23 打ち合わせとスリーベースヒット
「そーれいけー! 取ってきなさーい!」
リアがフライングディスクを遠くに投げると、リアの足元に集まっていたチビ魔物達が一斉に駆けていく。
今回の一番はチビウルフになりそうだな。
……。
チビウルフが口に咥えて持ってきたフライングディスクを受け取ったルナが、ご褒美にジャーキーをあげている。
そしてチビ魔物がほとんど戻ってきたら、今度はルナがフライングディスクを投げた。
チビウルフはジャーキーを食べるのに夢中で追いかけていないので、次に勝ちそうなのはペガサスの子供かな?
ってペガサスだとニンジンとかを用意した方がいいのかなぁ……今度ルナにDP購入したお野菜や果物も渡しておくか。
足の遅いチビトレントとかチビローパーは、さっきから5メートルくらい進んでは戻るの繰り返しだが、ワサワサと枝や触手を揺らしているし楽しいのだろう……たぶん。
俺がそんな皆の様子を微笑ましく見守っていると。
「ちゃんと話を聞いてくださいゼン殿!」
ラハさんに怒られてしまった。
ついつい楽しそうな笑い声に意識が向こうに行ってしまっていた……。
「ごめんなさい」
俺は目の前のラハさんに謝った。
少し前はリアが座っていた席のテーブルに今は代わりにラハさんがいる。
ルナをデラン商会が運んで来るという設定の打ち合わせを二人でしているのだが、リアはラハさんに全て丸投げしてルナと一緒に遊びに行ってしまった。
「ええとそれで何処まで話しましたっけか」
俺は頭を下げて目の前のテーブルに置かれた生首と視線を合わせる。
体さんはちょこっと用があるとかで離席しているのだ。
「もう……ですからあと数日で隣の街からこの樹海ダンジョン側の冒険者街へ、デラン商会の荷馬車が着くんです」
「そうでしたそうでした、でもあれですね、インベントリとか空間収納系スキルは一般にはあんまりないんですか? 商人の買い出しに荷馬車を連ねて来ているのをよく見かけるんですけども」
冒険者街まで買い出しに来る商人の荷馬車が出たり入ったりするのはよく見かけるんだよね、空間収納スキルとかあるはずだからちょっと不思議だったんだよ。
「ゼン殿は道端にたくさん金貨が落ちていたら、ポケットに入る分だけ掴み取ったら満足ですか?」
ラハさんがクイズを出してきたようだ、えーと……これはつまり?
「収納系スキルも使うし他の手段も使ってなるべく多く持ち帰る?」
「そういう事です、後は自分達の旅用の品物は荷馬車で運び、新鮮さや温度管理が大事な果物は空間倉庫系スキルや拡張ボックスにギリギリまで入れるっていう考えとかもありますね」
なるほど、日本と違って輸送する人達のためにも色々な荷物が必要だが、それらは温度管理とか必要ないし荷馬車にって事か。
「拡張ボックスってそのままの意味で見た目より多く入る箱とかですよね? そんな魔道具っぽい物もあるんですね」
俺がファンタジー世界に感心していると。
ラハさんは溜息をつきながら俺をジッと見て来て。
「何を言っているんですかゼン殿……異世界からDPで購入できる袋や箱には拡張の魔法がかかっている物とかが絶対にあるはずですよ!」
「え、まじで? うわぁ……後でバッグとか買ってみますね、〈インベントリ〉を誤魔化すのに使えそうだけど、価値ってどれくらいですかね?」
ラハさんは目を閉じてジッと考えてから目を開けると。
「拡張率が10倍くらいまでなら人種でも優秀な付与師なら作れるのでかなり出回っていますね、30倍を超えたあたりから珍しくなっていき、50倍を超えたらダンジョンの目玉ドロップ品とかになっちゃいます、ダンジョンマスターなら100倍くらいでも軽く作れちゃう魔女とかいますけど……それこそゼン殿がくれた例の天然石なんかは付与術の時の触媒に使われたりするんですよ? まぁ他でも使いますけど」
へー、やっぱ俺はこっちの世界の知識が足りないなぁ……本当はそういう部分をルナが助けてくれるはずなんだが……まだ知識レベル2だしな。
まずは自分を守れる強さを得るのが先だからいいんだけどよ。
「バッグは後でDP購入してみるとして、ルナは荷馬車と一緒に運んで街に入る感じになりますよね、何処かで合流させた方が?」
「いえ、ルナさんはドッペルゲンガーで代用して運んできてますので、街に入ってきたデラン商会にゼン殿が合流してそこで入れ替わる感じでお願いします」
すでに準備万端だったっぽい、ほんとこの人達には頭があがらねぇ……。
「ありがとうございます、いつかお礼をしますからね」
俺は感謝の思いを籠めてラハさんに頭を下げながらそう言うのであった。
「はは、すべて体が差配した事なのでお気になさらず、どうしてもと言うならお礼は甘い食べ物がいいですね」
ラハさんに甘い物をねだられたのだが……んん? 体さんがやったの?
