132 馬車内の会話
「へぇ……つまりゼン商会長は、この世界の女性からノーパンを無くすために立ち上がったと?」
「そうなります、トーリ様」
お貴族様の馬車なので、なんらかの魔法的処置がされているのだろうか、土の街道を走っているのに揺れが少ないし音も静かだ。
そんな馬車なので、お貴族様の子女らしい女性と会話が普通に出来てしまう。
一般的な馬車だと振動や音がすごくて、会話なんてしようものなら舌を噛むらしいよ?
俺の使っている荷馬車は、魔女のマジョリーさんに頼んだ付与魔法が各所にほどこされているから、かなり快適だけどさ。
「庶民の女性がそこまでノーパンだったとはね……×××は知っていた?」
20歳未満に見える貴族子女のトーリさんが、隣に座っている同年代のメイドさんに質問をぶつけている。
「そういう話を聞いた事はあります……トーリお嬢様……」
メイドさんは、その質問に答えつつも、恥ずかし気に俺の顔とトーリさんの顔へ視線を右往左往させている。
そりゃ男のいる場所で下着の話なんて、普通は恥ずかしいだろうね。
ちなみに護衛の女性兵士さんは会話には参加しない。
護衛だしそんなもんだわな。
「なるほどねぇ……それなら確かにゼン商会長が、あれだけの量をオークションに出すのも頷ける、だけど百万枚を超える数の出品は王都でさえあり得ない数字だし……あれは何処から持って来たの?」
当然そこは気になるよね。
「実家から追い出される時に退職金の代わりに貰って来た分もありますが、私は職人でもありますので」
実家云々は自身の出生地を他の大陸にした時のカバーストーリーの奴だね。
ちなみに様々なスキルを取った後に、男性女性問わず下着を確認すると。
それの作り方がなんとなく頭に浮かんでくるんだよね……スキルさん便利すぎだわ。
そうして既存の女性用綿パンツ下着を、ちゃんと自分で制作出来る事は確認してある。
「ゼン殿は商会長であり服飾職人であったのね……ん? 追い出される?」
「そこは気にしないでください、海の向こうの大陸での話なので」
あまり追放の話を膨らまされても困るので、その話は切り捨てる事にする。
「そう? うーん……まぁいいか、それならば、伯父上が買われた〈清浄〉が付与された男性用下着はゼン殿が作成したの?」
……あ……やっべ! 魔法付与どうしようか? ……そこの所を考えてなかった! 俺は馬鹿か!
えっとえっと……すぐ返事しない俺に、ちょっと首を傾げているトーリ様だったが……。
あ、そうだ。
「基礎部分はそうなのですが、付与は別の人間がやっていたので……今は付与が出来る従業員を探している所ですね」
「ふむ……という事は男性用の品は大陸から運んで来た在庫分という事か……ゼン殿も理解しているとは思うけど、伯母上を筆頭に我が親族の女性陣はあの男性用下着と同じか、もしくはそれ以上の女性用下着を求めているのよ」
「そうなのでしょうね」
理解していると当然のように言われたが、あの手紙を読んでそれを理解出来る商人がどれだけいるのだろうか……。
「商都に着けば、まずそれを要求されるのだけど……物はあるのかな? 在庫があればオークションに出しているかもだし……」
ああ、そうねぇ、付与された物は男性用しか出していない時点で、実家から持ってきた在庫とやらの残りに不安を覚えてしまうかもか。
まぁそんな在庫は存在しないのだけど……設定として持っているってした方が良いとは思うんだ。
そうなると各種女性用高級下着の在庫をDPで購入しておく必要があるよなぁ?
その場で毎回こっそりメニュー操作で購入するとか大変だし。
となるとだ……またうちの財政は女性用下着で圧迫されるんだな……今回は配下の皆が買った物よりは安い下着でもいいだろうか?
