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27 従業員募集

 デラン商会の荷馬車を待つ間に出会った獣人少女。


 雑談をしたり相談を受けたりする間に少しは距離も縮まっただろうか、俺のからかいに彼女はプンプンと怒り気味に接してきた。


「もう! からかうなんて酷いですよお兄さん!」


 獣人少女は頬をぷっくりさせてそう言ってくる。


「悪かったよ、お詫びと言っちゃぁなんだが残りの花束も買うから勘弁してくれ、それとちょっと冒険者の話を聞く前に俺の話も聞いてくれないか?」


 俺は売れ残りの花束を全て購入し、拡張バッグに仕舞いながら獣人少女にお願いをする。

 花束の代金として貰った銅貨を大切そうに懐に仕舞っている獣人少女は。


「お買い上げありがとうございます、それと話ですか? この子もまだ起きなさそうだし構わないですけども……」


 構わないと言いつつも頭の上の耳はペタンと伏せちゃっているけどな。


 俺は自己紹介しつつ自身のカバーストーリーを簡略して話していく。


 自身の年齢設定なんだが、ギルドで冒険者になる時は10歳以上なら特に年齢を聞かれないというガバガバ組織だったのでしっかり設定はしていなかったんだよね。

 なので今回、日本人の体は少し若く見られるので22歳の体だが、20歳って事でやっていく事にした、ルナは11歳な。


 他大陸から家督を奪われて逃げて来たが、この大陸では商売もする冒険者としてやっていくつもりである事や、すでに後ろ盾の商会を得ていて、今日はその商会の荷馬車に乗っているはずの一緒に逃げてきた従者の一族の娘を待っている事等を話していく。


「お兄さんは只の冒険者じゃなかったんですね……その後ろ盾の商会の名前を聞いてもいいですか?」


「デラン商会だな」


 獣人少女の質問に簡潔に答えた俺、彼女はその名前を聞くと少しびっくりしたようで。


「その商会の名前は商都にいた頃に聞いた事があります! 確かかなりの老舗で中堅処の大きさなんだけど、ちょっかいをかけたいくつもの商会達が潰されてきたとかで『デラン商会に手を伸ばすなら金貨を持っていけ、ただし騙そうとすれば物理的に潰される、扱う果物程の甘さはない商会だ』って噂話を聞いた事があります」


 獣人少女の話を聞いた俺は少し仰け反ってしまった……。

 ラハさん達は何してんねん……商売人がライバルを潰そうとする事はまぁ良くあるとして、物理的に潰すって噂が出回るほど何をしたんだろうか、今度聞いてみようすっげぇ楽しそうだ。


 しかしこの獣人少女、商都ってここから東の方の街道がいくつか重なり合った場所にあるって話だが、そこそこ距離もある商会の名前を知っているって、どんな教育を受けて来たんだろうか?

 本人が言っていた読み書き計算だけじゃない気がしてきたよ。


「それでお兄さんの境遇は分かりましたが、その……冒険者の話をですね……」


 獣人少女が俺に冒険者の話をする事を促してくる。


「ん、ああいや、話にもある通り俺には今から来る従者の娘しか即戦力がない訳だ、他にも使用人はいるんだが今は遠くにいてな、つまりだ、君は俺に雇われる気があるかって話をしたくてな、勿論冒険者になりたいって言うなら安全なスライム狩りの場所やらを教えるけども」


 俺の望みを告げると獣人少女はびっくりして目を見開き俺を見つめてくる。


 しばしの静寂が過ぎた後に。


「私は12歳になったばかりの力のない子供ですよ? そんな相手を雇いたいだなんて……そんな事……急に言われても」


 獣人少女は困惑している……そりゃこんな道端で人生を左右する事を言われても困るだろうね。


「移り住んで数か月って事は商都で11歳半ばになるまで商人になるべく教育を受けてきたって事だろう? 知識も力だと思うけどな」


 おれは予想した事を聞いてみる事にした。

 冒険者の両親が子供に自分と違う職業に付いて貰いたかったとするなら、そんな所かな、と。


「そ! れは……ああ、デラン商会の名前を商都にいるただの子供が知っているのはちょっとおかしいですよね……はい、私は商売人になるべく教えを受けていました、将来的には両親が出資をして何かをやろうと……そんなに上手くいくとは思えませんが両親の願いでもあったので……」


