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153 魔女達との宴

「「「「「「「「「「かんぱ~いっ!」」」」」」」」」」


 元気な乾杯の掛け声が宴会場である大部屋に響き渡る。


 俺も周りに合わせて掲げていたジョッキの中の酒に口をつけた。

 あ、美味しいなこれ……。


 最初の一杯だからと、マジョリーさん達が用意してくれたエールを飲んだのだけど、フルーティな香りとコクのある味と言えば伝わるかな?


 今までに飲んだ、この世界のエールの中でもトップクラスに美味い。

 もしかしたらマジョリーさん達の自家生産品かも?


 というか、魔女の造った酒か……妙な魔法効果とかついてないと思いたい。

 なんて冗談を考えつつも飲んでいく、ゴクゴクゴクッっと。


「お味はどうですか? 私達が造っているお酒なんですよそれ」


 俺の隣、というか四角いテーブルの俺とは違う辺の前の席に座っている魔女さんがそんな声をかけてきた。

 今回の宴は適当にテーブルと席が設置され、料理がまとめて別の場所に置いてあるスタイルだ。


 好きな酒や料理を自分でテーブルに運ぶ、あー、日本のお店でいうバイキングとかビュッフェとか呼ばれる奴だね。

 自分の椅子という考えがないので、空いていたらそこに座るといった感じらしい。

 まぁさっきの質問に応えていくとしよう。


「ええ、今まで飲んだエールの中でも上位に迫る美味しさです」

「そうでしょう! 私もここに来た当初はびっくりしましたよ! こんっなに! 美味しいお酒が飲める職場なんて中々ないですよね~! ゴクゴクゴクッ」


 俺の横に座っている女性は、大きなジョッキに入っているエールを一気に飲み干していく。

 美味しそうに飲むねぇ。


 この宴にはマジョリーさんの配下の魔女達が参加しているので、みんなが黒いローブに黒のとんがり帽子を被っていた。

 まぁ宴が始まると帽子は何処かへ仕舞っちゃう人もいたけどね。


 そんで目の前の魔女さんなのだが、下半身が蛇で上半身が人型の所謂ラミアと呼ばれる種族だと思う。

 椅子に下半身の蛇部分を巻き付けるように座っていて、彼女の目は蛇のそれで、耳も少し尖っているかなぁという感じ。


 上半身のスタイルは良いけれど、顔は幼げというか……ラミアの生態は良く知らないが、まだ年若いのではないかと思える。

 まぁこの世界では見た目で年齢を測れない事が多々あるのだけど、人間からの第一印象ではそういう感じって事でよろしく。


 このラミア魔女さんとは、今までマジョリーさんの所に来ても、通りがかりに軽い挨拶を交わすくらいだったのだが、こんなに近くで話すのは初めてかもしれないな。


「っと、ジョッキが空ですね、俺がエールを注いできましょうか?」


 一息に酒を飲んでしまったラミア魔女さんのジョッキはすでに空になってしまっているので、気を利かせてそう聞いてみるも。


「あ、大丈夫です、持ってきましたので」


 そう言ってラミア魔女さんは、テーブルの上に自身の〈インベントリ〉からエールの酒樽を出し、それをドンッと樽を横向けに設置した。

 酒樽専用の台も用意してあり、捻れば酒が出て来る蛇口等も酒樽に差し込まれていて、準備万端といった感じ。


 そうしてラミア魔女さんは、早速とばかりに自分のジョッキにお代わりのエールを注いでいる。


 ……。


 周囲のテーブルの様子を確認してみると、宴の開始直後は何も置かれていなかったテーブル達には、ほぼ必ずといって良いほどエールの酒樽が設置されていた……。


 魔女さん達ってば、ジョッキにエールを注いで持ってくるとかはしないで……樽ごと確保するのか。

 いやまぁ火竜のホムラ達もそんな感じだけどさ。


 やっぱりラミアも蟒蛇なのかなーとか思いつつ眺めていると、俺を挟んでラミア魔女さんと反対方向の空いている席に誰かが座り、テーブルに料理を次々と置き始める音がした。

 それに気付いた俺はそちらを振り返り、誰が来たのか確認してみると。


 その席に座ったのは、青紫髪で単眼金目のサイクロプス族なイクスさんだった。


 人化スキルを使った状態なので身長は中学生くらいなのだが、今日の帽子は幻影効果がついてない物らしく単眼状態だね。


「イクスさんこんばんは、たくさん持ってきましたね……」

「こんばんはゼン様、ゼン様の差し入れならば堪能し尽くさないといけませんから! たくさん確保しておきました! フンスッ!」


 そう鼻息荒く宣言をしたイクスさんは、自身の〈インベントリ〉から次々と料理やらツマミやらが乗った皿をテーブルに出していく。

 そこに並べられていく料理の大半はルナが調理した物だった。


