14 光る繭の中
「とぅっ!」
ザシグボォッ、斬れた時の音が悪いのは腕の悪さのせいだろうか、ゴブリンを斬って斬って斬りまくる。
今日は頑張って魔石を稼いでいかないとな、なぜならDPを稼がねば明日の朝に目が覚めるルナのお小遣いDPにも困ってしまうのだ……。
今回の強化で貯めていた経験値を全部使ったのでルナの基礎レベルは7になる予定、もうちょい上げておきたい所なんだが……俺の基礎レベル上げと戦闘系スキル取りが先かなぁと悩んでいる。
スキルなんて取らずとも強くなれる可能性が有るというのは災禍の話を聞けば予想は出来るが……でもなぁ前世で文系の大学生をやってた俺だぜ?
それがちょっと戦闘訓練してスキルに頼らず武術の達人になれるか……?
無理だろ?
スキルレベルは冒険者の間に流れている話だと、1は駆け出し、2で修行中、3以上あれば一人前で、4でベテランだそうだ、何処まで上げられるかは知られていない。
ルナの取ったスキルもレベル2までは安めだったし3が一つの壁なんだろね。
メニューでも何処まで上げられるかは分からんのよな……予約も今あるDP分でしか選べないし。
そんな風に色々と考えつつもギャーギャーと煩く近寄ってくるゴブリンを迎え撃つ。
こいつら黙って近寄ればいいのに、一々叫び声を上げてくれるから分かりやすくてありがたい。
ドボクッ。
もう斬るというよりは殴っているような手ごたえの時もある、刃筋を立てるって良く聞くけど難しいよね。
冒険者でもスキルを覚えてない奴なんかも結構いるみたいで、剣を使い続けたといっても必ずしも剣術スキルを覚える事が出来る訳ではないみたいだ。
たぶん習得可能スキルリスト……なんて感じに個々人で違う才能として設定してありそうな気がする。
剣術スキルは無理でも鍛冶とか裁縫とかの才能があるかもだし、余裕のある人は数年やってスキルが出なかったら、武器を変えるなり職を変えるなりするそうだ。
そうして俺はゴブリンをひたすら倒して行くのだけど、俺がゴブリンが多いエリアを選んで狩りをしているのは、肉が取れるエリアは新人冒険者が多かったりするからだ。
コッコやボアやウサギ系の魔物からは肉がドロップするので、新人には人気があるんだよね、自炊でご飯代を浮かせたり出来るから。
樹海ダンジョンの浅層は、そんな風にお肉が取れたり、果物なんかが定期的にランダムポップするから、地味に新人が稼げて育ちやすいダンジョンとして知られている。
逆に上級冒険者からすると深層域は実入りがボチボチなので他のダンジョンに流れるらしい。
ダンジョンマスターであるドリアードのリアがそういう方針で運営しているって事だね。
中層域だとオークなんかが多くてベテランの中堅冒険者の稼ぎ場所になっている。
そんな感じで肉や薬草や果物なんかが豊富に取れるので、それらを買い求める商人がたくさん来る訳だ。
おかげで生活物資やらもダンジョンアイテムを買いにくる商人がついでとばかりに運び込むので、新人が過ごし易い物価に収まる。
冒険者から入るDPは上級者の方が多いらしいのだが、下手に強い奴を呼び込むとダンジョンクリアを目指す奴とかが出てきちゃうのが面倒なんだろうね。
一応冒険者ギルドで破壊推奨ダンジョンや、そうじゃないダンジョンなんかも分けて公表しているみたいなんだけどね……規則を守らない奴なんてのは何処にでもいるものだしな。
後は……ルナの事をどうするべきか考えないとなぁ……ある程度強くなったのなら外に出してあげたい。
けれど今まで見もしなかった女の子が急に街に現れて、ソロの新人冒険者をマスターと呼ぶとしたら……周りにどう思われるだろうか?
俺は日本人な見た目だしルナは銀髪で青い目だし、兄妹設定は無理があるよな、うーむ……。
やっぱ何某かのカバーストーリーを作らないと駄目だよな?
血の繋がらない兄妹……マスターとか呼ばれたら一発アウトだな。
なれば従者……の子供とかかなぁ……。
今回の強化でルナの身長は小学4,5年生くらいにしたから。
……俺の家で代々従者をやっていた家系の子供とか?
無理があるがそんな所かな、ダンジョンコアで人型の魔物とかを増やす事とかもあるかもだし、お家再興を願って昔のツテで人が増える事もあるとかなんとかって事にしておけば……いけるか?
わざわざ自分から言う必要はないけれど微妙に話が漏れる感じにするには……うーんちょっと危険だけど家宝を売り払うか。
いやそういう設定で何かを売った記録を何処かに残しておくのはいいかもしれないよ……な?
