31 閑話 何処かの魔女ダンジョンマスター
ここは、とあるダンジョンマスターが運営しているダンジョンだ。
深い森型ダンジョンの地上部分を進み、森の中央にある地下迷宮の入口を下り、地下深く洞窟型ダンジョンを進んださらに奥深く、ダンジョン運営側の生活スペースの、とある一室での話。
黒いローブに黒いとんがり帽子、魔女をイメージさせる格好をしている少女達が作業している。
「ひゃー! っとびっくりしたあ……」
一人の少女、ローブから出ている足……いや太い蛇部分を見るにラミアの少女が声を上げた。
「わっ、急に大きな声を上げないでよ、失敗しちゃう所だったでしょう?」
ラミア魔女に文句を言っているのは大きな一つ目の少女だ。
「ごめんごめん、道具への付与が超成功しちゃったからさ、ふふーん、なんとダブル付与に成功してしまいました」
ラミア魔女がピースマークを相手に見せつけて笑顔を浮かべている。
「え? ほんとうに!? ちょっと見せて……うわぁほんとだ、ダブルとかすごいじゃない……でもこれ片方がデメリットスキルになっちゃっているわよ、くすくす」
単眼魔女は笑いながらミスを指摘している。
ラミア魔女は急いで付与をした魔道具を確認する。
「あっちゃぁ……本当だ、急に魔法の通りがよくなって魔力が暴走しちゃったからなぁ……はぁ……」
「当たり天然石を引いたのね、羨ましいわ……私もそんな石を使ってみたいわ」
単眼魔女はラミア魔女を羨ましそうに見ている。
そこへ、近くのソファーに寝ながら彼女らの作業を監督していた、妙齢に見えるナイスバディのやはり魔女の格好をした女性が声をかけてくる。
「ほらほらあなた達、いくらスキルを覚えたからって修練してスキルに慣れないと使いこなせないのよ、無駄口を叩かず集中して修練をしなさい」
妙齢の魔女は持っていたキセルの先を少女達に向けてそう注意する。
「「はーいマスターごめんなさーい」」
少女達は再び付与作業に戻って行く、しかし。
「ひゃぁぁ!」
今度は単眼魔女が大きな声を上げた。
普段そんな声をあげない子の叫び声を聞いて、マスターと呼ばれた魔女はその少女に問いただす。
「どうしたの?」
単眼魔女はマスター魔女に向けて、自分が付与していた魔道具を見せながら。
「私もダブル付与に成功してしまいました……」
「へぇ……当たり石が連続で来るなんて運が――」
「ひゃおわぁ!」
マスター魔女の言葉を遮るが如くラミア魔女の叫び声が聞こえる。
「また貴方……今度はどうしたの?」
再度の悲鳴に少し呆れ声を出すマスター魔女。
ラミア魔女は自身の持っている魔道具をマスター魔女に見せながら。
「ま……またダブル付与に成功しちゃいました、今度はデメリットスキルなしの成功です……」
「また当たり石が? ちょっと貴方達が使っている触媒石を見せなさい」
寝ていた態勢から起き上がり、ソファーに座り直したマスター魔女はそう声を掛けた。
マスター魔女の命令に従い、単眼魔女は自分達が使っていた安めの天然石であるペリドットの粒石が十数個入った入れ物を渡す。
入れ物を受け取ったマスター魔女は、それら粒石をじっくりと見て……。
「なにこれ、当たり石がまだ何個も入っている……これはちょっと異常ね、この練習用の石を買ったのは貴方よね? 何処産の物を買ったの?」
そう聞かれたラミア魔女はアタフタとしながら。
「それがその……匿名出品の物でして……」
ラミア魔女のセリフを聞いた単眼魔女は大きな声で突っ込みを入れる。
「ちょ! 貴方! 品質が保証されている人の所から買うって決まりがあるじゃないの!」
「それで?」
マスター魔女はラミア魔女に先を促した。
「その……いつもの所からの出品数が少なかったので匿名出品に手を出してしまいました、しかも半日ごとに恐らく同じ匿名者から一つずつペリドットが出品されるので、恐らく新人マスターかなぁと思います」
何事かを考えているマスター魔女は、持っていたキセルを口に咥え軽く吸い込んでからピンク色の煙を吐き出す。
「新人で当たり石を連続で……ね……貴方達!」
マスター魔女の鋭い呼びかけに二人は背筋を伸ばして反応する。
「「はいマスター!」」
その元気のいい返事に満足そうに頷いたマスター魔女は。
「その匿名の石は全部うちで買い占めておきなさい、相場内なら許可はいらないわ、相場より高くなってきたら私に相談する事、それと……もっと大きな石や他の石は匿名で出ていたのかしら?」
「ペリドットしか見てませんので分かりません!」
ラミア魔女が大きな声で答えた。
マスター魔女はラミア魔女をじっと見つめると。
「それで?」
「今すぐ確認してきますマスター!」
ラミア魔女は急いで部屋から駆け出……にょろにょろと移動して何処かへと向かって行った。
部屋に残った単眼魔女はマスター魔女に手をあげてから質問する。
「マスター、買い占める理由を聞いてもよろしいですか?」
「そうねぇ……その匿名出品の品質を何度か確認してみないといけないんだけど、当たり石がこんな確率で出て来るのがおかしいのは分かるわね?」
マスター魔女は単眼魔女に優しく語り掛ける。
「はいマスター、ペリドットの粒石なら20個に一個あればラッキーだと教わりました……私は今回が初めての当たりでしたけど……」
単眼魔女はちょっと悔しそうに語っている。
マスター魔女はその姿を見てフフっと笑い声を漏らし。
「予想通りならたくさん当たるようになるわよ、話を戻すわね、もしも、もしもよ……その天然石が異世界から来たダンジョンマスターからの出品物だったなら?」
マスター魔女の言葉を理解した単眼魔女は目を見張って驚き……。
「それは……異世界からの質の良い魔力が付与された天然石の供給源が出来た可能性がある……と?」
「そうであったら楽しいわね、というか貴方が驚くとすごく目が大きくなるのね……すっごくチャーミングだったわよ」
マスター魔女がウインクしながらそう単眼魔女に伝える。
単眼魔女は頬を赤くしながら黒いとんがり帽子のツバを掴んで下ろし顔を隠す。
それを見てマスター魔女はクスクスと忍び笑いを漏らす。
そこへニョロニョロと高速で部屋に戻ってきたラミア魔女が、マスター魔女の前でピタっと止まると。
「匿名出品者の天然石はペリドットのみでした!」
「ご苦労様、ならこれからは匿名で同一人物からと思われる出品は先ほど言った通りに買い占める事、種類や量が増えたらすぐに私に連絡する事、それらの連絡をきっちりする事が入札のルールを破った事に対する罰とします、いいわね? それとオークションの監視と調査は二人でおやりなさい」
ラミア魔女は背筋を伸ばしてピシっと体勢を整えると。
「わっかりましたマスター! 申し訳ありませんでした!」
そう大きな声で応えていて。
「了解しましたマスター、この子をしっかり監督します」
単眼魔女もマスター魔女に向けて応える。
「よろしい、では修練の続きを始めなさい、まだその入れ物には当たり石が何個も入っているからね、魔力の暴走には気をつけなさいね」
「「はいマスター!」」
ラミア魔女と単眼魔女は嬉しそうにペリドットの粒石を選んでいる。
それを優しい微笑を浮かべ見守っているマスター魔女。
そんな何処かにあるダンジョンでのお話である。
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