56 マーメイド達
「ふーむ……」
今日も今日とて島の砂浜だ、今俺は昨日と同じにビーチチェアに座りながら仕事をしている。
横のビーチチェアには青いワンピース水着を着たスイレンさんが座っており、俺が渡した海の生物図鑑を楽し気に見ている。
日本語は読めないけど写真を見ているだけで楽しいらしい。
ホムラはオヤツを求めて何処かへ散歩に行き、セリィやダイゴはレベリングも終えてお屋敷に返している。
たまに屋敷に人が訪ねてくるからね、誰もいないとあれだし。
セリィはレベル15で冒険者として一人前くらい、ダイゴも9歳でレベル12まで上げたのはちょっとやり過ぎたかもしれない。
それと仕事としてお買い物によく出かけるセリィには〈テイムレベル1〉を付与してシャドウファントムを一体護衛としてつける事にした。
ルナのファンファンと同じでスカートの中に待機だね、ダイゴはスカートじゃないからなぁ……まぁお屋敷から出ないしなあいつは……。
そしてルナはフンフンフーンと〈鼻歌〉を歌いながら砂浜で砂のお城を作っている。
いやダイゴ用にとバケツやらスコップやら子供用砂遊びの道具とかをメニューで買ってあげたら、ルナの方が嵌ってしまったという訳だ。
そんな砂遊びに嵌っている今日のルナの水着は、ワンピースタイプで非常に可愛らしく、髪は銀髪をお団子二つにしてまとめている。
しかしルナさんや、その砂のお城は魔王城か何かですか?
調理の盛り付けとかは奇麗なルナなのに、お城は禍々しい何かになっている……。
さて、島の雑魚魔物お掃除も終わったし、今でもシャドウファントムとウッドゴーレムが島内巡回している。
なので、新たに生まれた魔物は適宜駆除されているし、そろそろダンジョンを作ろうかと思っている。
今は拠点を建築予定の魔素スポットの真上からこの砂浜までの地面をダンジョンにしている。
設置した俺のダンジョンが魔素の大部分を吸収しているので、その周りで湧く魔物が弱めになっているのを確認している。
弱い魔物の駆除は、この先待機させておく眷属達の暇潰しにもなるだろうし、島全部をダンジョンにするのはなしだな。
そして今はメニューで家を見ている、そう家だ。
ダンジョンメニューで買えるんだよねぇ……リアやホムラが言うにはお城とかも買えるらしいんだけど、俺のメニューはまだ最大値が数百万DPまでの項目しか解放された事がないからお城はさすがになかった。
現状の予算で手の届く家というと……二階建てのログハウス的な奴かなぁ?
それでも30万DPとかかかるんだけども……うーん冒険者を迎撃するとかのためじゃないからこれでいいかな?
後は眷属の魔物を増やしておきたいね、えーと魔物魔物っと……あれ?
ダンジョンのある場所によって魔物の値段や呼び出せる種類が違う事に今気づいた!
樹海ダンジョンの側よりこっちの方がウッドゴーレムのDPが高くなっている……。
つまり……欲しい魔物はそれに適した場所にいけば安く手に入るって事か、ほかのダンマスには簡単に出来ない方法かもだが、何処にでも行ける俺には可能だな。
俺のダンジョンコアはまだまだレベルが低いから呼び出せる魔物の種類は少ないと思ってたのだけど……場所によって変わってくるのかもな。
……ふむ、ここだと海洋型の魔物が選べて安い感じなのかな?
一度登録された魔物は他の場所でも呼び出せるけど高くなるっぽいのか。
カニタイプやらエビタイプやら……美味そうだな……魚や貝タイプの魔物もいるんだね……ん?
