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47 宴と酒と

 扉の向こうからこちらを覗いている気配を感じたので、一度リアの庭園から〈ルーム〉に戻る。

 俺が近付いてきたからか、部屋の奥に移動していたセリィに挨拶する。


「おはようセリィ、よく眠れたか?」

「お……おはようございますゼン様……その……色々とお見苦しい所をお見せして……」


 モジモジとしたセリィの様子を見るに、どうやらテンパっていた状態から元に戻ったみたいで、尻尾もゆったりと大きく振っている。


「気にするな、それより扉の向こうを覗いてただろ、これから夕飯込みの宴をするつもりなんだが参加するだろ? あそこにいた赤髪女性があのドラゴンなんだ、あいつもそんな怖い奴じゃねーし、もう安心していいからな」


「ドラゴンッ! あ、あの……ごめんなさいゼン様、まだその……ちょっと怖いので、ダイゴと一緒にお屋敷にいたいのですが駄目ですか?」


 頭の上の小さい耳をペタンと閉じながらそう言ってくるセリィ。

 ……まだ怖いか、そりゃそうだな。


「構わないよ、でもまぁそのうち挨拶しような、セリィは俺の……ダンジョンマスターゼンの配下で眷属になるんだからな」


「はい! だんじょんますたぁというのはよく分かりませんが、ゼン様が秘密を教えてくれた信頼に応えるべく、私は頑張ってゼン様の側でお世話します!」


「うん……うん? いやまぁいいか、よろしくなセリィ」


 なぜかセリィの仕事は俺の側に限定されているようだ。

 ダンジョンで配下魔物の指揮管理とかも出来そうかなーとか思っていたんだが……。


 セリィは尻尾を機嫌よく左右にフリフリとさせながら、倉庫側の扉からお屋敷へと出て行った。


 ――


 ――


 今はリアの庭園に和室用の大きなローテーブルを置き、芝生の上に直に座り宴を開いている真っ最中だ。


 ホムラから貰った解体済みの様々な食材にルナが大喜びし、色々とはっちゃけて調理していて。

 〈ルーム〉の台所で何かを作っては、庭園のテーブルに置いていくという行動を繰り返している。


 セリィ達にはもうご飯を届けてあるそうだ。


 リアが一緒に食べましょうと言っても、テンションの上がったルナに断られていたな。


 まぁ生食出来る魚だもんな……ルナはまだドラマとかでしか見た事ないからそりゃテンション上がるだろうなぁ。

 調理スキルがあるから、刺身にするのも問題なく出来るみたいだしな。


 せっかくなので船盛用の器とかを買ってルナに渡しちゃったぜ。

 そうしたら見事に木製の船に刺身を盛り付けて出してくれた。


 ちなみに刺身にした食材は全て、リアの鑑定で寄生虫や毒はなく生でも食べられるとのお墨付きを貰っている。


「美味い! なんじゃこれは! ……黒い液体に付けた生の魚が、まさかこんなに美味いとは思わなんだわ」


「確かに美味しいわね、魚なんて乾燥させて土の肥やしにする物と思っていたけど……」


 魚を丸かじりしてそうなホムラも刺身の食い方を気に入ったようだ。

 リアには今度日本産の魚肥もプレゼントしてみるか……。


「黒いのは醤油って言うんだよ、そこの刺身の横にある緑のをちょこっと刺身につけて食べるのも美味いぜ」


「へーこう?」


 俺のホムラに向けての言葉を中途半端に聞いたリアが、刺身にワサビをごっそり乗せてパクッっと食べてしまった。


「まて! ちょこっとって……言っただ……」


 俺の停止の言葉は遅かった。


「!?!?!? ……!? !? ……!?」


 リアが口を押えて悶えながら、バシバシッとアホツル毛で俺を叩いてくる。

 その目は涙目だ……ドリアードなのに植物性のワサビの辛味は駄目なのだろうか?

