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43 〈孤高〉と〈日陰植物〉

 冒険者装備を纏い街の中を駆けていく俺。


 街はパニック状態と思いきや、商人たちが逃げ出してはいるが住人はあまり動きがない……天災のような物と思っているのだろうか?

 まぁ逃げた所で収入のあてがなければ詰みだしな、半ば諦めているのだろう。


 混雑し馬車が渋滞を起こして怒号が飛び交う門の隙間を駆け抜け、ダンジョンへと向かう。

 ダンジョンから逃げてくる冒険者はいるが、俺のようにダンジョンに向かう奴はいないっぽいな、まぁドラゴン出現だしな。


 とはいっても何かが暴れている音が響く訳じゃないし……とっととリアの所へ飛ぶか。


 ……。


 ――


 毎度のごとくの転移魔法陣で飛んだ先の部屋だが、いつもなら何体か待機しているウッドゴーレムさんがいない。

 仕方ないので勝手に庭園に向けて駆けていく。


 ってか〈気配感知〉にでかい反応がありやがる……うわなんだこれ、廊下にまで感じる殺気と圧力がすごいな……知り合いだと分かってなかったら逃げ出す所なんだが……。


 ……。


 やっとついた庭園部屋、中からものすごい殺気やらの圧迫感が押し寄せてくる。

 ……うへぇこの殺気を直接俺に向けて放たれたら、それだけでやられちゃいそうなんだが……中をチラっと覗くと……。


 庭園の真ん中あたりに真っ赤なドレスを着たホムラがいた。

 目に見える程のオーラのようなものを体から噴出していて……あれはやべぇ……。


 そしてそれに対面しているのがラハさんで、彼女もいつもと違う鎧と武器を装備している。

 その後ろにはリアが古びた木製の長い杖を持ち、それをホムラに向けている。


 リアのアホツル毛は拳を作り、ホムラに向けてジャブを出して牽制している……芸人か?


 リアの後ろにはいつものウッドゴーレムさん達が勢ぞろいしていて、その中には初めて見るゴーレムもいたのだが、気配がやばすぎて〈気配感知〉を一時的にオフにした。

 あのゴーレムもやっべぇやつだな……。


 まぁ見ているだけじゃあれだし、俺は震える足で対峙している二人の間に向けてゆっくりと歩きだす。

 もっと早く歩きたいのだけど、体が本能で行きたくないって拒否るから上手く進めないんだよ……。


「お、おーぃお前ら何してんだ~」


 我ながら小さい声で意味の分からない声掛けだな。


「ゼン! そこは危ないから私の後ろに来なさい!」

「生きていたのかゼン! そこは危ないから我の側に来い!」


 うーん、矛盾する事を言われてしまったので俺は勿論動かない。

 というかこいつらなんでこんな状態になっているの? 仲の悪いダンマス同士だったのかな?


「ん?」

 リアのアホツル毛がハテナマークを示し。

「ぬ?」

 ホムラの体から吹き出していた謎のオーラが少し揺らいだ。


「……」

「……」


 無言で睨み合っているリアとホムラだが、そこへリアが口を開いた。


「〈孤高〉がなんでゼンの事を知っているのよ……」

「〈日陰植物〉が何故ゼンに親し気にしておるのじゃ……」



「ゼンは私が保護しているダンマスなんだから親しいのは当たり前でしょ!」


「なんじゃと? しかしゼンのダンジョンは消えておったぞ……保護者なら、まだまだ新人であるゼンのコアが破壊される事を見逃すとも思えん!」


 んー? ……んんんんん? ……あ、そうか。


「取り敢えずだ、殺気を収めて話し合いをしないか? リアもホムラも俺の知り合いだし、知り合い同士がやり合うのは見たくねぇわ」


 俺はこの殺気が漂う空間の中で二人の間に辿り着き、なるべくノンビリとした口調になるように気をつけながら、そう提案してみる。


 すると。


 ホムラの周囲にあったオーラのような物が引っ込み殺気が薄れていく。

 そしてリアの陣営側からも圧力が薄れていく。


「ゼン! これはどういう事? なんでゼンが〈孤高〉に執着されているのよ」


「ゼンは我の友になったのだから当然の事だろう」


 俺がリアの質問に応えるより先にホムラが自慢げに応えていた。

 へー、俺はホムラの友達になってたんだ? ……え!? いつなったの?


