51 ツンデレのツル毛
「あら、お帰りなさいゼン、もうあっちはいいの?」
俺とルナがリアの庭園に入っていくと、リアはいつものように触れ合い魔物園の芝生の上で、チビ魔物達の相手をしていた。
ホムラがいる時はこいつら怖がって逃げちゃっていたからな、甘えさせてやっているのだろう。
チビローパーもプルプルと震えて怖がって……あいつはいつも震えているんだった。
俺とルナは、芝生の上に直に座っていたリアの近くに座る。
二人共フライトジャケットやらの耐寒用装備はすでに脱いでいる。
「あれは……無理だな」
「マスターのナイス判断で生き延びた、ファンファンがいればワンチャン?」
ファンファンはホムラを怖がるからってお屋敷に置いておいたのは失敗……いや、あれ一匹な訳ないし無理だっただろうね。
「どうしたの? 二人共そんな難しい顔して、ルナちゃんの可愛い顔が台無しよ……まさかゼンが何か不埒な事をしたのではないでしょうねぇ? スカートの中を覗いたとか」
なんでそうなる……お前は千里眼持ちか? いや覗いてねぇけどさ!
「しねーよ、ただ殺気をバリバリに向けてくるどでかいボアに出会ったから逃げて来たんだよ、リトルボアのお爺ちゃんとかかね、大きさが俺の倍以上あったけど」
「あら? 美味しそうね、お土産にお肉お願いね」
「あほ言うな! 気配の段階で勝てないって分かったわ! あやうくルナと一緒に死んじまう所だったよ」
「あれは危険、お肉は惜しいけど諦める」
その時リアから殺気が立ち上る、ちょ! ……なんだ急に。
「ゼン、どういう事なの? なんでルナちゃんが危険な目にあっているの? 〈孤高〉と一緒にいたのでしょう?」
俺が危険なのはいいのだろうか……。
たぶんきっと、俺ならば逃げられるという信頼なのだと思いたい。
「いや、例の島に俺達を置いてねぐらに一旦帰るって言っていなくなっちまってさ、たぶんホムラの気配を感じて逃げていた魔物が、残った俺らを襲おうと近づいてきたんだと思う」
俺の説明を聞いたリアは体をプルプルと震わせ。
「あ・い・つ・は!!!! ……よわっちぃゼンと可愛いルナちゃんをそんな所に放置するなんて馬鹿馬鹿の馬鹿なんだから! そういう配慮のない大雑把さが人を遠ざけて〈孤高〉なんて呼ばれる事になるのよ!」
リアがムキーと叫びながホムラへの文句を叫んでいる。
そして何故かアホツル毛で俺がピシピシと叩かれている……。
痛くないから本気じゃないのだろうけど、ホムラへの憤りを俺に向けないで欲しい……。
「リア姉様あんまり怒らないであげて欲しい、高みにいるホムラ姉様は下にいる者の弱さを忘れてしまうのだと思う」
おおう、ルナがなんだかすごい事を言っているようだが……それ、漫画のセリフだよね?
俺も一緒に読んでたし、いつか使ってみたかったんだろうなぁ……。
「ルナちゃんは本当に優しくて良い子ねぇ……どう? そろそろゼンの情けなさに呆れているだろうしうちで働かない? 大丈夫、ゼンも私のツル毛を梳かす係で雇ってあげるから」
だからルナを勧誘するなっての、でも残念だったな、ルナはマスター大好きっ子だから応じる事はあるまいよ。
「確かに空の上のマスターは情けなかった、でもそんな情けないマスターを支えるのもナビゲーターの役目! 私頑張る、リア姉様」
「ルナちゃん! ガバッ」
リアは擬音を口で言いつつルナと抱き合っている。
そうかぁ……ルナも茶番が出来るくらい情緒が育ってきたのかぁ……ウレシイナー。
ネタが俺の情けなさじゃなければ純粋に喜ぶ所なんだけどな。
「それでゼンは扉を設置出来たの?」
リアはルナを抱きかかえたまま俺にそんな質問をぶつけてくる。
……ルナも嫌がってないけどさ、アホツル毛でルナを絡めとるように巻き付くのは、なんか見た目がエッチだからやめてくれませんか……。
「いや、咄嗟に非常口で逃げるので精一杯だったんだよな」
非常口は一方通行だから使った地点に戻るとか出来ないんだよ。
戻りたいなら入口を設定する必要があった。
「ふーん、まぁいざって時に逃げる事が出来るって分かって良かったじゃない、ただし、相手の魔法やスキル構築を妨害する手段とかもあるから慢心しちゃだめよ?」
「了解だ、心配してくれてありがとなリア」
「ありがとうリア姉様」
「ふんだっ、私が本当に心配なのはルナちゃんなんだから、ゼンの事なんてちょっとしか心配していないんだからね?」
アホツル毛をルナから離して手の形を作り、違うんだからという意味なのかフリフリと左右に振るゼスチャーをしてくる、芸……ツンデレか?
「それで悪いんだが、冒険者街から仕入れの旅に出る偽装もしちゃったし、しばらくここに置いてくれ、まぁ後でお屋敷で留守番しているセリィ達には挨拶くらいしとくけどよ」
「おっけー、じゃぁ一緒にご飯でも……あ、そうだゼン、チビミミックが銅貨の両替をお願いしたがってたわよ、私達がやろうとしたら断られてね、貴方にして貰いたいんだってさ、懐かれてるわね」
そう口に手をあてながらクスクスと笑うリアだった。
「マスター、ついでだし皆のお世話もしちゃおう、私は皆の分も含めてご飯を作ってくる」
ルナの意見を受け入れ、〈ルーム〉の扉を出してやる。
俺達の会話を近くで聞いていたのか、チビミミックがピョンピョンと飛んで移動してくる。
箱の中身がいっぱいなのか、ガチャガチャと重々しい音が響いているね。
「両替だってな? その銅貨を銀貨にしちゃうと1枚くらいになっちゃうかもなんだが……大銅貨と銅貨を混ぜる感じにするか? それとも銀貨のみでいいのか?」
チビミミックは俺の言葉を聞くと、ショックを表すがごとく蓋を大きく開けて停止してしまった。
人間なら口を大きく開けて固まった感じかね?
まだチビ魔物だし銅貨の枚数計算とか出来ないんだろうな……。
移動している時にジャラジャラと重い音が響いてたし、百枚くらいはありそうだと思ったけど……。
……というか俺はこんなにあげてないから、ルナやリア達からも貰っていたんだろうなぁ。
蓋を開けたままカッタカッタと左右に体……宝箱を揺らすチビミミック。
たぶん一生懸命考えているんだろう。
俺は結論が出るのをノンビリ待つ……すると俺のあぐらの上にチビハーピーが着地を決めた、同じく着地しようとしていたチビペガサスやチビヒポグリフに一歩先んじたようだ。
着地合戦に負けたのが悔しかったのか、俺の周りを飛び回るチビ達を宥めながら。
「はいはい、君らの毛並みも揃えさせて頂きますよー、順番な順番」
いつものお手入れ道具をインベントリから出していく。
そこには俺とリアとルナとチビ魔物達のいつもの日常があった。
……俺達がここに帰った事にホムラが気づくのはいつになるかなぁ……前の時みたいに俺らがやられたと勘違いして周りに迷惑かけないといいんだけどな……。
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