「へー、マーメイドやサハギンも呼べるのか」
俺はつい口に出して呟いてしまった。
「ゼン様、どうかしましたか?」
トロピカルカクテルをちょびちょび飲みながら、海の生物図鑑を楽し気に見ていたスイレンさんが声を掛けてくる。
「えっと、防衛用に配下の魔物を召喚しようと思いまして、言葉が話せそうなのを見つけたのでこれはどうなのかなって思ったんです」
隠す事でもないので素直に状況をスイレンさんに説明してあげる。
すると、海の生物図鑑をテーブルに置き、カクテルをストローで一口飲んだスイレンさんは俺の方に向いて座り直し。
「その二つの種族は仲が悪いからどちらかにした方がいいですよ、ゼン様」
え、まじで? 種族で仲の良い悪いとかあるんか……知らんかった。
「ありゃま魔物に相性なんてあるんですか……そりゃ面倒だなぁ……」
「私は天然のしか知らないですけど……そうだ! マーメイドなら私の縄張りの中に住んでいるので会ってみますか?」
スイレンさんは良い事を思い付いたとばかりに両手を打ち鳴らし、俺に提案してくる。
ううむ……このニコニコ笑顔な提案を断るのは不可能だ。
「えっとじゃぁ、一度会ってみようかな? てか自分の縄張りの中に住まわせて保護しているんですね」
ボッチかと思ったスイレンさんに、言葉を話せそうな配下がいるのには違和感あるけど。
「勝手に住んでいるだけです、私の邪魔しないなら放置でいいかなって、人族と交易したお酒を上納してきたりしますし」
デスヨネー、シッテタ。
スイレンさんの縄張りなら危険な魔物とかもいないからって事なのかねぇ……ドラゴンの縄張りに住み着くとか度胸がある人達なのかもしれない。
「では行ってきますねゼン様!」
スイレンさんが立ち上がって海辺に近づき、元の蛇型ドラゴンの姿に戻りながら海に入って行った。
あれで水着が破れないんだからなぁ、なんでも変身する時に装備を別空間に仕舞ったり着たり出来るスキルがあるとかなんとか。
でも俺のダンジョンメニューには、まだそんなスキルが見当たらないのよね、なんでだろうか……よくわかんね。
スイレンさんが海に入った事により出来た波が、俺の座っているビーチチェアの所まで来た。
ここまで波が来るという事は……。
「マスター……私のお城がドラゴンの襲撃で被害を受けた……」
ルナが茫然として……いやハプニングを楽しんでいる。
ルナは『緊急警報発令!』とか叫びながら魔王城の補修をしている。
楽しそうで何よりだ……たまに水分とっとけよー。
ホムンクルスが熱中症になるのかは知らんが注意を促してから、またメニューで拠点にするログハウスの家具なんかを選んでいく。
やっぱ家具は木製で統一させたいよなー、後でルナの意見も聞かないとな。
……。
――
ザパンッと巨大な蛇型ドラゴンが波と共に砂浜に乗り上げる。
ルナから第二次ドラゴン襲撃警報が発令された。
シュルシュルと縮みながら人型に戻ったスイレンさんは、青い水着に戻っていた。
そのスキル便利だよね。
そして砂浜から見える入り江の海上に頭がニョキニョキと生えてくる。
赤青黄色緑や金に銀、それこそ128色の色鉛筆か? といった感じのカラフルな髪の毛を備えた集団だった。
200人以上いそうだなぁというマーメイドと思しき海から生える顔達が、一斉に怯えた表情で浅瀬に向かって……あ……。
俺は起き上がるとビーチチェアの上にあぐら座りをして、島の山側を見るようにマーメイド達に背中を向けた。
いやだってさぁ……浅瀬に来たマーメイド達が全員お胸様丸出しなんだもん!
……物語みたいに貝の水着とか着ていないんだね、勉強になった。
島の山側を見ている俺に誰かが近付いて来る足音が聞こえる。
「ゼン様、連れてきました! ……背中を向けてどうしたのですか?」
「マスターナイス判断力、あと3秒振り返るのが遅かったらセリィに告げ口する所だった」
近付いて来たのはどうやらスイレンさんとルナだった。
いやまってルナさん!
これは俺悪くないと思うねん!
そりゃ海辺に集う大量のマーメイド達の素敵なお胸様の数々をちょこっとは眺めてしまったけど、すぐ振り返ったじゃん……。
セリィはさ……悲しそうに正論でお説教してくるから逆らえないねん。
俺達の秘密を教えてから、あの子も遠慮が多少なくなってきたから良い事だとは思うんだけど、俺の事を家族みたいに思ってくれているみたいで……。
こないだ寝ぼけていたセリィが俺の事を『ゼン兄様』って呼んでから、自身の発言に気付いて顔を真っ赤にして逃げて行ったっけか……。
別に兄様呼びでもいいんだけどね。
まぁとりあえずだ。
「ルナ、マーメイド達に胸を隠せる水着を全員にプレゼントしてやってくれ、サイズなんかはルナが……人手がいるなら俺も測るの手伝うけど」
ルナに命令を下す、そして百人以上いるから大変だろうと手伝いを申し出てみた。
「大丈夫、マスターは後ろ向いて目を瞑ってて、スイレン姉様手伝って」
「よく分からないけど了解しましたルナさん」
むぐ……やはり駄目か……善意を持って申し出ればワンチャンと思ったんだが。
仕方ないから目を瞑ってよう。
ルナはメニューを使うために、コアと非常口で繋がっている俺の側に来てコアメニューから水着を選ぶと、スイレンさんに渡してマーメイドに配るように言っている。
いきなり渡しても水着の着方とか分からなくね?
俺が教えようか?
いりませんかそうですか……ルナのガードは突破出来ないようだ。
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