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61 守竜祭二日目

「はーい、持ち帰りタコ焼き5人前ですねー、器は自前で? はい、銅貨25枚のお支払いお願いしまーす」


 俺は元気よく声を張り上げて値段を告げていく。


 今日は守竜祭の二日目だ、一日目に少しトラブルがあったが、その後は特に問題なくタコ焼きもあら汁も予定を大幅に超えて売り上げている。


 昨日店じまいした屋台を掃除していたら衛兵がやって来て、あのハゲ商人の事を教えてくれた。

 この街で最近急激に勢力を伸ばしていた大店(おおだな)だったのだが。


 今回の事で領主の娘である竜巫女金髪ツインテドリル嬢に目をつけられて厳しく詮議を受けたら、出るわ出るわの悪事がいっぱいで、犯罪奴隷としての鉱山行を検討されているとかだそうだ。


 これで嫌がらせも減るだろう……なくなるとは言わないよ、獣人に対する偏見が人間種から消えた訳じゃないからね。


 そんな事を考えながらも目の前に並んだお客に対応しつつ、次々とタコ焼きやあら汁を売っていく。


 早朝から早めに来てルナがたくさん焼いておいたんだが、もうすでにインベントリの中の物はなく、焼き上がり待ちだ。


 ちなみに祭は三日間あって。


 一日目は守竜様への感謝の舞いを捧げ。

 二日目が屋台の売り上げ勝負結果を夕方に出して。

 三日目が蚤の市というかフリーマーケットというか、大々的な市場が開放される。


 その日だけは街の中にある屋台の売り上げ税が免除されるので、一般参加でお店を出す人も多く。

 広場や通りに屋台や敷物をしいた個人のお店なんかが出店するらしい。

 俺とルナはこの三日目をすごい楽しみにしている。


 フリマっぽいなら掘り出し物とかあるかもだしな、三日目のたこ焼き屋台は任意なのでお休みにする予定。


「……それでまた来たのかよホムラは」


 ルナがタコ焼きを焼くのを持っている間は暇なので、近くにいたホムラに声を掛けた。


「別にええじゃろうが、ここは色々なつまみに困らんし、頼めば買ってきてくれるし、酒は美味いしで天国じゃな、毎日祭にすりゃええんじゃないかの?」


 そんな訳にいくかあほう……てか今まで守竜祭に来た事ないのか?

 ……祀っている相手にまったく認知されてなかったとか、悲しみしかないな。


「良い考えですわ! さっそくお父様に相談しておきますね」


 そしてまともに取り合うなよドリル嬢。


 ……屋台の横の空きスペース。

 そこに作ったその場で食べる人達用のテーブルの一つにホムラがいるのだが。

 何故かその席に貴族令嬢な竜の巫女服姿の金髪ツインテドリル嬢さんがいるのよな……。


 今はマリーもスイレンさんも座っていない。

 というか他の屋台を見に行ったスイレンさんのお供に、マーメイド族の長のマリーが付いて行っている。

 どちらも世間知らずだからちょっと心配なので、アルク君とマレーさんにお世話を頼んでいる。


 ヒグーさんは片腕を怪我しているので行列の整理係だ。


 さて、そしてホムラとドリル嬢だ。


 ホムラが一人で飲み食いをしている所に、昨日ご迷惑をかけたお詫びとかなんとか言ってエールの大樽を数個プレゼントしつつ、いつの間にか相席しているのだ、このドリル嬢は。


 大雑把なホムラはまったく気にせずに、貰った酒樽からエールを注いではタコ焼きやらをつまみに酒を飲んでいる。

 迷惑かけられたのは俺やヒグーさんもなんだがなぁ……。


 ドリル嬢は強烈な守竜ガチ勢とも言うべきなのか、ホムラの邪魔にならない程度に会話しつつ、うっとりとホムラを見つめている。


 おっと、たこ焼きが焼きあがったようだ。


「はい次の方お待たせしました、持ち帰り3人前ですよね、持ち込みのお皿貸してください、はい、銅貨15枚でーす」


 俺が並んだお客さんの列をさばいていると。


「む……ゼンよ、焼きあがったならこちらにもくれんのかの?」


 お前にはさっき10人前やっただろうが!


「さすがに食い過ぎだ、また今度やってやるから今は並んだお客さん優先な、どうしてもってんなら列に並べ」


「むう……仕方ないのう、スイレン達の土産を待つとするか」


 ホムラは特に気にせず酒を飲む行為を再開させたのだが。


「そこの店主、こちらのテーブルにそのタコ焼きとやらを出しなさい」


 ドリル嬢が俺の方を向いて真面目な顔をして言ってきた……。


「いや、だから並んでる人優先だって言っているじゃないですか、えーと竜巫女さん?」


「な! 私は領主の娘でこの街の代官ですよ? その命令が聞けないと?」


 うっさいなぁ……ホムラに渡して好感度を稼ごうとしたんだろうけども、こっちは忙しいんだっての。


「なあホムラ、順番に列を守って飯を買おうとしているのに、横から列に潜り込んで順番を無視する奴をどう思う? そいつのせいでお前に来る飯の順番が一個後ろに下がる訳だが」


「儂の前にかえ? そんな奴がいたらブレスで一息じゃな」


 うんうん、いい返事を貰えた、ホムラの言葉を聞きながらドリル嬢の方を見ると青い顔をして縮こまっている。


 まぁ追い打ちは止めておこう、取り敢えずインベントリから枝豆と、後はスルメや氷下魚等の乾物でも出しておくことにした。


「ありがとさんじゃゼンよ! こいつらをちょいと焼くと美味いんじゃよな」


 ホムラは口から小さな火を噴いてスルメを炙っている……こら! 人間は口から火を噴かない生き物ですよ!


