32 借家の初日
市場での買い物を終えた俺とルナは借りた家へとやってくる。
「それじゃぁルナは飯を頼む、俺はDP収入の確認とかするから」
「了解マスター、せっかくだしこっちの台所を使って料理を……竈かまどの使い方は知識にあるけど薪がないと無理……」
そういや魔道具類も買わないと薪で料理する事になるのか……コンロの魔道具とか風呂用の魔道具とか明りの魔道具とか買わないといけないか……。
俺は台所に〈ルーム〉の扉を設置し、ルナは〈ルーム〉の中で料理してくるらしい。
この家の敷地内くらいならダンジョンで繋がってなくても余裕で開けっぱなしでいけるのはいいな……この場所での収入を確認していこう。
簡易メニューだけならコアの側まで行かなくても入ってすぐの場所で開けるので、DPの増え方を確認していく。
リアの所で扉を開けっ放しにすると時給で60~80DPの収入なんだが……うーむさすがにリアの所よりは低いか……あ、外をダンジョン化すると変わるかもだな。
建物内だけをダンジョンとして掌握してみたら、ちょこっとDPが増える速度が上がったような気がする……気のせいかもしれないけど。
俺が遠くに離れると扉が閉まってダンジョン化した部分が消えてしまうから、ダンジョン掌握に使う消費分の回収が出来るかとかも、ちゃんと計算しながらやっていかないと駄目だよな。
これでリアの方の扉も開けると……DPが増える速度が合算されている気がする。
そういや少し前にリアは俺の時給DPを聞いて可哀想な物を見る目で俺の肩をポンポンと慰めるように叩いてから魔石をくれたりしたっけ……。
まぁお邪魔もしないのに開けっ放しは悪いし、リアの方の扉は閉めておこう。
『ゴンゴンゴン、ダンゼン商会のゼン様~お届け物でーす』
正面入り口のノッカーの音が響いてきた。
俺は急いで入口へと向かい扉を開ける。
そこに立っていたのは、さきほど市場通りのお店で買い物をした時に対応してくれた従業員で、他数人の獣人が表の道にある荷車の側に立っていた。
「ご苦労様、じゃ荷物は館の扉の前までお願い」
俺がそう指示を出すとお店の従業員は少し驚いて。
「部屋の中までサービスでお運びしますよ? そのために力がある奴らを連れてきましたし」
あーそれで獣人の男達が何人もいたのか。
「いや、こっちも人手はあるから大丈夫だよ、先に言っておけばよかったな」
「いえいえ必要ないなら構いませんよ、では運び始めますね」
従業員が獣人の男とたちに合図すると、彼らは家具や雑貨類を運び始める。
俺は買い物をした時の引き渡し用の書類を取り出して、従業員と一緒に内容が合っているかを確認していく。
ひのふのみの……布団にカーテンに……あれやこれやに……いちにいさんよん……これは……。
「……良し、合っているねご苦労様」
俺は受取書類にサインしてから従業員に渡す。
ついでに人数分で割り切れる枚数の大銅貨も添えて。
「ありがとうございます、また何かありましたら当店をよろしくお願いします、失礼します」
従業員はカラッポの荷車を獣人にひかせながら帰っていった。
俺が表の門を閉めていると、少し離れた所から獣人らの喜びの声が聞こえた。
ちゃんと彼らにも心づけを分けてあげたのだろう、次も何か必要ならあそこの店にしよう。
さて、じゃぁ外門も閉めたし……キョロキョロと回りを確認する。
道路からの視線も通り辛いし〈気配感知〉にもこちらを伺う人はなし……良し! 全部〈インベントリ〉に入れちゃおう、ささっとな。
荷物を全部回収してから台所に戻る、はぁ……初期資金って結構かかるんだよなぁ……もう一回リアにねだりに行こうか……いやいやルナにヒモと言われてしまう……いやでも返す金なんだから……。
ウンウン唸りながら台所に入ると、丁度ルナが〈ルーム〉の扉から出てきた所だった。
「マスターご飯出来たよ」
「ありがとうルナ、なら食べちゃおうか」
食堂のテーブルを使い二人で夕ご飯を食べる事にする。
日も少し落ちかけているので、ダンジョンメニューで買ったランタンを二つ取り出す。
購入してみたら電池やガスではなく魔石を燃料にする魔道具に変化していたが、一番安い奴を買ったので特殊な付与効果はついてなかった。
まぁ魔道具である時点ですごいのだけどね、それを一つルナにも渡しておく。
家の中はダンジョンとして掌握している間は年中明るい状態になるんだけども、借りてすぐに家の中が煌々と明るいのはどうなんだと思い、ダンジョン掌握は俺の部屋だけに戻しておいた。
家の各所に明りの魔道具を設置するまでは、個人でランタンを持ち歩く必要があるかな。
「美味そうなポトフだなルナ」
俺は目の間に出されたポトフを褒める。
お野菜や肉が大ぶりで食べ応えもありそうだし良い匂いだ。
「こちら世界の素材だけで作ってみた」
ルナは俺にピースサインを見せながらそう言った。
そういやこちらの素材にも慣れないといけないな、なんて話をしたっけか。
兎にも角にも温かいうちに食べてやらんとな。
「頂きますルナ」
「頂きますマスター」
まずはスープを一口、ずずっと、ふむ、美味しいね。
俺はカゴに盛られた無発酵パンを取り、ちぎってスープにつけて食べる、うん中々いける。
「美味しいよルナ、顆粒の出汁とか使わないでも美味く出来るんだな……俺がやったときはこう……うん思い出すのはやめておこう」
「マスターの作ったスープは愛情の味が際立っていたから大丈夫、これはお肉についてくる骨から出汁を取っている」
愛情とは言うが、それはつまり愛情以外は何も評価できる部分がなかった味だって事だよね。
……ルナは優しい子だなぁ……。
次は砂糖と塩を間違えないから大丈夫だ。
俺は調理する時には味見する事をちゃんと覚えたから!
