62 守竜ガチ勢のドリル嬢 ゼン強化
はぁ……昨日の寿司パーティは楽しかったし美味かったなぁ……。
日本とは魚の種類が違うからあれなのだが、マグロのような魚はマグロと表現する事にする。
寿司が食いたくて色々魚を獲って来て貰った時に、ホムラから体長30メートルを超える角が付いている魚を提供されたんだよ。
んで、リアの魔眼鑑定やらをして貰い、人間種が生でも食える事が分かったので刺身味で食ってみたら……見た目と味がマグロだった。
しかも赤身から大トロまで満遍なくあるという最高級のマグロ……。
値段の書いてないような寿司屋なんて、小学生時代に爺ちゃんと一緒に近所にある個人がやっているお寿司屋に連れていってくれた時と。
後はまぁ大学時代に奢って貰った時くらいしか行った事ないんだが。
兎に角、過去に食べた事のある記憶の中でも、トップクラスに美味いマグロだったのを確信している。
そんな感じでマグロ、サーモン、イクラ、ハマチ、ブリ、イカ、タイ、ホタテ、エンガワ、アジ、コハダ、イワシ、卵焼き。
あまりにも美味しくて皆いっぱい食べたいのに、寿司を握るのがルナだけなので、殺気だった打ち上げ会になった……。
スイレンさんの理不尽な能力を見ているマレーさんやアルク君は大人しかったけど、ヒグーさんは結構ぐいぐい来てたね。
ホムラとスイレンさんもバクバクとルナが握る側から食べちゃうので、皿が流れてこない回転寿司屋みたいな事に……。
仕方ないので俺がルナを手伝って巻き寿司を大量に生産する事で、アルク君やマレーさんにも多少は握り寿司が行き渡るようになった。
その時にこっそり自分用に〈調理レベル3〉は取りました。
いやホムラよ、美味しかったからって、自分の手持ちの魚介系オヤツを全部寿司にしてくれってのは無理だろ。
こないだ貰ったマグロだって、人間形態なら多分一生分食えるくらいの量があるんだぜ?
ってよく考えたら一生分の高級大トロが俺のインベントリの中にあるのかぁ……寿司がいつでも好きなだけ食えるくらいになると、お金持ちになった気がするのは庶民出身だからかねぇ?
「ちょっと! 私の話を聞いていますの?」
俺がソファーに座り昨日の寿司パーティの事を思い出していたら、対面に座っている竜巫女服金髪ツインテドリル貴族令嬢が声を荒げてきた。
聞いてるよ、聞いてるけど面倒くさいから、ちょっと昨日の楽しかった思い出に浸ってたんじゃんか。
「聞いてますよドリル様」
「さっきからなんでそうやって呼ぶのよ! ……確かに私の名前はドリエールだけど、愛称を呼び合うような仲ではないでしょうに! ってそんな事はどうでもいいから質問に答えて!」
本当なら今日のフリマ市に、ルナと一緒に掘り出し物を探しに行くはずだったのによ。
この領主の娘に呼び出されちゃったんだよね。
ホムラ達の飲み食いの代金を払うからってさ。
後で行くと言ったら、他に話もあるから今すぐ来いって兵士に無理やり……。
そんでたどり着いたのが、この貿易港にある領主の別荘の館だ。
このあたりの管理者は公爵様で、この貿易港はその人の領地の一部らしいよ、そりゃまぁ優良な貿易港なんて高位貴族が抑えるよね。
公爵は王都か公都にいる事が多いらしく、代官として側室の子供である三女のドリル嬢がこの貿易港を治めているらしい。
まぁまだ若いので周りに優秀な内務官とかを揃えているのだろうけども。
そんでこのドリル嬢は、ホムラがやけに俺やルナに親し気だった事が気になるらしい。
嫉妬ですか?
この応接室な部屋の壁際には何人も護衛や内務官や執事が控えているし、嘘をつくのは悪手だよな……。
となると。
「ドリル様はあの方の正体にお気づきなのですよね?」
質問に質問で返して場を整える。
「そうね、そういう言い方をするという事は貴方も気づいたのね……目端の利く者や古くから住んでいる者なら知っている事だわ、勿論あの方に自由に過ごして貰うために極力接触せず放置する事になっているのだけれど」
……酒を差し入れて同じテーブルに着き、相手の顔を興奮しながら見つめる事を放置と言うのだろうか?
