148 墓参り
エリンズ子爵家から出発し、商都の石畳をゆっくりと荷馬車で北北西に向けて進んでいる。
朝ご飯の前に出て来たから、これから街の中で人々が動き出すという時間だろうか。
うちの荷馬車を曳いているウッドゴーレム馬が珍しいのか、朝早くから道行く人もこちらをチラチラと見て来ている。
荷馬車の御者台に座っていると、そういった人達の視線が結構分かるものなのよね……。
そうそう、現状ウッドゴーレムの護衛は追従させていない。
何故なら、あいつら見た目がごっつい鎧だから威圧感があるんだよな……。
街道とかならまだしも、街中だとあれなので拠点島に待機させている。
あれらの存在が俺の召喚獣であるという話は、エリンズ家や商都のお偉いさん達にはすでに説明してある。
鯨石を手に入れた漁村で村民達に見せた、マーメイド達の召喚みたいな感じでね。
てことで、俺は召喚士やテイマーの称号も得てしまっているのだが、まったく問題はない。
行商人であり冒険者でありパンツ職人でもある所に、召喚士やテイマーが加わっても……。
パンツ職人やルナの雇い主って方がインパクトが強いらしくて、誰もウッドゴーレムの事を気にしなかったしな。
……。
そんな商都の中を北北西に向けて進むと、少しずつ下町といった景色へと変わっていく。
そうすると道を歩いている人達もガラが悪くなるというか……まぁ理由としては商都の側にあるダンジョンがこちらの方面にあるからなんだけども。
そのダンジョンはオーソドックスな地下洞窟型らしく、魔物がドロップする魔石や、設置してある宝箱で稼ぐタイプらしい。
ドリアードのリアが運営している樹海ダンジョンとはコンセプトが違うよね。
リアの所は果物とか薬草がPOPするから、魔物と戦う事なく稼ぐ事が可能なんだよ。
つまりここのダンジョンに通っている奴らは最低限度の戦闘力を有している訳で、小さな子供冒険者がそこそこいる樹海ダンジョンに比べると……こっちはちょっとガラが悪いというか脳筋っぽい感じ?
なのでこの商都は、そういった冒険者達を北北西の地域に纏めていて、そして上流階級な住民との間に下町を挟む、といった都市構造をしている。
肝心のダンジョンは商都の外側の農業地区内にあって、壁で隔離した円状の場所があるっぽい。
俺達は今そのダンジョンから……ほど近い場所にある、ダンジョン内で亡くなった人達用の慰霊碑に向かっている。
……セリィやダイゴの父親は、たぶんダンジョン内で亡くなっているっぽいからね……。
そこに遺体が葬られている訳ではないのだが、まぁ気持ちの問題だ。
っとと……俺は荷馬車をとめた。
まだ商都の街中なのに急に止まった事で、後ろの荷台で朝ご飯を食べていた皆も何事かと御者台の俺を見てくる。
それに対して気にするなと後ろの荷台に向けて手を振ってやりつつ。
俺達の荷馬車に近づいて来る相手を迎える。
その女の子が御者台の近くまで来たので、上から話しかけ。
「こんにちはミナリーさん」
「おはようございます! ゼンさん!」
こちらに向けて女性が手を振っていたので荷馬車をとめたら、近づいて来たのはチャラ君の幼馴染であるミナリーさんだった。
俺とこの子はすでに知り合いでさ、集団お見合いへの参加を提案しに行った時に色々とチャラ君との事で話をした事があるんだ。
「あの後、チャラ君とは上手くいったかい?」
「ちゃら?」
……あ。
そうだったそうだった……。
えっと……。
「こほんっ……ジークフリート君と上手くいったかい?」
「あ、はい! 教えて頂いた通りにしたら……始めはびっくりしていたジーク兄も……えへへ……上手くいったのはゼンさんのおかげです、本当にありがとうございました」
今が最高に幸せだとばかりに笑みを浮かべるミナリーさんは、ものすごく可愛らしいね。
「元々君らはお互いに好意を持っていたってだけの話だよ、まぁお礼の言葉は受け入れるとして、それで周囲への結婚の宣言はもう?」
「いえ、それは一年後にしようってジーク兄が言っていまして……」
「あらま……なんでまた?」
「来年の収穫祭の時に合わせて披露式をしようって……結婚用の貯蓄も無くなっちゃっていたっぽいとかで……私が夫婦の新居用の資金を出してもいいよって言ったんですけど……」
あー……酒場の女給に色々と貢いだ結果か……それはまたなんとも。
一年も待たせる理由が理由なだけに、チャラ君は将来この子の尻に敷かれそうだねぇ……。
