44 ウロコ拾い
「それはまたとんでもないスキルじゃのう……それであの盆地からダンジョンが消えていた訳か」
ホムラはラハさんの体さんが淹れたお茶を飲みながら俺の〈ルーム〉の感想を漏らす。
真っ赤なパーティドレスを着て背筋を伸ばし、美術品のような陶器製カップでお茶を飲むホムラの姿は、どこかの高位貴族のお姉さんといった所か。
そういや人型の時には角とか生えてないんだな、竜の時には立派な角が生えてたのに。
ホムラとリアが言い合いを続けていたので俺は体さんと会話していたのだが、その中で出た化粧水によるお肌ピチピチ宣言に対して、二人とも言い合いをやめて俺に詰め寄ってきた。
ものすごい強いダンジョンマスターでも、そういう部分は気になるのね……。
そこでなんやかんやあって、俺のユニークスキルやダンジョンメニューの特殊性を説明する羽目になったのだ。
その過程でホムラに出した異世界日本酒の事もリアにばれてしまい、アホツル毛で頭を叩かれた……。
ダンジョンオークションに出した訳じゃないんだからいいじゃんか、俺自身が楽しもうとしてた物なんだしよ……。
「ゼンのユニークスキルはやばいわよね、口外厳禁よ〈孤高〉」
「分かっておる〈日陰植物〉、だけどのう……身内として自分が使う物を購入して貰うのはいいじゃろ?」
「そりゃまぁ私も色々購入して貰っているからしょうがないけど……くれぐれも人に言うんじゃないわよ? ああ……貴方には言うべき知り合いもいないから大丈夫だったわね、失礼」
「感謝じゃ〈日陰植物〉……ん?……おや? 儂はケンカを売られておるのかのう? ええぞ買うぞい」
二人の間にまた殺気が漂い始める。
「やめんかお前ら! じゃれ合いで一々殺気を出すな!」
「じゃれあいじゃないわよ……」
「そうじゃ、誰がこんな奴と……」
同時に似たような事をいいやがって、仲良しだろ。
「ったく、まぁそれで俺のスキルなんだがリア、〈入口〉を増やしたからまたここに一つ置かせてくれ」
「ええ!? あれの入口が増えたの? いいけど……益々やばいわねゼンのスキルは……」
「さっき言っておった奴じゃな……のうゼンよ、その入口とやらはいくつあるのじゃ?」
「ん? えーと今は五つだな」
「それなら我のねぐらにも設置するといい、保護者としていつでも会えるようにな!」
「自分が寂しいだけじゃない」
「なんじゃと」
「なによ」
また二人の言い合いが始まりそうなので俺は話を進めていく。
「あーそうだ、ホムラには相談したい事があってな、俺の配下の魔物を置いておける場所が何処かにないかなーって、さすがに他の人のダンジョンに自分の配下の魔物を置くのはまずいだろ? 冒険者とかよそのダンマスとかが来ないような場所がいいんだけど、色んな所を散歩で飛び回っているホムラなら心当たりがないかな?」
「ふーむ、それなら、儂のねぐらはこの大陸から南方に少しだけ離れた島にあってな、一番大きい火山島が儂のねぐらなんじゃが、そのすぐ隣の島とかどうかの? 大陸から見えるくらいの島々での、儂を恐れて人なんぞ住んでおらんし多少だが魔素湧きスポットでもある、儂の食料調達場所でもあるんじゃが……まぁ島のひとつくらいゼンにくれてやるわい、友達じゃしの」
何その好立地……うーんそこまでお世話になって良い物だろうか? だがすでにリアに世話になりまくっているし……今更だな。
「一度現地を見てみたいな、落ち着いたらお願いするよ」
