57 新たな配下
「どうかこの海に住まわせてください! 生贄なら私がなりますので、お願いします!」
マーメイド達の長と名乗った金髪でちょっと幼い体形のマリーさんを筆頭に、彼女らは浅瀬に乗り上げて皆で俺に向かって頭を下げている。
オフショルダービキニ水着を上に着て、下はスカートっぽい水着を着たマーメイド達が、一斉に頭を下げている訳だ。
そっとDPの残高を見たら結構な額を使われたみたいだった。
高い水着を買ったなルナの奴……6万DP近く吹っ飛んでいる。
海から上がった彼女らを見ると、下半身な魚部分のウロコの色も髪の色と同じなのだと気づく。
さらによくよく見ると、彼女達の髪を縛っているリボンが水着と同じ布地の子がいる……。
それ、下のスカート水着の一部を切り取った部分?
いやまぁ足が分かれてない人魚が、水着として使えない部分を有効利用したと言えばそうなのかもだけど……後で普通のリボンとかをプレゼントしてやるか。
って今はそんな事いいんだよ! ……何この状況?
マーメイド達が悲壮な表情で整列したと思ったら、俺に向けて一斉に頭を下げて来たんだけども……。
「スイレンさん、何て言って彼女らを集めて来たの?」
取り敢えず事情が分からんので、確認してみようとスイレンさんに質問を投げかけた。
「この島の主になるゼン様がお会いになるので、一族全てを引き連れて来なさいと命じただけです」
ああ……なるほど。
「えーっと、マリーさん達マーメイド達とスイレンさんの関係を聞いていいかな?」
「私の縄張りに勝手に住んでいる者、でしょうか?」
スイレンさんが特に何を思う感じもなくそう言ってのける。
彼女らに興味がないのが丸わかりだ。
そして金髪マーメイドのマリーさんは。
「蛇竜様の縄張りの隅っこに住まわせて貰っていました……蛇竜様が様付けをするお相手に呼び出されたので、その……私達にはもう行ける場所がないのです、どうか! どうかここに住まわせてくださいまし、ゼン様!」
おーけー理解した。
彼女らとスイレンさんは殆ど交流もなく、強大な力を持つ蛇竜の縄張りの隅っこでビクビクしながら住んでいたって所か。
そして今回スイレンさんが島の主だの様付けだのをした俺の前に連れ出されてテンパっているんだな。
それにしても生贄ってなんやねん……いや、この世界の常識なのかも?
「あーいやマリーさん、俺は火竜のホムラからこの島を借りただけの存在でな、ご近所に住んでいる言葉で交流が可能な存在に会ってみたかっただけなんだよ、スイレンさんも別に追い出したりしないよな?」
金髪マーメイドのマリーさんに説明をしながら、スイレンさんに聞いてみると。
「そうですね、今まで通りこちらの迷惑にならないのなら、特に排除する理由はないかと」
スイレンさんはまったく興味なさそうだよなぁ……。
「マスター、配下を召喚せずとも彼女達を雇ってしまえば地の利に長けた水中戦力ゲット」
俺のナナメ後ろにいるルナがそんな提言をしてくる。
あーなるほど、すでにレベルもある程度高いだろう彼女達なら、初期経験値をコアから分けなくてもいいのか……ふむ。
「俺が彼女達を勧誘してもスイレンさんは構わないかな?」
一応スイレンさんの縄張りの子達だからね、確認しないとな。
「問題ないです、ですがマーメイド達がゼン様の配下になるのですか? ……それなら、守ってやらねばいけませんか……」
スイレンさんのその呟きに、金髪マーメイドのマリーさんは目を見開いている。
「俺はこの島の借主になる訳だけど防衛用の配下を欲しているんだ、どうかな、マリーさん達は俺の配下になる気はあるかい? 配下になる場合は契約魔法で縛る事になるし……勿論断ってくれていいよ他にも当てはあるから」
俺はどっちでもいいかなーって思いつつ、軽い感じで勧誘してみる。
「あの、配下になれば売られたりはしないのでしょうか?」
マリーさんが心配げに聞いてくるのだが。
「売る? さっきの生贄って話の奴か、意味が分からんのだがマーメイドって売買されてるのか?」
スーパーの鮮魚コーナーでマーメイドが氷の上に寂しそうにたたずんでいるのを想像してしまった。
……買って保護したくなるなそれは、でもそのお隣に並べられたアジやヒラメも美味しそうだ。
「人族は私達マーメイド族を観賞用にと攫っていきますので……」
ああ……売り買いってそういう……。
「マスター、なんて酷い事を……」
ルナがショックを受けた様を見せながら一歩俺から離れた。
「しないよ!? なんで俺がやったみたいに言っているんだよ! 配下になったら普通に島の警備とか防衛とか雑用とかそういう事をして貰うんだってば!」
「後は魚介類の獲得もお願いしたい」
ルナが俺の後に続いて要望を入れていた。
それもありだな、魔物は普通に美味いのが多いし、魚介系魔物とか超楽しみなんですけど。
ポカーンと俺とルナのやり取りを見ていたマリーさん達マーメイド。
だが、しばらくすると一斉に頭を下げてきた。
「どうか私達一族をゼン様の配下に加えてくださいまし! よろしくお願いします!」
「「「「「「「「「「お願いします!!!!!」」」」」」」」」」
どうやら雇えるようで、マーメイド部隊ゲットだぜ!
