物に! これはお買い得!」
「それを先に言いなさいゼン! これでいいわね!? 嘘だったら本気で怒るからね!」
リアが自身の〈インベントリ〉からお小遣いな魔石を出して、俺に渡してくれた。
この大きさと艶だと……3万DPくらいだろうか? ジャスト一分の出来事だ。
俺はその魔石をルナに見せつつ。
「リアからお小遣い貰ったけどこれがどうしたんだ?」
先程のお願いの真意をルナに尋ねてみる。
「……それがマスターの持つ資質、そろそろレジェンドを名乗ってもいい」
?
ごめん、ルナが何を言いたいのかまったく分からん。
……だがまぁ詳しい事を聞く前に、俺の首を絞めつつあるリアのアホツル毛が怖いので、ダンジョンメニューでルナ用の水着をリアに選ばせようと思います。
……。
俺のメニューは俺の近くじゃないと出せない訳で、今は芝生に座った俺の後ろにピタッと体をくっつけて俺の肩に顔を乗せたリアがメニューを睨みつけるように真剣に見ている。
「ゼン! これとこれはキープで! 次のページをお願い!」
リアにメニューを弄れる権利を渡す訳にもいかないので俺が操作している訳だが……長くなりそうだ。
ルナには、長くなりそうなのでご飯は庭園で食うと伝えた。
そうしたら、何か適当に作ったら持ってくると言って、ルナは〈ルーム〉に帰って行った。
「これもキープね! というか可愛い水着が多すぎでしょう! ……次のページよ! ゼン早く!」
俺の側じゃないとメニューは出せないからしょうがないとはいえ。
……ちゃんと見ようと後ろからグイグイと体を寄せて俺の耳の側でそう言ってくるリアなんだが……。
胸がね、俺の背中に当たっているんですよ。
……ドリアードの特徴のある緑がかった肌は、もちもちしていて柔らかい。
これを指摘したら俺はきっとお空の星になってしまうんだろうなぁ……。
「これもキープで! 次のページお願いよゼン!」
もうすでにキープが二桁を超えるんですが……。
あの、だからねリアさん、ピタっとくっ付き過ぎで近すぎなんだってば。
後ろから見られるんだからそのままでいいじゃん!
前に回って来ないでください!
子供じゃないんだから俺の膝に座ろうとしないでください!
……もうラハさんでもルナでもいいから誰か助けてくれ……。
お読みいただき、ありがとうございます。
すべての話にサブタイトルを付ける事にしました
以前の話も最初の数話以外サブタイトルを付けました
少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら
ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただけると嬉しいです
評価ボタンは、作者のモチベーションに繋がりますので、応援よろしくお願いします。




