52 酒と甘いお菓子 ルナ強化
「おー、美味いなこのフルーツタルト、紅茶もお美味しいし、やるねぇルナ」
俺はちゃぶ台の上のスイーツを食べながらその美味しさを褒めていく。
「確かに……このプリンの美味しさといったら……私もクッキーくらいは作りますが……これは勝てませんね」
ラハさんの生首が体さんにプリンを食べさせて貰いながらルナを褒めている。
クッキーを作っているのは体さんだと思うんだけどね……。
なんとなく、体さんが金属鎧を脱いで普段着にエプロンをしながらクッキーを作る姿を想像してみる。
……ありだな?
今度首じゃなく肩にヒモをかけるタイプの可愛いエプロンをプレゼントしてみよう。
「うちのダンジョン産果物を使ったこの美味しいデザートの数々……これはもうルナちゃんと私が姉妹になったようなものでは? いえ……私がルナちゃんに調理されちゃう!? いやん」
リアが訳の分からない事を言っているが皆で無視をした。
確かにダンジョンはマスターにとって第二の自分自身のような物ではあるのだが……アホツル毛に花だけじゃなく果物でも生やしてから言えよ。
というかその理論でいくと、ルナが樹海ダンジョン産の果物を使って調理したデザートを食べた俺はお前の……。
この続きを口に出したらアホツル毛で吹っ飛ばされる未来しか見えないので黙っておこう。
皆に褒められてルナは鼻高々で新たなデザートをちゃぶ台に置いていくと。
「マスターに〈製菓レベル4〉にして貰った! 勝利は確実」
そう言ってルナは皆にピースを見せつけてから、また〈ルーム〉の扉に帰っていった。
まだまだデザートを色々作る気なのだろう。
今日はホムラの島から逃げ帰ってから数日がたっていて、今は触れ合い魔物園にちゃぶ台を置きスイーツパーティを開いている所だ。
DPが少し溜まったんでルナに何かスキルでも覚えるかと聞いてみたら〈製菓〉のレベルを上げたいと言われたからね。
レベル4だと熟練のお菓子作り名人な主婦とか製菓専門校卒の成りたてパティシエって所だな。
ちなみにチビ魔物達も食べられる奴はスイーツを食べているし、無理な奴はいつものおやつをあげている。
いやー今日もノンビリとした日常で落ち着くね。
「ん? 〈製菓〉スキルって何よゼン」
リアがアホツル毛でハテナマークを作ってそう聞いてくる。
「何ってお菓子専門の調理スキルじゃんか」
ラハさんもクッキーを作っているなら持っているんだろ?
「初めて聞きましたね……〈調理〉スキルでお菓子を作っている訳ではないのですね?」
ラハさんがプリンを食べるのを止めてそう聞いてきた。
食べるのを止めたのはラハさんだけで体さんの動きが一歩遅れて生首の頬にプリンをすくったスプーンがムギュっと当たってたけどね。
取り敢えずウェットティッシュを渡しておく。
地味にこれも人気があってリアや体さんに欲しがられる品だったりする。
便利だもんねウェットティッシュ。
「んん? 〈製菓〉スキルってないの?」
「ないわね」
「聞いた事ありませんね」
リアとラハさん主従が揃って否定してくる。
「なんだろ、これも俺が異世界から来たマスターという特性からくる物なのかなぁ?」
「そうかも、あんまりそういう話ってダンマス同士でしないし、切り札になりそうな事は秘密にするからね、ゼンとルナちゃんは私の保護下にあるから別だけどね」
リアはそう言いつつ、アホツル毛で掴んだフォークで俺のフルーツタルトの一部を奪っていく。
手でフォーク使えよ……というか、便利だよなそのアホツル毛。
とそこで、リアとラハさんがピクリッと何かに反応し、お互いに目を見合わせる。
そしてラハさんと体さんはプリンをささっと食べ終えると立ち上がり、チビ魔物達に声を掛けて庭園の奥へと皆を連れて行った。
どしたの?
