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149 お休み

「ふぃぃ……」


 大きなため息で、体と心の中の疲れを吐き出そうと試みる。


 今俺は拠点島の入り江に大きなドーナッツ型の浮き輪を浮かべ、水着姿でその上に仰向けで乗っかりつつ海の上をプカプカと浮いている。

 商都は肌寒くなってきていたのに、こっちはまだまだ暖かいねぇ……。


 子爵家の人達には陸路で東に向かうと言ったが、真っ正直に陸を進んでいかないといけない理由もない。

 なので一旦俺のスキルである〈ルーム〉の〈入口〉を使って全員で拠点島に戻ってきている。


 今回は国境を超えた記録を残す必要があるから、そこらや人目の多い場所では荷馬車での移動もしないといかんが。

 それ以外の陸路を移動する時間分は拠点島でゆっくりと過ごしても大丈夫だ。


 ほんと、この〈ルーム〉の〈入口〉を使った疑似転移機能にはお世話になるね……。

 最近はちょっと忙しかったので、しばらくはお休みの日って事で皆にも休むように言ってある。


 どんな忙しさだったか纏めてみると。


 伯爵家で女性用の下着を沢山披露して商売をしたり。

 俺が下着を作る事が出来ると判明したら、いくつものデザイン案を出されてそれを試作したり。


 ルナがはっちゃけて子爵家の料理長と料理勝負をしたり。

 料理をしながらの集団お見合いを企画立案したり。

 その料理のためのウナギ釣りや、それを泥抜きするための諸々な作業をしたり。

 お見合い参加者募集時の面接やら、その結果を踏まえて相性の良さそうな男女の組み合わせを考えたり……。


 伯爵家の内政官達と、新たな名物である『うな丼』を確立させるための協議やら。

 領内での米作を大規模に始めるための諸々の助言やら何やら……。


 そういった濃い時間を伯爵領で過ごしたので、ちょっと疲れている。


 ちなみに、色々と案件を押し付けられて俺以上に忙しかった伯爵領の内政官達の中の筆頭は、トーリ様の父親であるエリンズ子爵様なんだよね……。

 あの人はああやって伯爵様の無茶振りの被害を受けてきたのだろうね。


 まぁ、そんな感じで忙しかったので、しばらくはノンビリとお休みだと皆に告げたら、女性陣はまず島の中央にある屋敷の側に設置してある露天風呂に向かっていった。

 子爵家の風呂は小さかったしなぁ……泳げるくらいの露天風呂がある俺達の拠点が非常識なんだろうな。


 子爵家にお世話になっていた間は〈入口〉を使う訳にもいかなかったし。

 後で俺も久しぶりに大きな風呂に入ろうと思う。


 お互いに水着や湯浴み着を着れば混浴にもなる露天風呂なんだけど。

 今は女子達にゆっくりと露天風呂を使って貰おうと思って、入り江で暇つぶしに海でプカプカしにきたって訳だ。


 拠点島は暖かい地方だし、今日は薄雲が出ていて日差しもきつくないので、ノンビリするには丁度良い感じだ。

 ダイゴは俺と一緒に海に来たのだけど、俺が浮き輪に乗ってダラーっとするという話を聞いたら嫌そうな顔をして今は泳ぎの練習をしている。


 のんびりまったりする時間が退屈だと感じてしまうのは子供らしいよなぁ。


 ちょいと顔をあげて遠くを見れば、ダイゴがマーメイド達に見守られながら泳ぎの練習をしているのが見える。

 あいつには元々固定でレベル1の〈水泳〉を付与してあるから大丈夫だろうとは思う。


 ダンマスからのレベルが成長しない付与スキルは自転車の補助輪のような物で、ダイゴやローラ達みたいな現地人はそれを取っ掛かりにする事でスキルを覚える事がある。


 ダイゴはそれを理解しているから泳ぎの練習をしているのだろうけど……休みの日なんだから休むか遊べばいいのにな……。


 ……。


 最近はレベリングや何かで色々と騒がしいこの入り江も、マーメイド達のレベリングもお休みの日なので、静かで落ち着きが……。


 チャポンッ。


 目を瞑ってノンビリだらりと浮き輪の上で寝転んでいると、そんな音が側で聞こえた。

 俺は閉じていた目を開け、その音が聞こえた方へと視線を移す。


 そこには上半身を海上に出しているマーメイドがいた。


 水球じゃあるまいし、その上半身が海上に出ている体勢で維持できるってのは地味にすごいと思うんだよなぁ……顔だけ出すのならまだしもさ……。

 見えない海の中では、その魚の尻尾部分を懸命に動かしているのだろうか?


