表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/158

142 勘違い

 俺は色々勘違いをしていたようだ。



 何を? ってそりゃぁ。


 この世界では、料理の発展度合いが低いんじゃないかって思い込んでたんだよ。


 でもさぁ料理対決の時でもそうなんだが、普通に異世界地球の料理に似てる物とかが相手側から出て来たんだよね……。


 つまりどういう事かというと。


 この世界にはインターネットなんかは勿論なくて、さらに活版印刷なんかの技術は聞こえて来ない、というか何処かで秘匿されているかもしれないけど、表立っては出て来ていない。


 なので本を量産するには〈複写〉スキルとか、もしくは手書き頼みなために情報が出回らないというだけの事で。


 醤油もソースも似たような物が存在しているらしい、という話を伯爵様がしていたんだ。


 ちなみに、ここらの領地はグーメル領というらしいので、平民には『グーメル伯爵様』なんて呼ばれるらしい。


 本当の名前は別でも領地を示す名前で呼ばれるのは、お貴族様のあるあるらしいので俺もそう呼ぶ事にしよう。


 それで俺はグーメル伯爵が話している事を黙って聞いていたのだが、調味料のレシピなんかはそれぞれの料理人や権力者が秘蔵の物としてしまうんだってさ。

 彼らがそのレシピを公開する事もほぼ有り得ないので、だからこそ庶民までは中々料理文化が広がっていかないという事らしい。


 グーメル伯爵様は美味しい物を食べに……もとい、貴族のお仕事で各地に出向く事もあるとかで。

 各地には秘伝の調味料やレシピに基づいた美味しい料理の数々があるとかなんとか……。


 そりゃ昔の日本だって料理の事を詳しく知りたければ本を買うしかなかった時代とかもあるだろうし……そんな昔の日本より印刷技術が低い世界ならば情報は中々広まらないかも?


 んー、あっ! だからこそ俺が漁村で披露したソースのレシピがやばいって事か……。

 リアの言う事なので一応は納得していたけど、こういう追加情報を得るとさらに納得度が深まるねぇ。


 俺はウンウンと頷きながら目の前の料理を食べていく。



 ちなみに今はどんな状況かと言うと。


 俺はエリンズ子爵家の客人として、ご家族の晩餐に招待されている。


 そして、その席にはエリンズ子爵様と子爵夫人と、その娘のトーリ様がいて……そして何故かグーメル伯爵様もいる。


 一応グーメル伯爵様に内々の挨拶は済ませているが、公式な場は未だに整わずにいる……この人毎日のように晩餐に突撃してくるんだよな……。

 忙しいお貴族様とは面会の予定が中々に決まらないという建前はどうなってんだかな……。


 まぁグーメル伯爵様が晩餐に突撃して来る理由は分かっていてさ。


 まぁあれだ、ちょっと俺が着いているテーブルで行われている会話を聞いてみてくれ。


 ◇◇◇


『ふむ、これが最近出回り始めたショウユーという調味料を使った料理か……』


『ええ伯父様、ゼン商会長の所のメイドさんに、うちの料理長が教わった物ですわ!』


『ほほう……モグモグ……こ、これは! この味は知っているぞ……あれは確か隣国に外交使節として送られた時に旅の途上のダンジョン街で食べた料理の味に……なるほど……あの味はショウユーを使っていたのだな……ふふ……』


『これだけじゃないのよ伯父様、他にもカリーと呼ばれる香辛料を使った料理がですね――』


 ◇◇◇


 とまぁ。


 トーリ様とグーメル伯爵様が料理談義に花を咲かせながら楽しく晩餐を過ごしている。


 ルナと子爵家の料理長が仲良くなっちゃったからねぇ……そのせいか最近の子爵家の晩餐が今までと違うらしくて、それを目当てにグーメル伯爵様が来ているという事らしい。


 子爵様や子爵夫人は、料理を美味しいとは思っているようだが、あの二人程の熱意はないっぽい。


 でまぁ、俺は自分から話し掛ける事もなくトーリ様達の会話を聞いていると、世界各地には色々な料理が存在しているみたいだって事が分かった。


 そういった話を伝聞で聞いた料理人は再現しようと頑張るみたいで、そこにルナという異世界の知識持ちが来た事で……色々な料理の再現が進んでいるとかなんとか。


 ちなみにここの料理長の調理系スキルはたぶん4くらい、似たようなスキルも複数持っている可能性は高いから……実質は調理レベル5くらいの技術力はあるんじゃないかなぁ?


 ルナより料理長の方がスキルレベルが低いかもだけど、長年の知識と経験という物は侮れなくて、ほぼルナと同等の能力とも言っていいかも。


 スキルレベルが違うのに能力が同等と言っている訳なのだが。

 料理ってのは食べる人の主観で美味しさが変わるじゃん?