俺が首を傾げていると、その内容をなんとなく察したのか、ドリル嬢は頬を赤くしながら。
「わ、私はいいのよ、領主の娘だし? 竜の巫女だし? あれはお詫びだったし?」
「お詫び?」
慌てて弁解しているドリル嬢に俺は一言だけ発し、そして後はただじっと見つめる事にした。
「……」
「……」
「……あのハゲ商人の被害にあった人達には、没収した財産から謝罪金は出す予定だわ」
「ありがとうございますドリル様」
おー、ヒグーさん達もこれで安心だな。
やるねドリル嬢、伊達に髪の毛がドリドリしてないね。
「なんでかしら? ……愛称で呼ばれているのに馬鹿にされた気分になるのは……」
「気のせいです、さて、私はあの方に宝物やらを代金にお酒を提供する約束をしておりまして、その時の代金がまぁ……すごく分かりやすい物ですので……」
そう言って軽く視線で許可を取ってから、テーブルにホムラの洞窟にあった螺鈿細工の文箱を〈インベントリ〉から出して置いた。
「これは東の国の……ちょっと!」
ドリル嬢が近くにいた人に声をかけると、その執事っぽい人が螺鈿細工の文箱を確認していく。
「確かにこれは守竜様に奉納した物でございます」
そう言って、またドリル嬢の背後に戻っていく執事さん。
「なるほど、でも貴方は隣の国の商会なのでしょう? これを見ただけで分かるものかしら?」
さすがに俺の事は調べているのか、それならと再度許可を取り〈インベントリ〉からホムラのウロコや爪を出していく。
「こ、これは! まさか守竜様の!?」
そのウロコを手に取り興奮しているドリル嬢は再度執事を呼び。
それらが恐らくホムラの物であろう事を執事から聞くと。
「確かにこれを対価に出されたら気づく者もいるわよね……守竜様は今まで代金にウロコ等を出したりはしなかったのですが、その辺りの事情は聞いているのかしら?」
冷静に話をしているように聞こえるドリル嬢だが、爪とウロコに頬ずりしている……。
俺が周囲の人を見るとそっと視線を外される。
うん、もうこのドリル嬢の趣味は諦められているのだな。
「私が提供する酒を気にいってくれたようでして、ウロコや牙や爪にも価値があるから酒に交換できる事を教えると、生え代わりで落ちた奴なんかを全部頂けたのです」
まぁ順番はちょっと違うが間違ってはいない話だからいいだろ。
というかホムラにとっては何の価値もないものだから、今まで使われなかったんじゃないかな。
「なるほ……ちょっと待ちなさい貴方! 全部? 今全部とおっしゃいました?」
いきなり超真剣な表情でそう聞いてきたドリル嬢。
あーそういや、ウロコとかがたくさん揃っていると高く売れるって、可憐なギルド受付嬢のカレンさんが言ってたっけか……まずったかな?
「言いましたね、それが何か?」
「……買います、守竜様のウロコは全部私が買い取ります! 値段は好きにつけなさい!」
うーむ、やはりこうなってしまったか……いやまぁ金を出してくれるならいいっちゃいいんだけど、そのせいでダンゼン商会の名前が売れすぎるのが嫌なんだよな。
「お嬢様、さすがにお嬢様のお小遣いでそこまでの量は買えません、一枚で我慢してください」
執事っぽい人がドリル嬢を窘め始めた。
おや? お小遣い?
「なんでよ! 守竜様のウロコがたくさん手に入るのよ? 爪も牙も! それらを使って寝具を作ればいつでも守竜様と一緒に寝られるじゃないの! この屋敷を売ってでも手に入れる価値はあるでしょう!?」
……ドリル嬢は混乱しているようだ。
スケイルメイルとかでなく寝具かよ、こじらせてるんだなぁこのドリル嬢。
そしてこの屋敷は公爵の持ち物だろうに、三女にそんな権限はないんじゃねーかなぁ……。
「うう……目の前に守竜様の匂いの染み付いた素材が唸っているのに……いえ……そうだわ」
何かすごく良い事に気付いたという表情をするドリル嬢。
碌な事ではなさそうな気がする。
「ねぇ貴方、えーと確か……ダンゼン商会のゼンだったかしら? 貴族になる気はないかしら?」
「貴族ですか?」
貴族籍で釣って献上させようってか、でもそういう任命権って公爵が持つからドリル嬢では無理なんじゃないかな?
「そうよ! 私は公爵家の令嬢と言っても側室の娘で母の家の爵位は低いの、それでも私の夫になれば最低でも準男爵の位にはなれるわよ!? どうかしら?」
結婚かよ!
ホムラのウロコ寝具のためにそこまでするか?
俺は困って周りの人達を見る、が、やっぱり目を逸らされる……。
公爵令嬢が馬鹿な事を言っているんだから止めてやれよ!
「お嬢様、さすがにそれは許されません」
お、執事さんナイス! 常識人が一人だけいたようだ。
「だめかしら?」
ドリル嬢が執事さんに聞いているが、駄目に決まってますよねぇ執事さん。
言ってやってください執事さん!
「はい、お嬢様は社交界デビューもまだの11歳ですから、結婚は後一年お待ちください、今は婚約に留めておくべきでしょう」
全然常識枠じゃなかった! てかこの国の貴族の結婚早いな!
「確かにそうね! ではゼン、私と婚約して持参金として守竜様のウロコや爪などを私が受け取るという事でいいかしら?」
「いいかしら? じゃねーよ! 良い訳あるか! 誰か止めてやれよ!」
俺は不敬を承知で叫んでしまうのであった。
俺の叫びを聞いてガーンッとショックを受けて固まるドリル嬢。
そして周りの人間は込み上げる笑いを必死に抑えている。
……執事はドリル嬢をからかってたの?
愛されてるのか苛められているのか……まぁ前者かなぁ……ったく冗談きついっての。
結局ウロコは一枚だけお近づきの印にとドリル嬢に献上した。
その時すごい喜んでくれたのだが、話を聞くに、どうやらお小遣いがきつかったようだ。
ホムラへの差し入れの酒や屋台での食い放題のお金も、お小遣いから出したんだってさ……。
身銭を切ってもてなすのが真の守竜ファンという事か。
一応街の予算の中には守竜対策用の物もあるみたいなんだけどね。
その熱いファン魂を聞いた俺はドリル嬢に一つの提案をした。
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