どうせなら冒険者ギルドにツテを作るとして何を売るか?
魔道具とかちょっと良い武器防具の類とか……この辺はリアにも相談しておこうかな。
それと没落した家名は……俺の名字が竹中だから……バンブー? フォウ? インサイド? デュアリング? えーと別に使う気もないけど、バンディール家とでも設定上しておこうっと。
調べられたら困るから別な大陸の国出身って事にしておこう。
この国の人達の知識でいうと、今いる大陸が中央大陸……いやまぁその大陸にいる人らは自分らのいる場所を中央って言うよね?
で、中央大陸以外にも国が複数存在するような大陸がいくつもある事は知られているからね。
不思議と言語は同じなんだよね……神様が何かやったのかなぁ? 方言とかはあるみたいだけども。
ザッシュボコボコとゴブリンを倒していき、そろそろ帰ろうかと思ったが。
そういや別に今日はギルドに査定に行かないでもいいかなぁ……ダンジョンもフィールド型で入口が管理されてる訳じゃないから、俺が一日や二日くらい冒険者街に帰らなくても誰も気にしないだろうし。
相談の件もあるしリアの所にお泊まりさせて貰うか、まぁ寝るのは〈ルーム〉の中でなんだが。
そうと決まれば早速移動、脳内に映る樹海ダンジョン浅層MAPを頼りに他の冒険者を避けつつ、リアの所に飛べる転移魔法陣のある場所に向かう。
人除けの結界はなんとなくこちらに用事なんてないよなーと感じる程度の物なのだが、それで十分らしく周りにまったく人がいない。
魔法陣のある崩れた壁に挟まれた場所に立ち、そしてペンダントトップの種を握りしめながら転移を意識する。
すると転移魔法陣が現れて一瞬のうちに別な場所に移動出来る。
ここは転移してくるための部屋で石壁の一室。
入口にガーディアン用のウッドゴーレムやらが沢山配備されていて、彼らは手に持つ武器をこちらに向けていたが俺に気づくとそれらを下げる。
「リアの所に遊びに来たんだが案内を頼めるかい?」
俺はウッドゴーレムにそうお願いする。
いくら気安い仲になったとはいえ勝手気ままにリアのプライベートエリアを歩く訳にもいかんしな。
コクリと頷いた一体のゴーレムがいつもの庭園に案内してくれる。
庭園の入口で中に入らず止まったゴーレムに、手をあげてお礼を言いつつ庭園部屋の中に入っていく。
ゴーレムはそのまま入口に留まっていて、俺が帰る時の案内もしてくれるつもりなのだろう……が、今日は泊まるかもなんだよな……まええか。
リアはいつもの場所にいた。
ぱっと見は人間の女性に見えない事もないが、肌は薄緑で植物の葉や花の服を着て、髪の毛は緑で非常に細いツルのようで小さな葉っぱや花がいっぱい付いている。
そんなリアが土にちょこっと足を埋めて日光浴していると、こいつはドリアードなんだなぁと実感する。
「お邪魔するよリア」
俺はそう声を掛けながら近づいていく。
目を瞑り日の光を浴びるリアは非常に美人で厳かな雰囲気を感じる。
リアは俺の声を聞くと目を開けて。
「あらゼンじゃないの、こんな時間に珍しい、ルナちゃんは?」
キョロキョロと俺の周囲を見回しそう聞いてくる。
こんな風に厳かな雰囲気は一瞬で崩壊するんだけどな……。
「ルナは今強化中で繭の中だ、リアに貰った魔石で色々な……」
「なるほど……泣かせちゃった事をもう一度謝りたかったのだけれど……いつ頃目覚めるのかしら?」
リアは少し寂しそうな表情だった。
そういや昨日は泣いたルナとリアは少し気まずそうなまま別れたんだよな。
しかしあれだよな、ルナには泣かせた事を謝るのに、俺には気絶する程の威力でフライングディスクを投げた事は謝らないのな……。
今度お土産の植物用活力剤に唐辛子エキスでも混ぜたろか……。
「ルナが目覚めるのは明日の朝だな、目覚めたら話をたくさんすればいいさ、所でルナの事を色々相談しようと思ってさ、今日は泊まっていってもいいか? いやまぁ寝るのは〈ルーム〉内で寝るんだが」
「明日の朝ね了解、それなら朝の水浴びもルナちゃんと一緒に……それは……最高かも! うふふふっ、相談とお泊まりもおっけーよ、今ラハも呼ぶわねー」
リアは嬉しそうに笑いながら返事をしてきた。
……性別が女性型じゃなかったら殴ってでも止める所なんだがな……。
一緒に水浴びがセーフかアウトかは……ルナに決めて貰うか。
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