 俺が不思議な話だなーと首を傾げていると、リアが俺の行動に気づき。


「ゼンは首を傾げているじゃないの! 〈孤高〉の勘違いなんじゃないの? そもそも貴方に友達がいるのなら〈孤高〉なんて二つ名は付かないでしょーに」


「うっさい引きこもりの〈日陰植物〉が! 一緒に風呂に入って酒を飲み、また遊びに来ても良いと言われたんじゃ! これはもう友だろうて! なぁゼンよ?」


 ホムラの言葉を聞き状況を思い出してみた。

 風呂で裸の付き合いをして同じ器で酒を飲む。

 そして、また来ても良いよと相手に伝える……ああうん、言われてみるとそう思えなくもないかな?


「そうだな……友達といえない事もない事もないかもしれない?」


「言い切れないくらいの知り合いなんじゃないの、というか私はダンジョンを出る必要がないから出ないだけなのよ! その二つ名で呼ばないでよ〈孤高〉!」


「儂だってもう友がいるのだからその二つ名で呼ぶな〈日陰植物〉よ!」


 殺気は消えたけど言い合いは収まりません。


 というかリアの二つ名って〈日陰植物〉なのかよ……引きこもりがどうたら言われていたし、外に一切出ないからかね?

 それなら〈観葉植物〉でもいいんじゃねーかなぁ、なんちってな。


「ゼン……貴方何か余計な事を考えているでしょう? あなたは表情が分かり易いからね……何を考えていたの? 私に言ってごらんなさいな」


 据わった目つきで問いただしてくるリアは、頭のアホツル毛を伸ばして俺の頬をピシピシと叩いてくる。

 わぉ! 勘が鋭すぎてちょっと怖い、ここはなんとか誤魔化さないと……。


「ラハさん、椅子とテーブルよろしく、立ったままだとあれだから座って話そうぜ」


 リアの質問に応えずに俺はラハさんにそうお願いをした。

 リアは訝し気な表情で俺を見てくるが、無視だ無視。


 三人の間にいつものテーブルより少し大きい物が置かれた。

 物理的な距離を離すためだろうか? というかずいぶんと頑丈そうな物で所々焦げていたりする……まぁいいか。


 二人が対面になるように着席したのを見届けて、均等の距離になるような位置に俺が座って二人に話しかける。


「それでなんでこんな状況になってたんだ?」


 リアは腕を組み、プイっと顔を横に向けながら。


「知らないわよ! 〈孤高〉が急にダンジョンに降りてきてここまで押しかけてきたのよ」


 アホツル毛は怒りを示すが如く、浮き出た血管のような形を示している。


 俺がリアの説明を聞いてからホムラの方を見てやると。


 ホムラもリアと同じように腕を組み、顔を横にプイッとそらしながら


「……ゼンのダンジョンに遊びにいったらダンジョンが消えていた、お主らも近くにいなかったので、コアを壊されて主らも一緒に消された……と思ったんじゃ、盆地に冒険者を見かけたが強くはなかったので一番怪しい近場のこやつに問いただすために来た訳じゃ」


「なにそれ冤罪じゃないの! 〈孤高〉は前もいきなり甘い物が食いたくなったとか言ってダンジョンに押し掛けたわよね、あの後商人達が戻ってくるまで大変だったんだからね!」


 リアの物言いにホムラは口を噤んでいる、うーんこれはなぁ……。


「うん、ホムラが8割悪いね」


「うぐぅ……」


 ホムラはうめき声をあげるのみだった。

 本人も分かっているのだろう。


「なんで8割なのよ……まさか残りの2割は私が悪いとか言わないわよね?」


 リアは納得がいかないのか、ジロリと俺を睨んでくるが。


「ああ、残りの2割は俺のダンジョンの特殊性を教えていなかった俺にある、まぁ急に知り合った相手に教えるものかどうかは別にしてな」


「それは当たり前じゃないの……〈孤高〉の事をよく知らないのに教える訳ないじゃない、もう〈孤高〉が10割悪いでいいじゃない!」


 リアは大きな声でホムラを攻めるが、ホムラは視線を下げて何も言わず耐えている。


「いやほら、俺はホムラの友達らしいからな、一緒に謝ってやるくらい当然だろ? だから2割分をリアに謝るよ、ごめんなリア、ほらホムラも俺と一緒に謝ろうぜ?」


「ゼン……うう……心の友よ……ぬぅ……済まんかった〈日陰植物〉この通り謝罪する」


 ホムラは俯いていた顔を俺に向けて目を少しウルウルさせると、リアに顔を向け頭を下げて謝罪する。


「うそ……あの〈孤高〉が素直に頭を下げるとか……まぁ……今回はダンジョン戦力を削られた訳じゃないし? ……でも前と同じく、しばらく商人は近づかないんでしょうね……はぁ……根回しとか色々面倒なんだからね? ……いいわ! 今回はゼンに免じて許してあげるわ〈孤高〉」