 料理が置いてある場所にはマジョリーさん達が準備した物も結構あったのだけど、イクスさんは敢えてルナの調理した物を選んできている感じだね。


 マジョリーさんクラスのダンマスなら、高レベルな調理スキル持ちの配下とかいそうだし、なんなら普通に美味そうな料理が並べられていたんだけども……。

 そうして並べた料理を美味しそうに食べ始めているイクスさんに、疑問をぶつけてみる事にした。


「沢山食べてくれるのならルナも喜ぶと思いますよ……所で自分達が準備した料理は食べないのですか?」

「ふぉごっ!? もぐもぐ……ゴクン……、えーっとですね、うちの料理は美味しいですけどいつでも食べられますし、それにゼン様の所のお料理は一味違うといいますか……例えばこれとかすっごい深い味ですよねっ!」


 そう言ってイクスさんが俺に見せるように動かしたお皿には、スープカレーが盛られている。

 ルナが作ったスープカレーは確かに美味しいけど、ここのダンジョンにだって〈調理〉スキルのレベルが7以上とかの人がいそうなもんだが。


 それでも違いがあるとしたら……。


「あー……香辛料や調味料の豊富さが珍しい感じなのかも?」

「それもありますが、海鮮類を生で食べる調理法とかも素晴らしいので、ゼン様もどうぞ食べてください」


 イクスさんがテーブルに沢山並べられた料理を俺の方へと寄せてくれる、その中には海鮮丼も混じっていて。

 ……なるほど、海鮮丼のように生で魚介類を食う習慣とかは内陸ではないのかもしれないな。

 確かにそういう意味では珍しいのかも。


 俺は勧められた料理の中でも、自分で差し入れた物ではない串焼きを選んで食べてみる。


 モグモグ……塩加減と焼き加減が絶妙だな……シンプルなのに美味しい、さすがマジョリーさんの所の調理人だ。

 商都で出会った調理人達より腕がありそうな気がする。


 ……。


 ……。


「あ、イクスさん、その鳥ハムは香味ダレをかけると美味しいですよ」

「えっと、料理の横に置いてあったこれですか?」


「そうですそうです、低温調理された鳥ハムに、ネギやごま油を使った香味ダレが合うんですよねぇ」

「へぇ、もぐもぐ……うわ、これおいっしぃですゼン様、……もぐもぐもぐ……」

「え、何々? 私にも食べさせて~」


 そんな風にイクスさんやラミア魔女さんと一緒に飲み食いをしていると、マジョリーさんが料理や酒が置いてある台の方へ歩いていき何かをテーブルに取り出しながら。


『皆楽しんでいるかしら? これは今日のお客さんであるゼン君からの差し入れよ!』


 そう言ってマジョリーさんが指し示しているのは、俺が差し入れた『守竜酒』の樽だ。

 俺がマジョリーさんに差し入れた物の中で、ルナの造った料理類は最初から並べられていたのに、『守竜酒』は置いてなかったから、あれ? って思ったんだよね。


 でもまぁ……今ならマジョリーさんがそうした理由も理解出来る。


 俺が差し入れたのは二斗樽で2個だからさ、さっきのエールみたいに個々人が樽ごと持っていっちゃうと困るからだろうね。


『なんとこれは~~~、あの噂の『守竜酒』で~す! 飲みたい人はここで注ぐようにしてね! 樽ごと確保したりしたら、後でお仕置きだからね~』


 そんなマジョリーさんの声が宴会場に響くと、隣の席にいたラミア魔女さんを含め、ほぼ全ての魔女さん達がズサッ! っと一斉に席から立ち上がった。


 そして。


『え? 『守竜酒』って、ドワーフ達を魅了したっていう? あの!?』

『ひと樽で銀貨数百枚するという噂の!?』

『マスター! 本当にそんな高価なお酒を飲んでいいんですか!?』

『後でお給料を減らされたりしませんよね!?』

 等々、一斉に魔女さん達が騒ぎ出し。

 ……。

 ……。


『ゼン君からの差し入れだからね~好きに飲んでいいわよ~、でもケンカしないでちゃんと並ぶのよ?』


 マジョリーさんが言った『ゼン君の差し入れ』のあたりで、その場にいた魔女さん達全員からの視線が俺に向けられるも。

 すぐさま魔女さん達は『守竜酒』のある場所へと殺到して並び始める。


 マジョリーさんが予め注意していたからなのか、『守竜酒』の前に並ぶ魔女さん達の間であからさまなケンカは起きていない。


 ……だが、何人かは移動しようとした時にズッコケてたりをしていたのを見るに……たぶん魔法で他者の移動を妨害した人がいるんじゃないかなぁ……。


 転んでしまった事で初動が遅れ、列の後ろの方に並ぶ事になった魔女さん達の目つきがやべー事になっているしさ……。

お読みいただき、ありがとうございます。


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