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「おまたせしました」


 そう声を掛けてきたのは冒険者ギルドの受付嬢で、俺はダンジョンからの戦利品を査定して貰っている所だ。


「魔石と採取された品物でこれくらいです」


 受付嬢が提示した値段は数人前の飯が食えるくらいか、まぁこんなものだよな。


「査定ありがとさん」


 俺は特に文句を言う事はなく受取書にサインをし、小さなトレイに乗せられたわずかな硬貨をつかみ取る。


 受付嬢は書類のサインを確認しながらも。


「ゼンさん、何度も言いますがこの収入では食べていくのも大変ではありませんか? 仲間を見つけて地道にランクを上げるための依頼を受けて行く事が良いと思いますよ、ソロだとダンジョンの奥に行くのは危険ですし……」


 俺がいつもこの美人受付嬢を選んでいるのは、査定額が低い買取でも嫌な顔をしないで仕事をしてくれるからだが、その受付嬢さんの優しさの余りに俺に毎回仲間を探す事を勧めてくるのが厄介だ……。


「心配してくれてありがとうございます、俺はその……人見知りでして、パーティもいつか見つけますからのんびり見守っていてください」


 魔石が必要なのだと教える訳にもいかないので、適当な言い訳で断る事にした。

 その適当な言い訳を聞いた美人受付嬢さんは。


「人見知りなんですか? それだと確かに……パーティは相性も大事ですしね……でもゆっくりでもいいのでパーティメンバーを探した方が安全ですからね? ソロでダンジョンの奥に行っちゃ駄目ですよ」


 俺にそう言い聞かせるように言ってくる受付嬢さん……この人はどうも俺の事を年下の少年だと思っているみたいなんだよな。


 受付嬢さんはたぶん二十歳前後に見えるんだが……。


 日本人の顔は異世界だと若く見られるらしく、二十二歳の時の体で転生した俺なんだが、周りには十七歳前後に見られているみたいなんだよね。

 俺はヒゲも生えてこねーしなぁ……若く見られるのも仕方ねぇか。


 ギルドの前の通りには、報酬を貰った帰りの冒険者を狙った屋台なんかが立ち並んでいる。


 たまには屋台で食い物を買っておくか……コアのメニューから買った日本の食べ物も美味いけども、新人冒険者が飯を買う姿を周りに見せておかないとな。

 あいつは何処で飯を食っているんだ? なんて疑問に思われても嫌だしよ。


「らっしゃい」


 屋台でも定番の魔物の肉を使った串焼きの店に来た、ここはオークの肉を使っているらしいが見た目は豚肉だよね。


「持ち帰りで六本貰えるかな?」


 安すぎる屋台は肉の由来が怪しかったりするので、他の冒険者にそこそこ人気のあるこの屋台を選んでみた。


「まいどー、あんまり見ない顔だが新人さんかな?、うちの串焼きは美味いぞ」


 屋台のおっさんはそんな事を言いながら大きな葉っぱで串焼きを包んで渡してくれる。


 俺は串焼きの料金を払いながら


「美味かったらまた来ますよ」


 そう返事して屋台から離れていく。


 屋台のおやじは『それならまた来る事は確定だな!』とガハハと笑いながら肉を焼く作業に戻っていく。

 ちなみにこの支払で、さっき査定で貰った報酬が吹き飛んでいる。


 そりゃ受付嬢さんも心配するよな……。


 魔石を全部提出したら報酬は四倍くらいにはなるのかもだが、まぁ今はレベルを上げながら細々とやっていくべきだしな。


 俺はひとけのない場所に潜り込み、周囲や誰かにつけられてないかを念入りに確認する。


 そして。


「ルーム」


 俺がスキルを発動させると目の前に扉が出るのでささっと入って扉を閉める。

 これで外の扉も消えたはずで、開ける時は扉にある覗き窓から外の状況が見られるので、そこで確認してから出ていく事にしている。


 どん詰まりの道で隠れる場所もないここはスキルを使うのには絶好の場所だが、逃げ道もないって事でもあるので周りに気づかせないようにしないといけない。


 玄関でブーツを脱ぎ部屋に上がる。

 今日はいつもより汗をかいたし先に風呂に入っちゃおうかなぁ、ちなみに剣や鎧など装備類の簡単な整備や清掃、服の洗濯乾燥なんかはDPを使えば出来てしまう。

 元々ダンジョンの奥でも暮らせるような機能がメニューにはある訳だしな。


 俺が装備を外していると。


 青い瞳で銀髪ロングのホムンクルスであるルナがトテトテと部屋の奥からやってきた。


「マスタおかえり」

「ただいまルナ」


 ルナの頭を撫でながらそう応えてやる。


「マスタ良い匂い」


 ルナがその小さな鼻をクンクンと鳴らす。


 俺はダンジョンの浅層に生えている大きな葉っぱで包まれた串焼きを渡してやり。


「今日は外で買ってきたオークの串焼き肉だ、ちょっとシャワーを浴びてくるから待っててな」


「わかったマスタ」


 ルナは串焼きを受け取ると、奥の部屋にトテトテと戻っていった。


 情操教育用にルナにはDPの一部を使う権限を与えている。

 まぁお小遣い制という事で、ルナはそのDP予算内で映画やドラマやアニメをサブスクやらレンタルやらをして見ている。


 コアメニューの設定でルナが見られる内容には、ある程度禁止事項を入れていて、日本でR15以上に設定されているものは、ルナだけの判断では見られないようにしているけどな。


 本当ならダンジョンの運営を助けるナビゲーターのはずなんだが……初期DPが少なすぎてな……いつかダンジョン知識のインストールもしてやるからな!


