35 始めてのお使い(調査
ザシュッ。
〈剣術レベル4〉があるおかげか、レベルの低い野良オークなら問題なく一撃で倒せるようになった。
倒れたオークの死体は消えていかない、つまりここはダンジョンではないという事だ。
俺は今樹海ダンジョンから南に向かう街道の、一つ目と二つ目の街の間あたりから少しそれた山岳地帯に入り込んでいる。
なんでこんな場所で魔物狩りなんぞしないといけないんだろうか……。
それは数日前の話、リアの所へルナと一緒に遊びに行った時の事だ。
――
――
「調査?」
触れ合い魔物園でルナやチビ達と遊んでいる俺にリアはそう言ってきた。
「調査というか、調査して原因が魔素溜まりなら魔物の集団を潰してきて欲しいのよ」
リアが言うには最近南の街道に魔物が多く出現しているらしい。
ダンジョン以外の場所で魔素が濃く溜まると、魔物が湧きやすくなったり強力になったりと碌な事がないのだとか。
人の街でも魔素は濃くなるが、人がたくさんいると魔素がかきまわされるので魔物は生まれにくいとか。
樹海ダンジョンから果物を運ぶ複数のルート付近は、ダンジョンではないけど自身の縄張りとして監視しているんだって。
「そんな事は今までもあったんだろう? 手持ちの戦力でどうにか出来ないのか?」
俺の問いに対してリアはニッコリと笑顔を浮かべながら。
「仕事が欲しかったんでしょう? 魔素溜まりでダンジョンを開けばDPを稼げるわよ? 周囲の魔素を吸収し尽くしたらダンジョンを撤収しちゃえばいいんだし、ダンジョンマスターとして美味しい仕事よね?」
恐らくリアの抱える戦力なら一瞬で終わる仕事なのだろう。
それをあえて俺に振っている訳だ……。
側でルナもこの話を聞いているし、断る訳にはいかないよね。
「お。おう、俺は仕事を頑張るナイスガイなダンジョンマスターだからな、じゃぁ予定を立ててルナと――」
「私はセリィのレベル上げを手伝わないといけない」
ルナに即効断られてしまった……最近ルナとセリィの仲が良くてちょっと寂しいマスターがここにいます。
俺への対応がおろそかになったりする訳じゃないんだけども。
「……セリィのレベルはいくつになったんだ?」
「やっと5になった所、獣人は身体能力が高いし鍛えがいがある、フンスッ!」
鼻息荒くそう語るルナさんは、育成ゲーでもやっているつもりなんだろうか……。
まぁセリィ姉弟の今後の安全を考えると、レベルをあげる事は悪い事じゃないんだけどね。
ちなみにセリィはごついメイスを武器にしているらしく、戦闘系スキルがなくてもぶん殴ればそれなりにダメージが入るからだと笑顔で教えてくれた。
意外にワイルドだよねあの子。
「こういうのなんて言うんだっけ単身出張? 頑張ってねゼン」
「マスターの事はかげながら応援しておく、初めてのダンジョン経営……設置出来たら〈ルーム〉で見に行く」
そうなんだよな単身出張って言っても〈ルーム〉があるから日帰りを繰り返すみたいになるんだよね。
でもセリィあたりの視点になると、俺はお屋敷の部屋からほとんど出てこない引きこもり商会長ってなってしまう訳だが……。
それとルナの『かげながら』の声に応えて、ルナのスカートの下からシャドウファントムのファンファンが体の一部を出してきて、影を手の形にして俺にグッドマークを出してきやがった……陰と影で字が違うのに俺とルナに備わっている謎翻訳はどうなっているのやら……。
それと、お前の主人は俺のはずなのに、なぜだか軽く扱われているのは気のせいだろうか?
――
――
とまぁ過去を思い出しながら倒したオークをインベントリに仕舞う。
死体を丸ごと自分のダンジョンに吸収させた方が、魔石だけ吸収させるよりもDP収入が多いのよね。
リアの樹海ダンジョン内だと死体はすぐ消えちゃうからどうにもならんかったんだが、野良の魔物美味しいわぁ。
これからも、たまには野良の魔物狩りをするべきか?
