37 クリームパスタ
シャドウファントムやウッドゴーレムを送り出し、ダンジョンメニューを弄りながら監視する訳だが、ダンジョンに許可を出していない異物が進入したら、俺やルナや部下魔物なんかのダンジョン関係者だけに警報が聞こえる設定にしておく。
今は〈ルーム〉のコア前に座り、ダンジョンオークションの結果なんかを見ながら別窓で洞窟の外を監視している。
メニューでダンジョン内を見られるのは良い事なのだがほんのわずかだがDPは消費されていくから注意が必要だ。
空の見えるようなフィールドをダンジョンにした場合、明りは自然なままでいいのがありがたい。
洞窟とか建物内は常に明るくしないといかんので夜に目立つんだよね……。
盆地にある木々をダンジョンメニューで移動させて、洞窟入口の光をある程度遮るように配置していく。
山々に囲まれた盆地なおかげで、遠くからは見られないとは思うけども。
そして相も変わらずダンジョンオークションに出している天然石の粒石は確実に入札されていてありがたい。
他の出品を見ると高めな開始値の物は入札されずに入札期間を過ぎている物もある。
そういうのは最低値で即購入できちゃうけど、残っている時点で相場より高いのだろう。
今回のダンジョン設置でコアのレベルも上がっていくので、出品数や開始値の上限も上がっていくだろう、いつか大きいサイズの物とかも出してみたいよね。
コンコンッ。
『ゼン様起きてますか? ご飯出来ましたよ~』
お屋敷の方からセリィの声が聞こえてきたので、お屋敷の部屋に移動して『今行く』と返事を返す。
屋敷警備のファントムも一時的に洞窟に回してから食堂へと向かう。
おっとそうだ〈ルーム〉の扉が開きっぱなしだから、屋敷の部屋の鍵はしっかりかけていこう。
……扉に鍵が掛かってたらコアへと行けないからルール違反にならんかと思うのだが、そこそこの耐久でハンマーとかならぶち壊せるくらいの扉や、鍵開けのスキルを持つ人が解除出来るくらいの鍵で閉めておくとかなら大丈夫っぽい。
理不尽な物は駄目で攻略可能なら良いのかねぇ。
なら碁盤のように小さい部屋を大量に四方に繋げて、その全ての壁に鍵の掛かっている扉を設置するとかどうだろう?
一度鍵を解除して通った部分でも、時間がたつとまた鍵がかかる感じにして……。
たまに開かないダミーの扉も置いて時間を消費させるとか、他の扉が正解なら理不尽ではなくなるよな?
……いらついた冒険者が扉を破壊して進む未来しか浮かばないな、没にしておこう。
……。
――
食堂に着くと良い匂いが漂っていて、すでに三人は席に座っている。
俺も空いている席に座り。
「お待たせ、美味しそうだなルナ」
目の前には手作りのパスタとスープとサラダが置いてある。
「今日はクリームパスタとコッコ肉のスープとポテサラ、自信作!」
ルナが胸を張って料理の紹介をしてくれた。
ちなみに胸のサイズはセリィに負けている。
ダイゴがこっちをちらちら見て待ちきれないようなので。
「じゃぁ食べようか頂きます」
「頂きますマスター」
「頂きます」
「いただきまーす」
さてまずはパスタだ、平たくて幅の広い麺できしめんみたいと言えば分かるかな?
それらにクリームが程よくからんでいて、フォークでパスタ麺を巻くようにからめとってから口に入れる、パクッとな。
んんんー--んまい! ベーコンの程よい塩辛さとタマネギの甘味にきのこの風味が感じられ、バターとコンソメとミルクが共演しているベシャメルソースがそれらを包み込み口の中を幸せにしてくれる。
もう一度言おう、美味い!
そしてコッコ肉のスープは、細かく刻まれた様々な野菜と脂身のついた鶏肉がお互いに出汁を出し合っていて、優しい味で何杯でも飲めそうだ、これも美味い!