「ゼン様、新しい配下の獲得おめでとうございます、それでその……私はお役にたてましたか?」
スイレンさんがモジモジしながら俺に聞いてきたので俺は。
「ええ、スイレンさんのおかげで役に立ちそうな配下を手に入れる事が出来ました、あー……新しい配下を迎えたお祝いでもしましょうか? 乾杯しながら」
「ハイ! ゼン様!」
大輪の花が咲く如くの笑顔で元気よく返事するスイレンさんだった。
……。
――
――
お祝いという事でマーメイド達に海鮮を獲って来て貰い、それをルナが浜辺に出した〈ルーム〉扉の中で調理している。
そんなルナの美味い料理を肴にして砂浜で宴を開いている。
マーメイドのほとんどは人化出来ないので、下半身の魚部分をピッタンピッタンさせながら波打ち際での乾杯だな。
だがそんな中、マリーさんは下半身を人化させて歩いている。
人化はある程度年月を得てレベルの上がったマーメイドじゃないと難しいという話から、長である見た目ツルペッタンな幼げマリーさんが一番年上だという事が判明してしまう。
「ええ? マリーさんって一番年上なんですか? ……ちなみにおいくつで?」
マリーさんはにっこりと笑って具体的な事は言わなかった。
彼女達とした眷属魔法契約も絶対服従的な物ではなく、セリィ達と同じで裏切らずに秘密を漏らさず仕事をすれば対価も出すという物にしているので、言いたくない事は言わないでもいいのだが。
そっかぁ……やけにマーメイド達が若いなと思ったけど、エルフみたいに若い見た目のまま年を取っていく種族だったのねぇ……。
「ゼン様ゼン様、これもすっごく美味しいです! 一緒に食べて乾杯しましょう?」
俺の横の椅子に座っているスイレンさんが、マーメイドの獲ってきたカニ型魔物を使ったカニ炒飯を食べながらお酒の入ったコップをこちらに向ける。
「はい乾杯、スイレンさん、このエビ型魔物を使ったエビチリも最高ですよ」
俺がそうエビチリを勧めると、スイレンさんは嬉しそうにエビチリに挑みかかっていく。
人型の時は礼儀正しく食べるから食べる速度はそんなに早くない。
食べる量はすごいけど……。
モグモグと美味しそうに食べるスイレンさんを見ていると、対面のマリーさんがそれを見ながら。
「蛇竜様がこんな風になるなんて……ゼン様は蛇竜様の主である火竜様のお友達なのですよね?」
「そうなりますかね、あ、かんぱーい」
マリーさんと話をしている時もスイレンさんは乾杯を要求してくる。
楽しそうで何よりだ。
「この海の中を逃げて逃げて逃げて……やっと見つけた住処をも追い出されるのかと覚悟をした私達でしたが……火竜様達と友誼を結んでいるゼン様に配下として拾われるとは……望外の喜びと存じます」
「マーメイド族ってそんなに逃げ続ける程弱者なんですか?」
ちらっと聞いたけど水魔法も使えるし、レベルもマリーさんは20を超えてるし弱すぎるって程ではないと思うんだけどな。
「マーメイド族は他種族から狙われやすいのです……人間には見世物や素材として……そして海の魔物は強い個体が多くて……とある海域では巨大クラーケンのオヤツとして狙われ出したので逃げた事もあります」
そりゃまたなんとも……そういやマーマンみたいな雄はいないの?