今いる山岳地帯なんだが緑も多く木々や草花が豊富で、動物も多くて獲物に困らなそうだね、っとまた魔物の気配がする。
「いくぞ」
俺は護衛として連れてきていた、名前を付けていない弱い方のシャドウファントム2体にそう声を掛ける。
彼らの能力なのだが。
シャドウファントム レベル15 〈影魔法3〉〈隠密3〉〈気配感知2〉
となっている。
弱いといってもレベル15のスキル持ち魔物は、中堅冒険者でもソロで相手をするのは避ける相手だ。
俺のレベルも17まで上がっていて〈剣術レベル4〉もあるし、この護衛もいるので戦力としてはかなりの物がある。
冒険者の一人前がレベル10くらいからと言われているのに、レベル17はまだ低くないか? と思うかもしれないけど。
ゲームではない一度死んだら終わりな世界で、死ぬかもしれないレベリングなんてする冒険者はほとんどおらず。
生活費を稼げたら撤収する狩り方の冒険者が多いと思えば、レベル15を超えるのは一苦労なのが分かるだろうか?
ちなみにこのあたりはダンジョンではないがリアの縄張りなので、定期的に魔物は一掃されているみたいで、魔素から生まれたての弱い個体しかいないのでレベリングには適していない。
叫び声をあげながら突っ込んでくるオーク数匹をシャドウファントムが〈影魔法〉で転ばせて俺が首を狩る、なんて作業工程が確立してしまっている。
相手の影も利用できるんだから便利だよなぁこいつら……ちなみにルナに憑いているファンファンはこいつらの比じゃなく強い……リアがなぁ……やりすぎたねん。
レベル30のスキル9個持ち魔物とかが敵で出てきたら、冒険者ギルドで緊急警報が出るクラスだ……。
魔物が多い方向に山岳地帯を奥へ奥へと向かっていたら、小さな盆地の山肌に洞窟を発見した。
俺の中にあるダンジョンマスターとしての本能が、ここは魔素の湧きスポットだと理解させる。
その時洞窟の前にいた武装をしたオークが俺達に気付いて警戒の声をあげた。
すると洞窟の中から気配が沢山入口へ向けて移動してきているのが分かる……。
俺が事前に命令した通りに、シャドウファントム達は洞窟の入口を影の暗闇で覆い中を真っ暗にする。
そして影を超えて出てきたやつらを片っ端から転ばせている。
そして俺は転んだ奴らの首をザックザクと狩っていくだけの楽な仕事だ。
すべての戦力が揃うのを待ってやる義理もない、やれる時にやれるだけやっていく。
これは決闘ではなく駆除なのだから。
っと最後の一匹だけ転ばずに出てきたな。
片手に石と木で作った斧を持ち、体格も人一倍立派で叫び声をあげているのは恐らくオーク集団のリーダーだ。
だがその士気をあげるための叫び声を聞いている者は……。
「もう、お前だけなんだぜ?」
シャドウファントムに影で目隠しをされたオークリーダーは、武器を持っていない方の手を自分の顔に持っていく。
そして俺はその隙に斧を持つ方の手首を切り落とし、またしてもうるさい叫び声をあげるオークリーダーの首に突きを入れてから離れる。
そのままバランスを崩して倒れたオークリーダーに、シャドウファントム達が攻撃を加えトドメを刺している。
死にかけが一番危ないからね、俺は近づかないの。
「さて……倒したオークを仕舞っていくかぁ……片方は警戒、もう片方は一応洞窟の中を調査」
周囲に散らばるオークの体と首をインベントリに仕舞っていきながらシャドウファントム達に命令する俺、首もDPになるからちゃんと回収しないとね、首おいてけーってな。
オーク達が持っていた武器は自然素材を活かした物だ……要は金にならないって意味だが。
「肉が食えるらしいから売れば金になるんだろうけど……今はDPのが大事なんだよな」
警戒しているシャドウファントムになんとなく語り掛けながら作業を続ける。
ちなみにこいつら役割ごとに姿を変えていき、移動時は鳥や狼っぽい姿になったり、戦闘時は人型や不定形、警戒している今は俺の頭の上にフクロウの姿でとまっている……なんで俺の頭の上やねん……。
洞窟に行った方はコウモリに変化していたな、いずれも真っ黒なんだけども。
リアに譲ってもらったこいつらは、近くにいれば主である俺に思考というか感情を伝える事が出来る。
明確な言葉ではないけど、なんとなく言いたいことが分かるって奴だ。
今も洞窟の調査に行った奴から思考が届いて来て、もう敵はいないようだね。
お読みいただき、ありがとうございます。
この世界の冒険者はなるべく弱くてお金になる魔物を探したり
魔物と戦わないで採集で稼ぐ方法等を考える事はしますが
レベルを上げやすい魔物を探すなんて事はほとんどしません
何故なら魔物との戦いは一度失敗すればそれで人生が終わりという事を彼らは知っているからです
なのでRPGゲームを知っているような異世界からのダンマスからすると違和感を覚えるかもしれません
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