25 梨と相談、受付嬢の勘違い
お昼ご飯の事もあるし、とっとと採集だけして冒険者街に行こうかね。
ここらのゴブリンだと経験値も不味いからな……効率の良い狩場とかないものかねぇ。
っと脳内MAPでPOP果物が近くに湧いたのを見つけた。
「今日の獲物は~なんじゃら~ほいっとな~」
適当な歌詞で歌いながらPOP場所に向けて駆けて行く。
「おー今日は梨かぁ……」
それは一本の木に大量の梨が生っている風景だった。
いつも思うんだが収穫しやすいように枝が低めなんだよなぁ……支え木とかないのにどうなってんだろ……ダンジョンはいつも不思議でいっぱいだ。
ちょっと味見をと、枝からもぎ取った梨を一口食べてみる。
ジュワァっと瑞々しい水分と甘さが広がり、シャリっとした適度な硬さは食感も楽しめる逸品だ。
うーんダンジョンの果物ってやっぱ美味いよな。
食べかけの梨はインベントリに仕舞い、代わりに出した背負い籠に収穫した梨をいっぱいに詰め込んでいく。
普通は身軽に魔物と戦うために運搬専用のポーターとかを雇ったりするらしいんだけど。
俺はほらリアから貰ったネックレスのお陰で樹海ダンジョンの浅層MAPが脳内で見れちゃうから、魔物や冒険者に出会う事もなく効率的に採集も出来ちゃうんだよね。
そそくさと魔物を避けて冒険者街に帰還する。
そしていつものギルドの受付。
「こんちゃーカレンさん査定よろしくお願いします」
いつものように軽く挨拶をしてそう頼んだのだが……あれ? 返事がない。
「もしもしカレンさん?」
「は! すみませんちょっと緊張してしまって、査定ですね少々お待ちください、うわぁ美味しそうな梨ですね! ゼンさんは丁寧に収穫して持ってきてくれるから有難いです」
ふんふふーんと鼻歌を歌いながら査定をするカレンさん。
ご機嫌だけど……梨がそんなに好きなの?
「はい、では全部でこれくらいですね」
提示された額は飯が三十回ちょい食べられるくらいだった。
やっぱ果物は買取値も安定していて良い獲物だね。
俺はトレイに乗せられた硬貨を掴み取り。
「ありがとです、ではまたー」
「ちょ! ちょっと待ってくださいゼンさん! あれ? 大事な話は?」
カレンさんが受付に身を乗り出して俺の服を掴んでそう聞いてくる。
今度大事な話があるとは言ったが……あ、今度って次来たらって意味に取られちゃったか、それは申し訳ないな……。
「ごめんなさいカレンさん、今度ってもうしばらくしたらって意味だったんですよ、まだ到着していないんで紹介出来ないんです、あと数日で来る予定なのでもう少し待っていてくださいね」
「あれ……誰かを私に紹介ですか……それはその……ゼンさんの恋人とか結婚相手なのでしょうか」
カレンさんは俺の腕を離し椅子にどかっと座り込み落胆したような表情になっている、なんぞこれ?
ルナは俺のナビゲーターであって、恋人とかではないよなぁ……どっちかってーと……。
「あー恋人とかじゃなくて俺の家族みたいな存在が後追いで俺の所に来るんです、それでカレンさんに紹介して貰ったり他にも諸々頼もうかなって話で、まぁ細かい話はその時にしますから」
カレンさんに借家あたりを紹介して貰おうと思うんだよね。
実はまだどこにも泊まった事がないから何処がいいのやら……。
「か、家族を私に紹介ですか!? えっとえと……それはちょっと早いような……いえ勿論嫌って訳じゃないんですが……段階がですね……」
カレンさんは表情を一転させてモジモジと体を揺らしながらボソボソ小さい声で何かを言っている。
声が小さすぎて良く聞こえないし、なにか反応も変だし、取り敢えず帰ろうかね。
「? よく分からないけど、まぁもう何日かしたら来ますのでよろしくですカレンさん」
カレンさんはビクッっと体を一瞬震わせると俺を見つめて。
「は、はい! 分かりました! えっと私は受付嬢辞めた方が良いでしょうか?」
そんな事を聞いてきた……。
へ? カレンさん受付嬢辞めちゃうの?