そして程なく庭園の入口にウッドゴーレムがやってきて、その後ろには……。
「ああ! やっぱりここにおったかゼン! なんで急にいなくなったんじゃお主は! 心配して色々探し回ったんじゃからな! 帰るなら帰ると伝言くらいせんか、まったくもう、む、美味そうな菓子だな儂にもくれ」
そう言ってツカツカと歩いて来たホムラは、ドカッとちゃぶ台の前にあぐらで座り、テーブルの上に並んでいるスイーツに手を伸ばそうとした。
その手にリアのアホツル毛が伸びて絡まる。
スイーツを取る手を防がれたホムラは少し機嫌が悪くなったが……リアからのやばい殺気の方がさらに怖かった。
「ちょ……なんじゃ〈日陰植物〉その殺気は、こんなにあるならちょっとくらい分けてくれてもええじゃろ」
「そこに正座しなさい〈孤高〉」
リアの声を聞くだけで俺の背筋が凍るかと思った。
いや、殺気だけで体力が削られている気がする……。
ルナを案じて探したら〈ルーム〉の扉から顔だけ出してこっちを見ていた。
大丈夫そうだね。
俺もルナの方に逃げたいのだが、体が硬直しちゃって動けない……前に二人が対峙していた時よりやばい殺気だ。
「なんじゃ急に……そんなに菓子が――」
「いいから正座しろって言ってんのよ」
リアの抑揚のない声がまぢでやばい……どうせなら俺を退避させた状態でやって欲しかった。
「なんじゃというんだまったく」
訳の分かっていないホムラも、リアのあまりの怒りようにテーブルから少し離れて正座をした。
というかホムラにはこの殺気すら柳に風って感じなのな。
リアは立ち上がりホムラの前にいくと、両手を腰にあてコンコンと、そらもう凄い勢いで説教を始めた。
……。
――
最初は意味の分かってなかったホムラも、俺やルナが死にかけた事を理解すると申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
今リアは元の位置に戻って座っているが、ホムラは正座をしたままだ。
そういや正座が反省の時に使うポーズという文化もあるのかね……異世界から来たダンマスが文化を広めた中にあったのかもな。
ルナも殺気が収まってからこちらにやってきていて、今は俺の隣に座っている。
「すまんかったゼンにルナよ……まさかあんなエサ場の雑魚にやられる可能性があるとは思わんかったのじゃ……」
ホムラはそう言って正座をしたまま俺達に謝罪してくる。
「まったく〈孤高〉は大雑把で馬鹿なんだから! ゼンなんて貴方の寝相で振った尻尾に当たったくらいでも死んじゃうくらい弱くて情けないのよ? ちゃんと気をつけてあげなさいよ!」
殺気を鎮めたリアだが、ホムラに対してまだまだ文句を投げかけている。
「うぅ……確かにゼンは情けないくらい弱かったのを忘れていたのじゃ……済まんゼンよ、お前の情けないくらいの弱さをつい忘れておった儂を許してくれ」
……。
いやさ、謝ってくれてはいるんだろうけど……。
おかしいな、俺にはケンカを売られているようにも聞こえるのは気のせいなのだろうか?
「まぁゼンは正直どうでもいいのよ、逃げ足だけは逸品のスキルを得たのだから……大事なのはルナちゃんよ! 華奢で繊細な可愛いルナちゃんに何かあったらどうするのよ!」
俺の事はどうでもいいらしい……泣いていいかな?
そして俺よりレベルの低いルナなんだが、何故か表現に弱いや情けないという言葉が出て来ません。
「むぐぅ……確かにそうじゃな! たおやかでデリケートなルナに何かあったら大問題じゃった、ほんと済まんルナ、このとおり許してくれなのじゃ」
ホムラは頭をきっちり下げて謝ってきた。
あれ? 俺に謝る時は頭を下げなかったよなホムラさんよ。
そしてやっぱりルナに対する弱いや情けないという言葉が出てきません、君ら仲良しかな?
「私とマスターはホムラ姉様を許します、次は気をつけてね? リア姉様も、もう許してあげようよ」
そして何故か俺が何かを言う前に、ルナが俺からの許しも与えてしまう。
「ルナちゃんがそう言うなら許すけど……本当に気をつけてね?」
「うむ〈日陰植物〉よ、次はゼンの弱さや、ルナの華奢さを忘れんようにする」
なんでそこで表現を分けるのだろうか。
ルナは調理の続きだと言って〈ルーム〉の中に消えていった。
俺は納得がいかずついつい呟いてしまう。
「いくら弱いっても寝相で死ぬほど弱くねーよ……」
だが俺のその呟きに対してリアとホムラが揃って。
「一撃で死ぬわね」
「真っ二つじゃろなぁ……」
なんでやねん、お前ら仲良しか?
だが、ルナの作ったスイーツを食べながら詳しく話を聞くと、ドラゴン状態のホムラのマジ寝状態の時の寝相だと、尻尾で岩くらい粉砕しちゃうくらいの一撃を繰り出す事もあるらしい。
まじかぁ……寝ているドラゴンには近寄らない方がいいな。
「うほっ、これは美味い菓子じゃのう……さすがルナじゃ! これは酒が欲しくなるな、ゼンよ酒を出せ」
「確かに! この美味しいお菓子にはお酒が絶対に合うわね、ゼン! ワイン出して!」
さっきまでケンカというか、怒ったり怒られたりしていた二人なのに……お前ら仲良しかよ?
そして、菓子に酒って合うのかねぇ? と思いつつもしょうがないのでインベントリから酒を出していく。
……。
お酒が意外にお菓子と合う事にびっくりしたよ。
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