 まぁツテもコネもない獣人がいきなり商売を始めてもな……人間の中には獣人を疎む者も少なからずいるって話だしよ。

 この国は人間の割合が一番多いっぽいし……冒険者の種族比率を見るとそうでもないんだけどな。


 いきなり商売を始めても上手くいかないってのは俺にも当てはまる話なんだけど、俺はまぁ……カバーストーリーのためでもあるし、ダンジョンメニューで品物を購入出来るっていうチートがあるからな。


 ……いざとなればリアが顧客を用意してくれるって話だし……なんか俺、リアのヒモみたいになってねぇ?


 ……気のせいって事にしとこう。


 視線を地面に向けて考えているだろう獣人少女に向けて俺は。


「いきなり決めろと言っても困るよな、まずは冒険者の稼ぎ方を教えてやるから考えておいてくれ」


 そう言って新人冒険者の稼ぎ方講座を始め、獣人少女は真剣にその話を聞いている。


 ダンジョンに入ってまばらに生えた木々10数本分くらいまでの間にはスライムしか湧かず、それを倒せばレベルも上がっていくしスライムからドロップする魔石で銅貨を稼げる事や。


 ゴブリンやら他の魔物を見たら即座にダンジョンの外に逃げればスタンピード以外の時なら外まで追いかけて来ない事。


 まぁそのスタンピードもダンジョンマスターが決めているんだろうが、その話はしないよ勿論。


 極々稀にそのダンジョンの外周部でも果物や薬草なんかがPOPするので、よく小さな子供なんかがダンジョンに入らないギリギリを歩いてそれらを探している事なんかも教えてあげた。


 ちなみにただダンジョンに入った所で違和感がある訳ではない。

 魔物を倒すと死体が消えてドロップが落ちればダンジョンだという事になっていて、樹海ダンジョンはその外周部のダンジョンぎりぎりの地点に、ギルド印の石杭なんかが一定距離おきに刺さっている。


 これを勝手に移動したりすると、最悪ギルドに指名手配されるから注意しろとも伝えた。


「スライムは私達でも倒せるんですか? 私達姉弟は魔物を見た事がほとんどなくて……」


 獣人少女は思ったより箱入り娘だったようだなぁ。


「木の棒でもあればいけるよ、ただしスライムが複数いたら逃げろ、体当たりは結構痛いからね」


 スライムの動きは直線的で分かりやすいんだが複数いると注意がそれちゃうからね。

 冒険者での序盤の稼ぎ方を聞き終わった獣人少女は。


「わ、分かりました……それでその……雇われる方の話なのですが条件とかあるのでしょうか?」


 あらま、この反応は意外と乗り気?

 俺としてはどっちでもいいかなって思うんだが。


「そうだね、もしうちで雇う事になるなら……デラン商会のツテを使って情報秘匿の契約魔法を結んで貰う事になるかな」


 俺やルナの特異性を外に洩らされても困るしな。

 だが獣人少女は納得のいった感じで。


「はい、ある程度の大きさの商会なら当たり前の事ですね、新興の商家でやるのは経費的にあまり聞きませんが……ゼンお兄さんは他の大陸から来たと言っていましたし……それはつまりデラン商会が後ろ盾になって得をするという判断をしたって事ですよね? ……他には何かないのですか? その……あ、愛人になれとか……」


 獣人少女のセリフに俺はつい肩をがくっと落としてしまった。

 え? なにそれ?