「まかせておけ! 儂が運んでやろうぞ」
「話は終わったようね〈孤高〉、ならそろそろ帰ってくれないかしら」
「なんじゃと? 確かにわしゃぁ迷惑を掛けたかもしれんが、そんな意地悪を言わんでもいいじゃろが〈日陰植物〉よ」
「いや、そんなんじゃないわよ、ただね、貴方ドラゴンの姿でダンジョンに進入してきたでしょ? つまり外にいる人の意識からすると、まだ私のダンジョンにドラゴンがいるって事になっちゃうのよ、だから一回ドラゴンの姿で飛び去って欲しいのよ、そのあとこっそり戻って来るくらいなら構わないから」
「お……おうそうじゃったか……確かに人が妙な動きをする前に一度去っておく姿を見せておくべきじゃな……了解した〈日陰植物〉、じゃぁ次は隠密状態で来るとしようかの」
「そうして頂戴、これ以上ドラゴンに居座られたら、中堅処の冒険者にも商人も優しいダンジョンって噂が台無しになっちゃう」
そんな噂を流しているのかよリアは……まぁ果物なんて消耗品だから延々と売れるし、中層くらいまでの魔物はそれほど強くないから……間違っちゃいねぇと思うけどよ。
「なぁちょっと待ってくれ、このまま飛び去るよりちょっとしたアイデアが俺にはあるんだけどさ」
「ゼンのアイデアってのがちょっと怖い所ね」
「わが友は考えなしな所とかありそうじゃしの」
似たような事を同時に言いやがって……お前ら仲良しだろ。
「内容を聞いてから文句を言えよ! ったく、いいか、こんな感じでさ――」
――
――
話が終わった俺は一度歩きでダンジョンの外に帰っていく。
丁度ダンジョンの境目についたあたりだったろうか、上空を真っ赤なドラゴンが通過し、そのドラゴンはダンジョンと街の境目あたりでグルグルっと何度か同じ場所を飛ぶと何処かへと飛んで行った。
そのドラゴンの片手には樹海ダンジョン産の果物なんかを大量に持っているのが見えた、ヨシヨシ。
さて後は街に帰るだけ……うあ……俺の目の前にホムラのウロコが大量に落ちているのが見える……あの馬鹿が! 広範囲に撒けって言ったじゃんかよ!
俺がリアとホムラに話したアイデアはこうだ。
ホムラが飛び去る時に、体をボリボリとかく仕草なんかを見せてウロコを広範囲にばらまかせる。
そうすれば、この街で貴重な火竜のウロコが売りに出される訳だ。
俺も事前にホムラからウロコを受け取っており、これらは拾ったという事にするつもりだ。
そして値下がりを懸念して少しずつオークションに出すとかなんか適当に話を作って、しばらくの間ウロコをオークションに出し続ける事にする。
この話に食いつかないような商人はいないはず。
勿論話の中でホムラのウロコに価値があるかどうかを聞いてみたうえでの提案で、このウロコは魔法触媒としても武器や防具の素材としても優秀だそうだ。
それとホムラが手に果物を持って飛ぶ所をわざと見せつけた事により、ドラゴンが食べたがる程に美味しい果物という噂を流す。
そうすればまぁ……商人の戻りも早くなるんじゃないかって思ったんだが……。
あのホムラのアホは、俺の帰り道にウロコをばらまいていきやがった……。
俺は『広範囲に』ってちゃんと言ったじゃんかよ……どうしよう…‥街からダンジョンを見ている人らの視線を感じるし、普通の冒険者ならこれを喜んで拾わないとおかしいよな?
うぐぐ……仕方ない……拾うか……なるべくゆっくり拾おう……はやく誰か来て―! ほらほらこんなに美味しい獲物がたくさんあるんだよー?
