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ダンジョンマスターの異世界生活  作者: 戸川八雲


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54 寂しがり屋の蟒蛇

 ピカピカというほどでもないが、なんとか見られるくらいに奇麗になった洞窟の広いスペース。


 ホムラにいらないと言われた物は全て俺のインベントリに入れてしまい、代金代わりの酒をホムラに渡している所だ。


 ドンッドンッと、洞窟のむき出しの岩の床に出していくその酒は、いわゆる樽酒という奴で2斗樽だ。

 ひとつで36リットルある酒で、それを30個くらい出してみた。

 一個で800DP以上するんだよねこれ。

 一升瓶で考えると20本分だから……まぁ単価的には妥当なのかもしれない。


「うほー! すごい量じゃのう、ゼンよ、ほんにこんなにええのか?」


 ホムラは嬉しそうにそう言い、樽酒を一つ開けて自身のインベントリから出した透明なコップで掬う様にして飲み始めた。


 もう飲むのかよ、ってかそのコップ俺のじゃね?

 飲み会の時の奴持って帰ってたのかよ……。


 スイレンさんも木のコップ片手に飲もうとするが、ホムラはその手を払った。


「ホムラ様? 一杯くらい良いではないですか!」


 スイレンさんは払われた手をさすりつつホムラに文句を言っている。

 ホムラは飲んでいた樽酒以外の樽を自分の空間収納に仕舞ってから。


「お主は飲み始めると止まらんじゃろ、自分で買って来た物を飲むとええ」


 なんだろ仲が良くないのかな?


「ホムラ様のケチンボッ! べーっ」


 スイレンさんがスネてホムラに対してあっかんべーをしてから、ちょっと離れてこちらに背を向け床に直接女座りをしている。


 ちなみにこの洞窟には椅子なんてものはなく、地面というか岩部分に直座りが基本っぽい。


 まぁ俺やルナ用に敷布とかちゃぶ台を出すつもりではあるのだけど。

 今ルナは飯を作っているんで、壁際に設置した〈ルーム〉の中だ。


 俺はホムラに近づき囁くように話し掛ける。


「なぁホムラ、ちょっと可哀想じゃないか?」


「……そう思うなら主が渡せばいいじゃろ、その後どうなっても儂は知らんけどな」


 仲の悪い……いや仲の良いかもしれないリアとだって酒は一緒に飲んでいたホムラなのだが……。


 そんなにスイレンさんの酒癖が悪いのだろうか……うーん。


 俺はちゃぶ台やら敷布を出して設置し、夕餉の準備を始め、ホムラも床じゃなくこっちで飲めと移動させた。


 そしてスイレンさんに。


「スイレンさん、さっき片付けた中には青いウロコやらもあったんですよ、あれはスイレンさんのですよね? なのであのウロコや素材分の代金をお酒で渡したいのでこっちに来てくれませんか」


 俺は洞窟の端っこにスネて座っているスイレンさんにそう呼びかけてみる。


 こちらに背を向けて自身の青髪をこねくり回していたスイレンさんが、俺の呼びかけに満面の笑みで振り返り、シュバッと目にも止まらない速さでテーブルの側まで来た。


「本当ですかゼン様!」


 どうやら俺の呼び方は様付けになるようだ。


 護衛してくれている時もほとんど会話してくれなかったし、俺達の名前は呼んでくれなかったんで、クールビューティなイメージが築かれつつあったんだが……。


「早く! 早く! ゼン様! 焦らさないでくださいまし」


 俺の横に来て肩を掴んで揺らしてねだってくるスイレンさん。

 クールビューティどこいった。


「ではこれをどうぞスイレンさん」


 そう言ってさきほどの樽酒を10個程出して積み上げてみた。


 最近気づいたんだがホムラのウロコもDPに変換できるんだよね。


 まぁ人の世界で売りに出したほうが価値を高く見てくれそうなんだけど、あんまり大量にオークションに出すとやばそうだし、いざとなったらDPに出来る貯金だと思っている。


「ありがとうゼン様!」


 スイレンさんはあっという間に樽酒の上部のフタをこじ開けて、木のコップではなく、その樽を掲げて直接飲み始めた……。


 俺がポカーンとそれを見ていると、スイレンさんはゴクゴクッゴクゴクッと一切止まる事なく最後まで飲み切ってしまった……まぢで?