 ……DPが貯まるのはいつになるんだろ。


 俺はシャワーを浴びながら考える、現状魔石が欲しいがそれを稼ぐための強さがない。

 魔物を倒せばレベルも上がって強くなっていくが、戦闘用スキルを所持していないと辛い気がする。


 しかも普通なら剣をずっと使っていれば〈剣術〉スキルなりを覚える事もあるらしいが、ダンジョンマスターの場合、スキルはDPを使用して覚えるしかないときた。

 DPに変換する魔石を大量に得るには強くなる必要があって、強くなるためにDPが必要……はぁ……まず基礎レベルだけでも上げておくか。


 ルナも待っているしさっさと汗を流しちゃおう。


 ……。


 ……。


 シャワー室から出てDPで買った日本製のバスタオルで髪の毛を拭きながら奥の部屋へと向かう。

 そこにはDPで買った小さなテーブルの上に串焼き包みを置き、やはりDPで買った座布団の上に座りそれをジッと見ているルナがいた。


 俺はルナの横の座布団に座ると彼女の頭を撫でながら。


「ちゃんと待っていてくれたのかルナ、ありがとう一緒に食べような」


 少し前のルナなら今頃串の一本や二本は消えていただろううに、ちゃんと我慢出来た事を褒めてあげないとな。


「ルナはマスタと食べる」


 頭を撫でて褒められた事が嬉しいのか、ムフーッと鼻息を出しながらそう答えたルナ。


 一緒に食べたいなーと優しく何度も俺が言う事で、ルナも食欲を抑える事を覚えてくれたようだ。


 やはりルナは天才だな! 教えた事をきっちり覚えるし、こんなにすごい子は他にいないだろう、取り敢えず食後のデザートにご褒美のプリンを出してあげる事は確定しました!


「よしじゃぁ食べようなルナ、頂きますだ」


 俺はそう宣言してダンジョンメニューからロールパンをいくつか購入し、インベントリから出した皿の上にそのロールパンを乗せる。


「頂きマスタ」


 ルナは串焼きから挑戦するようだ。


 モグモグと横から縦からと食べていくルナ……大人用のでかい串焼きだものな、ルナの小さな手だと持ちづらいかも?


 でも串から肉を外してやろうとすると嫌がるんだよなぁ……俺と同じように串を持って食べたいらしいのだが、子供ってのはそういう物なのだろうか?


「美味しいマスタ」


「それだと俺が美味しいって事になっちゃうぞルナ」


 言葉遣いも教えたいが、俺も日中は狩りにいかないと生活がなり立たないので会話をしてあげられないんだよな。

 お留守番をしているルナはアニメやらで言葉を覚える訳だが……妙な口調になる時があるんだよなぁ……子供の言語学習用で尚且つ面白いアニメとかないだろうか?


「美味しいですね?」


「はは、そうだな二人で一緒に食べているから美味しいんだろうな」


 実際異世界に来て事情を共有出来る知り合いが一人もいない状況ってのは辛い。

 ナビゲーターホムンクルスってのは護衛や知識の補助だけでなく、そういったダンジョンマスターの心のケアのためにも存在するのだろう。


「マスタなくなった」


 串焼きもロールパンも全部食べ終えたルナの口の周りは、オーク肉の油でベトベトだ。

 俺はそれをDPで購入したウェットティッシュで拭いてあげる。


「むぎゅ……マスタありがと」


「どういたしまして、ちゃんとお礼が言えるルナはすごいなぁ」


 口の周りを奇麗にした俺にお礼を言ってきたルナをきっちり褒めながら、DPでプリンを買う……節約のために一つだけな。

 DPにそれほど余裕がある訳じゃないからさ……今回屋台飯なのも周りへの偽装の意味もあったがDP節約のためでもあるし。


「そんな偉いルナには、ご褒美として食後のデザートにプリンを提供だ」


 ルナはプリンと聞いて両手を上にあげ万歳の状態になり。


「最強来た! これで勝つる」


 ……どこのアニメで覚えたのだろうか?


 まぁいいかと、スプーンを出してあげるもルナは食べ始めない。


「どうしたルナ? プリン食べていいんだぞ」


 ルナはプリンと俺を交互に見る動作を何度かすると。


「マスタプリンは?」


 それだとプリンのすごい奴みたいな意味になっちゃうだろうに。


「俺はいいからルナで食べちゃいな」


 俺がそう応えると。


 コクっと頷いたルナは、プリンをスプーンですくい俺の前に差し出した。


「マスタあーん」


 これも何かのアニメかドラマで見たのだろうか、まぁ待たせる訳にはいかないな


「あーん、パクっ、んん! ルナの食べさせてくれたプリンは最高だな! いや最強だったか?」


 一つで1DPのプリンだが最高に美味しかったのは嘘ではない。


 俺が食べたから安心したのかルナはプリンを食べ始め。


「モグモグ、その最強プリンは世界を救う、次回「プリン死す」お楽しみに」


 ルナさんそれ次回予告でネタばれしちゃっているんですが……。


 ルナが選べるアニメの選択肢をもうちょっと確認しないと駄目かもしれないと思った。

お読みいただき、ありがとうございます。


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