60 たこ焼きと酒と
「なんだこの不味そうな屋台は!」
俺達の店の前で豪華な服を着た商人が叫ぶ。
まぁ俺やルナは完璧に無視をし、たこ焼きを焼いたり掃除をしたりしている。
ただしヒグーさんは殺気だってその商人に近づいてしまった。
ああ、駄目だよ。
そういうのは無視して衛兵とか呼んだ方がいいんだって。
そしては始まる口ゲンカ、ヒグーさんの体の大きさとか見て怖くないのかね、2m以上ある熊獣人に迫られたら俺ならビビるけどね。
おっさん商人の取り巻きのチンピラ達は……立ち回りを見るにレベル10を超えたあたりかね?
何人か戦闘系スキルの低レベルを持っているかな? って程度だ。
ぶっちゃけ10人近くいるけどルナ一人でも勝てる。
以下ちょっとハゲた豪華服おっさんとヒグーさんとのやりとりを抜粋すると。
「そんな不味そうな物を出して守竜様に失礼だろう」
「食ってもいないのに批判するなハゲ」
「まともな食材を買えてないから美味いはずがない」
「やはりお前が仕入れを邪魔していたのかハゲ」
「流通を監視していただけだ、私はハゲてない、剃っているだけだ!」
「ハゲの治療薬を探しているのは皆が知っているんだハゲ」
……ヒグーさんが嫌がらせを受けたのって獣人への差別もあるけど、心無い言葉のせいもあったりなかったりしない?
そんなギャーギャーと屋台の前でうるさい中。
「うるさいのう、客じゃないならのいてくれんか?」
そう言って赤い髪で赤いドレスを着たグラマラス美女が俺達の屋台の前に現れた……ホムラだね。
その後ろにスイレンさんとマーメイドのマリーまで人化した姿で来ている。
マリーはログハウスの管理人に任命した時にプレゼントした可愛い洋服を着ていた。
マリーの身長だと子供用とか書いてあるのが丁度良くて、色々メニューを見せたらあれが良いって言うもんだからさ……マーメイド一族の中で一番の年上っぽいんだけどな。
……オシャレな小学生って感じで似合ってはいるけどもね……。
そして口論している二人を押しのけてホムラが屋台の前にやってきた。
「いや何しにきてんだよお前は……」
守竜祭に本人が来ちゃっていいのかね。
「なんじゃい、ええじゃろが、ゼンとルナが屋台を出すと聞いては食いにいかねばなるまい、取り敢えず10人前おくれ」
「まいどありー、ほらマスターも! お客様だよ!」
タコ焼きを焼いているルナが威勢よくホムラに応え、横にいる俺のわき腹を肘撃ちでつつく。
まぁ客とも言えるか。
「それもそうだな、ではたこ焼き10人前ですね、この場で食べて木皿返却なら銅貨50枚、お持ち帰りなら木皿込みで銅貨70枚です、自前の器があるなら持ち帰りでも銅貨50枚でいけますよー」
木の皿が結構高くついちゃうんだよな……さすがにここで日本産の使い捨て容器を出す訳にもいかないしさ。
「む? 金を取るのか……金の類は全部ゼンに渡してしまったしのう……儂のおやつでもここに出せばいいかの?」
やめなさい!
ホムラのおやつってめっちゃでっかい魔物だろ?
祭がパニックになるわい……でもくれるというなら後で貰おうじゃないか。
まぁホムラの場合、ウロコやら牙や爪やらを貰っているから料金なんて正直どうでもいいんだが、さすがにハゲ商人の前で金も受け取らずに品物を渡す所は見せられないだろ?
「あ、あの火……こちらをお使いください」
火竜といいかけて止めたマリーさんは状況をよく理解しているね。
そして自分がピアスにしている真珠をホムラに差し出す。
「む? すまんの」
ホムラがマリーに礼を言いつつ真珠を受け取り、それを俺に渡してくる。
いつか見せてくれた見事な大きさの真珠のピアスだ、まぁいいか。
俺がピアスを受け取ろうとすると、ヒグーさんとの言い争いを止めてこちらを伺っていたハゲ商人が真珠を見て近づいてくる。
「その大きさの真珠は滅多に出回らない……ああ! よく見たら貴方はマリー殿! いつもの小汚い恰好とは違っていたから気づきま……コホンッ……その大真珠は私が買い取ってあげましょう、いつものように酒瓶1本……いや2本出しますぞ!」
おい……例の悪徳商人ってこいつかよ……。
マリーはにっこりと笑い。
「いえ、貴方とはもう取引はしませんのでおかまいなく」
そう言って断っていた。
ホムラから渡された真珠のピアスだが……この場で買い取ったとして計算するか……銀貨10枚くらいか?
この世界には真珠の養殖があるのか?
そして魔物の貝だとどれくらいの確率で真珠が取れるのか?
とか、まだまだ未検証なんだけど、適当に計算してマリーに銀貨を渡す。
どうせホムラじゃ管理できないだろうしな。
「な! 今まで取引してやった恩も忘れて、そんな不味そうな物を出す屋台の店主と? ふざけるな!」
またしてもギャーギャーとうるさく喚くハゲ商人。
もう五月蠅いなぁ、屋台の前のホムラがイラっとしてきているのが分かる。
ここでブレスとか吐かないでね?
