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33 見習い従業員ゲット

「それで今から行く場所にその子達がいれば、お屋敷の下働きとか留守番要員に誘おうかなって思っているんだ、どうせ人手は必要だろうからな」


「そういう事にしておいてあげる、マスターは甘々、今朝食べたフレンチトーストより甘い」


 早朝の冒険者街大通り、俺は横を歩くメイド姿のルナに色々と説明をしながら、獣人少女セリィと約束をした場所へと向かって歩いている。


 実際に人は雇わないといけないだろ?


 人型の従者をダンジョンメニューで召喚すればいいじゃんと言われたらそれまでの話なんだが、俺のダンジョンコアはまだレベルが低いからな……リアに頼めばいけるんだろうけども……。


 よし! 話をずらそう。


「あのフレンチトーストは絶品だったな! 卵につけて焼くだけなのになんであんなに美味しいんだろうなぁ」


「コッコの卵が普通に美味しいし、砂糖とミルクはDメニューで購入した異世界産、これで美味しくない訳がない」


 色々買って渡しておいたこちらの世界の食材も使っているようで、コッコの卵は樹海ダンジョン産だ。

 魔物を倒すと卵がドロップする事があるらしい……ま、まぁダンジョンだからね、卵くらいドロップするよね?


 ……日本の都会っ子がマグロの刺身は食べた事があっても、その姿を知らなかったりするように、卵はドロップするものと思っていて、本当は鳥なんかが生むものだって知らない人とかいそうだよな。


 上手い事俺の甘さ云々の話からずれた会話をしていると南門が近付いてきた。

 朝から荷馬車が出入りしていて警備兵も大忙しといった所だが、歩きの冒険者が外に出る時はタグが見えるようしておけば特に声を掛けられる事さえない。


 冒険者が門から入る時もそんな感じ、だって柵壁とか簡単に超えられちゃうからね、後ろ暗い人がわざわざ門を使うはずないよね。


 俺とルナは南側の門を潜り、昨日座っていた岩に近づいていく。

 そこには荷物を背負ったセリィと弟がいた。


 俺は彼らの側に近寄ると片手をあげながら挨拶する。


「おはようさんセリィ、ここにいるって事は決めたのか?」


「はいゼンさん、例の雇い入れる話を聞かせて貰おうと思っています、条件次第では冒険者の指南をお願いする事になりますけど」


 セリィは俺をしっかりと見つめてそう言ってきた。

 状況に流されずにちゃんと条件を精査し、自分達のためになる選択を選ぶ……か。


「了解だ、話は拠点でするとして歩きながらでも自己紹介しようか、俺はゼン、前に話した通り、よその大陸から流れてきた冒険者兼商人だ、横にいるのが俺の従者でメイド見習いでもあるルナだ」


 言葉を止めてルナに挨拶を促す。


「ルナと申します、よろしくお願いします」


 頭を下げた時にサラっと流れる銀髪ロングが日光を反射させてキラキラと光る。

 うーむ、ルナはまじで美少女だよな。


「ポメラ族のセリィと申します、よろしくお願いしますゼンさんルナさん、ほら貴方も」


 セリィが弟に自己紹介するようにと小さな声で指示をだしている。


「俺はダイゴ! 9歳! よろしくなゼン兄ちゃんルナ姉ちゃん」


 ダイゴは元気よく挨拶してくる。


「セリィにダイゴだなよろしく、そうだ朝飯用にパンを持ってきたんだ、食べるだろ?」


 自己紹介が終わったので、ルナに用意して貰っていたフレンチトーストを渡すように促した。


 セリィにダイゴか……君ら七人姉弟で他にナズナとかスズナとかって名前の子がいたりしないよね?

 とまぁアホな事を考えつつ、フレンチトーストをルナから受け取っている姉弟を見守る。


「ありがとうゼン兄ちゃんルナ姉ちゃん、頂きます!」


 さっそく食べ始めるダイゴだが、お前は俺に毒見させんでいいのか……昨日のだけで信じるとか子供か? って子供だったなそういや。


「ありがとうございます頂きます……この甘さはお砂糖? はちみつ? ゼンさん、こんなの食べていいんですか?」

「すげぇ美味い!」


 セリィは少し動揺をしダイゴはニコニコ笑顔で食べている。

 そういや蜂蜜は樹海ダンジョンで取れるけど、砂糖はちょっと高い品物だったっけ?

