40 赤髪の美女
「うー、もうなくなってしもうた……ジー」
俺から少し離れて湯につかる赤髪の美人さんは、中身のなくなった徳利を愛おしそうに揺らしながら俺をジッと見つめてくる。
勿論俺はそれを無視して、自分用の飲み物……酒を出すと煩そうなので冷たいスポーツドリンクを出して飲んでいる。
最初これを出した瞬間、お湯を一切揺らさずに俺の横にピタっとくっつくくらいの位置に赤髪の美人さんが瞬間移動してきた時はびびったよ。
だってお湯につかりながら一瞬で移動して来たくせに、お湯がほとんど揺れなかったんだぜ?
そして俺の飲み物の匂いを嗅いで酒じゃないと分かると元の位置に戻って行った。
そこへざぶざぶとお湯をかき分けルナが泳いで来る。
犬かきのようなカエルのような不思議な泳ぎだ……ってこらこら、お風呂では……うちのお風呂は泳いでおっけーに今決めた!
俺の横の縁にたどり着いて泳ぐのを辞めたルナに向かって。
「どうしたルナ、飲み物お代わりか?」
両手をちょこんと縁に置き、体を微妙に湯に浮かせながらバタ足で足が底につかないようにコントロールしているルナ。
浮く感じが楽しいのかね?
「今日はもうお風呂に満足したからあがって帰る、マスターはどうする?」
ルナは少し赤くなった頬でそう言ってくる。
結構長くお湯につかってたしな、十分温まったか。
体はダンジョンメニューで奇麗に出来るから洗う必要がないんだよね。
「俺も部屋に帰るよ、そんじゃ俺らは帰るよ赤髪さん」
俺はルナと反対側にいる、いまだに徳利を大事に持っている赤髪美人さんにそう告げる。
「ぅぅいけずじゃのう主は、なら儂もそろそろお暇しようかの、ルナとやら詫びには何が欲しいかの?」
湯から上がり縁の部分に腰掛け、足だけを湯につからせた状態で赤髪の美人さんはルナにそう問いかけた。
俺が貸したタオルが湯から上がる事で、肌にぴっちりと張り付いてナイスバディを浮き上がらせている。
まさにボンキュッボンの……っといかんいかんまたルナに冷たい目で見られてしまう。
ちょっと視線をずらしてお月様でも見ていよう。
「食材が良い!」
俺を追い越して赤髪の美人さんに近づいたルナは、彼女の隣に座ると元気よく答えた。
たぶんすごいレベルの高いダンジョンマスターだと思うんだが、DPとかじゃなくて飯を頼む所といい、ルナは純粋でいい子だね。
俺だったら100万DPくださいとか言っちゃいそうだ。
「ふむ……なれば主よ、これから儂が出す魔物に対してダンジョン側の吸収を解体設定にするのじゃ」
赤髪の美人さんはルナから俺に視線を移しながらそんな事を言ってくる訳だが……。
「俺の名前はゼンだ、そして解体設定ってナニー?」
そういや自己紹介とかしてねーなぁと思いつつ、俺の名前を教えた後に分からない事を質問しておく。
「はぁ? 解体設定は解体設定じゃろ、ダンジョン内で魔物を吸収するさいに、食材となる部分や使いたい部分をダンジョンコアのインベントリに仕舞っておく設定じゃよ」
「へーそんな機能があるんだな……便利そうだね」
「そんな機能聞いた事ないよねマスター」
俺とルナが感心するやら不思議に思うやらの反応を見せていると。
「なぁぬし……いやゼンだったか? ぬしのコアレベルを教えてくれまいか? 勿論相手のコアレベルを聞く事がルール違反だと言う事は分かっておる、この件に対しても詫びはするでの」
「ん? いやまぁ詫びとかいらんけど、俺のコアレベルは×だ」
「新人も新人……大新人じゃったかぁ……そしてここをダンジョンに選ぶか……可哀想にのう……」
「誰が可哀想だ失礼な! 新人な事は認めるけどよ」
赤髪の美人さんは険しい表情を見せ憐れみの目で俺を見る、そして
「……なぁゼンよ、ここはな季節湧きの魔素スポットなんじゃよ……」
「へー」
やっぱそうなんだな、まぁリアの言い方や状況を見ればそうなるよな。
常に魔素が湧いていたらすでにダンジョンがあってもおかしくないし。
「何でそんなに冷静なんじゃ! ああ……新人じゃから理解しておらんのだな……いいか、コアは一度設置したら再度動かすのにはDPが必要じゃ、だがここでの収入でそれを稼ぎ出すのは難しいじゃろう、そして魔素が湧かなくなればDP収入が維持費でマイナスになるからダンジョンの大部分を手放す必要がある、配下や自身の生活に使うDPも稼げない……そうなると何処かのダンジョンマスターの軍門に下るか冒険者のように周囲の魔物を倒して回るという辛い時期がそのうちやってくるのじゃ……」