 というか、痛い! いたいってば! ……ちょっと叩き方に力が入っている。


「何をしとるんじゃお主らは、ふむ……このピリっとした感じも美味いな、そしてこの酒にも合う」


 ホムラはちゃんと俺の言った通り、ワサビを刺身にちょこっと乗せて食べている。


 その後に飲んでいるのは俺がメニューで買っておいた普通の日本酒で、1800mlで50DPというそこそこの奴だ。

 さすがに前に飲ませた奴は高すぎるからな。


「くー--美味いのう、お風呂の時のやつも美味かったが、あの時より大きな器で飲むニホンシューも最高じゃわい」


 今回はお猪口ではなく、透明で150mlくらい入るガラス製のコップを、木の升に入れて出してあげている。

 升もコップも実はちょっと高級な奴で、セットで100DPくらいした。


 只のガラスのコップだと10DPとかでも余裕で買えちゃうんだけども、どうせならと思ってね。


「なにこれ〈温度維持〉とかついてるじゃないの……ゼンお代わりー」


 俺がホムラに出したのと同じ種類のコップを、リアが鑑定したようだ。


 そうなんだよ、このコップと升は入れた飲み物の温度を維持してくれるのだ。

 ただし対応出来る温度に限度はあるし永遠には無理で、温度変化がゆっくりになるくらいみたいだけど。


 リアは日本酒よりもワインの方が好きみたいなので、甘口と書いてあった750mlで30DPのお手頃価格な白ワインを出してあげた。

 この値段は正直安い方の部類と言えよう。


 何故それを選んだかと言えば、俺がワインの事をよく知らないからだ……。


 日本酒はなぁ……俺を引き受けてくれた爺さんが飲んでたから、銘柄とか多少は知っているんだけど。

 ワインは飲みはするけど銘柄とかはさっぱりだったから……ある程度安いのから順番に買ってみようかなって思っている。


「ほれ、あんまり飲み過ぎるなよ、ってドリアードってお酒が好きだったり強かったりするの?」


 俺はリアのコップに白ワインを注いであげながら聞いてみた。

 こいつと酒を一緒に飲むなんて初めてだしな。


 ちなみにラハさんの体さんは少し離れた所に待機している。


 ルナも着席していないのに自分が一緒に座る訳にはいかないとかなんとか、真面目だよね体さんは。

 ……生首の方は当たり前のように一緒に食べようとしていて、体さんに持っていかれたけど。


「んー? 私に植物性の毒なんて効く訳ないじゃないの、それと、お酒を嫌いな人なんているの?」


 酒精を毒と言うのはやめてあげてください、そして心底不思議そうに聞いてくるリア。


「まぁ人間の中には酒が嫌いな人もそれなりにいるよ、毒が効かないという割にワサビで悶えて涙目を浮かべていたけどな」


 俺はルナの作ったキンピラゴボウを食べながらリアに突っ込みをいれておく。


「あれは忘れなさい! ちょっとびっくりしただけよ!」


 ピシッピシッとアホツル毛で俺の頭を叩いてくるリアだった。


「ゼンよ、毒感知や毒耐性やらのスキルはな、毒ではないが非常に辛かったり酸っぱかったり不味かったりする物には反応しなかったりする事があるのじゃよ、毒のごとき不味い飯とかな……」


 そんな飯には出会いたくないもんだ……俺の作った飯? あれはただ普通に不味いんであって、さすがに毒のごときという程ではない。


「やめて〈孤高〉! それってあの時の話でしょ! もう思い出したくないからやめて頂戴!」


「うむ……済まなかった〈日陰植物〉あれは災難であったからの……美味い飯の話をするのがよいな」


 なんだろうか、仲良しな二人にはそれなりに思い出があるようだ。

 ……ロクな思い出じゃなさそうだが。


「おまたせ」

 そんな時、ルナがまた新しいお皿を三つ置いてから戻っていく。


「ありがとうルナ」

 ルナにお礼はすぐ言うけど、それとは別に後で労ってあげないとな。


「ふむ……ゼンよ、説明を頼んでもいいか?」


 皿を見ているホムラの声掛けに、俺もルナからお皿に目を向ける、ふむ。


「食材をそのままや衣をつけて高熱の油で揚げた物だな、これはたぶんタコの唐揚げ、そしてこっちはアジフライっぽい感じで、最後がなんだろ……ちょっとお先に失礼」


 最後の楕円形の様なフライを食べてみる……ああこれは。


「カキフライだな、日本産のカキなのかそれともホムラに貰ったカキに似た貝なのかは知らんが、美味いなぁこれ、そのままでもいいけど、ここにあるソースや醤油やマヨネーズやらを付けて食べてみてくれ」