 まぁ食べちゃえば証拠も消えるし問題なしだな。


 おかわりと元気よく声をあげるダイゴに遠慮をしなさいと注意しているセリィ。

 そして細かい事はまったく気にせずダイゴにお代わりを渡しているルナに、ペコペコと頭を下げているセリィは……なんとなく苦労人という感じがする。


 そしてそのまま門を通って俺の借りた家に向かう。

 獣人姉弟は冒険者じゃないので入街税が少しかかるが気にせず払った。

 税を払うと簡素な木札を貰えるからね、それが姉弟の街にいて良い証明書代わりにもなるし。


 てくてくと歩き食いをしながら家まで歩いて行く。


「ここが俺の借りている家だ」


 俺とルナは外門を開けて中に入って行き、獣人姉弟は緊張しつつも後についてくる。


 ――


 屋敷の応接室のソファーに向かい合わせで座った俺と獣人姉弟、ルナはお茶を用意している。


「さて、では雇用条件の話からでいいか?」


 俺がそう獣人姉弟に問いかけるとセリィは背筋を伸ばして頭を下げてくる、それを見た横に座るダイゴも姉の真似をする。


「よろしくお願いします」

「おねがいします」


 ルナはお茶を出すとソファーに座らず俺のナナメ後ろに立っている。

 これは商売上のお客が来た時の練習でもある。


 俺は獣人姉弟に雇用条件を説明していく。


 といっても難しい物ではなく、セリィには商会見習い兼メイドとしてギルドとのやり取りやお屋敷の維持と取次や留守番等をルナと一緒にやって貰い、ダイゴは十歳にもなってないので、雇い人の家族を置いてあげている形、というぬるい条件だ。


 ルナの知識は増えているが知識だけの頭でっかちな子供のようなものだし、セリィと組ませる事で色々と勉強になるんじゃないかと思っている。

 セリィも地味に箱入りっぽいのでルナには丁度いいんだよな……これがすれた町娘とかだとルナへの影響がちょっと心配になるけど。


 セリィへの給料なんだが、商会の見習いとメイド業も兼任して貰う感じで設定してみた。

 だけどちょっと安かったかなぁ……まぁ文句を言われたらもう少し高くしよう。


「てな感じになるね、君らには離れの一室で暮らして貰う事になる、飯は保障するし俺達が出かけていて用意できない時はその都度飯代を渡す、こんな感じになるけどどうだ?」


 俺の説明をじっくり聞いていたセリィだったが……俺の目を見ながら。


「えっと……まずお給料が高すぎます、それとも食費や家賃や井戸の使用料をそこから払うのでしょうか?」


 セリィの小さなポメラ族ケモ耳は不安を表しているのかペタンと閉じている。


 んん?


「まてまて、何故そんな話になるんだ? 高すぎるって言うが、一月に銀貨20枚だよ?」


「高すぎですよ! 商会の見習い従業員なんてご飯と寝る場所を提供されるのならお給料なしとか当たり前ですし、ハウスメイドだって食住が保障されるなら一月銀貨6枚も貰えれば良い方なんですから!」


 ……まじかぁ……メイドさんのお給料安すぎない?


「ああえーと、そうだな家賃とかを給料に入れちゃいけないよなうん……じゃぁえーと銀貨18枚……16? ……えーとセリィは銀貨何枚がいい?」


 俺が数字を言う度にセリィの表情が歪むので、もう相手に聞いてしまえと思った。

 セリィは俺の問いかけに溜息をつくと。


「ゼンさんは家督を奪われたとおっしゃってましたが……甘やかされた長男に商会をまかせる訳にいかないと追い出された感じなんじゃないですか?」


 何かひどい事を言われている気がする、さすがにこれは反論をせねばなるまい。


「俺は――」

「うちのマスターはヒモの帝王、甘やかされに関しては誰にも負けない」


 ルナが後ろから言葉の矢を俺の心に撃ち込んでくる。


 ちょっとルナさん!? 急に何を言い出すんだよ! リアにはちょっとだけお世話になっていたりお金を貰ったり魔石を貰ったり保護して貰ったりしているだけじゃんかよ……。


 って……言葉にすると俺すっげぇヒモだな! 違う……違うんやぁ……。


 そしてセリィはルナの言葉を受けてウンウンと頷いている。

 君は一体何に納得しているんでしょうか? 俺がヒモっぽい事にじゃないよね?