 そんなカラフルな髪の色と同色の目と鱗を持つマーメイドは、口を閉じたまま俺の事をジッと見てきている。


「どうした×××、何か用か?」


 200名以上いるマーメイド達だが、一応名前は全員覚えている。


 今俺の前に来ているのは、マーメイド達の中でも若手の子だったはず。

 まぁ若手と言っても、長であるマリーよりは妙齢の女性に見えるから不思議だ。


 ファンタジー世界は見た目と年齢が一致しねーなんて事も良くあるからな……。


「あの……私共に他に命令する事はないのかなと思いまして……」


 そう言って物欲しそうな視線を俺に寄せるマーメイドだった。


 彼女らも今日はお休みって事になっているんだが、俺が海に遊びに来たら側に来て『何かお手伝いをする事はありませんか』と言ってきたのよね。


 現状だと海産物の確保に真珠の取引、それとルナの調理助手の仕事や拠点屋敷の管理と、マーメイド達には結構働いて貰っている。


 それなのにもっと働こうとするのは、ワーカーホリックかはたまた……うん、最近彼女達からの……忠誠心というか……もっと別のというか、まぁそんな感情が膨れ上がっているのは気付いているのだけど。


 俺の役に立ちたいという気持ちも大きいのだろうかと、さっき仕事は振ったんだけどね。


「それならさっき、ダイゴが溺れないようにそれとなく見守ってくれって頼んだよな?」

「ええ、ですので現状十人程がその任務についておりますが……」


 ダイゴ一人に十人ってすごいよな、どんだけ過保護なんやと思うが、人員が余りまくっている可能性があるな。


「……マーメイド達は後何人くらい待機しているんだ?」


 実は俺の〈気配感知〉で、ある程度は掴んでいるのだけど。


「百人以上がゼン様のために待機しております」


 ……だよなぁ……海中からの気配の数がすごいもんな……。


 マーメイドの中でも〈人化〉を覚えた子らには地上でのお仕事もあるんだが……まだそこに至っていない子はどうしても海の中の仕事だけになっちゃうんだよね。


「一応お休みの日なんだしさ、お前らも休んでいいんだぜ?」

「そんな! 折角ゼン様が海に来ていてお世話が出来そうなのに……それはあまりに御無体なお言葉です!」


 ウルウルとした目でそう訴えてくる若手マーメイドだが。


 仕事をせずに休めと言うのが酷いというのか……俺のダンジョンはいつからブラックな職場になってしまったのだろうか。

 ……仕方ないなぁ、今日はのんびり波間に揺られながら昼寝とかしようと思っていたんだけどね。


「あーそれじゃぁさ、ルナやダイゴ達が前にやって貰っていた、浮き輪を引っ張る奴やってくれよ、ついでにダイゴも連れてきてさ、今日は皆で一緒に遊ぶか?」

「あ……はい! じゃぁダイゴ君を連れてきますね!」


 そう嬉しそうに笑顔を浮かべると、ザパリッと下半身の尻尾を翻して海水を跳ね上げ、若手のマーメイドは勢いよくダイゴに向かって泳いでいく。


 仕事じゃなくても一緒に遊べるだけで良かったらしい。

 うん、これならホワイトな職場だと胸を張れるね、良かった良かった。


 チャポンッ、チャポン、チャポ、チャポポポポポポポポポポポポポポ…………。


 さきほどの若手マーメイドから何らかの合図を受けたのか、海中にいたマーメイド達が一斉に俺の周りに浮き出てきた。


 100人近くの上半身を海上に出したマーメイド達に囲まれた訳だが。

 彼女達のカラフルな髪の毛や目や鱗と共に、それに合わせたビキニな水着の色彩が豊かで奇麗だねぇ……。


 それにしても……この人数を相手に遊ぶのか……。


 今日の休暇はヘビーな一日になりそうだ……休暇とは?

お読みいただき、ありがとうございます。


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