……。
……。
誰も来ませんでした! 警戒しすぎだろ! いやまぁ命が掛かっているからね、分からんでもないんだけど……。
どうしようか、結局ほとんど俺が拾っちゃったんだけど……見逃してしまったと装って草の下とか岩の影にあるやつは無視したんだけど。
それでも9割以上が俺の手の中にある。
しかも事前に貰ったのを含めると200枚を超えるんですけど……どうしようかこれ……。
俺はウロコを腰に巻いているサイドポーチに仕舞う。
これもダンジョンメニューで購入した日本産で、〈拡張〉が付与されている物だ。
そうして街に近づいていく訳だが……ああうん大量の冒険者が柵壁の向こうや門のあたりからこっちを見ているね。
そしてギルドの職員も……あ、カレンさんめっけ、そのカレンさんは俺に気付くとこちらへ向けて走り寄ってくる。
柵壁を乗り越えず遠い門に向かって遠回りする所は、さすがルールを守る真面目なカレンさんだ。
一生懸命走ったのか息切れを起こしているカレンさんが俺の元に辿り着く。
俺も歩いていたので、すでにそこは柵壁の近くだった。
「はぁはぁ……ゼン君大丈夫ですか!? 怪我は? ドラゴンと遭遇したりしませんでしたか?」
焦っているのか俺の呼び方がいつもと違う、いやまぁいいけどね。
それとこの間判明したのだがカレンさんは結構年上らしいし……しかもハーフエルフ? とかいう種族? らしい。
まぁカレンさんはカレンさんですよねって返したら、泣き出しちゃって慰めるのに苦労したっけか……。
頭の片側に小さな可愛らしい巻き角がある浅黒い肌でセクシーな受付嬢さんも慌てて近寄ってきたので、俺が泣かせた訳じゃないんですよ? と言い訳をしておいたけど……。
事情を聞かれたので話をしている時に、その受付嬢さんにちょっとした質問をされたので、それに答えたらすっごいびっくりされたっけか……あれはなんだったんだろうな?
俺の体をペタペタと触り怪我を確認してくるカレンさんと、柵壁の近くを歩き門へと向かう。
「大丈夫ですよカレンさん、ドラゴンも果物を食べに来ただけみたいですね、帰る時もお土産に果物を持ってましたし、樹海ダンジョンの果物はドラゴンも食べたがるなんてすごいですね!」
門は遠いが柵壁は近い、つまりそこには冒険者や住人がいるので、わざと聞こえるくらいの声で話をしてやる。
美味しい果物の噂よ広がれーと念を籠めながら。
「ゼン君はずいぶん余裕そうですね……ドラゴンなんて天災なんですよ? なんでそんな呑気な……」
「そりゃドラゴンに殺気がなかったですし、邪魔さえしなければ大丈夫かなって、それに見てくださいよカレンさん」
俺は腰のサイドポーチから火竜のウロコを一枚出してみせる。
カレンさんはそれを見ると口を大きく開けて。
「火竜のウロコですか!?」
大きな声でそう叫んだ。
さすがカレンさん、思った通りのナイスリアクション!
「ええ、飛んでいる火竜が体をボリボリとかいているのが見えたので探してみたんですよ、まだ全部見つけてはいないとは思うんですが、まずは報告が先かなと思って戻ってきました」
とまぁ俺がカレンさんにそう言った瞬間だった。
柵壁の向こうでこちらの会話に耳を澄ませていた冒険者達が、我先にと柵壁を乗り越えてダンジョンに向けて走って行く。
「キャッ!」
走っていった冒険者とカレンさんがぶつかりそうになり、無理に避けたカレンさんが倒れそうになる。
俺はさっと手を出してカレンさんの腕を引っ張り、そのまま抱きしめるように確保してあげる。
ったく周りを見て走れよな冒険者さんよ。
「大丈夫ですか? カレンさん」
俺の腕の中にいるカレンさんに声を掛ける。
こうして近くで見ると確かに耳が少しとんがっているんだな。
まぁだからどうしたって事はないんだけど、本人はこの耳が嫌いな風な事を言ってたんだよね、どうしてだろ?
あ! 寝返りを打つ時に痛くて邪魔だとか? それはありえるな! 今度聞いてみよっと。
「はいゼン君……大丈夫でふ……」
……。
大丈夫なら早く俺から離れて欲しいんだが……いつまで抱き着いているのだろうか。
いやまぁ役得と言えば役得なんだけども……ねぇカレンさん、今すっごい周りに見られているのだけれど、貴方は何故か目を瞑って抱き着いたままなのは何でかしら?
俺の革鎧の匂いがそんなに好きなの? 革鎧を着ているから役得感も薄いんだけどなぁ……。
何故か時間の止まってしまったカレンさん。
それは彼女の友人らしき、片巻き角の受付嬢さんに頭を引っぱたかれるまで続いたのであった。
カレンさん再起動の方法はそれかぁ……俺じゃ出来ないな。
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら
ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただけると嬉しいです
評価ボタンは、作者のモチベーションに繋がりますので、応援よろしくお願いします。