俺のラハさんに対する感謝の思いは霧散していった。
よっし! 今度体さんにお礼でも渡そうっと。
「ではお礼は何か考えておきますね、ハンドクリームとかがいいですかね」
「え、いや私は甘い食べ物が……」
「他にはブランド物の爪切りとかどうですか、ほら顔を持つ手も大事にしないとだし」
「な、なるほどぉ! いやぁゼン殿が私の事を蔑ろにしているのかと勘違いしちゃったじゃないですか」
「そうですね」
「……ねぇゼン殿、そのそうは何処に掛かってくるそうなのでしょうか? いえね、一応、一応確認しておこうかなって思いまして……」
む、いつも鈍い感じなのに気づいてしまったか、それなら。
「ハハハハハハハ」
笑ってごまかそう。
「ちょっと? ゼン殿!? ゼン殿は私を蔑ろにし過ぎじゃないですかねぇ? こう見えて私ってお嫁さんに最適な尽くす首ですよ?」
尽くす首って字面が嫌だな、でも一応聞いておこう。
「例えば?」
笑いから一転ラハさんを真面目に見つめつつ質問をした。
ラハさんは一生懸命に考えて応えようとしている。
「えーとえーと、起床時に耳元で優しく『おはよう、ね・ぼ・す・け・さん』って言ってあげるとか?」
起床時、耳元に生首がある訳ですね、ホラー映画かな?
「アウトー!」
俺はラハさんに向かって親指を立てた拳を見せつつワンアウトを宣言する。
「待って、待ってくださいゼン殿! えーと……いつでも何処でも寂しくなったら嫁首と会話が出来るように持ち歩けます!」
生首を持ち歩けと? 猟奇殺人映画かな?
「ラハさんツーアウトー!」
俺は親指と人差し指を立てた拳を見せつつツーアウトの宣言をする。
「ちなみにスリーアウトでラハさんは罰ゲームでボーリングの玉になります、ホームランなら俺がピンになります」
「それどっちも得しなくないですか!? ってえっとえーと……いやこれは……ええい! 私は漬物石の代わりにもなります!」
俺は無言でラハさんを見つめる……ラハさんはゴクリと喉を鳴ら……そういや飲みこんだ唾って何処にいくの?
「……」
「……」
「スリーベースヒット!」
俺は拍手してラハさんを称えた。
「やったー! ふー危なかった、次はスクイズを狙います! ってちっがー----う!!! 私が異世界のスポーツを知らなかったらどうするんですかこれ!」
ラハさんがノリ突っ込みを披露してくれた。
どうしよう過去一番でラハさんに対しての好感度が上がったわぁ……。
ちゃんと『ツーアウトでスクイズしてどうすんだ!』っていう最後の落ちまで用意しているとか侮れない人だ。
「そういやラハさんって野球とかボーリングとか分かるんですね?」
理解して反応してたものな。
「ええ、地球でしたか? ゼン殿と同じ異世界から来たダンジョンマスターとかが自分のいた世界の文化で一儲けを企むのは、新人ダンジョンマスターあるあるなんですよね」
なるほどね、まぁフィットネスジムがあるダンジョンだものな……野球のルールくらいは知っているのかな? 野球でどうやって儲けようとしたか謎だが。
「その言い方だと成功はしていなそうですね」
「そりゃまぁ権利とか守られる世界じゃないですし? 真似出来るなら真似されちゃいますよね」
「あらま……まぁ冒険者が酒場で飲みながらリバーシで対戦とかしてたし、異世界の文化が普及はしているんだなとは思ってましたけどね」
「簡単に真似出来るものはそれなり普及していますね、それとカジノとかいう施設を自分のダンジョンの側に作ったダンジョンマスターが、一時期はすごい儲けを出したみたいですがすぐ真似されちゃってましたね、まぁいまでもそれなりの観光地にはなっているみたいですけど」
色々やっているダンジョンマスターがいるんだな、でもカジノは負けた冒険者が腹いせ紛れに近場のダンジョンのコアを破壊とかしそうだよな。
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