「守竜様の祭だというのに問題を起こしているのはここですか!」
そこにまた新たな登場人物が飛び込んでくる。
新たな登場人物は、竜巫女の服を着て金髪ツインテドリルな少女であり。
その少女が衛兵を沢山引き連れて来たようだ。
うわ……関わりたくない相手がきちゃった……。
領主の娘と衛兵の出現に、ハゲ商人は我が意を得たとばかりに自分に都合の良い話をしていく。
自分が不味そうな飯を出す屋台を注意したら、熊の獣人に反抗されて脅された。
こんな不味そうな食い物を出すのは守竜様への不敬だ。
商売の取引相手をそこの屋台の店主が騙して奪った等々。
まぁそんな話の間に俺はホムラにたこ焼きを出していて、お代はマリーから貰った感じに見せている。
ホムラがパクパクと勢いよくたこ焼きを食べていくので。
ワンコ蕎麦か? という具合にホムラにお代わりを次々に渡しつつ、スイレンさんとマリーにも渡してあげよう。
ハゲ商人の話を聞き流しつつ、金髪ツインテドリルは俺達の様子を見ていた。
「これは美味いな! さすがルナの作る料理じゃ、これは腰を据えて食わねばな」
「美味しいです! あのゼン様……お酒は売ってないのですか?」
「あっつ! ひゃんさまほれすふぉくあふいれす」
あ、マリーにはちょっと熱かったか。
マリーには氷を入れたお茶を出し、ホムラとスイレンさんにはこの世界のエールを出してあげる。
すると二人は喜んでエールをグビグビと飲み始める。
「衛兵、このハゲ商人と仲間をすべて捕まえて牢に入れておきなさい、後で厳しく詮議します」
金髪ツインテドリルの命令を聞いた衛兵が、素早く取り巻き含めハゲ商人達を捕縛していく。
ハゲ商人はぎゃいぎゃい喚いていたが、衛兵に猿轡をされて運ばれていった。
ドリル嬢がホムラに近づき。
「お騒がせしました、ぜひこのお祭りを楽しんでくださいね」
そうホムラに向けて声を掛けるのだが、その頬は赤く視線はただひたすらにホムラを見ている……。
……さっき聞いた話によると、ここの領主の娘は守竜様に入れあげていると聞いたし……。
うん、こればれてるなぁ……そういやホムラは奉納された宝を人の姿で換金して金や酒に換えると言っていたしな。
そりゃ……ばれるよね。
分かっていてあえて放置しているのかも、だって守竜様だものな。
そしてドリル嬢は俺の方を向くと。
「店主、この御方の払いは全てこちらで持ちますので好きなだけ食べて貰ってください、代金は後でこちらに請求しなさい」
そう言ってきた。
「いいんですか? すごい食べるかもしれませんけど」
「構いません! これは私の家が治める土地の祭で迷惑者が出たお詫びですので、お好きなだけ食してください」
セリフの最後の方はホムラの方を向いて言うドリル嬢だった。
熱狂的なファンがアイドルを見る目だなこれ。
そしてお詫びはホムラだけにしかしないようだ、まぁいいけどさ。
「うむ、感謝するぞ娘よ! ん? ……おぬしとは前にも似たような事が……まぁよいか、ゼンお代わりじゃ!」
おい、前にも似たような事があったのかよ! 気づいてやれよ。
有象無象はどうでもいいってか……ってホムラに袖にされたのに何故かうっとりとした表情でホムラを見ているドリル嬢さん。
「はぁ……んんっ……では失礼します」
立ってホムラを見ていただけなのに、頬が真っ赤で息が荒くなっているドリル嬢さんは、貴族らしい礼をしてから離れていった。
ホムラやスイレンさんとマリーは、屋台横の空いているスペースに木の椅子とテーブルを出してあげたら宴モードに入ってしまった。
たこ焼きだけでなく、あら汁も美味い美味いと言ってエールと交互に飲んでいく……。
呆気に取られてその様子を見ていたヒグーさん一家には、お金を渡して串焼きとか他の屋台の物を買ってきて貰い、ホムラ達の宴を豪華にしていく。
周りからも視線が通る位置で、是非とも楽し気に食いまくって貰おう。
そんな楽しそうな宴が見えたのか、しばらくするとたこ焼きとあら汁屋台にお客が来はじめた。
そして一口食べてから出るおおげさともいえる『美味い!』の叫びに、お客の列がどんどん長くなっていく。
正直ちょっと想定外のお客が集まり始めた。
ヒグー一家の皆で列整理お願い!
それとあら汁は後100杯くらいで終わりって言って回って!
あまりの客の入りに自分達にたこ焼きが回ってこなくなったホムラ達が悲しそうにしている……。
意図せずともサクラを頑張ってくれたホムラ達には、インベントリに入っているルナお手製のおつまみを分けてあげた……俺の晩酌用だったのだが仕方ない。
あ、スイレンさんカンパイはホムラとお願い、今の俺は酒を飲む余裕がないので。
祭はまだまだ始まったばかりだ。
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