19 大事な話と勘違い
さて午前はリアの所にいたせいで時間もあんまりないし、今日は採集をメインにするか、魔物を避けながら行けるルートを探してっと。
俺は背負い籠を出して樹海ダンジョン浅層の人がいない場所にPOPしている果物や薬草を集めていく。
今日はメロンが鈴なりに生る木を見つけてしまった。
表面に網がないツルっとしたラグビーボールのようなメロンで美味しそうだね……ってあれ? メロンって木に生る物だっけか?
……よし、ダンジョンは不思議でいっぱいだし細かい事は気にしない。
背負い籠の中をメロンでいっぱいにして冒険者ギルドのいつもの受付へ行く。
「こんにちはカレンさん査定お願いしまーす」
「いらっしゃいゼンさん、わー美味しそうなメロンを取ってきたのねぇ、これはギルド員割引で買わないとねふふふ」
可憐で美人なカレンさんはメロンを見て嬉しそうだし、メロンが好きなの?
そうして機嫌が良さそうに査定してくれるカレンさん。
「今日はゴブリンの魔石が少ないですね……ゼンさんがお肉を狙わずにゴブリンエリアで狩りをするのは、やはり果物を見つけやすいとかの理由があるんですか?」
カレンさんは査定の計算をしながらも小さな声でそう聞いてくる。
そういやたまに魔物からお肉を獲得しても数が少ないからインベントリに仕舞い込んじゃっているんだよな。
俺はカレンさんの顔に少し近づいて。
「肉ドロップエリアに新人が集まっちゃうから、ゴブリンエリアにPOP果物や薬草の取り逃がしがあるんです、内緒ですよ?」
小さい声でそう教えてあげた。
脳内の浅層MAPを見ていると、新人冒険者が狭い範囲に集中しすぎてPOPアイテムが無駄になっている部分があるからな。
肉で稼ぐって意味ならボアとかコッコが湧きやすいポイントに集中するのも悪い話じゃないんだろうけどね。
「はい内緒です、では諸々合わせてこの値段になりますけどよろしいですか?」
わーお、メロンって結構お高いのな、飯が四十回は食える額を提示された。
やっぱり果物は地味に稼げていいなぁ。
俺は勿論文句を言う事なく受取書類にサインをし、小さなトレイにおかれた硬貨をつかみ取る。
「ではまた……あ、そうだカレンさん」
「どうしました? ゼンさん」
カレンさんに伝える事を思い出した俺は離れかけた受付に戻り、カレンさんに内緒話をすべく受付台越しに少しだけ近づき。
「今度ちょっと大事な話がありますので、その時はよろしくお願いしますね」
「え?」
俺はカレンさんの返事を聞く事なく、そのまま受付を離れて行った。
ルナの受け入れの時あたりにカレンさんに色々頼むからなぁ……その時は果物でもお礼に渡すべか?
今日も冒険者街の屋台通りを歩きながら適当に食べ物を買い込み、〈ルーム〉を使うべくひとけのない場所に向かっていく。
……。
……。
――
side 冒険者ギルド受付
ギルドの受付から一人の新人冒険者が離れていくのを見た受付嬢、すぐさまその冒険者の対応をしていた受付嬢の近くへと椅子をずらす。
「ねぇねぇカレン、聞こえたわよー、大事な話があるんですってね~、うへへこれはやっぱり、こ・く・は・く、かしらね~」
その言葉を聞いたカレンは冷静にその話を受け流し。
「そんな訳ないじゃない、名前も憶えて貰えなかった私なのよ? きっとパーティメンバーのお見合いを頼むとかそんな事に決まっているわよ」
冷静に受け答えしているカレンだったが、名前のくだりで書いていた書類を一枚駄目にしていた。
それを見た受付嬢はあわてて。
「もうその件は忘れるってこの間のお泊まりで決めたじゃないの、自分から傷をえぐってどうするのよ……」
「そうだったわね……でもまぁ告白じゃない事は分かっているわ、デートをした訳でもないし、お誘いを冗談って言われる女だし」
「だ・か・ら、傷をえぐるなって言ってるでしょうに、根に持つ女ね貴方……重い女は敬遠されるわよ?」
「すべて丸っと忘れたわ」
「そ、そう……まぁ冗談は置いておいて今更パーティのメンバー募集の話かしらね? ……あ……」
「どうしたの?」
「あ、あのね、ほらまたカレンの目を付けた子が結婚報告に来たのかなーって思って、でも彼はランクも上がっていないしそれはさすがにないかアハハ」
「……ありえるわ……でも別に結婚くらい好きにすればいいんじゃないかしら? 私は全然気にしないわよ?」
この短い会話の間にカレンは書類を三枚駄目にしている。
「あれよね、その時が来たら分かる話よね、期待もしなければダメージも……ちなみに告白やデートのお誘いの可能性はどれくらいあると思ってる? 教えて貰っても馬鹿にしないから」
「……そんな事ある訳……そうね……告白が4割、デートが4割くらいかしら?」
受付嬢はそのカレンの強気の内容に絶句している。
「めっちゃ強気じゃないの……」
「何言っているのよ2割も外れがあるじゃない、私はいつもその2割を引く女なのよ……」
受付嬢は、悲恋小説の主人公に成り切っているがごとくのカレンから離れ、元の位置に戻っていく。
そして思った。
それは2割じゃないよね? と。
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