ポテサラ? 日本のマヨネーズを使ったこれが美味くない訳もなく、ダイゴと争うようにお代わりを要求してしまった。
……いや、遠慮するなとは言ったけどさ、ダイゴは本当に遠慮しないよな……姉の方がペコペコと頭を下げているのに気付いてやれよ……。
まだ子供だからいいけど、正式な採用枠に入ったら言葉遣いだけでも矯正するからな? うちというより外で同じ事をした時が問題だからな。
……。
そして食後のお茶を飲みながら、雑談を含みつつ仕事の報告を受け取る時間だ。
「ゼン兄ちゃん、薪は全部処理し終わったよ! 倉庫部屋に積んであるけど、まだ倉庫に空きはあるから追加の木をお願い!」
まずはダイゴが元気よく報告してくれて、姉のセリィはハラハラとした表情を見せながらダイゴの口調をちょいちょい注意している。
けどまぁそもそもダイゴは従業員であるセリィの家族が住み込み部屋に同居しているっていう形なので、仕事をする必要すらないのよね……。
ダイゴが何かしたいっていうからちょっとした仕事をお願いして、その都度お駄賃という形で報酬は出している、銅貨とかお菓子とかね。
「そこまで頑張って働かんでもいいんだぞダイゴ、教会の学習教室とかに参加してみるのはどうだ? 友達とか作りたいだろ? それに文字の読み書きとか出来た方がいいだろうし」
教会の学習教室ってのは、創造神とその眷属神達を崇める教会が、子供らに読み書きや簡単な計算を教えてくれる青空教室みたいなもんで、ちょっとした寄進で子供を参加させてくれる庶民の学校のような物だ。
そもそも義務教育なんて言葉もこの辺りでは聞かないし……。
「うーん中街の奴らとはちょっと気が合わないんだよなぁ……獣人を馬鹿にしているっていうか……文字の読み書きならそのうち姉ちゃんに教えて貰うからあそこはいいや、それより仕事くれよゼン兄ちゃん! お金を稼いで姉ちゃんを楽にしてやりたいんだ、あ、お菓子も欲しいけど!」
そらまぁ文字の読み書きを、寄進してまで習いに来るのって人族の方が多いだろうからな。
獣人だからって教会は差別しねーらしいけど来ている奴らは別なのか、そもそも獣人族全体が学問より体を動かす方が好きって人が多いのがあれだよな。
文字の読み書きや計算が出来ない獣人は、悪い人族の商人とかに騙される訳だ……。
そうして人族を嫌いになった獣人の親が、自分の子供を人族が多い学習教室に行かせないって感じになる……悪循環だよなぁ……。
まぁ勉強をセリィが見るっていうのなら無理に行かせる事はないか。
「じゃぁセリィは、いつも頼んでいる大通りの商会に薪の追加発注をお願い、倉庫部屋の空きを見て適度にお願いね」
「畏まりましたゼン様、ではいつものようにあの商会へと注文しておきます、食材の発注もついでにしておきますか?」
食材の事はルナだよな、俺がルナを見てやるとその意を汲んだのかルナが。
「そっちは私がやるから大丈夫」
「分かりましたルナさん」
「他に何か報告する事はあるか?」
俺がそう二人に聞くと。
ルナが元気よく手を上げて報告してくる。
「セリィのレベルが9になった! 後少しで一人前」
最後の一人前の部分で俺にピースを向けながらそう報告するルナ。
「まてまてまて、この間レベル5とか言っていただろう? いくらなんでも早すぎじゃねえか?」
ルナでは話にならんと俺はセリィを見ながらそう聞いてみる。
セリィは怒られた子供のような表情をしつつも語り出す。
「その……今はオークを狩っているんです……」
ちょいちょいちょーい! ルナさん貴方何してんだよ!
呆気にとられた俺はルナに問いただす……前に。
「よし報告会終わり! セリィとダイゴは離れに戻っていいよ、体を拭く用のお湯を持っていくのを忘れるなよ」
二人を離席させる事にした。
セリィは俺の言葉に頷きつつダイゴを促していく。
「……はいゼン様、ほらダイゴも行くよ、私がお湯を運ぶから扉を開けるのをお願いね」
「まかせろ姉ちゃん! ゼン兄ちゃんルナ姉ちゃんおやすみー」
「おやすみだ二人共」
「おやすみなさい」
……。
二人の気配がお屋敷の外に出た所で俺はルナを問いただす。
「さてルナ、どういう事か聞かせて貰おうか? オークなんてまだセリィには早いはずだ、それにまだ子供のお前らが樹海ダンジョンの中層にいるのを見られるのはまずいだろうに……」
護衛のファンファン付きのルナなら余裕なんだろうが、セリィには万が一があるし他の冒険者に絡まれたりとかも怖い。
「大丈夫、他の冒険者がいるような場所じゃない、リア姉様が私達専用のレベリング場所を作ってくれた、しかも安心安全設計!」
あ・い・つ・か! 何してんだよリアは!
「リアには文句を言いに……あっ……〈入口〉を洞窟ダンジョンに変えてしまったんだった……駆除の目途がたったら文句と感謝を伝えにいこう」
「文句なのに感謝を言うんだねマスター」
「そりゃルナやセリィのレベルが上がれば安全になるからな、でも事前に一言教えてくれと文句を言うつもりだ、そして今度俺にもレベリングさせてくださいと頭を下げてくる!」
「さすがうちのヒモマスター、そこに痺れる憧れない」
ヒモとマスターを繋げちゃうと、最上級のヒモみたいな意味にとれるのでやめてくださいルナさん……。
ちなみにルナのレベルは12まで上がっているそうで、俺のレベルが18になったばかり……追い越されないか心配です。
今度まじでリアにレベリングを頼もう、今までは少し遠慮してたんだがさすがにルナより低いレベルはあかん。
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