「なんじゃそれ……商人の間にはそういうの普通なの?」


 気になってしまい聞いてみた。


「そうですね……よく聞く話なのでその……私とか耳の大きさも貧相だし最近は尻尾の毛並みも良くないし、ポメラ族にしては毛の色も薄いから美人ではないのですが……獣人の価値観と人のそれは違うと聞いた事がありまして……その……」


 獣人少女は途中でセリフを止め、頬を赤くしその円らな瞳で俺を見上げて来る。


 君ポメラ族って種族なの? それは異世界人が名付けた?

 それとも俺の〈異世界言語理解〉スキルが翻訳する時に悪さをしているのだろうか?


 俺は彼女の言葉を思い出しながらじっくりと見てみる。


 言われてみればケモ耳の形とかポメラニアンっぽいな……これがポメラ族か。

 毛色が薄いってのは、薄茶色というよりも白に近い毛が多めな事を言っているのかな?


 顔の目鼻立ちは整っているし、つぶらな瞳は美人というよりは可愛いといえる感じだ。

 尻尾の毛並み云々は最近の栄養の取れなさとかあるんじゃね?


 俺が尻尾を見ていると獣人少女は自身の尻尾を恥ずかしそうに両手で持って隠す。

 獣人的に美しくない尻尾って事なんだろうか? ……まったく分からん。


「悪いが獣人族の感性は俺には分からないかもしれない、だってその小さめで感情を表してヒョコヒョコ動くケモ耳は可愛いし、薄い毛色は雪みたいで奇麗だし、尻尾の毛並みは最近っていうなら飯をしっかり食えば戻るんじゃね? 今でも十分モフモフしたい尻尾だと思うけどな」


 俺は素直に思った事を獣人少女に伝えてあげる。


 獣人少女は少し焦りながら両手で自身の耳を触り出し、手から離された尻尾が元の位置に戻る。


「そそそそんなこの耳が! え? いや……え? 私はそんな美人では、ってゼンお兄さん! 尻尾をモフモフしたいだなんて軽々しく言っちゃ駄目です! 相手によっては決闘になりますからね? 獣人の事をよく知らないって言っていましたが気をつけてください!」


 獣人少女に強めに怒られてしまった。


 だがしかし、彼女の手から離れた尻尾は背後でピッタンピッタンと岩を叩くほどに元気よく左右に振られていた。


 犬と一緒にしちゃいけないんだろうけど……嬉しい時も警戒する時も尻尾を振るからなぁ……これはどっちの感情なんだろか。


 それと俺は別に美人なんて一言も言っていないんだが……獣人の耳や毛色を褒めるとそういう意味になるのだろうか?

 それと獣人の尻尾は気軽にモフモフしちゃ駄目なのね、残念。


「了解した、でだ、話を戻すけど俺が立ち上げる商会は自由恋愛推奨だから安心するといい、君が好きになった相手と添い遂げる権利はしっかりと守るつもりだ、ただまぁ相手がクズみたいな男で俺の商会や周りの人間に危害を加えるようなら話は別だけどね」


「分かりましたそれなら……」


 獣人少女は何かを決心したようだが……時間切れだな。


 俺は座っていた岩から飛び降りて街道脇へ進むと、近寄りつつあった荷馬車に向かって手を振る。


 荷馬車を操る御者の隣には、ラハさんに似た顔をした三十代中ごろに見える女性が座り、こちらに向けて手を振り返してくれていた。

 やっぱり可愛いというよりはカッコイイだよな……。


 俺は後ろを振り返り、岩にまだ座っている獣人少女に。


「待ち人が来たようだし俺は行くよ、明日の朝にもう一回ここに来るから、冒険者になるのなら一回くらいはダンジョンの狩りに付き合ってあげるし、雇われの話をもう少し聞きたいならその時にでもな、じゃーな花束売りの少女」


 そう獣人少女に言い残し俺は速度を落としている荷馬車に向かって歩き出す。

 すると、後ろから獣人少女の声が届く。


「セリィです、私の名前はセリィですゼンお兄さん、また明日絶対来てくださいね!」


 ちらっと振り向くとケモ耳獣人少女のセリィは、こちらに手を振りながら弟を起こし、街道からそれたバラックやテントのある方面へと移動していった。

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