へぇ……雄は生まれる数が極端に少なくて今のこの群れにはいないのね。
じゃぁ繁殖は?
……あ、はい、人間相手でもいけるのね。
「それじゃマリーさん、この島の入り江は防衛向きだし拠点としてマーメイド族の好きにしていいからさ、それと武装した方がいいなら言ってくれ、人の世界で槍とかを仕入れてくるからさ」
「ありがとうございますゼン様、それと私どもは配下になりましたので、マリーと呼び捨てでお願いします」
マリーさんが頭を下げながら、呼び捨てにしてくれと伝えてきた。
「……分かったマリー、それでさ……マーメイド族ってお酒好きなの?」
俺はマリーの後ろに見えているマーメイド達のどんちゃん騒ぎを見ながらそう聞いてみる。
肩を組み数人で歌を歌っていたり。
ピョンピョンと尻尾を使って跳ねたり踊ったり。
飲み過ぎたのか砂浜にうちあげられたトドのように寝転がっていたり。
……最初に会った頃の悲壮感何処いった状態だった。
……中には海中をすごい勢いで泳いで、ザパンッと空中に飛び上がったり……イルカショーか何かかな?
取り敢えず歌と人魚ショーには拍手して、おひねり代わりに酒の追加を出してあげた。
背後の喧噪には気づいていたマリーだったのだろうが、俺が聞くまであえてそれには触れなかった。
苦労してそうだね族長さんは。
「も、申し訳ありません! その……人族との交易で手に入るお酒は全て蛇竜様に献上していたので、皆久しぶりのお酒に舞い上がってしまっているようです、それとゼン様の配下になった事で自分達の安全度が上がった事の喜びもあるのかと……今までは蛇竜様の機嫌によっては追い出される可能性もあったので……」
なるほどなぁ……あ、スイレンさんカンパーイ。
横のスイレンさんの乾杯に応えてあげながら、ちょっと気になった事をマリーに聞いてみる事にした。
「普通に交易が出来る相手もいるのなら、人族も悪い奴ばかりって事じゃないのかね? 所で交易って何を売るんだ? 魚介類とか?」
「そんな時もありますが主な物はこれです」
マリーさんが自分の耳から外した物は……大きな真珠を使ったピアスだった。
「おおー、おっきい真珠ですね」
俺は本物の真珠を使ったピアスの値段をコアメニューで調べる……が、ピンキリだなこれ。
でもまぁ見た目的に300DPの奴に近いか、となると酒樽一つは余裕で買えそうだね。
「この貝玉は私達が食べる魔物の貝にたまに入っているのですけど……すごいんですよゼン様! こんな何処にでもある貝玉が3個でお酒ひと瓶になるんです! 人族はお酒の価値を知らないんですかね、うふふ」
……酒が回ってきているのか、ちょっと気安い感じになったマリーだが……。
お酒ひと瓶の大きさを聞いたら500mlくらいの物だった……。
人族との価値の差を知らないのはマーメイド族の方なんだと思う。
だってさぁ養殖のされている世界からの購入でも300DPだよ?
人族の酒場で、大き目の500mlは余裕で入る木のコップでエール一杯頼んでも銅貨5枚とかだぜ?
さすがに交換比率がおかしい気がする。
めっちゃぼったくられてるじゃんか!
ったく、攫ったりぼったくったり……人族は悪い奴ばっかかよ……。
いや、もしかして人の世界で真珠に価値がない可能性もあるのか?
もしくはマーメイド族を魔物として見て舐めている? ……これは調べないとな。
マーメイド族みたいな言葉を話せる種族を、エルフやドワーフみたいな人類種として見るか魔物として見るかは、国やら場所やらで変わってくるらしい。
冒険者ギルドなんかでは『人に迷惑をかけず、法や道徳を守り、意思のやり取りが出来るなら冒険者になれる』という曖昧な基準にされてたしな。
法や道徳を守らない上に、言葉が通じているはずなのに言葉が通じないという表現をせざるを得ない人間なんてたくさんいるんだけどな!
おかしな話だよね?
今の所真珠は俺が買い取ってお酒と交換する事にしました。
話を聞いたマーメイド達がゴミ捨て場までさらって大量に持ってきてくれたよ。
形の悪いのは装飾にも使わずゴミとしてポイッと捨てていたんだってさ……。
種族によって物の価値観って違うよなぁと改めて思った。
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