「やはりそうですか……しょうがない人なんですねゼンさんは……分かりました! 私がゼンさんを支えてみせます! 一緒に頑張りましょう、という事で雇って頂けますね?」


 耳と尻尾をピンッと立てたセリィが身を乗り出してそう言ってきた。

 そりゃ今は君を雇うための話をしていた訳だが……何故だろう、これを受け入れると自分が何かを失うような気がするのは……。


「歓迎する、一緒にヒモマスターを支えようセリィ」

「はい! 頑張りましょうルナさん」


 そして俺が何も言うまでもなく、ルナが雇用を決定してしまった。

 ……今ルナはマスターの前に何か言葉を足してなかった? うーむ俺の耳が悪くなったのだろうか……。


「ではまず、このふざけたお給金の値段から是正していきましょう」


 少し前までの不安そうな様子と違って、そのつぶらな目をキラキラとさせたセリィは元気よくそう宣言する。


 あ、はい。


 すでに主導権を握ってしまっているセリィさんに取り敢えず俺は。


「よろしくお願いしますセリィさん」


 そう頭を下げてお願いするしかなかった。


「だめですよゼン様! 従業員は呼び捨ててください! 他に示しがつきませんからね?」


「あ、うんごめん、ってそっちは様付けするのね」


 俺の呼び方がゼンさんからゼン様に代わっているセリィだった。


「場所によっては商会長とお呼びしますが、プライベートエリアではゼン様の方がいいですよね? それともルナさんみたいにマスター呼びがいいですか?」


「……様付けでお願い」

「畏まりました、それでまずはですね――」


 ――


 ――


「疲れた……」


 俺は屋敷の二階にある自分の部屋のベッドの上に転がっている……。


 あの後セリィのお給料は一月銀貨6枚になった。

 弟も面倒を見て貰うからとセリィ自身で3枚まで減らしていた数字を、俺が説得してなんとか上げたのだ。

 なんで自分で自分の給料を下げようとするのだろうかあの子は……。


 まぁ高すぎると愛人契約だかと勘違いされると言われた時にはびっくりしたし、そういう話が実際にあるからこそセリィも知っているのかなと思うと、20枚からは下げざるを得なかった訳だ。


 ふっだが甘いなセリィ、俺の勝手な基準でダンゼン商会にはボーナスやお小遣い制度を設定してやるからな! クククッ。


 これで結局は元のお給金額にしてやれる……だがしかし、俺に近しいルナならまだしも、赤の他人であった少女にお小遣いをあげると思うと、ちょっとドキドキするなぁ……しかもその金はリアに貰った金だ!


 ……俺のこういう行動がヒモっぽいのだろうか?


 まぁ気にしない、だって俺は日本の文化も大事にしていきたいから。

 お年玉だと思えば何の問題もない。


 そして皆を連れてギルドに行き、セリィをルナと同じ鉄ランクで商業ギルドに登録させた。

 カレンさんにも商会の従業員見習い兼メイドと、その家族として紹介しておいた。


 ちなみにオークションは最低値で入札があったそうで、このままでも二日後には3セットで銀貨360枚が手に入るそうだ。

 手数料は取られるけどね。


 俺の側でその話を聞いていたセリィやダイゴが驚いていたっけか。

 まぁ俺とカレンさんの会話に入って来るような事はしなかったけど、ギルドからの帰り道に色々聞かれてしまった。


 商売の話になるとすごく元気になるセリィだった。

 最初に会った頃の悲壮な感じは何処にいったのだろうか。


 帰り道に、話を通しておいたデラン商会の借家へと寄り、準備して貰っていた魔法契約を姉弟と結ぶ。


 情報を簡単には外に洩らせなくなる契約内容で、セリィ達がうちを辞める時も退職金を払う代わりに契約が永続になるという物で。

 その代わりに俺はきっちりと給金を払い、食住を保障する。


 魔法契約には触媒を消費するから、普通に頼むと一人に対して大銀貨数枚分かかり……そして効果を継続させるなら一定期間ごとにさらに経費がかかるんだって……へーそうなのか。


 そうしてお屋敷に帰ってきたセリィは、ダイゴと一緒に離れの掃除やら整理をしているはずだ。

 敷布団と掛布団は冒険者街で買った安い奴を2セットプレゼントしておいた。


 離れの整理が終わったら夕ご飯をルナと一緒に作る訳だが……箱入り娘が台所の竈とか使いこなせるのかねぇ……薪とかは一応たくさん買っておいたけども。


 それとルナに言われてセリィのメイド服も買って渡しておいた。

 セット効果付きの服なんて恐れ多くて着れませんと恐縮していたので、貸出としておいた。


 そりゃ売ったら金貨くらいにはなりそうなセット効果の付与されている服だものな……。


 永遠に貸し出しで返す必要がない事は黙っておこう。

 何故か言ったらセリィに怒られる気がするからだ!


 そうしてウトウトとベッドの上で眠りかけていたら、ドアをノックする音が聞こえた。

 ご飯が出来たのかな、さて皆で飯だな。

お読みいただき、ありがとうございます。


主人公が魔法契約にかかる経費や代金に驚いていないのは自分ではそれを支払わないからです。


ゼン君さぁ……。


とまぁ少しでも面白い、続きが読みたい、と思っていただけたなら


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