「んんー-----美味しいです! エルフやドワーフの秘蔵の酒にはかなわない味ですが、あれらは出回る量が少ないですし、人の世の酒は味がそこそこなんです、ですがこの酒はこの味でこの量が飲めるなんて……素晴らしいですねゼン様!」


 俺に向かってニコニコ笑顔を向けて早口でそれらを言うと、スイレンさんはすぐに次の樽酒を解きにかかった……。


 俺は彼女の側からゆっくりと遠ざかり、テーブルに出してあげたツマミのピーナッツをあてに酒を飲んでいるホムラに近寄る。

 2個目を樽ごと飲み始めたスイレンさんを見ながらホムラに。


「すげぇなあれ」


「じゃから言っただろう……あ奴は正しく蟒蛇うわばみよ」


「納得だ」


「あやつに金や宝物を持たせて人里に酒を買いにいかせるとな、ほとんど酒が残ってない瓶だけ持って帰って来るのじゃ……」


「そりゃなんとも……」


 すでにスイレンさんは3個目の樽に手をかけている、そしてまったく酔ったように見えない……。


 俺は空いている樽と残った樽の山を見ながら思った。

 スイレンさんの尻尾の中から神器な剣とか出てきそうだな、と。


 ――


 ――


「美味そうだな! 頂きますルナ」

「美味そうじゃのう、頂くぞルナ」


「あの……ご飯のお供にお酒は出ないのでしょうか……」


「どうぞ召し上がれ」


 大きなちゃぶ台二つに山ほどの料理が乗った皿がたくさん並んでいる、ルナの力作達だ。


 まずは唐揚げからだ!

 色々皿を分けているという事は材料が違うって事だよな? 楽しみだ。

 ルナにはコアインベントリの食材やらを自由に扱える権限を渡してあるので、先程のレベリングの魔物達の食材も使っているはずだ。


「美味い! 鶏肉かな?」

「それは蛇型の魔物」


 ルナは俺が食っている唐揚げの材料を教えてくれる、へー蛇ってこんな味なんだ。

 けっこうさっぱりしているのな、普通に美味いんだけど。


「この甘辛な煮物は最高じゃのう酒にも良く合う」


「それは魔物の内臓とお野菜を味噌と醤油の味付けで煮た物、ダンジョンメニューの解体は内臓も洗浄済みになるので、すぐに使えてありがたい」


 ダンジョンメニューの解体にそんな機能もついてたのか……確かに内臓とか洗うの大変そうなイメージがあるよな。


「このお肉を焼いた物とかも美味しいですけど……ホムラ様、私にも一杯頂けませんか?」


「それは魔物の舌を焼いたタンステーキ、タン塩用にちゃんと残してあるので今度焼肉しようねマスター」


 タン塩の焼肉とか控えめに言って最高じゃね?


 ルナは調理系のスキルレベルをもう一段上げたいって言ってたんだよな……レベル4から5はかなりDP食うから躊躇してたけど、これはもう行くしかねーな!