「ああうん、まぁ好きな相手に見栄を張りたいのは男の子の性みたいものだと思うしかないね」
「好きな! ……えへへぇ……しょうがないですよねぇジーク兄は、まぁ私も急に奥さんになるよりも、恋人としての時間があると思えば待つのも楽しいですから、うふふふ」
「幸せいっぱいなようで何よりです、あーそれじゃ、あんまり道端で荷馬車を止めるのもあれなんで……」
そろそろ出発をしたいとミナリーさんに暗にそう伝えると。
「あっと、ごめんなさいゼンさん、私も仕事場に行かないと、じゃぁ、本当にありがとうございました」
……。
お互いに軽く手を振り合ってその場で別れていく。
いやぁ良かったなぁチャラ君。
これであの時の恩返しも出来たと思おう。
……。
……。
――
ダンジョン内で亡くなった人達のための慰霊碑がある場所に着いた。
……なんというか、俺の背丈を少し超える程度の石で出来たそれは、薄汚れていて物悲しさを感じる物だった……。
冒険者は墓参りなんてしないのだろうかね……。
俺の〈光魔法〉を使えば一瞬で奇麗にする事も出来るのだけど、それはせずに……セリィが求めるままに掃除用の道具を出してあげる事にした。
セリィとダイゴは一切口を開かずに、水で濡らしたタオルで慰霊碑を奇麗にしていく。
二人が今どんな思いを抱いているのかは分からないが。
今日のお昼は二人の好きな肉が多めのメニューにしてあげようと思う。
……。
……。
慰霊碑の掃除や故人への祈りも終わり、商都の北へと出た俺達は、適当な場所に荷馬車をとめてお昼を食べている。
お肉が多めのサンドイッチを美味しそうに食べているセリィ姉弟。
そんな二人を見ながらこの世界の事を少しばかり考える。
この魔物がいるような世界だと、遺体を残さない処理が普通らしい。
それは遺体を放置するとゾンビになっちゃう事があるからで、火魔法葬やら光魔法葬やスライム葬等々、作法は様々だが後に残さないという考えはだいたい何処でも一緒だ。
街の外で倒した魔物の処理なんかは……野良のスライム任せとかが多いらしいけどね。
そうなると処理が間に合わないなんて事もあるので、お外ではゾンビやスケルトンなんかは普通にいるっぽい。
まぁそんな訳で故人の冥福を祈る時は遺品や髪の毛を使うものなんだが、ダンジョンの中や街の外で亡くなるとそういう物がないので、こういった慰霊碑が必要になる。
冒険者とか旅人ってのは全財産を身に着けて移動する人も多いから、街の外で亡くなると何も残っていないなんて事は良くあるらしい。
そういえば、セリィ達にとってあそこのダンジョンマスターは敵になるのだろうか?
同じダンジョンマスターである俺の側にいて思う所とかはないのだろうか?
ダンジョンマスター的視点から考えると、セリィ達の父親の装備品なんかを、そのダンマスが獲得しているはずなんだよなぁ……。
うーん……ちょっと二人に聞いてみるか。
……。
……。
疑問に思った事をセリィとダイゴに聞いてみたら。
「ゼン様の事を恨む事はあり得ません!」
「そうだよゼン兄ちゃん、急に何を言い出すんだよ」
セリィとダイゴはそう言うが。
「いやでもさ、俺も同じ存在な訳でよ、こう……理屈では分かっていても、ってなる事もあるだろう?」
何かを恨む場合、理不尽な感情である事が多いからな。
「人族の盗賊に襲われたからと、種族が同じ人族全てを恨むような事はしません……それにダンジョンという相手の領域に侵入するのならば……父もそうなる覚悟をしていたはずです」
「姉ちゃんの言う通りだぜ、ゼン兄ちゃん」
普通に、死を覚悟して行くのがダンジョンという訳か……。
当たり前といえば当たり前なのかもしれないけど。
そういう世界なんだなぁと改めて実感しちまう。
「心の整理がついているならいいんだけどな」
俺はそう言って、セリィとダイゴの頭をナデリコしていく……くっ、ダイゴには逃げられた。
俺のナデリコを受けながらセリィが口を開き。
「あそこのダンジョンは……いつか……攻略します……リア様の配下でもないみたいですし……」
「もっと強くなってから行こうな、姉ちゃん」
ああ、恨みはしねぇが、やり返しはするのね。
なんつーか、こういう世界に生まれた子らは逞しいね。
まぁいつか二人のダンジョン攻略を手助けする事はあるかもな……という事で。
あそこのダンマスとは交流を持たない事にしておこう、情が湧いたら嫌だしな。
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