男性用のと同じくらいの値段帯……いや一段か二段高い物も準備しておこう。
何故かその方が良いと俺の勘が言っている。
女性用下着は男物より遥かに金がかかるって、この間実感したしな。
まぁ取り敢えずだ。
「在庫は、ある程度抱えてますから、ご安心くださいトーリ様」
そう言ってトーリ様を安心させていく。
商都に付く前に何処かで購入の操作をしないとなぁ……。
はぁ……マジョリーさんに魔法少女杖を貸した事で貰った魔石をヘソクリとして取っておいたんだけど……全部パーになりそうだ……。
なんでうちのコアにはDPが溜まらないんだろうねぇ……ふしぎだなー。
「在庫があるのね! 良かった……ふふ、楽しみだわ」
そうやって笑顔を浮かべるトーリ様。
横に座るメイドも嬉しそうだし……護衛兵さんも会話には参加して来ないが興味津々の表情だね……。
そうして今度は、火竜のウロコオークションの話や、ダンジョン街の話という雑談モードへと移っていくのであった。
……。
……。
――
商都までは足並みを揃える事もあって一週間前後かかる訳で、トーリ様達は街道沿いの宿場町に泊まる。
俺らも料金を出すから一緒にと誘われたが辞退をし、宿場町から少し離れた場所での野営を選んだ。
いつものようにささっと野営の準備を整えていく俺達、もう何度も練習したし慣れたものだ。
今は珍しくルナ以外がご飯を作っている。
彼らは修練すればスキルが生える可能性があるからね、たまにやらしてやらんとな。
「それでマスター、どうするの?」
セリィ達4人が竈の側でワチャワチャしているのを眺めながら、俺とルナは会話していたのだが、その中で先程のお貴族様との話の内容になった。
「うーん……俺が魔法付与系のスキルを取ってもいいんだけどさぁ……何でも出来るっておかしくねぇかなぁ? って思っているんだよな」
今でさえ戦闘が出来て、芸もそこそこで、さらに服飾職人の設定が加わって、と盛りだくさんなのにさ。
「なるほど、なら、私達のうちの誰かに覚えさせる?」
「んーそれでもいいんだけどさぁ、別に魔法付与はうちでやらないでも……あ、そうか、外注するのはどうだ?」
「外注?」
「ああ、ほら、魔女のマジョリーさんの所の『マジョリー商会』と提携させて貰うってのはどうだろうか?」
意外に良い考えなんじゃないかなこれ。
「外注にすると手数料の経費で商品の単価が上がる、単価の高い武器や防具なら分かるけど、試行回数の多いパンツだと不自然?」
あーそうか、そうなると商品単価をかなり上げる必要が……。
やはり商会の身内にそれ系の人間を抱えているという方が自然か……。
まいったな……あっそうだ。
「あーじゃぁよ、今度マジョリーさんに、魔法付与が出来る人材を派遣で借りられないか聞いてみるわ」
「……それだと、椅子にしたくなる人が来そうな気がする」
……。
「……俺もそんな気がするが、それはそれで良くね? うん、今度向こうに行ったら聞いてみるわ」
「そうしたら箒に乗せて貰おう」
そういやルナは飛んでみたいって言ってたっけか……言っておくがイクスさんの本気の飛行は結構怖いからな?
そうして話も纏まった頃に、竈でワチャってたセリィ達の作業が終わったのか、セリィが俺らの方へ歩いてきて。
「ゼン様、ルナさん、ご飯出来ましたのでこちらにどうぞ~」
「ご苦労様セリィ」
ご飯に呼びに来てくれたセリィの頭をナデリコして褒めていく俺、セリィは尻尾を左右にフリフリとしながら俺のナデリコを楽しんでいる。
「採点の時間」
ルナは何処かの料理の大御所っぽい様子を醸し出しつつ、皆がいる方へと歩いていく。
俺はナデリコをやめてセリィに語り掛ける。
「セリィ達の作った飯か、楽しみだな」
「はい! ゼン兄様の好きなホワイトシチューにしてみました!」
ルナがいなくなって二人きりになると、セリィは俺の事を兄様と呼ぶ。
別に普段からそう呼んでくれても構わないのにな。
「そりゃ嬉しいな、じゃ皆の所に行こうぜ、セリィ」
「はい、ゼン兄様」
やっぱこう、自分らで飯が作れる野営の方がいいよな、宿だと台所を借りられない場合が多いしさ。
お読みいただき、ありがとうございます。
そして、誤字脱字報告もありがとうございます、本当に助かっています。
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