 そしてスイレンさんのお酒要求は誰もが無視している。


 だってスイレンさんってば、さっき渡した樽酒10個を全部一人で黙々と飲んじゃったんだぜ……。


 実はここの掃除で得た素材の代金として考えると、もっとお酒を渡せるんだけども……ホムラと相談してちょっとずつ渡す事にしたんだよ。


 スイレンさんには楽しんで飲む事を覚えて貰いたいからね。


 という事で。


 俺はいつも自分が飲んでいるチューハイ缶を取り出し、透明なガラスのコップを2個用意する。


 そこにカシュッっと缶を開けてトクトクっと注いでいく。

 その匂いの中のアルコールを感じたのかスイレンさんがこちらを見ている。


「スイレンさんこれ持ってください」


 俺はスイレンさんにチューハイの入った透明のコップを渡す。

 ちなみに中身はレモンハイだ。


「ゼン様、私にくださるのですか?」


 スイレンさんが嬉し気にコップに手を伸ばして、すぐ飲もうとするので。


「ちょっと待ったスイレンさん! まずは乾杯しましょう、俺達の出会いとこれからの交流が良い物となりますように、乾杯!」

「乾杯じゃ!」

「かんぱーい!」


 俺に飲むのを止められて悲しそうにしていたスイレンさんは、皆の乾杯の音頭に目をパチクリとさせていたが。

 皆がコップを掲げたままスイレンさんの音頭を待っているのを見て、笑顔で自分のコップを掲げた。


「乾杯です!」


 あ、ちなみにルナはアイスココアなので安心してください。


 ……。


 ……。


「ゼン様乾杯しましょう、はい乾杯」

「ああうんカンパイ」



「うふふ、お酒を皆で飲むのって楽しいんですね、知りませんでした、じゃ乾杯ゼン様」

「ああうんカンパイ」



「この枝豆っていうの? ただの豆と塩なのに美味しい……ゼン様、乾杯です」

「ああうんカンパイ」



「ルナ様、この生の魚につける黒い液体は素晴らしいですね、すごく美味しい! さぁゼン様乾杯しましょう」

「ああうんカンパイ」


 いやさ、スイレンさんの酒の勿体ない飲み方は、一人で孤独に飲んでたせいもあるんじゃねーかなぁとか思ったんだよ。


 なのでちょっと大学の飲み会のノリを入れた乾杯で、楽しい交流のある飲み会にしようとは思ったよ?


 思ったんだけど……まさかここまでスイレンさんがこのノリに嵌るとは思わなかった。


 ホムラは助けてくれないしよ……そもそもお前が一緒に楽しく飲んであげてればよかったんじゃね?

 ……それが出来たら〈孤高〉なんて呼ばれないか……。


「ゼン様……」


「ゼン様? ……」


「ゼン様っ! ……」


「ゼーンさまー、かんぱーい」


 お酒をちょっとずつ楽しむように飲む事を覚えたスイレンさんだったが、どうやらすごい懐かれたようだった。


 まぁ懐くと言っても男女のそれではなく、今までボッチだった子供が初めて友達が出来て距離感が掴めてないって感じだけども。


 ドラゴンとして長生きしてはいるんだろうけど……もしかしてほとんどボッチで過ごしていたのかねぇ?


 飲みながらホムラにそこらを聞いてみたら、配下の中で言葉を話してコミュニケーションが取れるのってスイレンさんだけなんだってさ……。


 そしてホムラが面倒だからとダンジョンもほとんど運営していないから、スイレンさんは暇潰しに島の周りの海を縄張りにして一人で泳いでいるか寝ているかの毎日だとか……。


 たまに人里へ行っても酒を買うだけってそりゃお前……ドラゴン式な育成方針なのかもしれんがちょっとひどくねぇ?


 ホムンクルスはスキルで知識を与えても、生まれた時の情緒は赤ん坊のようなものなんだぜ?


 この世界由来のダンマスは、ある程度生きている生物にコアが与えられる事が多いと聞いた。

 つまりホムラは大人になってからダンマスになった訳で……。


 普通のドラゴンの育成も同じなのかと聞いたんだよ、そしたらホムラの幼い頃は竜の里っていう竜がいっぱいいる所で育てられたんだってさ。


 ああうん、ホムラさんアウトー!


 さすがにホムラが酷かったので、ちょっとお高めの秘蔵の酒はスイレンさんと二人でホムラに見せつけるように飲んでやった。

 ホムラも結婚とかした事ないらしいから、子育ては分からんかったのかもしれんけどね……。


 なんとなく同情心のような物も湧いてしまったので、スイレンさんとたくさん話をしながら乾杯をしまくった。

 護衛の時にあんまり話をしてくれなかったのは、会話に慣れてなくて何を話したらいいのか分からなかったからだそうだ……。


 ……それを聞いてちょっと泣きそうになった。


 後でホムラには子育てについて話し合おう。


 いやまぁ俺も日本の大学生の時にこっちに来たし、子供なんて育てた事はないんだけどね?

 それでもルナとはいっぱいコミュニケーションをとるようにはしているんだぜ?



 そうして夕餉は何時間も掛かる飲み会へと移行していき、それが終わったのは深夜だった。


 俺とルナは〈ルーム〉に戻って寝たのだけど。

 次の日の朝ルナに、俺が寝言でカンパイと言っていたと言われた。


 ……どうやら夢にまで見ていたようだ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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