まぁもう台所を使わせてくれないような気がしているけども。
ご飯を食べ終えた俺達は二階の個室にそれぞれの家具やら布団を設置してから、俺の部屋で出し直した〈ルーム〉の中に二人で入っていきそして扉を閉じる。
こっちで寝る方が安全だからね。
「閉じちゃうの? マスター」
ルナが不思議そうに俺を見ている。
俺は奥のコア部屋に進みながら後ろについてきているルナに説明する。
「ああ、リアの所と違って侵入者とかあるかもだし危険だからな、もうちょいDPを稼げたら護衛用の魔物を呼び出すからそれまではこんな感じでいこうと思う」
リアのダンジョン内にある庭園は、ある意味安全地帯と言えるからね。
コア部屋に入り、俺とルナは床に置いてあるクッションに座る。
ルナはテーブルに自身のインベントリから飲み物を出しながら。
「了解マスター、それで何の魔物を出すの?」
俺も前買っておいた炭酸飲料とポップコーンを出しながら答える。
「今のコアレベルだと弱い魔物になるかなぁ……いやでも弱いと心配だし、リアに強い魔物をDPで譲って貰うのもありかなと思っている、スキル盛り盛りにした魔物とかな」
ルナはコップに入ったアイスココアをストローで飲みながら。
「ヒモの沼に嵌っていくマスター、でも大丈夫、私は絶対に見捨てない、私だけは貴方の味方」
「いやまって! 譲って貰うってのは購入って意味で言っているから!? タダで貰うんじゃないから! そんなヒモ好きな女子みたいなセリフを……ルナお前……日本の昼ドラとか見ただろ?」
俺の質問にルナは拳を前に付きだす謎のポーズをしながら。
「人がもつ喜怒哀楽を知る事が出来る最高の勉強素材!」
鼻息荒くルナはそう宣言してきた。
確かに……昼ドラも面白いけども!
勉強素材と言えるかどうかは賛否両論出ちゃう気がする。
もっとこう普通の……普通の……ふつ……あれ?
ドラマも映画もアニメも漫画も、普通って話はあんまりないよね……結局何かが起こらないと話にならないからなぁ……。
もしかしたらルナの情緒を育てるためにと、幼い頃に色々見せてきたのは失敗だったかも?
「それよりもマスター、今日はコメディ映画が良い! 笑顔は世界を救う」
ルナはそう笑みを浮かべて言ってきた。
確かにその笑顔は世界級な可愛さだ。
なればその世界級笑顔に応えねばなるまいて。
「それなら良いのがある、大学時代に友達と映画館に見にいって、笑い過ぎて帰りにはお互いの腹筋が痛くなっていた映画を見せてやろう、さて、ルナの腹筋は耐えられるかな?」
俺は自信満々にそう宣言する。
俺の隣へとクッションをずらして座り込んできたルナは、メニューの画面を大きくして準備を整えながら。
「ワクワク……でもマスターの腹筋がナメクジだった可能性が微レ存」
「ごふっ……ルナさん映画を見る前からブラックなジョークを会得しているのね……普通の人はね腹筋が六つに割れてたりはしないんだよ……」
映画を見る前に腹筋どころか心にダメージを負ってしまう俺だった……。
ダンジョンメニューに細マッチョになれる項目が早く出る事を願いつつ、DPで料金を払い込み映画の開始ボタンを押す。
お読みいただき、ありがとうございます。
ちなみにゼンやルナが見ている映画やら漫画やらはちゃんとダンジョンメニュー運営者が地球の業者と契約を結んでおり地球のお金で支払いをしている、という設定になっています。
それと唐突にSF作品が書きたくなったので一話あげております、SF作品も好き、という方が居ましたらそちらも読んで頂けると幸いです
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