 テーブルにはすでに各種調味料が用意してあるのだ。

 ホムラはまず何もつけずに食べるみたいだ。


「ふむ……美味いのう……あの魔物がこんなに美味いとは……丸かじりよりもこれは中々、それで次はっと」


 ホムラは順番に順番に味わいつつ調味料にも手を出し始めている。


 そしてリアの方はというと……。


「ふぉぉぉぉぉぉ! なにこの白いソース! めっちゃ美味しいわね! これは止まらないわ! ワインお代わり頂戴!」


 リアはマヨネーズが気に入ったようだ。

 タコにもアジフライにもカキにも全部にたっぷりとマヨをつけている……ねぇそれマヨネーズで唐揚げとか見えなくなっているんだけども……。


 一人のマヨラーの誕生を尻目に白ワインを……ありゃもう空っぽか、じゃ次はロゼとかいうのを出して注いでやるドボドボっ。


 俺もそろそろ飲むとしよう。

 いつものチューハイでいいかな、大学の飲み会でもいつもこれだったしな。


 レモンとピーチとグレープフルーツのチューハイ缶あたりを〈インベントリ〉から出していく。

 一部の奴等には馬鹿にされる事もあったが、俺はチューハイが好きなんだよ。


 カシュッという独特の音を出して缶の飲み口を開けていき、ゴクゴクッとな。


「プハァァー---美味い! やっぱチューハイが気楽に飲めて美味いよなぁ、じゃ唐揚げでもつまみつつ……ん? どうした二人共」


 俺が缶のチューハイを豪快に飲んでいたら、ホムラとリアが飲食の手をとめて俺を見ていた。


「いや、ゼンがやけに美味そうに飲むからの……儂にもちょっとくれんかの?」


「その入れ物も変だわよね、表面に描かれている果物もすごく美味しそうだし、私にもちょーだい」


「まぁいいけど、じゃぁちょっと待ってくれ、今出すから」


 そう言うと俺は、自分用に買っておいたチューハイの中から10種類くらいを選んでテーブルに出してあげる。

 さすがに全部出すのは面倒だったので途中でやめた。


「レモン、梅、グレープフルーツ、ピーチ、みかん、乳酸菌飲料、キウイ、ライム、マスカット、バナナ、どれでも好きなのを選んでくれ、俺が開けてやるから」


「すごい量じゃのう……しかも器の表面が見事な絵や色で彩られておる、有名な絵描きとかかの?」


「ほんとねぇ……さっきも言ったけど果物がまるで本物みたい、肥料に書いてある花の絵やらもすごかったけど、ゼンの世界は絵が上手い人が多いのねぇ……」


 んー? ああ、印刷っていう技術がないのかな?

 そう思って色々聞いてみたら、絵画系のスキルがあるから一応見た物をそのまま描いたりは出来るらしい。

 でも絵の具が高いらしいから、色鮮やかな絵は金持ちの道楽っぽい。


「こんなにたくさんあると困ってしまうのう……」


「そうねぇ、選択肢が多すぎるのも嬉しい悩みね」


「へーそんなもんか」


 二人の感想に気のない返事をしてしまった俺。

 するとリアとホムラの二人は。


「何その返事……ねぇゼン、この色々なお酒なんだけど、まだ他の種類もあるのね?」


「む!? なるほど……ここにあるのはほんの一部だから儂らの感想にも共感せんかったのだな!」


 なんだこの二人の勘の良さは、一緒に推理するとか仲良しか?


「いいから選べっての」


「いいえ、それは駄目だわよゼン、私は貴方の保護者として全てのお酒を出して貰い、その中から選ぶ事を要求するわ!」


「それはいいのう! 儂もそれを要求するぞ! 勿体ぶらずに全部だすといい」



「やだよめんどくさい、そもそもこのテーブルじゃ料理の皿もあるし狭くて無理だってば」


「なん……じゃと……おんしどんだけの酒の種類を抱えておるんじゃ……ゴクリッ……これはもう見ないと終われんのう、のう? 〈日陰植物〉よ」


「そうね〈孤高〉、さすが非常識の塊であるゼンよね! まさかそれほどとは……さぁ逃げられないわよゼン、いいからお出しなさい!」


 ホムラとリアは何か連携の取れた感じで俺に詰め寄って来る、お前ら仲良しか?


 しかもリアのアホツル毛が俺の腰をぐるりと巻き取り、逃げられないように拘束してきている。

 こいつら傍目には分からんが絶対に酔っているよな……。


 まぁ仕方ないか……。


 ……。


 ラハさんが出してくれた新たな大きいテーブルに、俺の〈インベントリ〉の中にあった酒の全種類を出していく。

 その数は百を超える訳だが……それを見て喜びの歓声を上げているホムラとリア。


 ラハさんも感嘆の声を漏らしている。



 ……うん、これらがメニューで買えるほんの一部だという事は……しばらく黙っておこう。

 まあそのうちバレるとは思うけども。

お読みいただき、ありがとうございます。


次あたりから不定期更新にしていきますのでよろしくお願いします


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