「ありがとうリア、ほらホムラも」


「感謝する〈日陰植物〉」


 ふぃー……なんとかなったか。


 殺気や圧力も完全になくなって、俺の体の震えもやっと収まったよ。


 リア側のゴーレムもいつの間にかいなくなっているね。

 あの初めて見る特殊なゴーレムは、リアの隠し玉って奴なんだろうな。


 そして話も一段落ついた訳だが、リアがテーブルに突っ伏し愚痴りだした。


「ああーそれにしても面倒事になったわ……商人達を戻さないと稼ぎのあてのなくなる冒険者もいなくなっちゃうし、情報操作や場合によっては果物のPOPを一時的に増やしたり……うーん……領主に安全宣言を出させるか税の減額とかをさせないと駄目かしら……あーあー誰かさんのせいでめんどーだなー」


 リアの言う誰かさんなホムラは、それを聞いて最初は申し訳なさそうな表情だったが、リアの愚痴が止まらないせいで、ホムラの表情も段々と険しくなっていき。


「終わった事をグチグチと……だから引きこもりの根暗な〈日陰植物〉なんて言われるんじゃ」


「何よ〈孤高〉だって、たかが知り合いが一人出来ただけじゃないの」



「知り合いじゃない! 友達じゃ! それに一人ではない、ゼンにルナという2人も友達が出来たのじゃから、儂はもう〈孤高〉なんて呼ばれ方は似合わんという事になるのじゃ」


 なんだろうこいつら、実は仲が良かったりするのだろうか?

 それを聞いても否定される未来しか見えないから聞かないけど。


「ルナちゃんは私の妹よ! 〈孤高〉になんてあげないからね!」


「妹な訳ないじゃろが! ゼンのナビな事には儂も気づいておるわい、適当な事を言うな〈日陰植物〉」


 いつの間にかルナがリアの妹にされている。


「私はゼンの保護者なの! ならそのナビは私の妹であってもいいじゃないの!」


「あほうかお主は、しかし保護者か……ふむ……よし! 我もゼンの保護者になってやろう! 友だからな、それくらいはせんといかんな!」



「いらないわよ! 保護者なんて私がいれば十分よ! 〈孤高〉はもう帰りなさいよ! 私は後始末で忙しいんだから!」


「いーや、もう決めたから覆らん、ゼンよ、儂もお主の保護者になるからな! 友としてそして親として慕ってよいのじゃぞ!」


 どうもこの短い時間でルナに姉が出来たように、俺には母親兼二人目の保護者が出来たようだ……いや、ナンデヤネン。


 ……。


 その後もワーワーギャーギャーと煩く言い合っている二人。


 ……。


 あ、ラハさんの体さんお茶ありがとう、いつものように美味しいですね。

 そういえばこの間プレゼントしたハンドクリームや爪切り使ってみました?

 ……へぇそれは良かった、今度違うシリーズもプレゼントしますからね。

 え? ラハさんにも何かを? そうだなぁ……異世界日本産の化粧水とか使ってみますか? お肌ピチピチになりますよ?


「お肌ピチピチですって!?」

「肌がピチピチじゃと!?」


 うわ! 言い合いをしていたリアとホムラが、ラハさんと体さんと話をしていた俺の言葉に過剰に反応してきた……。


 なぁ……。


「お前ら本当は仲がいいの?」



「そんな訳ないじゃない!」

「そんな訳ないのじゃ!」

お読みいただき、ありがとうございます。


最近初めて誤字報告を確認する項目に気付きまして……すっごい前に誤字報告をして頂いた方ありがとうございます、気付かず申し訳ありませんでした


書いた後に何度か見直してはいるのですが見直す度におかしい場所を見つけるから途中で疲れて諦めるんですよね……




少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら


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[良い点] 面白い 体さんの可愛さだけで書籍化、漫画化しそう 鎧角の上手い人宜しくw [気になる点] 宝石は安いのに お酒は高いの謎過ぎゆw [一言] ここまで読んだ感想…… この話数でもうカンヒモ(…
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