それは困るなぁ……まぁ事情があって辞めるなら仕方ないけど。
「カレンさん受付嬢辞めちゃうんですか? それは寂しい話ですね……」
「……それは辞めなくていいって事ですか?」
俺とカレンさんは見つめ合う。
「?」
「?」
なんとなく話が嚙み合っていないような気がしないでもないが、早くしないとルナと一緒の昼飯に遅れてしまう。
「辞めたくないなら辞めなくて良いのではないでしょうか? 取り敢えず俺は帰りますね、またー」
俺はカレンさんとの話を終わらせて急いで〈ルーム〉を開けそうな、ひとけのない場所を探しに行く事にする。
「あ、はい新居を探しておきますね、辞めなくていいならギルドの近場で広い所がいいですね、こ……子供の事も考えないとですし……えへへ」
カレンさんがそう嬉しそうに手を振りながら伝えてきた。
早速ルナと住む部屋か家を探しておいてくれるという事だろう。
ルナが子供だと推察する辺り、さすがに仕事の出来そうな見た目をしているだけあるな、カレンさんってこう美人有能秘書さんって見た目をしているんだよね、髪とかきっちり後ろでお団子ヘアにしているしな。
俺は歩きながら片手をあげて背後のカレンさんへ手を振りながらギルドを出ていく。
さて昼はルナのお好み焼きだ! 早く帰ろうっと。
――
side 冒険者ギルド受付
「ふんふんふ~ん、ららりらら~」
一人の受付嬢が機嫌よく書類仕事をしている。
それを聞いているすぐ隣の受付嬢は恐る恐る語りかける。
「あ、あのねカレン、すごく機嫌が良いのは分かるんだけどね……」
話しかけた受付嬢は途中で言葉を濁らせる。
カレンと呼ばれた受付嬢は機嫌良さげに応えていく。
「ああ、ごめんなさいねつい鼻歌が出ちゃってたわね……えっとさっきの聞いてたよね、へへ、やっと私もいつもの2割以外を引いたわ!」
カレンは拳を握り小さく片手でガッツポーズをしてみせる。
しかし受付嬢はカレンを気の毒そうに見つめ。
「えっと、私も横で聞いてたけどね、ちょっとその……お互いがすれ違っているんじゃないかなって思うのよ」
「確かにそうよね! 私はほら、子育てとかもあるからお仕事を辞めないとかなって思ってたのに、ゼンさんは辞めなくて良いって言ってくれたし、すれ違いって怖いわよねー」
受付嬢はオデコに手をあてながら何かをすごく悩んでいる。
「そうじゃなくて……あれは告白じゃないと思うのは私だけかなぁ?」
「ああうん分かるー、いきなり家族紹介は気が早すぎよね! もっとこう段階を踏んでいくべきなのにちょっと強引よね? ま、私はそんな人も嫌いじゃないけどねー、えへへ」
「どうしよう何を言っても駄目な気がしてきたわ……ええい後で分かるより今はっきりと言うべきか! ……ねぇカレン、貴方絶対に勘違いしているわ、あれはプロポーズとかじゃなかったと思うからね?」
「勿論よ、あんな告白はありえません!」
カレンはそうきっぱりと宣言した。
受付嬢はそれを聞いてホッと息を漏らす。
「なんだ冗談だったのね、もう、びっくりさせないでよカレン、心配しちゃったじゃないの」
「冗談? 何が? ……まぁとりあえずゼンさんにはプロポーズをやりなおして貰うわ、出来れば片膝を騎士様のように地面について花束とかを差し出して欲しいわねぇ」
「何処ぞの恋愛小説か! いやそうじゃなくって!」
「別に素でそれをやれって言ってないわよ、恋愛小説みたいなシチュエーションを理解した上でやって欲しいのよ、貴方だってそういうの憧れるでしょう?」
「いや女子としてそれは分かるけど、憧れるけども! ……どうしよう私の同僚で友達な子の頭が思ったよりお花畑で困っています、誰か助けてください……」
「誰がお花畑頭よ、そりゃぁ恋愛小説とか好きだけど……あ、売れ残り候補の二人から私が抜け出しちゃうからイジワル言っているのね、大丈夫だよ私は貴方と一緒にいてあげるからね? なんならゼンさんに貴方も嫁に貰ってもらうから、安心してね!」
カレンはニコニコとそう受付嬢に言うが。
受付嬢は表情をスンッとさせると。
「いいわ、私は部屋にお酒とおつまみを用意しておくわね、そして残念お泊まり会で貴方の滑稽さを肴にして美味しいお酒を飲む事にする」
「お別れ会を開いてくれるって事? お仕事は続けるし貴方とはずっと友達だからそんなの大丈夫よ」
受付嬢は続いて何かを言おうとしたがそこに両方の受付に冒険者がやってくる。
「いらっしゃい査定ですか依頼ですか?」
「いらっしゃ~い、査定ですね少々お待ちくださいね~ふふんふ~ん」
冒険者ギルドの受付は今日も平和だ。
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