「成程ね、それで解体設定ってどうやるの?」
「ぬしは儂の話をちゃんと聞いておったか!? ぬぬぬぬ……ここまでのんきだと……なぁゼン、儂が気に入ったお主を助けても良いのじゃが儂の本拠地はちと遠いでな、なんなら……コアを一度破壊して儂の本拠地まで移動して保護してやる事も出来るんだがどうじゃ? そこでコアが復活したら近くの恒常湧きの魔素湧きスポットに案内してやるぞ?」
「いや、さすがにコアを壊したくはねぇな、まぁ俺は大丈夫だ、だから解体設定ってのを教えてくれってば」
「はぁ……まぁ実際に困らんと分からぬか……まぁよい、ちょいちょい遊びに来てやるで、困ったらいつでも儂を頼れ、では設定の話だがまずはコアの拡張でインベントリを獲得してだな――」
……。
――
それからしばし赤髪の美人さんに解体設定とやらの話をして貰ったのだが、DPが足りずに今すぐは無理という事が分かった。
「――という訳で簡易メニューしか使えんのは不便だしの、そこも拡張しておくとよいぞ……まぁここでの収入じゃ無理な話なんじゃがな、それに来るべき無収入に備えて貯蓄しておく方がええじゃろうて」
「はーなるほどなぁ……すっげぇ勉強になったよ、ありがとうな赤髪で美人のお姉さん」
「ホムラじゃ」
「ホームラン?」
「誰がホウムランじゃ、儂の名前がホムラじゃと言っておるんじゃ、ゼンとルナには特別に名を呼ぶ事を許してやろう」
ホムラと名乗った赤髪の美人さんは、ニヤっとした笑みを俺とルナに向けると後ろでしばっていたポニテを解いてさらっと髪を流す。
真っ赤なロングの髪の毛はその勝気な顔と爆弾のようなナイスバディと合っていて非常に美しかった。
「ゼン、メニューでダンジョン内の情報を外に洩らさない設定にしておけ」
急にそんな事を言われたが一応言われた通りにする。
これはダンジョン内の爆発やら戦闘やらを外からは見えなくするモードで、振動や音や光が一切外に見えない聞こえない……真っ暗なシールドで覆われるからすごい目立つんだけど今は夜だから大丈夫か。
シールドと言っているが出入りは自由に出来る。
あくまで光や音や振動を漏らさないだけの設定で、これをやっているとDP吸収率が著しく落ちるから普段使う事はない。
そして。
「ルナよ済まんが食材はまた今度にしておくれ、儂は丸かじりするで解体をした物は持ち歩かんのじゃ、今度メニューで解体した物を持ってくるでな、ではさらばじゃ、また来るぞ」
立ち上がったホムラは、体に巻き付けていたバスタオルを俺の顔に投げつけてくる。
ベチャリと顔に被さった濡れたタオルをなんとか取ると、真っ裸のホムラが宙に浮いていて上へ上へと上がっていく所だった……痴女ですか?
そしてホムラの体が一瞬で変化をし、そこには一匹の巨大なドラゴンの姿があった。
日本的に言うなら西洋型の竜だな、鱗や角等ほぼ全てのパーツが真っ赤だった。
ホムラは二枚の羽をはためかせ、俺のダンジョンの上空を二周程すると盆地の中央で何かを……ホムラに負けないくらい……というかそれ以上にでかい何かを落としやがった。
ドガガガァァッァァァンン……。
ものすごい音が盆地に響き渡り地震のような揺れも一瞬感じられた。
……ああ、だからダンジョンを情報閉鎖モードにしろと言ったのか……やってなかったら付近の街や村から斥候が送られる所だったな……。
『ではなゼンにルナ、また湯につかりにくる……酒も期待しておるでな、さらばじゃ』
俺の頭の中にホムラの声が聞こえてきて、隣のルナは空に向かって両手を振っている。
ホムラはさらに何か小さい物をザラザラと落として行くと、ダンジョンの外に出て行った。
俺は情報閉鎖モードを解き、露天風呂の端まで盆地の様子を見に行ってみた。
盆地の中央部分には何かでかい物が落ちたかのように、数階建ての家並みの高さのある立派な木々がなぎ倒されていた。
あ、そうか、落とされた物体はダンジョンが吸収しちゃったんだな……それに気付いた俺は簡易ダンジョンメニューを出すと……。
「ぶっ!」
吹き出してしまった。
「マスターどうしたの?」
俺の横まで来て同じように盆地の惨状を見ていたルナがそう聞いてくる。
それに対して俺は。
「DPが400万以上増えてやがった……」
そう端的に答えるしか出来なかった。
……ホムラさんや、貴方は一体何を落としていったんでしょうか?
「わぉ」
さすがのルナもそう一言洩らすのみであった。
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