 そんでもってルナは守竜祭での屋台の時を除くと、ほぼ全ての調理で俺の好みを優先するからさ、食べる相手の好みに合わせた色々な微調整とかの腕は長年の経験者には勝てないっぽい。

 まぁ、そこで負けてもなんの問題もないって思っているのが、ルナらしいといえばルナらしい話なんだけども。


 色々な知識を得ても、最終的には俺のために作ってくれてるんだよなぁあいつは……。


 うん、今度何かで労ってあげないとな……。




 そうしてなんとなしにトーリ様達の会話を聞いて情報収集していると、子爵夫人が俺に話しかけて来る。


「商会長さん、例の魔法付与の心当たりに交渉するというのは、いつ頃のお話なのかしら?」


 子爵夫人の質問に答えるために俺は一旦食事の手を止め。


「そうですね……隣国に行かないとなので、すぐにという訳にはいかないかもしれません」


 そういや昨日のゼン商会出張下着販売会の時の会話では、交渉にいつ頃行くのかという話はしなかったっけ……。


 てーかさぁ、昨日はめっちゃ忙しかった!


 俺の下着職人としての技術を確認した伯爵夫人が率いる女性陣達は、安心したとばかりにダンスホールに出した大量の下着を改めて吟味し始めたんだよね。


 まぁ俺は試着とかサイズを測る作業をする場所に同席する訳にいかないので、隣の部屋で待機してたんだけども。

 隣のダンスホールからはワイワイガヤガヤといつまでも騒ぎが収まる事もなく……。

 午前中から伯爵家に行ったのに、日が落ちるまでかかったからね……。


 てか、実はまだ終わってなくて第二回第三回の出張下着販売をやる予定を組まされている。


 ……もう在庫全部買ってくれたらいいのになぁ……とか思っていたんだけど。

 俺が出した下着類の在庫は全て購入する事が決まっているらしく、じゃぁ何に時間がかかっているかというと……。


 女性陣の誰がどの下着を確保するのかの話合いとか、新しい下着の着方やサイズの意味やら何やら、そういった新たな情報をルナやローラ達から教えて貰うのに非常に時間がかかっているっぽい。


 ……というか全部購入って……大金貨何枚になるんだろう……。


 俺はちょっと伯爵家の財政が心配になってしまった。


「隣国? どちらの国か聞いていいかしら?」


 っとと、俺が昨日の事を思い出している間にも子爵夫人の話は続いていく。


「はい子爵夫人、鉱山都市トントのある×××国ですね」


「そっちの国ね……もしかして商会長さんの言っている魔法付与の心当たりというのは……」


 子爵夫人は少し言い淀み、その代わりなのだろう子爵様が口を開く。


「ゼン商会長、それはもしかしたら『マジョリー商会』だろうか?」


 おー、マジョリーさんの商会も有名なのか、てか本人が商会長ってのがすげーよなあの人……魔法で認識をどうにか誤魔化して長年やっているんだろうね。


「そうなりますね子爵様」


「なるほど……つまりゼン商会長には『マジョリー商会』にツテがあるという事でよろしいか?」


「ええまぁ、前回の仕入れやらの旅でちょっとした縁が出来まして」


「ふむ……」

「あらまぁ……」


 俺の返事を聞いた子爵様と子爵夫人が感心したような……いや呆気に取られたような……兎に角会話が一旦そこで止まった。


 なんぞ?


「えっと、何か問題でもあるのでしょうか?」


 マジョリー商会と、この国が敵対しているとか?


 ……さすがにそれはねぇか。


「ああいや、『ダンゼン商会』の事はすでに調べてあるのだが……確か『デラン商会』による後ろ盾を得ていると聞いたからね……そこにさらに……」

「西のデラン商会に東のマジョリー商会、近隣諸国でも()()な意味で有名な商会よねぇ……その両方にツテがあるなんて、やるわね商会長さん!」


 色々って……まぁアンタッチャブルな商会って事なんだろうけども……。


 リアといいマジョリーさんといい、ダンジョンマスターが運営している商会はやべぇのしかいないのかよ……。


 ん? その時何故か、ルナが俺にブーメランを投げる幻影が見えた気がした。


 ……まぁ子爵様達との会話を続けるか。


「鉱山都市でたまたま出会った縁というだけなのですけどね、それに商談が上手く行くか分かりませんし」


 たぶんマジョリーさんは了承してくれるだろうけども、表向きには老舗商会に新参商会が商談に行くって事になるからね、控えめに言っておこう。


「何としても成功させてね商会長さん! なんならうちの……いえ、伯爵夫人の名前を出しても大丈夫よ、あの方ならきっと許可をくれるだろうし、次の出張下着販売会で伯爵夫人に聞いてみるといいわ!」


 子爵夫人は鼻息荒く俺に詰め寄り……はテーブルが邪魔で出来ないが、強い言葉で俺に期待を寄せて来る。


 子爵様も夫人のその様子には苦笑いを浮かべるのみである……ちなみに貴族家の名前を出す事を止めようとはしない。


 その事についての反対はしないって事なんだろうね。


 でも俺は思ったよ。



 ……今この部屋にいるグーメル伯爵様には聞かないのな、と……。



 非公式訪問だからなのか、それとも料理談義に熱中していて俺達の話なんぞ一切聞こえていないだろう伯爵様は当てにならないというのか……どっちだろうな……。







お読みいただき、ありがとうございます。


作中の子爵夫人の言っている『西のデラン商会に東のマジョリー商会』という内容なのですが、これは自分の住んでいる国を基準にしているお話なので、今現在主人公のいる広大な大陸全ての地域において通じるお話という訳ではないです。




少しでも面白いと思っていただけたなら


作品のブックマークと広告下の★を押す事で評価していただけると嬉しいです


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