 それを見たドリル嬢さんは青い顔から、またすぐにうっとりとした表情へと戻っていた……ぶれないね君。


 ただしその前にドリル嬢が、俺の事をジッと見てきていたのが少し嫌な感じだったけど。


 そんな時にザワザワと、騒ぎの声が祭のメイン会場の方から聞こえてきたのでそちらを見る。

 すると……人々の頭上に大きな大きな水の塊がフヨフヨと浮いている……あちゃぁ……。


 大きな水の塊の下には勿論知り合いがいる訳で。


 その下をニコニコ笑顔のスイレンさんと、短い時間なのにげっそりとして疲れていそうなマレーさんやアルク君とマリーが、沢山荷物を抱えてやってきていた。


 ホムラのいるテーブルの側に来た彼らは、荷物をドンッドンッと置いていく。


 水の塊の中には酒樽と思しき物が10個くらい浮かんでいたんだよね……スイレンさんはインベントリがあるはずなのに使わんかったのか……。


 食い者やらの荷物をテーブルいっぱいに並べたマリーが俺の側に来た。


「申し訳ありませんゼン様、お預かりしたお金を全て使ってしまいました……」


「ああ、それはいいんだけど問題は起こらなかった?」


 元々今回マリーに渡しておいたお金は、ホムラの宝物の中にあった物だから、あいつらの飲み食いに使うのなら問題はない。


「えっと……ナンパ? というのでしたか? 蛇……スイレン様に声をかけた若者が何人か吹き飛ばされたくらいでしょうか? なので特に問題はありませんでした」


 ニッコリ笑顔で報告をくれるマリー。


 いやそれは十分問題なんですが……マリーもあんまり人社会に慣れてないっぽいし仕方ないか。


「マレーさん達が頑張ってくれたんだろうね、マリーも食べてくるといいよ……あ、でも、お酒は島に帰ってからな」


「はい、人の世だと若い見た目で飲むのはおかしいんでしたっけ? ご飯だけでも嬉しいので問題ありません」


 そう楽し気に宴の席へと着くマリー。


 マリーを見送った俺は、げっそりと疲れていたマレーさんやアルク君に、お礼を言いつつ屋台の仕事に戻るのだった。


 ……。


 ――


 ――


 そして夕方、屋台の方は全て売り切ってしまい、今は広場中央にある舞台に乗った巫女服金髪ツインテドリル嬢が屋台の人気ランキングや売り上げランキングを発表している。


 ……うちの屋台は人気投票が5位で売り上げは10位にも入らなかった。


「うーん、勝てなかったなルナ」

「残念……自信あったのに」


 俺とルナががっかりしていると、横にいたヒグーさん一家が。


「いやいやゼン殿にルナ師匠、この沢山の屋台の中で人気投票5位はすごい事なんですぜ? 売り上げも17位は新参がいきなり入れる物じゃないんだ」

「うちの旦那の言う通りですよ、わたしはびっくりしたよ、まさかこんな事になるなんてねぇ」

「列整理大変だったけど売り上げすごかったよね! 友達に自慢出来るかも!」


 彼らがそう言っているので、実はすごい結果だったらしい。


 まぁ単価が安くて焼き上げるのに時間がかかるから、量がさばけない事を考えるとそうなのかも?

 というか師匠? いつのまにルナの弟子になったんだ貴方は……。


 ちなみにアルク君の言う通りに、列整理はまじで大変な仕事なんだよね。


 何故ならこの世界はきっちり列に並ぶって文化が浸透していないからで、その都度言わんと横入りとかしてくる奴が結構いるんだよ。

 まあ今回はヒグーさんの強面が大変役にたった。


 しかしそうかぁ新人でこの成績なら良い方なのか。


「そうなんですか? ならまぁ成功って事だな、掃除と片付けしたら帰って成功の打ち上げしようぜ」


「了解マスター、ここは仕込みも終わっている寿司で行く! キラーンッ!」


 ルナが自分の目の横からピースをあてるポーズを披露しながら自信満々に宣言してくる。

 そのポーズ買い物の時もやってたけど気に入ったの? たしか前見たアニメの奴だっけか?


 寿司の件は海鮮が取れるならと前から準備していたんだ。

 スイレンさんやマーメイド族に頼んで色んな魚を獲ってきて貰って、リアの魔眼で鑑定して貰ってと、ちょいちょい準備はしていた。

 庭園が魚臭くなるとリアは嫌がっていたけど、後で寿司弁当を差し入れするから勘弁してくれ。


 安全に食えるかどうかを詳細に鑑定出来るスキルって意外となくてさ……鑑定の魔眼は高いらしいんだよな……まだうちのダンジョンコアメニューには出て来てないし。


 コアメニューの簡易鑑定に食材限定鑑定の拡張をしちゃうか?

 鑑定出来る範囲が増える部分が食材限定っぽいし、それ以外の素材に使えなさそうな割りに拡張DPが高いし。

 尚且つ鑑定するたびにそこそこDP食うらしいから、コスパがあれかなぁと思って放置してたんだが……。


 またDP貯金がカラッポになるけど……うーん、よし! ルナの美味しい飯を優先にするか、後でとっちまおう。


「んじゃそれでいこうかルナ」

「合点承知!」


 なんだっけそれ、前に見た時代劇の中のセリフだっけか?


「当然儂らもいくぞ!」

「ゼン様お仕事終わりました? なら私と乾杯しましょう!」

「さすがに食べすぎでお腹一杯なので私は帰ります……」


 ホムラやスイレンは元気一杯、マリーはちょっと疲れているかな。

 お疲れ様マリー、島に戻って休んでくれ。


 さてと掃除して片付けしたらヒグーの宿で打ち上げだな。

お読みいただき、ありがとうございます。


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